「誰か」の背中にそっと手を添えて──羊文学、堂々のメジャー・デビュー・アルバム『POWERS』
メジャーのフィールドへと歩みを進めた3人組ロック・バンド、羊文学。2020年9月にリリースされた先行シングル「砂漠のきみへ/Girls」からも感じ取れるように、いま彼女たちはこれまで鳴らしてきた音への自信を感じ、それを貫く強度を持っている。このたびリリースされた、『若者たちへ』(2018年)以降2年ぶりとなる新アルバム『POWERS』にも、そのエネルギーが十分に詰め込まれた。『POWERS』というなんとも力強いタイトルのアルバムを聴くと、この混乱だらけの世の中でもなんとかやっていけそうな自信が湧いてくる。今年を締めくくる傑作を作り上げた羊文学のメンバーへのインタヴューをお届けしよう。
メジャー・ファースト・アルバムをハイレゾで!
INTERVIEW : 羊文学
羊文学が、アルバム『POWERS』をもってついにメジャー・デビューを果たす。もともと「フィクション」や「現実のもろさ」をテーマに…… と語られていた今作であった。しかし、蓋を開けてみると、今年リリースの前作EP『ざわめき』の延長にあるようなシンプルなサウンドながら、歌詞やメロディも含め、想像以上に力強く開放的で、推進力に満ちたアルバムとなっていることに驚かされた。表題曲“powers”で、オープンハイハットを4分で打ち鳴らしながら「両手を高く広げ」とヴォーカルが歌いはじめたなら、心は高揚感に包まれ、「君ならできるはず」と曲中で続けて歌われれば、ぐっと勇気に満たされる。バラエティ豊かな12曲が並ぶ今作ではあるものの、このインタヴューでヴォーカル・ギターの塩塚が何度か「自分でも励まされるような」と形容していたように、今作『POWERS』はどの曲をとっても、聴く人を力づけてくれる。
タイトルも、そのまま『POWERS』という力強いネーミングなのだが、とはいえそれは単に“強さ”のことを指しているわけではないそうだ。混沌に陥る世界に巻き起こる、あらゆる途方もない“力”に圧倒されつつ、一方で、日常に潜むマジカルな“力”に身を委ねて希望を抱いてみたりと、いまを生きる彼女たち自身の葛藤も、今作には滲む。そんな自覚を『POWERS』というタイトルに込めながらも、聴き手の背中を軽くポンッと押すような今作──聴き手の「より所」として佇み、あからさまに他人を励ますことから距離をとってきた羊文学はいま、躊躇いながらではあるが、「誰か」の背中にそっと手を添えて、ともに歩き出そうとしているのだ。
2020年も終わろうという中、いまもって「未来は変わる」とは言い切れない世相ではあるが、力強いサウンドとともに「未来は変わる“かもね”」とさりげなく歌う今作を聴くと、気負いすぎずにこれからの未来を信じてみたいという気さえしてくる。さあ、この『POWERS』を心の“おまもり”に、2021年の扉を叩いてみようではないか。
インタヴュー&文 : 井草七海
写真 : 作永裕範
聴く人の「おまもり」みたいな作品に
──前回アルバムのレコーディング真っ最中にお話をうかがったときには、今回のアルバムは「フィクション」や「現実のもろさ」をテーマにしたいと語ってくれていました。実際作り終えてみて変化はありましたか?
前回のインタヴューはこちら
塩塚モエカ(Gt&Vo / 塩塚) : そうですね、「フィクション」や「現実のもろさ」という軸もありつつ、プラスされたテーマもあります。2020年という年を残すということ、それからこの特別な年に作品を作ったということの意味も反映されたアルバムになっていると思っていて。あと、今回のアルバムは、CDに今年やったオンライン・ツアーの映像が収録されたDVDが永久仕様で付くということもあるので、私たち羊文学の2020年のドキュメンタリー、という側面もあります。ただ、一番の想いとしては、このアルバムが聴く人の「おまもり」みたいな作品になればいいなと。こういう時代だからこそ、というのはちょっと語弊がありますけど。
──どんなところに「おまもり」としての要素が表れている?
