なにかを変えるほどのインパクトを──betcover!! 堂々のメジャー・デビュー作『中学生』
2017年、19歳で高校生クリエイターとともに作りあげた『high school !! ep.』で鮮烈なデビューを飾り、その後もサニーデイ・サービスの『the SEA』にも参加するなど、多方面で注目を集めていたヤナセジロウによるプロジェクト、betcover!!。そんな彼が〈avex〉内レーベル〈cutting edge〉より堂々のメジャー・デビュー! メジャーでの初リリースとなる『中学生』は、聴いたものを翻弄させるメッセージ、インパクト、サプライズが詰まった作品に。いまの音楽シーンに対するbetcover!! なりのカウンターとなるこの衝撃作、ぜひインタヴューとともにお楽しみください。
メジャー・デビュー・アルバム配信してます!
INTERVIEW : betcover!!
現代の日本において本当に必要な音楽とは? betcover!!ことヤナセジロウは、そんな課題と本気で向き合っている。少なくとも彼は音楽をただの娯楽だとは思っていないし、ましてや自分がつくった音楽を一過性の商品として消費させるつもりは毛頭なさそうだ。
実際、この『中学生』というアルバムに収められた10曲が、ここ日本におけるポップスの潮流と一線を画しているのはあきらか。ステッパーズなどのオーセンティックなダブ / レゲエをことこまかに参照したリズム。トラップ以降の重低音を効かせた音響。オールドスクールなブレイクビーツ。トラッド・フォーク的なメロディと詩情。ロック・バンド形態のもとに本来は混ざり合うはずのないものがひとつとなった本作は、あなたを慰めたり癒したりはしてくれない代わりに、その膠着した価値観を少しだけ揺るがしてくるかもしれない。これはそんな劇薬のような1枚なのだ。
そんなアルバム『中学生』について、ヤナセジロウに話を聞いてきた。以下に掲載してあるのはその一部だ。どこまでが本気で、どこまでが冗談なのかわからないヤナセの語り口は、まさに『中学生』を地でいくようであった。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 作永裕範
ちょっと引いちゃうくらいのサプライズを
──今作はこれまでの作品以上にベースラインやキックの低音がかなり強調されていて、全体的な音像の質感も非常にふくよかだなと感じました。サウンド・プロダクション的には現行のトラップとも近い印象を受けたのですが、実際にそのあたりは意識されてましたか?
たしかに低音のことは今回ものすごく意識してました。エンジニアの池田洋さんとも「トラップみたいな低音にしようよ」みたいな話はしてましたし。あと、このアルバムをレコーディングしている時期にちょうどビリー・アイリッシュのアルバム(『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』)が出たんですよ。正直あれに乗っかりましたね(笑)。
──ビリーのデビュー作にそれだけインパクトがあったってことですか?
そう、まさにインパクトですね。僕は今回のアルバムで何かリスナーへのサプライズを用意したかったんです。それもおもしろがれるようなサプライズではなくて、ちょっと引いちゃうくらいのやつを仕掛けたいなと。で、ビリー・アイリッシュのアルバムにはそれがあったんです。3曲目の「ザニー」って曲を聴いたときに、これはヤバいなと。
──たしかに「ザニー」はあのアルバムでも突出してますよね。サブベースが極端に歪んでて。
あの曲、すごいですよね。最初に聴いたとき「これ、完全に音割れてるじゃん」と思ってたんですけど、あれ、じつはそういう加工をわざとしてるらしくて。「なんだこれ?」みたいな。そういう、良いのか悪いのかも判断できないようなサプライズがほしかったんです。どれだけ人を驚かせることができるか。今作はそこに力を入れたかったので、ここは思い切って自分もやっちゃおうかなと。
──今作はエンジニアさんとのやりとりが重要だったということ?
そうですね。僕はパソコンもぜんぜん使えないし。
──そうなんですか? DAWとかは?
