アーバン・ポップの新スタンダードはコレ! ──Poor Vacationによる無国籍かつメトロポリタンな眺望
洗練されたメロディとほろ苦いロマンティシズムを宿した次世代の都市型ポップ・グループ、Poor Vacationが初のフル・アルバム『Poor Vacation』をハイレゾ・リリース。甘美な歌声とピアノの音色が印象的な「北回帰線」や、タイトで軽快な1980年代的サウンドの「ロンググッドバイ」など、Poor Vacationの魅力が詰め込まれた全10曲を収録。また今作にはゲスト・ミュージシャンとして注目のシンガー・ソングライター・大比良瑞希や、柳澤豊(MONO NO AWARE)、高橋三太( 1983 )、PunPunCircleも参加し、Poor Vacationがつくりだす幻想的なサウンドに華を添えた。OTOTOYではこの待望のリリースにあたり、グループのブレインである楢原隼人への単独インタヴューを実施し彼らのつくりだす“都市”に迫ります。貴重なインタヴューをぜひ新アルバムとともにお楽しみ下さい。
Poor Vacation待望の1stフル・アルバム!
INTERVIEW : 楢原隼人(Poor Vacation)
楢原隼人率いるPoor Vacationがファースト・アルバム『Poor Vacation』を発表した。楢原といえば、今から約2年前に「無国籍・都会派SF」をコンセプトとするコンピレーション・アルバム『Young Folks in Metropolis』を企画したことでも知られる人物。butaji、パソコン音楽クラブ、mei eharaなど15組のバンド及びトラックメイカーを集結させた同コンピは、参加アーティストたちのその後の飛躍を予見した重要作だったが、今回のファースト・アルバムはその「無国籍・都会派SF」的な世界観をPoor Vacationが独自に拡張させた1枚ともいえるだろう。それはリアルと空想が折り重なる甘美なリリックについてはもちろん、エレクトロニクスが溶け込んだバンド・サウンドにも言えることで、ブリージンなAOR / フュージョンや、ブギー・ファンク、あるいはボサノヴァなどの影響も色濃く反映された洒脱な音楽性は、まさに無国籍でメトロポリタン。このすばらしき1枚を完成させたばかりの楢原に、同作の内容とここまでの活動について話を聞いた。
インタヴュー&文 : 渡辺 裕也
写真 : マ.psd
生音でバンドをやるというイメージは当初まったくなかった
──楢原さんはカナタトクラスやSUPER VHSのメンバーとしてもご活躍されていますが、そのなかでPoor Vacationはどういう位置づけのプロジェクトなのでしょうか?
大学を卒業したあと、そのカナタトクラスというバンドを始めたんですけど、それがなかなかうまくいかなくて。もともとはその反省点を踏まえて始めたのがPoor Vacationなんです。
──その反省点というのは?
ざっくり言うと、他のメンバーに対して僕がいろんなことを求めすぎてしまったなと。というのも、当時の僕はカナタトクラスのリーダーで、立場としては作曲アレンジ担当のギタリストだったんです。要は自分で歌うわけじゃないから、ヴォーカルへの要求が厳しくなってしまったんですよね。それでメンバーからすごくウザがられてしまって(笑)。そういうのもあって、Poor Vacationでは自分で歌うことを考えてみようかなと。
──なるほど。ちなみにPoor Vacationはバンドなのでしょうか? これまでは楢原さんのソロ・プロジェクト的な印象もあったのですが。
もともとはバンドを組むつもりではじめたんですけど、すでにメンバーそれぞれの活動もあったので、まずは僕のソロ・プロジェクトにサポートとして参加してもらうという形でスタートしてみたら、ありがたいことにメンバーがだんだんと固定化されてきて。いまでは各パートのフレーズもけっこう任せているし、何なら僕以外のメンバーがつくった曲もあるので、いまは「グループ」として考えてますね。たとえば、今回のアルバムに入ってる「The Sign of Morning」の歌と作詞作曲は千葉泉(ギター)がやってくれてるんですけど、今後はそういうことも増えていくんじゃないかな。
──活動していくなかで徐々に「グループ」感が出てきたと。活動開始当初は、音楽性としてはどういうものをイメージされていたんですか。
まずは“歌モノ”の音楽をとっかかりにして、そこにいろんな影響を反映させながら音楽性をどんどんアップデートさせていきたいなと考えてました。そういう意味では、プリファブ・ストラウトとかブルー・ナイルみたいな1980年代のニューウェイヴやネオアコあたりのバンドはイメージ的に近いですね。ただ、今後はあまり歌に縛られない方向にいきたいという気持ちもあって。
──歌に縛られない方向というのは、具体的にはどういうことでしょう?