塩塚 : もちろん自分で作った作品ではあるんですけど、その内容に自分自身、励まされるところがあるんですよね。だから、他の人も、これを聴いて励まされるものになってくれるといいなと思って。ただサウンド的には、今作は包み込むような音というよりは、シンプルな音作りの曲が多くて。
河西ゆりか(Ba / 以下、ゆりか) : そうですね。以前より、サウンドの荒削り感が減って、作品自体がどんどん綺麗な音になってきてますし。
──力強くて、なにより開放的なサウンドの作品になってますよね。前にぐんぐんと進んでいくような、グルーヴ感も強く出ていて。2020年は、みんな内に閉じこもることが多かったからか、世の中的には内省的でアンビエントな作品のリリースが比較的多かったように感じていて。ただその中でも、今年の最後に出る今作が、こんなにも飛び抜けて力強いことに驚きました。とても広いところで演奏されているような印象もありますし。
塩塚 : 今作に収録されている曲を作っていたのは、実は去年なんです。「来年はフジロックにも出るし!」と思いながら作っていたので…… (注:羊文学は《FUJI ROCK FESTIVAL 2020》へ出演予定だったが、フェス自体が中止となった)。まあ、具体的にフジロックで、というより、とにかく野外の広い会場でどんな演奏をしたいかということを考えながら作った曲がたしかに多いですね。
──なるほど。
塩塚 : とはいえ、アレンジはかなり悩みましたね。“おまじない”や“powers”は、いままでの羊文学の中にあるようでないような曲になっていると思うんですけど、そのアレンジを詰めていく作業はものすごく必死でした。特に“powers”は本当にアレンジが決まらなくて、何回も「CDに入れるのやめようか」という話も出て。でも、完成した後に演奏したら、結構楽しかったよね。
ゆりか : 作り終わったあとの話ね。
塩塚 : そう。アルバムの制作と並行しながらGOING STEADYの“銀河鉄道の夜”のカヴァーもリリースしたんですけど、“powers”の最後なんかはそこで得たものをプラスしたりして。
──たしかに、いままでにないタイプのアレンジの曲が目立っていますよね。そのアイディアってどういう形で生まれてくるんですか? 3人で議論したりとか?
ゆりか : 議論っていうよりは、会話を重ねながら、という感じですかね。何回もプリプロを重ねたり、誰かがなんとなく楽器を鳴らしてみて「あ、それいいじゃん」っていう風にピンときた演奏を拾っていくようなスタイルです。
塩塚 : アレンジについては、途中で諦めちゃうことも多かったんですけど、2年前の“1999”の頃から、考えれば最後にはおもしろいものが出てくるってことに気づいて。それから、しっくりくるまでやり続けるようになったんです。だから、もうずっとスタジオにこもって、「これも違う、あれも違う、今日も決まらなかった」っていうのを延々やっている。
──となると、今作は、いろんなタイプのアレンジを意識的に試してみた作品ということになる?
塩塚 : アレンジをいろいろやってみようというよりは、もともといろんなタイプの曲があったんですよね。
ゆりか : そうですね。塩塚が作ってきた曲に、最初からそれぞれ色があったと思います。カラフルな感じで。
──塩塚さん以外の2人からアイディアが出てきて、それがきっかけでアレンジができることもあったんですか?
塩塚 : “砂漠のきみへ”のイントロは、ドラムから生まれたものですね。あと、“おまじない”の間奏は、ベースがこういう風にしたい、という風に言ってくれたところから生まれたり……。いつもベースは気づいたらなんか変なことをやってることが多いですね(笑)。
歌うってことは、それだけで楽しいことなんだ
──羊文学はメンバーが3人しかいなくて、他にあまり楽器を足さないから、それぞれの持ち味が直接的にしっかり曲に現れますよね。それに加えて、今作は3人のコーラスもすごく豊かになった印象がありました。空間いっぱいに広がっていくコーラスに、よりふくよかさのようなものを感じたんですけど、そのあたりも意識されてましたか?
