超えていく、
王者。惨敗もあった、故障もあった、苦戦もあった。
その障害を越えるたびに強くなった。
心通うパートナーと、互いの才能を信じ、
鍛え、解き放った。
記録を刻み、記憶を彩り、
人馬一体、進む飛越の王者。
超えていくその勇気を、その闘志を、
愛さずにはいられない。
オジュウチョウサン とは、2011年生まれの日本の競走馬である。鹿毛の牡馬。
父はステイゴールド、母はシャドウシルエット、母父シンボリクリスエス。全兄にラジオNIKKEI賞勝ちのケイアイチョウサンがいる。
ニックネームではないが、障害競走での圧倒的な強さから「障害界の絶対王者」と呼ばれる。
概要
馬主は(株)チョウサン(馬主法人で代表は長山尚義)、調教師は和田正一郎(美浦)、生産者は坂東牧場。
名前の由来は「家族名より+冠名[1]」との事だが、長山氏の次男が子供の頃に一人称代名詞の「俺」を「オレ」と言わず(言えず?)「オジュウ」と言っていたから 、との事である。
尚長山氏はステイゴールド及びオルフェーヴルの一口馬主であったとの事で、この事からオルフェーヴルが種牡馬になるまでは全てステイゴールドが、種牡馬になってからはオルフェーヴルが、母シャドウシルエットに毎年付けられている。氏のステイゴールド系への愛情は大変深いものとして有名である。
同馬は「この先100年経っても越える馬は登場しないのではないか?」と思わせる程に数多の記録を更新した。その中にはサラブレッド競走の世界記録に並び、或いは更新した物もある。障害競走に関する記録も全て国際機関……国際セリ名簿基準委員会によって認定されたレースでの公式な記録として扱われ、例えばGIの勝利記録といえばJ・GIも合算して数えられる。
即ち、平地を主戦場とする競走馬の勝利記録等を紹介する際に「平地の」とわざわざ付けねばならなくなったのはだいたいこいつのせいである。同馬の記録は下記参照のこと。
同様に「芝の」或いは「国際G1の」という但書きが必要になった原因の馬にホッコータルマエ(2009年生まれ、JpnIの7勝を含むGI級競走10勝)、そしてその翌年にデビューし記録を塗り替えたコパノリッキー(2010年生まれ、JpnIの8勝を含むGI級競走11勝)が、また「中央平地GIの」や「芝GIの」という但書きが必要となる原因を作った馬にオメガパフューム(2015年生まれ、東京大賞典4連勝…平地GIに於ける世界トップタイで国内単独トップ)がいる。
記録
- 中山グランドジャンプ(J・GI) 2016年-2020年(5連覇)、2022年
- 中山大障害(J・GI) 2016年、2017年、2021年
- 東京ハイジャンプ(J・GII) 2016年、2017年
- 阪神スプリングジャンプ(J・GII) 2017年、2019年、2020年
- 東京ジャンプステークス(J・GIII) 2016年
- 連勝数に関するもの(重賞競走以外のレースを含める)
- GI勝利数に関するもの
- 重賞勝利数に関するもの
- 同一重賞勝利に関するもの
- 障害コースに関するもの
- 重賞勝利年数に関するもの
- JRA賞に関するもの
- 部門賞獲得数 のべ5回
- 部門賞獲得年数 5年(単独1位)
- 高齢記録に関するもの
- 獲得賞金に関するもの
- 初重賞制覇(和田正一郎調教師)
- 初GI(JGI)制覇((株)チョウサン(個人名義時代も含めて)、和田正一郎調教師、石神深一騎手)
- ラジオNIKKEI山本直アナ初GI実況レースでの勝ち馬(2017年中山大障害)
- 障害馬でのヒーロー列伝選出(2018年)
- 障害馬として初のアイドルホース作成(2018年)
- 平地収得賞金0の為出走不可能にも関わらずファン投票で出走可能圏内相当の得票(2018年宝塚記念)
- 馬柱での過去の戦績が1着(と休養)で埋め尽くされている(平地)収得賞金0の馬
- 中央競馬所属馬の平地競走高齢初勝利(7歳7月)
- 500万下競走勝利を記念するグッズ販売(2018年)
- 障害GI勝利馬の平地GI挑戦(2018年)
- 騎手による同一中央重賞5連覇(石神深一騎手、2020年中山グランドジャンプ)
- 調教師による同一中央重賞5連覇(和田正一郎調教師、2020年中山グランドジャンプ)
- 石神深一騎手、障害騎乗1000回目(2022年中山グランドジャンプ)
- 21世紀初の中央20勝
- 全障害レース出走中落馬ゼロ
- 中央競馬現役競走馬としてレース中に飛越した障害の数 381
- 最小得票差によるJRA賞獲得(2022年 ニシノデイジーと一票差)
- 現役サラブレッド国内最多賞金獲得馬(2022年1月~登録抹消まで)[2]
全てを飛越せよ
2歳~3歳(2013~2014年)
小笠倫弘厩舎に入厩し10月の新馬戦でデビューするも15頭中11着、約1ヶ月後の未勝利戦も13頭中8着と振るわなかった。