僕、ダンス・ミュージックが好きなんですよ。それこそ学生の頃はライヴハウスよりも、テクノやハウスのイベントやレイヴとかに行くことが多かったんです。で、ひとりで家にいるときは歌モノの音楽を聴いてるっていう。そうやって家で聴いているものとクラブで体感しているものが混ざっていくなかで、こういう音楽をやるようになったというか。なので、もちろんポップスは好きなんですけど、それよりもダンス・ミュージックとしても成立させたいという気持ちは強いのかもしれません。
──クラブ・ミュージックの影響をバンドとしてもっと昇華させていきたいと。
そうなんです。それこそダンス・ミュージックって、拍をきっちり合わせるじゃないですか。生演奏の微妙なブレからノリが生まれることもあると思うんですけど、僕は拍をジャストで合わせることに割とこだわっちゃうところがあって。そのせいでメンバーからよくイヤがられたりするんですけど(笑)。
──楢原さんのなかでは、インディ・ロックの影響ってそんなにないんですか?
そうですね。いわゆるインディのバンド・サウンドには触れてなかったので、生音でバンドをやるというイメージは当初まったくなかったんです。
音楽をやることで過去に影響をうけたものの良さを自分なりに表現したい
──なるほど。では、たとえば今回のアルバムに収録されている「トリステーザ」という曲についてはいかがでしょう? 恐らくこのタイトルは言わずと知れたブラジリアン・ポップスの名曲から引用したものだと思うんですが。
そうですね。それは単純にあの「トリステーザ」が大好きというのもあるんですけど。
──その引用元である「トリステーザ」は〈悲しみよ、どこかに去ってくれ〉みたいな歌詞の、ものすごくエモーショナルな曲なんですよね。
そう。しかも、その歌詞と曲のテンションがぜんぜん合ってないんですよね(笑)。「トリステーザ(悲しみ)」といっておきながら、副題は「グッドバイ・サッドネス」だし。「トリステーザ」はそこが表現としてすごくメタっぽい感じがするんです。
──相反する感情をひとつの曲で表現してますよね。
まさに。明るさを経由するからこそ、余計にその悲しみがより際立つ──僕はそういう表現の手法がすごく好きなんです。そういう意味で「トリステーザ」はおもしろいモチーフでしたし、僕はこうして音楽をやることで過去に影響をうけたものの良さを自分なりに表現したいんですよね。ヒップホップのトラックメイカーが昔のソウル・ミュージックから引用するのと感覚的には同じなのかもしれません。
──では、今作のリリックにおいてはいかがですか。情景描写に徹した語り口が印象的だったのですが、ここにはどんな影響が反映されているのでしょう?
そうだな……。たとえば、昔よく読んでいた村上春樹の作品にあるような遍在性というか、時間と空間が捻じ曲げられた物語の影響はあるのかもしれません。もっと遡ると、ガブリエル・ガルシア=マルケスみたいな、南米文学のマジック・リアリズムとかですね。「老婆が蛇を飲んだら星になった」みたいなやつとか(笑)。もともとああいう神話っぽい世界観にすごく興味があったので、今作の歌詞にはそういう影響も表れてるんじゃないかな。
──作詞の面でも南米からの影響が強いんですね。
あ、それは今回たまたまだと思います。とにかく僕は「好きなもの探し」が好きで。今回のアルバムでは学生の頃によく調べていた南米音楽や文学の影響がこうして表れましたけど、おなじように他の時代や地域で生まれたものからの影響が表れてくるタイミングも今後きっとあると思いますし。
──その「好きなもの探し」というのは?
いつの時代のどの場所でも、必ずムーヴメントって起きているじゃないですか。で、調べていくとそこには派閥みたいなものがあるんです。その構図までムーヴメントを掘り下げると、だいたい自分の好みって見つかるんですよ。
──もしこのシーンの盛り上がりを当事者として体感していたら、たぶん自分はこっち派だっただろうな、みたいな?