塩塚 : そうですね。コーラスをしっかり入れていくということも、“1999”を作った頃から意識するようになりました。というのも、ちょうどその頃に私が他のアーティストのサポートでコーラスに入った経験があって。そこからコーラスっておもしろいなと思うようになったんです。“おまじない”のコーラスは、曲作りの段階からすでにああいうのを入れたいという構想があったので、レコーディングの段階でそれがちゃんと実現できたのがよかったなと思っています。あと、今作では“ロックスター”という曲で、なんとフクダが歌唱を披露しました。
──フクダさんは、「歌って」と指示されて?
フクダヒロア(Dr / 以下、フクダ) : 「そこでフクダが歌ったほうが、楽曲の良さが出る」と言われて。はじめての経験でしたけど…… やってみました。
塩塚 : 命令したわけじゃないですよ、ちゃんとお願いして(笑)。でも、いい声ですよね。コーラスはゆりかちゃんだけがやる場合も多いんですけど、そこにフクダの声が入ると厚みが出るっていうのは、私たちの強みだなと。なので、これからも歌っていただこうと思います。
──いろんな声が入っているっていうのがやっぱり、楽曲をカラフルにしてますよね。
塩塚 : そうですね。あと、“powers”のコーラスはメンバーだけじゃなく、スタッフも一緒になって、マイクから遠く離れてみんなでワイワイと声を入れました。それがレコーディングで一番楽しかった瞬間。
ゆりか : 私もそれが楽しかった! 開放的でしたね、それこそ。
塩塚 : いまはなかなかできないですけど、ライヴでお客さんも演者と一緒になって歌いたいと思ったときに、「上手くなきゃダメなんじゃないか」と思ってしまうこともあるのかな…… と普段から考えていて。でも「歌うってことは、それだけで楽しいことなんだ」ってことをこの曲では言いたかったんですよね。だから、ラインできちんと録るっていうよりも、いろんな人が下手でもいいから楽しく歌っているっていう様子を入れたかったんです。あと、“powers”っていう曲自体が、前向きな内容を歌っている曲ですけど、でも「未来は変わる」って言い切るんじゃなくて、「未来は変わる“かもね”」っていうような、ゆるい背中の押し方をする曲で。だから、その“ゆるさ”を表現したかったのもありました。
『きらめき』のポップさも、『ざわめき』の骨太感も、どちらの側面も私たち
──わかります。“powers”は、聴く人を力づけてくれる曲ですけど、適度に力が抜けているというか。そこが、すごくいいなと思ったポイントでした。ここからは、アルバムの中で気になった曲をピックアップしながら、じっくり掘り下げていきたいと思います。まずは、1曲目の“mother”。歌詞では、特に「母」というような意味合いの内容を歌っているわけではないと思うんですが、これはどういう意図を持ってつけたタイトルなんでしょうか?
塩塚 : これは、あんまり「母」とは関係がなくて。この曲は、あまり深く考えないで、バーっと書いた曲なんですよね。歌詞も、一筆書きみたいに、細かく詰めずにさっと書いて。ただ、最初から、シューゲイザーっぽいアレンジにしようかなというのは考えていたんです。それが、どこか「海」を彷彿とさせる感じだったので…… 「母なる海」みたいな……。本当に、ふわっとしているんですけど。自分をこう…… 曖昧な状態でも包み込んでくれる、大きな海の中を泳いでいるようなイメージで。
──謎が解けました(笑)。たしかに、はじまり方もいかにもシューゲイザーっぽくて、途中に不穏なコード感の部分もあったりするけど、そこからグワッと世界が広がっていく感じが印象的でした。リズム隊は、めちゃくちゃ重たいですよね。
ゆりか : そうですね。重たさは意識して出しました。低音、すごいですよね。この曲は、アンプとかも変えて、アルバムの中でも一番重たく音を作りました。
フクダ : ドラムも一発一発重たく叩いているんですけど、個人的には好みのサウンドですね。いつも通りの、ローピッチで、スネアが低くて、手数も少なくて、最初はタムだけで叩いて…… みたいな。スネアもしっかりミュートして、重たさを意識して出すようにしました。
──もともと羊文学は「シューゲイザーっぽいね」と言われがちであることに、これまではあまりはっきりとは同意してこなかったじゃないですか。そういう意味では、ありそうでなかった曲なんじゃないのかな、とも思いました。
塩塚 : そうですね。よく「シューゲイザーっぽい」とは言われがちだったけど、私たちはあくまで「ぽい」というだけだと思うんですよね。自分自身、そこまでちゃんとシューゲイザーを聴いてきたわけではないし。でも今回は、やってみたいなとシンプルに思ったので、やってみました。それに、他にもたくさん曲があったので、これはそういうタイプの曲でもいいかなと。
──3曲目の“変身”は、飛び跳ねるような軽快なリズムの曲で、EP『きらめき』(2019年)にも入っていそうな、ポップさとキャッチーさのある曲ですね。こういった、アルバムの楽曲のバラエティは意識してましたか?