未勝利戦後に骨折が判明。休養に入り翌年の3月に小笠厩舎に戻り、復帰を目指すも、2度目の骨折が判明し、またしても長期休養に入る。
2歳未勝利戦から約1年後の復帰。但し復帰予定時期には既に未勝利戦は終了しており、平地レースでは未勝利馬の走る事ができるレースはかなり制限されてしまう為、障害馬として活路を見出す事になった。これが最初の運命の転機であった。
北総乗馬クラブへの障害競走調教の放牧を終え、11月初旬に障害試験を合格。そして障害のデビュー戦は鞍上に大江原圭を乗せ14頭中の14番人気で14着、スタートに出遅れた事もあったが、1着の馬から13秒7、13着の馬からでも8秒7も遅れての大惨敗であった。
同年はこの1戦のみ、後に王者となるとは到底想像もできない成績であった。
このレースの後に和田正一郎厩舎へ転厩、第2の転機となった。
小笠師に預託していた全馬が和田正一郎師またはその父である和田正道師の下に転厩しており、また以後小笠厩舎へ預託された馬がいない為、馬主と調教師の間にトラブルがあったのではないかという噂もある。
4歳(2015年)
年が明けて1月の障害未勝利戦、鞍上は山本康志に乗り替わる。前走の惨敗もあって当然ながら人気も12頭中11番という低いものであったが、予想を(良い方向に)裏切り2着に入る。もともと調教においても飛越は安定していたとの事だが、それ以上に高い平地力の片鱗を見せることになった。
4戦目はやや人気を落として4番人気となったがようやく初勝利を上げる事ができた。
続くオープン戦にて連勝しこれからを期待されるも次のオープン戦は9着と破れる。
障害戦7戦目は東京ジャンプステークス(J・GIII)、障害重賞初挑戦となったが、前戦まで鞍上だった山本がコスモソユーズに騎乗する為、石神深一に乗り替わりとなった(これが第3の転機であったかもしれない)。
この頃はスタートに出遅れる事が常態化しており、また使える足も一瞬しかなかった為、先行してからの圧倒的な末脚でねじ伏せる戦法はまだ確立できておらず、同レースも最後尾から最後少しだけ追い上げての14頭中4着(9番人気)に終わった。
次走のオープン戦は1着となり3勝目、その次のオープン特別戦では4着となる。
同年最後のレースとして障害レース暮れの大一番、中山大障害(J・GI)に参戦、後方から追走し14頭中6着(6番人気)で終わった。同レースの優勝馬はオジュウチョウサンと名勝負を繰り広げる事になる同年の中山グランドジャンプ覇者であり同年の最優秀障害馬として表彰される事になるアップトゥデイトであった。
同年は9戦3勝、大物になる片鱗は見せつつもまだまだ凡庸な1頭に過ぎなかった。
5歳(2016年)
前年の暮に障害馬デビューし障害戦3戦2勝2着1回、平地でも3勝しているニホンピロバロンの2番人気となり、同馬に敗れるも平地能力はかなり高い事を証明した。
尚このレースからはメンコから耳あてを外す事になったが、この馬具の変更によってスタートが見違える程改善され、まずまず満足できる結果であった(これが第4の転機でもあった)。
この年の2戦目は中山グランドジャンプ(J・GI)を選択。
前年の最優秀障害馬アップトゥデイトや前走でオジュウチョウサンに勝利したニホンピロバロン等の有力馬の回避のみならず重賞勝ち馬が出走10頭中2頭と少ない事もあり、前走の評価もあって2番人気に推された。
レースは1番人気のサナシオンが終始レースを引っ張る形となり、2番手を走っていたオジュウチョウサンが最後の直線で差して勝利。同馬と調教師の和田正一郎は重賞初勝利となり、また馬主のチョウサン(長山氏個人名義時代通じて)と鞍上の石神はJ・GI初優勝となった。
春3戦目は東京ジャンプステークス(J・GIII)を選択。
春のチャンピオンという事もあり2.0倍の1番人気となる。道中は中団からやや前を追走し最後の飛越で先頭に立ち、ウインヤードに追われるも着差を詰めさせる事なく無難に勝利した。
1番人気に推されるも人気は前走より若干落としての2.1倍、これはこれまで鉄砲の実績がなかった事に加え前走重賞勝ちの馬が他にも数頭いた為仕方のないものであった。
レースは3番人気で前走小倉サマージャンプ勝ちのマキオボーラーが引っ張り、それを2番人気で前走新潟ジャンプステークス勝ちのタイセイドリームが追走、それをオジュウチョウサンが追いかける形になった。序盤で落馬し空馬となったラグジードライブが最後の直線で大きく外側に斜行し、オジュウチョウサンはその影響を受け大きく外に膨らむ。空馬を避けるように内側にコースを切り替えると今度は空馬が内側に斜行して来て外から蓋をする形になる。
