サマー・ムード纏うUS西海岸のフェイク・ノスタルジア──Teen Runnings、5年ぶり新作『Hot Air』
金子尚太による音楽プロジェクト、Teen Runningsが突然の活動休止、カナダへの移住を経て、5年ぶりの新アルバムをリリースした。バリアリック・サウンドとドリーム・ポップ、1980年代のコマーシャルなレゲエ・サウンドが、ポリゴンの太陽の下でイージーに結びついた「Baby G」(ヴェイパーウェイヴをUS西海岸の風にさらしたような、チージーかつポップなCGのMVも話題に)をはじめ、クールでフェイクなトロピカル・ムードがアルバム1枚を貫いている。行ったこともないのに懐かしい、ノスタルジック(といっても疑似)なあの夏に逃避するべく、今夏の1枚は『Hot Air』で決まり!
5年ぶりの新作、ここに完成!
【まとめ購入特典】
『Hot Air』デジタル・ブックレットPDF
INTERVIEW : 金子尚太(Teen Runnings)
西海岸パンク直系のカラッとしたメロディと、ユーロダンスを彷彿させるケバいシンセサイザーと、ウェストコースト・ヒップホップのビート・プロダクションがひとつになったら……? 普通ならどう考えてもダサくなりそうだけど、Teen Runnings=金子尚太の手にかかればこのとおり。てか、オープニング・トラックのタイトルが「Hair Wax 95」って、ホント天才的だよな。90'sリヴァイバルがつづく昨今のストリート・カルチャーにおいて、Teen Runningsの5年ぶりのニュー・アルバム『Hot Air』は、まさに真打ちともいうべき1枚。金子尚太ってひとはやることなすことセンスがよすぎるのだ。
では、早速そんなTeen Runnings・金子のインタヴューをお届けしよう。突然の活動終了宣言から、数年。しばらく日本から離れていた時期のことから話を聞いてみた。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 秋光亜実
かるく息抜きしてから2019年に
──2016年にTeen Runningsの活動休止をアナウンスしたあと、金子さんはしばらくカナダで生活していたそうですね。
そうなんです。カナダのTOPSというバンドが来日したとき、新代田フィーバーでTeen Runningsと一緒にやらせてもらったことがあって。そのときにTOPSのメンバーとも仲良くなって、みんなに「(TOPSが所属してる)〈アービュタス・レコーズ〉ってどうなの?」と聞いたら、「すごくいいよ」と言われて。レーベルのオーナーもどうやら音源を気に入ってくれてたみたいなので、それなら僕も出したいなと思って、それでカナダ行きを決めたんです。
──なるほど、そういうきっかけがあったんですね。
はい。当時はもうバンドをやめて神戸に帰ろうと思ってたんですけど、最後にもういちど挑戦してみようかなって。
──実際にカナダに行ってみて、いかがでしたか。
正直にいうと、あまり実りはなかったんです(笑)。というのも、あっちは本当に寒くて。特に11月以降はほぼ外にも出れない感じで、暇なので家でずっと曲作りしてました。今回のアルバムに入ってる曲もその頃につくったものがわりと多くて。
──ああ、そうだったんですね。
でも、楽しいことはいろいろあったんです。ライヴもなんどかやったんですけど、お客さんの反応がすごくよくて、そこで観てくれたひとがまた次のライヴに誘ってくれたり。日本に帰るときには〈アービュタス・レコーズ〉の事務所でフェアウェル・パーティもやらせてもらえて。いい経験でしたね。ただ、曲作りに関してはそのときにちょっと限界が見えたところもあって。
──というのは?
作りはじめた段階で「次のアルバムはミニマムな感じにしよう」というヴィジョンがあったんです。というのも、当時はウェッサイとか、1990年代のヒップホップをよく聴いてたのもあって、ああいうビート感をイメージしてたんですけど、実際はそういうヒップホップ的なビートにメロディをつけるのってけっこう難しくて。要は考えすぎちゃったんですよね。自分で設けた縛りのせいで行き詰まったというか。そういうのもあって、途中でYoung Agingsというサイド・プロジェクトを挟んだりして、かるく息抜きしてから2019年にもういちど仕切り直したんです。
──作品の構想自体はずいぶん前から見えていたと。
そうなんです。カナダから帰ってきた頃には既に8曲くらい揃ってたんで、たぶん早ければ2年前には出せてたんですけど、なんとなく腰が重くなってしまって……。あと、カナダにいた時にカルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』というアルバムが出たんですけど、あれを聴いたときに「もういいや」と思っちゃったんですよね。これはやりたかったこと全部やられちゃったなーと。しかも、このレヴェルでやられちゃったら、自分はもうやれることないなと思っちゃって。いま振り返るとそれも大きかったですね。
──そこからどうやって気持ちを切り替えたんですか?