塩塚 : 本当は、1本筋の通った作品が作れたらそれはそれでおもしろいんでしょうけど、私自身、普段から日によって洋服が違ったり、気分によって聴きたい音楽が違ったりというタイプの人なので、アルバムの中にいろいろ入っていた方が楽しいかなと……。あと、“ロマンス”(『きらめき』収録)という曲で羊文学のことを知ってくれた人も多かったと思うので、そういう人たちにも改めて「羊文学っていいな」と思ってもらえるように、という想いで作りました。
──アルバムを通して、全体的には前作EPの『ざわめき』(2020年)に似た骨太でシンプルなサウンドではありますが、『きらめき』の要素も包括しつつ、という感じで。
塩塚 : そうですね。ただ、『きらめき』のポップさも、『ざわめき』の骨太感も、どちらの側面も私たちだと思っているので。『きらめき』と『ざわめき』は、本来別々に作ったわけではなくて、並行して考えていた作品でもありますし、どちらもできるのも私たちの強みかなと。私は、個人的にはこの“変身”がアルバムの中では一番好きなんですよね。自分で聴いていても励まされますし。
──ドラムもベースも楽しそうに演奏されているのが印象的でした。
塩塚 : でも、女の子の気持ちを歌った曲なので、フクダはどんな気持ちで叩いてるんだろうなとは思います。
ゆりか : 無になってるんじゃない?
フクダ : 塩塚から「こういう曲だよ」という説明を聞いて、それを自分なりに解釈して、叩いてます。ハイ(笑)。
──個人的には、チャットモンチーの“風吹けば恋”を思い出したりもしました。
塩塚 : そうですね、具体的にどの曲、っていうわけではなかったんですけど、まさにチャットモンチーさんっぽい曲にしたい、というつもりで作りました。キャッチーで、爽やかな感じになるといいなと思って。チャットモンチーさんは、やっぱり自分のルーツにあるアーティストですし。
──よく考えると、チャットモンチーの“風吹けば恋”なんかはもう12年くらい前の曲になりますけど、いまの時代に書かれたこの“変身”の主人公の女の子は、“風吹けば恋”の主人公とは、大事にしているものがちょっと違いますよね。「誰かに見てもらいたい」というよりも、自分が自分らしくあることを伸び伸びと謳歌している感じがして。そこがおもしろい違いだなと感じました。
塩塚 : これは、主人公がワガママを言いまくるっていう曲ですからね。自分が一番ハッピーじゃないと嫌だ、っていうような。まさに自分がチャットモンチーを聴いていたような高校生くらいの頃に、「言いたかったけど言えなかったことってあったよなあ」と思い出しながら、いまの高校生くらいの子たちがこの曲を聴いて、自分らしくハッピーであってほしいな、という気持ちで作りました。
どこか葛藤を抱えながらも、力強さがある作品になった
──続きまして、先ほども話に出た5曲目の“ロックスター”。これは新しいですね! ミドルテンポで、ビートがシャッフルしていて。このアレンジは相当考えました?
ゆりか : これは考えましたね。曲としては、前からあったんです。2年くらい前からあったはずなんですけど、1度ボツになっていて。で、今回また復活した曲です。
塩塚 : 特にイントロをどうするかをすごく考えた気がしますね。構成は、完成した曲の状態とほぼ同じ感じで、すでにあったんですけど……。細かいところを考え直して、やっとお披露目っていう感じで。こういう感じの曲って、ゆりかちゃんとフクダが入る前の、かなり昔の羊文学には結構あったんですけど。
ゆりか : ちょっとブルースっぽい感じのね。
──最近の羊文学にはあんまりなかったタイプの曲ですよね。リズムがキモになる曲ですが、ゆりかさんとフクダさんはやってみてどうでしたか?
