図解
※記事などの内容は2020年5月31日掲載時のものです
ツイッターでの誹謗(ひぼう)中傷に悩んでいたプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなったことをきっかけに、官民でネットでの攻撃的な書き込みを規制する動きが出ている。政府・与野党は悪意のある投稿を抑制する制度づくりに動きだし、業界団体も自主ルールの強化を模索する。一方、規制が行き過ぎたり乱発されたりすれば、表現の自由を脅かしかねない恐れがある。
▽被害者に重い負担
フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた木村さんは、3月末の放送での言動をきっかけに中傷を受けていた。木村さんの死を受け、ネット上での匿名の中傷を批判する声が高まっている。高市早苗総務相は26日の記者会見で「匿名で人を中傷する行為はひきょうで許し難い」と述べ、制度改正を急ぐ考えを表明。総務省は4月に設置した有識者会議で、発信者を特定しやすくする方策を検討する。
ネット上での匿名の書き込みで権利を侵害された場合にはプロバイダー(接続業者)責任制限法に基づいてインターネット交流サイト(SNS)などの運営会社に発信者情報の開示を求めることができる。ただ、運営会社が応じなければ、訴訟を起こす必要がある。訴えが認められIPアドレスなどの記録を得ても、発信者特定には携帯電話会社などに住所や氏名の開示を求め、場合によっては再度提訴しなければならない。刑事責任を問うハードルも高く、SNSでの中傷に詳しい松下真由美弁護士は「発信者特定に最低9カ月、訴訟を含め計2年に及ぶこともあり、被害者の負担は重い」と指摘する。
▽過度に規制なら言論萎縮も
総務省の有識者会議は、被害者が裁判によらずにプロバイダーから発信者情報を得やすくする具体策を議論。11月までに取りまとめて来年の法改正を目指す。自民党などでも罰則強化やSNSでの中傷を規制する議員立法に向けた動きがある。
ただ、過度な規制は政治家や企業への正当な批判まで封じ込めてしまう懸念がある。SNSを通じた内部告発は匿名だからこそ声を上げられる面があり、ためらわれるようになれば企業不祥事などが闇に葬られ、かえって社会に不利益となりかねない。ネット風評被害対策などが専門の中沢佑一弁護士は「何が『中傷』に当たるかは個別事案ごとに当事者間で議論するのが基本で、公権力の介入が強まると言論空間の萎縮を招く」と警鐘を鳴らす。
フェイスブック日本法人やLINEなどSNS各社で構成する一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構は26日に発表した緊急声明で、名誉毀損(きそん)や侮辱を意図した投稿を禁止し、違反者のサービス利用を停止するなどの対応を徹底すると表明した。
国内最大のネット掲示板を運営するヤフーは悪質な書き込みを発見し次第、削除などの対応を取っている。一方、大手プロバイダー業者は「サービス利用の敷居を高くし過ぎると利用者の減少を招くため、特別に打つ手はない」と明かす。
トランプ米大統領は28日、SNSへの規制を強化する大統領令に署名した。トランプ氏の投稿に注意喚起したことへの対抗措置だ。政府や権力の介入を退け、ネットでの自由な表現活動を維持するには人権などに配慮した節度ある利用が求められる。
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