ぜんぜん(笑)。以前に先輩から2万円でデスクトップを買って、それにDAWソフトを入れたんですけど、僕があまりにもパソコン音痴すぎて、音すら出せないっていう(笑)。それで諦めちゃって、いまも8トラックのMTRをふつうに使ってます。しかも、これまではバウンスで音をたくさん重ねてたんですけど、なんかそういう作業に飽きちゃったんで、今回はとにかく音数が少ないんですよ。
──たしかに音数が少ないし、音ひとつひとつの配置もはっきり感じられますよね。
仰る通り、エンジニアさんは音の配置をすごく意識してました。あと、僕としては今回「ダブ」というテーマもあったので、たぶんそのへんも影響してるのかな。ただ、前のレコーディングでは音をリヴァーブで飛ばしたり、左右のパンをかなり広げたりしたんですけど、今回はもっと真ん中らへんにある感じというか、モノ・トラックっぽい感じにしたかったんです。
音楽が好きなひとはもっとメッセージを求めてると思ってた
──たしかに今作ってプロダクションはトラップ的なところもある一方で、リズムやソングライティングはダブ / レゲエをかなり参照してますよね。
きっかけはフィッシュマンズだったんです。2年くらい前にはじめてフィッシュマンズを聴いて、これはすごいなと。そこで彼らのルーツを辿っていくなかで、いわゆるロックステディ系とか、オーガスタス・パブロ、キング・タビーなんかを知って、けっこう熱中しましたね。ソングライティングに関してはそのへんからいろいろ吸収したつもりです。自分でやるならちゃんと理解してからやりたいんで。
──ヤナセさんはダブ及びフィッシュマンズのどんなところに惹かれてるのでしょう?
空気感かな。もともと僕はSF映画が大好きなんですけど、フィッシュマンズには『サンダーバード』のサウンドトラックみたいな宇宙人的なファンタジーに近い空気感があるんですよね。ただ、それはロックステディが好きな理由とはまた違ってて…… なんていうか、僕は音だけじゃそこまで好きにならないんですよ。
──というのは?
僕、その人の考えていることが伝わってくる音楽が好きなんです。言ってしまえば、人柄で音楽を判断してる(笑)。なので、その人のエピソードを知って「この人、なんか違うな」と思ったら、もうその人の音楽を聴かなくなったりすることもあって。それってミュージシャンとしてはあまり良くないなぁとは思うんですけど。
──作家の人間性を重要視してるということ?
そうですね。人としてどうかっていうのは大事だなと思ってます。で、これは勝手な想像ですけど、ロックステディ系の人たちはやっぱり時代的にも大変そうな人が多くて。だからこそ、音楽にハッピー・サッドな感じがあるんですよね。アース・ウィンド&ファイアやコーデッツが好きなのもそこなんです。めちゃくちゃ明るいのに泣けるっていう。あと、レゲエには暑苦しさがあるじゃないですか。そこもまたいいんですよね。まあ、僕の歌詞はぜんぜんそんな感じじゃないですけど。
──betcover!! の歌詞はシニカルなものも多いけど、そこには怒りも込められているように感じるのですが。
たしかに怒りはあると思います。それに、今回は前作よりもずっとわかりやすくしたつもりなんですよね。なんていうか、前作が思っていたほど伝わらなかったので。
──それはどういう意味で?
けっこういろんなところでシティ・ポップと言われちゃったんですよ。たぶん表面的なところでそう感じたひとがいたってことなんだろうけど…… ちげえよ、と。ちゃんと聴いてもらえれば伝わると思ったんですけどね。想像以上にわかってもらえなくて、それで前作を出したあとはかなり落ち込みました。音楽が好きなひとはもっとメッセージを求めてると思ってたけど、意外とそうじゃないのかなって。
──つまりヤナセさんは、音楽にはメッセージが必要だと考えてるってことですよね?
やっぱり最低限のものは必要だなと思ってます。まあ、メッセージとは言わなくとも、その曲に何かしらの意思が込められてるってことは大事だと思う。でも、最近の日本でウケてる音楽って、ラヴ・ソングかチルいやつばっかりじゃないですか。僕、いまの日本のカルチャーの問題は、考えさせないことだと思ってて。問題提議がなにもないし、特に音楽はそれを避けてるように感じる。それに聴く側もちゃんと考えてくれる人が少ないなと思ったから、今回はもう少しわかりやすくしたかったんです。
──ヤナセさんはご自身の作品をとおして、どんなことを伝えようとしているのでしょうか?
えーっと、やっぱりそれも空気感ですかね。もちろん今回のアルバムにもストーリーはあるんですけど、そこからイメージをさらに膨らませてほしいというか。
──その空気感とはどういうものなのか、もう少し具体的に教えてもらえますか?