フクダ : 僕は、自分の引き出しにないタイプの曲でしたし、羊文学としてもあまりやったことがなかった感じだったので、はじめは難しかったですね。どうやって入ろうかなと思って。結果として、ライドを16分で刻んでるんですけど、それが新しくていいねって言ってもらえて。
ゆりか : 「ロックンロール」の「ロール」な部分がある曲だったので、そこを出すのは意識しました。私自身は、割とこういうタイプの曲もよく聴くので、ベースは割とすぐに作れましたね。
──今回の作品って、歌詞の書き方自体もバラエティに富んでいて、自分自身のことを一人称で歌っているものもあれば、こういった他人のことを歌ったような三人称の創作っぽいテイストのものもあって、おもしろいですよね。ちなみに、この曲は具体的に誰かのことを想定して書いたんですか?
塩塚 : これは、羊文学によくある「塩塚がもうバンドやめたいソング」です。最近はもうやめたいとは思ってないですけどね(笑)。人前に立ってるけど、本当は「ちょっともう無理かも……」って思ってる状態を表現したような曲です。それと、ちょうどその時に、昔の亡くなったロックスターの映画を見たりしていたので……。歌詞の「花瓶に挿した花」っていうのは、自分で作った曲のことも指しているんですけど、「自分が死んでも、自分の作った曲は、美しく残っていてほしい」っていう願望を、亡くなっているロックスターに重ねて書きました。なので、特に誰のこと、というわけではないです。
──自分の経験をアイディアの種にしているけど、それを元に創作にしているのが新しいですね。
塩塚 : あと、タイトルは「ロックスター」なんですが、これはロックスターだけじゃなくて、表に立つ人のこと全般についても指しています。そういう人たちのことを、モノとして見ているというか、人間だと思わない風潮ってあるじゃないですか。自分がそういう風に思われてる、っていう内容ではないんですけど、芸能人の方とかがよくモノみたいに扱われているのを見ていて、「本当は同じように心を持ってる人なんだよ」っていうことを言いたくて。「『ロックスター』は、ステージに立ってるときには輝いて見えるし、ステージ上のそのスターはあなたの幸せをきっと願っているけど、その人だって、ひとりの人間だっていうことを、あなたもちゃんと忘れないでほしい」という風に思って書きました。
──最近は特にそういった風潮が強いですし、それが取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうことも多いですよね。そして、表題曲でもある“powers”は、ポジティヴで勇気づけられるけれど、適度に力が抜けている曲でもあって。そして実はちょっと変わった構成の曲ですよね。旋律にも浮遊感があって捉えづらいというか、みんなでシンガロングするような曲ではないですよね。途中で、テンポも速くなりますし。
塩塚 : これは、去年くらいにできた曲ですね。“人間だった”よりも少し後にできた曲です。ただそのときは、サビくらいまでできていたんですが、その後がなかなか納得できずで。それでしばらく寝かせていました。
──構成やアレンジで納得できなかった?
塩塚 : そうですね。サビまでがすごく広がりのあるメロディになっているんですが、その広がりを保ったまま1曲通すわけにもいかないし、かといって1回真ん中でしぼめるとまた広がっていく感じにすんなり持っていくのも、流れとして難しい。どう起伏をつけるかに苦戦しましたね。
──でも結果として、おもしろいものが出来上がりましたね。最初は、「壮大な何かがはじまりそうな予感」を抱かせるのに、途中でキュッとリズムが速くなって。
塩塚 : そこが難しくて。ライヴでできるか心配(笑)。
──その箇所ではリズム隊もだいぶ手数が多くなると思うんですけど……。
ゆりか : 大変です……。レコーディングもめちゃくちゃ大変でした。
フクダ : 大変でしたね……。
──(苦笑)。すごく明るくて、前向きなことを歌っている曲ですけど、一方で、『ざわめき』のリリースの際に塩塚さんにインタヴューしたときには「聴いてくれる人を励ましたいわけではないし、甘やかしたいわけでもない」とお話してくれましたよね。今回の歌詞を書いてみて、そのあたりはどういう風に考えてましたか?