そう、そんな感じです。なんていうか、僕はシーンやムーブメントっていう現象自体にも興味があるんですよね。それこそいまはインターネット上で盛り上がってるシーンもあれば、特定の場所や人に根付いたシーンもあるじゃないですか。僕はそういういろんなシーンに首を突っ込んでみたくなるんです。学校にいろんなクラスに顔を出すやつってよくいるじゃないですか? たぶん僕はそういう感じかもしれませんね(笑)。
──なるほど(笑)。
ただ、そういうことばかりをやっているとシーンの当事者には永遠になれないので、そういう歯がゆさはあるんですけど(笑)。まあ、それは習性だからしょうがないし、これからも赴くままにやっていきたいなと思ってます。
「Poor Vacation的なサウンド」はこれから生まれてくるんじゃないかな
──こうしてファースト・アルバムを完成させて、今後のPoor Vacationはどう動かしていこうと考えていますか?
今回のアルバムは特にテーマやコンセプトがあるわけでもなくて。それこそ名刺代わりじゃないけど、「これを聴いてもらえれば自分がやってきたことはすべてわかってもらえる」みたいな作品にしたかったんです。ホーン・アレンジをやってみたり、ゲストを呼んだことなんかも含めて、とにかく風呂敷を広げて、自分たちのなかにある音楽性をすべて出し切ろうと。ただそれは言い方を変えると、「Poor Vacationのサウンドはこれです」みたいな、オリジナリティのあるサウンドという段階にはまだ至ってないということでもあるので、今後はそこを目指したいなと思ってます。
──各メンバーの関わり方もどんどん深くなってきているようだし、バンドの音楽的なキャラクターはここからまた変化していきそうですね。楢原さん個人としては、いまどんな音楽に関心を向けていますか?
軸にあるのは、やっぱりダンス・ミュージックですね。なので、これからのPoor Vacationはよりミニマルな感じというか、たとえば打ち込みの要素がもっと増えるかもしれません。なんていうか、いまのPoor Vacationは「曲」を作っている感覚なんですけど、僕としてはもっと「音」を作っていきたいなと。要は音色やフレーズから膨らませていくような作り方にすごく興味があるんです。音響っぽい楽しみ方もできる音楽がつくりたいなと。
──「曲」よりも「音」を作っていきたいと。もうちょっとヒントをもらえますか?
それこそ最近はニューエイジとかアンビエント、ミニマル・ダブみたいな、まさに「音だけ」みたいな世界観の音楽をよく聴いてるんです。たとえばGASとか、本当に最高ですよね。もはや展開すらなくて、ただいい音がずっと鳴っているっていう。で、ああいう感じを作り手としての自分はいままでちょっと二の次にしてきたなと。つまり、これまでは「まずは曲をつくって、それをいい音で鳴らす」みたいな発想だったんですけど、いまはとにかくいい音そのものをつくる、というところにも挑戦してみたいんです。
──おもしろいですね。気が早い話ですけど、今作からはちょっと想像できないような変化が次作では待っているのかも。
そうかもしれないですね。とはいえ、今は曲やアイディアを持ち込んでくれるメンバーが他にもいるので、そういう個々のテイストはしっかり生かしつつ、緩やかに変化していけたら1番良いのかなと思います。いまはグループ自体の在り方も変わってきていて、メンバー同士の関係性もフラットになってきているので、「Poor Vacation的なサウンド」はこれから生まれてくるんじゃないかな。
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Poor Vation主催コンピにも参加、ドリーム・ポップ・トリオitwassummerのデビューEP。 浮遊感も持ち合わせながら、気怠く誰しもの心の中にある夏の一部始終を切り取った楽曲を収録。
LIVE SCHEDULE
Poor Vacation 1st Album Release Party
2019年2月24日(日)@渋谷7th Floor
出演:Poor Vacation / Okada Takuro(band set) / and more
時間 : TBA
チケット : TBA
【ライヴ情報詳細はこちら】
http://poorvacation.tumblr.com/live
PROFILE
Poor Vacation
Poor Vacation is Metropolitan Music Group by Hayato Narahara楢原隼人(Vo./Gt.)、千葉泉(Gt./Vo./Cho.)、coffee_and_tv(Syn./Track Make.)、船村大輔(Key./Syn.)、星力斗(Ba.)
【公式HP】
http://poorvacation.tumblr.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/poorvacation