たとえば、めちゃくちゃ哲学的なことを歌ってたところで、いきなり「魚肉ソーセージ」という言葉が出てきたとする。でも、それによって歌詞全体がおかしなことにはならないっていう。そういう空気感ですね、僕がつくりたいのは。なにか変なものがそこにあったとしても、全体にはさほど影響がないし、それ自体に意味がなくてもぜんぜんOK。そういう空気感。
エネルギーが動く瞬間を音楽で
──なるほど。betcover!! の曲には唐突な転調が非常に多いですよね。そのあたりもいまの空気感の話とつながってくるのでしょうか?
転調が多いってことに関しては、特に意識してそうなってるわけじゃないんですけど。そこになにか意味があるとすれば、僕はいきなり何かが変わるってことに、ものすごく可能性を感じてるんですよ。いまの世の中にはなにかがいきなりガラッと変わるくらいのエネルギーが必要だと思ってるし、そういうエネルギーが動く瞬間を音楽で表現したいんです。それくらいのインパクトがないとダメだなって。
──アルバム最後に収録されてるタイトル・トラックの「中学生」は、まさにその「唐突な変化」が次々とやってくる曲ですよね。アコースティックではじまったかと思いきや、最終的にはめちゃくちゃヘヴィなビート・ミュージックに化けてるっていう。
『中学生』って、あのビートに辿り着くためのアルバムなんですよ。もっと言っちゃうと、それまでの流れはあのビートにたどり着くまでの伏線。「中学生」はもともと3分くらいの曲だったんですけど、それが気づいたら12分にまで延びてたし、最後のビートも音割れしちゃってるし、さすがにこれはちょっとやりすぎかなと思ったんですけどね。でも、もし誰かがこういう曲をだしたら、僕はきっとおもしろがるだろうなと思って。
──それこそ聴く者が戸惑うくらいのインパクトを与えたいってこと?
そうですね。ちゃんと世間に受け入れられることを考えたら、ふつうはこんな曲入れないんだろうけど(笑)。いまの日本の音楽の大半は、ちゃんと流れを受け継ぎすぎてるというか、秩序がありすぎる気がするし、受け取る側も「わからない」ことに対する耐性がなさすぎるように感じるんですよね。マインド的にもなにかを変える意思が感じられないというか。僕はなんとかそこを揺るがしたいんですよ。これからはもう、ゆるゆるやってちゃダメだと思うんで。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
メジャー1stアルバム発売記念ワンマン・ライヴ『中二魂』
2019年8月23日(金)@渋谷WWW
時間 : OPEN 19:00 / START 19:30
チケット : 前売り 3000円(ドリンク別)
e+ / ローソンチケット[L:73286] / チケットぴあ[P:157-908] / LINE TICKET / WWW店頭
お問い合わせ : 渋谷WWW (03-5458-7685)
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://www-shibuya.jp/schedule/011294.php
PROFILE
betcover!!
betcover!! はヤナセジロウによるプロジェクト。
幼い頃からアース・ウィンド・アンド・ファイアーなどブラックミュージックを聞いて育ち小学5年生でギター、中学生のときに作曲をはじめ2016年夏に本格的に活動を開始。
2017年12月1st ep『high school!! ep.』を発売。収録楽曲「COSMO」が2018年1月スペースシャワーTV「it!」に決定。5月にはサニーデイ・サービスの新作リミックス・アルバムその制作過程をシェアするプレイリスト『the SEA』のリミックスを1曲手掛ける。8月に発売した5曲入り2nd ep『サンダーボルトチェーンソー』ではApple Music 「今週のNEW ARTIST」、Spotify「アーリーノイズ」に選出される。12月には両A面シングル「海豚少年 / ゆめみちゃった」を配信限定リリース。
2019年3月に初の単独公演〈襲来! ジャングルビート'19〉を渋谷TSUTAYA O-nestにて開催。7月24日にメジャー1stアルバム『中学生』が発売決定! またアルバム収録楽曲「異星人」が2019年7月スペースシャワーTV「it!」に決定。アルバム収録楽曲「決壊」が7月7日からはじまるテレビ東京アニメ『闇芝居』のエンディング・テーマ、アルバム収録楽曲「水泳教室」は『モヤモヤさま〜ず2』のエンディング・テーマに抜擢されるなど注目を集める。
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