『ざわめき』リリース時のインタヴューはこちら
塩塚 : そうですね、だからこそ、こういう励ますような内容の歌詞を書くのはよそうかと思ってたんですけど……。アルバムの制作中、たまたま友達とおしゃべりしていたら、最近見た映画の話をしてくれて。その作品は、監督が自分で感じたことを作品にしているからこそいいんだ、という話をしてくれたんです。それで、なんかハッとしたんですよね。私は、自分がふと落ち込むことがあったときに、周りの人に「大丈夫だよ」って言ってほしかったな、と思い出して。だから、「絶対大丈夫」とか「頑張りましょう!」なんて言っちゃうとちょっと胡散臭いけど、「大丈夫かもね」「いける気がするよ」みたいな、相手と対等な目線で励ませるような曲だったら入れてみたいなと思うようになって。ただ、今後もこういう曲が生まれていくかと言われると、アレンジも含めて、生まれないかもしれないですね。タイトル・トラックだ! というつもりで作ったわけではなかったですし。
──でも象徴的な曲ですよね、今回のアルバムの。このアルバム、そしてこの曲は特に、気負いすぎずに未来を信じられそうな程よい明るさがあって。背中を軽くポンと押すだけみたいな「ぬけ感」というか。アルバム・タイトルでもある『POWERS』って、すごく強い名前ですけど、一方で、あんまり「がんばろうぜ!」的な感じではなくて、自分たちの中にある内なる強さを信じてるような感じが、この曲だけではなく、どの楽曲にも出ているなと感じました。
塩塚 : 『POWERS』っていう言葉は複数形で、この複数形の“s”がつくと、いわゆるマッチョなパワーとはちょっと意味が変わるらしくて。「力」という意味の中でも、何個かに限定されるそうなんです。その中には「圧力」という意味と、「魔法」という意味もあるらしく、今作のタイトルにはその2つの意味を込めていて。そういう「力」には、「圧力」にもなり得る部分と、「マジックパワー」になりうる部分があるなと思ったんです。今年は、ずっと部屋にこもっていて、世の中に起こるいろんなことに圧倒されて悩みながら、その中でも自分がハッピーに生きる方法を考えたり、前向きなことを考えようとしたり、その間で行ったり来たりしている年だったので。今作全体も、どこか葛藤を抱えながらも、力強さがある作品になったので、それら全部の意味を込めて『POWERS』っていうタイトルになっているんですよね。
編集 : 鈴木雄希
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新→古
過去の特集ページ
LIVE SCHEDULE
RED SPICE supported by Ruby Tuesday
2020年12月21日(月)@東京 TSUTAYA O-EAST
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
出演 : 羊文学 / SIX LOUNGE
詳細 : https://www.red-hot.ne.jp/redspice/
FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY
2020年12月27日(日)@大阪 インテックス大阪
時間 : START 9:00 / START 11:00
詳細 : http://radiocrazy.fm/
羊文学 Tour 2021 “Hidden Place”
2021年01月31日(日)@名古屋 BOTTOM LINE
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
2021年2月11日(木・祝)@大阪 梅田CLUB QUATTRO
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
2021年2月26日(金)@東京 STUDIO COAST
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
羊文学 Tour 2021 “Hidden Place” Online Live
2021年03月14日(日)@Online
※配信開始時間、配信チケット代、配信チケット発売日などの詳細は追って発表
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://www.hitsujibungaku.info/live/
PROFILE
羊文学 (羊文学)
塩塚モエカ(Vo&Gt)、河西ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)からなる、繊細ながらも力強いサウンドが特徴のオルナティヴ・ロック・バンド。
2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フル・アルバム1枚、そして全国的ヒットを記録した限定生産シングル「1999 / 人間だった」をリリース。
今春行われたEP『ざわめき』のリリース・ワンマン・ツアーは全公演ソールドアウトに。東京公演は恵比寿リキッドルームで行われた。2020年8月19日に〈F.C.L.S.〉(ソニー・ミュージックレーベルズ)より「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャー・デビュー。12月9日にニュー・アルバム『POWERS』リリース。しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。
■公式HP
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