ちょっと高いマイクでも買えばやる気でるやろと思って(笑)。それで今回ミックスをやってくれたヤックさん(HARVARDの上田康文)に相談して、7万円のコンデンサー・マイクを買ったら、ようやくスイッチが入りました。アルバムの流れでいうと「Smart Disc Promotion」から3曲の並びは、2019年以降につくった曲ですね。このあたりをつくってるときは肩の力もかなり抜けてました。
今作のテーマは「諦め」?!
──ここまでに挙げられた「ウェッサイ」「ミニマム」以外だと、今作についてはどんなキーワードが挙げられますか? メロディからは相変わらず西海岸パンクの影響も感じらる一方で、今作はスカやレゲエっぽいリズムが多用されてるのと、曲名に1990年代ストリート・カルチャーへのオマージュが込められているのが印象的でした。
まず今作はタイトルから作ったんですよ。それこそ「New Power」はとんねるずの昔のネタから取ってますし(笑)。「Seatown Punk」は「シータウン・ファンク」(1995年にキッド・センセーションが発表したウェストコースト・ヒップホップの名曲)をもじっただけですね。とりあえず、タイトルで自分を高めようかなと。スカっぽい曲が多くなったのは、単純にもともとスカコアが好きっていうのが大きいかな。レゲエに関してはちょっとかじってるくらいで、インナー・サークルとかビッグ・マウンテンみたいな、どメジャーなやつはリファレンスになりました。とにかく爽やかな感じになればいいなと。
──そう、今作は全編をとおしてチルでレイドバックしたムードがあるんですよね。前作『NOW』は疾走感がある作品だったけど、今作はテンポも全体的にすこし落ち着いてるし。
それこそいまのロキノン系とかってめちゃくちゃ速い曲が多いじゃないですか。あれ、BPM的にはほぼメロコアですよね。なので、そこはちょっとしたアンチテーゼというか、なるべくBPM120以下に抑えたいなと思ってました。あとは『ダンスマニア』に入ってるような、アクアとかトイボックスみたいな1990年代後半〜2000年代のダサいダンス・ミュージックもちょっと参考にしたかな。まあ、あれも速いんでリファレンスにはならないんですけど、ああいうバカっぽさは出したいなと思ってました。でも、今回は歌詞がけっこう暗いんですけどね(笑)。
──たしかに、どの曲もけっこう内省的ですよね。
「New Power」「Feeling Happy」あたりは開き直ってますけど、その他の曲については自分の気持ちがでちゃったというか。けっこう死生観がでてるものが多いかもしれないですね。あと、ここでこんなことをいうのもアレですけど、今作のテーマは「諦め」だったんで。
──どういうことですか?
もちろん自分としてはいいものができたと思ってるんですけど、どうせ誰にもウケないだろうなって。そんなに注目されるとは思ってないんです。
──絶対にそんなことないでしょう。1990年代の西海岸カルチャーをリファレンスとするアーティストはいまたくさんいるはずなのに、この作品は他のどれとも似てなくて。それでいてキャッチーでものすごく開かれた作品だし、僕はあらためてTeen Runningsは唯一無二だと思いました。
それはうれしいですね。そのときにだれもやってないことをやろうっていう気持ちは常にあるので。
──歌詞はヘヴィなところもあるけど、曲調がそれを感じさせないところもいいですよね。基本的にどの曲もメジャー・コード主体だし、メロディも音色もカラッとしてて。
なんていうか、せめてそこだけは明るくしていたいんですよね。というのも、僕はセラピー的な感じで曲をつくってるところがあって、せめて曲のなかだけでも幸せになりたいというか(笑)。今回のアー写を笑顔にしたのも、写真のなかだけでも笑ってたいなと思ったからなんです(笑)。でも、さすがに今回は時間をかけすぎましたね。気づいたら5年ぶりのアルバムですから、さすがにマズいなと(笑)。もちろん自分のなかで止まってたつもりはなくて、お店をはじめたり独学でデザインやったりしてたんですけど、その間にも知り合いはみんなリリースを重ねてたんだから、僕もちゃんと出さなきゃなって。
──いまはまた意欲が湧いてる状態なんですね。
そうですね。正直、今回のアルバムを出したらもう終わろうかなと思ってたんですけど、ヤックさんから「これが最後なら協力しないよ」と言われて。今後また出せるような環境をつくらなきゃなって今は思ってます。またバンドっぽい音も復活させるつもりだし。
──いいですね。
ていうか、今作もすぐ出しちゃえばよかったんですよね。それこそいまの時代は8曲くらいでアルバムとして出すのがふつうだし。今後は刻んで出すのもアリかなと思ってます。それこそ2曲くらいできたらサブスクとかでポンポン出そうかなって。
どっちにしてもリリースしなきゃダメ
──気の早い話ですが、次の構想とかは浮かんでたりしますか?
次はもっと軽い感じでいきたいですね。それを踏まえていうと、1枚目は1960年代で、前作は1980年代、今回は1990年代後半〜2000年代のイメージでつくったので、次に出すやつは完全に新しいやつになると思います。要はだんだん現在に追いついてきてるんですよね。
──恐らくリアルタイムで体感したことが参照点になっていくと。もしかしたら次のアルバムは金子さん及びTeen Runningsのキャリアそのものがリファレンスになってくるのかもしれないですね。
たしかに。前作に関していうと、1980年代に僕はまだ生まれてないから「当時はたぶんこんな感じだったんだろうな」みたいなイメージで作ってたんですけど、1990年代に入ると自分の幼少期が重なってくるので、当時の思い出とかも入っちゃうんです。なので自分としては今回のアルバム、まだそこまで客観的になれてないというか、いいのかどうかわからなくなるんですよね。
──いや、めちゃくちゃいいアルバムですよ、今作。レーベルの〈Sauna Cool〉としては、現時点でなにかプランはありますか。
地元神戸のアーティストの作品はいつかリリースしたいなと思ってます。本当はもっと出したいなと思ってるし、デモとかもたまに届くんですけどね。やっぱり僕が本当にいいと思ったものだけを出したいし、そこは曲げられないんで。
──ちなみに、ライヴは今後もカラオケ・セットで行く予定ですか?
いまのところそのつもりです。そのほうが身軽だし、荷物も少なくて済むんで(笑)。あと、このやり方のほうが出来たばかりの新曲をどんどんやれるのもいいなと。ただ、これは今回ちゃんとアルバムを出そうと思った理由のひとつでもあるんですけど、新曲ばかりだとライヴの反応がよくないんですよね。どうしても日本では「音源の再現」を期待されるところがあるので、そこはカナダとは違うんだなって。どっちにしてもリリースしなきゃダメだと思ったので、今後はあまり時間をかけずに出していきたいです。もう僕もいい歳なんで(笑)。
編集 : 鈴木雄希
『Hot Air』のご購入はこちらから
【まとめ購入特典】
『Hot Air』デジタル・ブックレットPDF
過去作もチェック!
新→古
LIVE SCHEDULE
TEEN RUNNINGS “HOT AIR” RELEASE PARTY
2019年9月15日(日)@幡ヶ谷Forestlimit
出演 : Teen Runnings / Super VHS / pool$ide
チケット : ADV ¥2,300 / DOOR ¥2,800 (各1D代込み)
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://twitter.com/TEENRUNNINGS/status/1153957299037192194
PROFILE
Teen Runnings
Teen Runningsは金子尚太による音楽プロジェクト。 2012年に1stアルバム「Let's Get Together Again」をリリースし、2013年にはアメリカ・テキサス州オースティンにて開催された世界最大の音楽市〈SXSW〉への出場を果たす。2014年に2ndアルバム『NOW』をリリース。イメージの中の1980年代をコンセプトに、爽やかな楽曲が並ぶ。永井博の描き下ろしイラストを使用したジャケットは各方面で話題を呼んだ。
【公式ツイッター】
https://twitter.com/teenrunnings 【公式HP】
https://teenrunnings.tumblr.com/