その最後の障害では前にいたマキオボーラーが壁になり、飛越後も空馬から不利を受け続けるという非常に厳しいレースとなった。それでも最後には前にいたマキオボーラーとタイセイドリームを差し切っての1着となったが、並の馬であれば走る気を無くしていてもおかしくないレースであり、闘争心の強さを見せつけた1勝であった。
レースの模様はこちらの動画の16:00あたりから見る事ができる。幾つもの度肝を抜くレースを繰り広げるオジュウチョウサンであるが、その中でも確実に伝説級のレースの一つであり、このレースをベストレースに挙げるファンも少なくない。
前走の劇的な勝ちっぷりが評価され、前年の最優秀障害馬アップトゥデイトを抑え1.4倍の圧倒的な1番人気に推される。
レースは2番人気アップトゥデイトが終始引っ張る展開となり、それを3番手で追走する形となった。前走に比べ淡々としたレースであったが、4角で並びかけ先頭に立つと直線では引き離す一方となり、終わってみれば9馬身差の圧勝劇となった。
同年は5戦4勝2着1回、J・GI完全制覇となり満場一致で最優秀障害馬に選出された。
尚、同賞は「障害戦は見ていないから 」という(障害レースファンからすれば委員やめろやと言いたくなるような)理由で数年続けて同賞のみ該当馬なしとしていた選考委員がいる為どうなるか注目された。
6歳(2017年)
年明け初戦は阪神スプリングジャンプ(J・GII)。
アップトゥデイトとの再戦となったが1.3倍の圧倒的な1番人気となる。
道中はドリームセイリングが引っ張りアップトゥデイトやオジュウチョウサン等が追走する形で進み、最後の障害でアップトゥデイトとの一騎打ちの形となるも持ち前の平地力の差で勝利。
2戦目は中山グランドジャンプ(J・GI)。
前年は2番人気であったが同年は1.3倍の1番人気で2番人気は三度の再戦となるアップトゥデイト。
レースは3番人気のメイショウヒデタダが引っ張りオジュウチョウサンは3番手辺りを追走する形になっていたが、最後の3コーナー手前で先頭に立つと迫ってくる6番人気のサンレイデュークを最後の直線でねじ伏せ快勝、同レース連覇となった。
尚レース後に剥離骨折をしていた事が判明、秋まで休養となった。
骨折明けという事もあり若干人気を落としての1.4倍の1番人気。
レースは6番人気のタマモプラネットが大逃げを打つ展開で、それを2番人気のグッドスカイが追走し、更に遅れた3番手を追走する形になった。ホームストレッチでは1~2番手の差が4秒、2~3番手の差も2秒ほどあり、最後の3コーナー手前の障害でも先頭からオジュウチョウサンまで約4秒の差があって、鞍上の石神も逃げ切られたと思うほどであった。最後の4コーナーを回ったところでも2.5秒ほど差があったが、持ち前の圧倒的な末脚が炸裂、ラスト300mで追いつき、2着に入ったグッドスカイにも2.0秒もの差をつけ大差で圧勝した。
同レースを実況していたラジオNIKKEIの山本直アナの「剥離骨折でも王者の時計は止まっていませんでした」は名セリフとなった。
同年度の有馬記念ファン投票では77位(1278票…有馬出走メンバー16頭を併せた比較では17頭中15番目)となる。
平地未勝利でも今のオジュウチョウサンなら並居る強豪馬を相手にも相応の結果を出してくれるに違いないというファンの期待が集まった結果であろう(なお有馬記念は中山大障害の翌日に開催されるので実際に出走する事は無い)。
前年と同様に東京ハイジャンプでの勝ちっぷりが素晴らしかった事もあり、またここまで連勝が続いている事からJRA公式のレース紹介のページでも絶対王者という表現を使用し始めるようになり、1.1倍という圧倒的な1番人気となる。
レースは前の障害王者である2番人気アップトゥデイトが大逃げ。途中4秒近くの差がありどよめきも湧いたがラストの直線で未だ3馬身以上前を逃げ続けるアップトゥデイトをゴール前30mで逆転し優勝。
1991年にシンボリモントルーが作った4分37秒2というタイムを26年ぶりに1.1秒更新する4分36秒1というレコード決着であった[3]。
最後の直線での現王者と前王者以外存在しない2頭の壮絶なる意地の張り合い、そして互いに死力を尽くした末の逆転半馬身差勝利という最後まで息をつかせぬ決着に、同年度のJRA最高レースであるという評価も少なくない。
同レースは前年比4割増しの売上となり、オジュウチョウサンを通じて障害レースへの関心を高めるのに貢献したと言えよう。
年間成績も素晴らしいが重賞8連勝という記録の達成や中山大障害等で見せた手に汗握るレースでファンを大いに沸かせるた事を評価され東京競馬記者クラブの特別賞を受賞した。
また同年の最優秀障害馬に選出。同年は完全な成績で終えた為2年連続の満票も期待されたが、1票ほど該当馬なしの票が有ったため満票とはならなかった(選出しなかった理由は公表されていない為知る由はない)。
代わりに同年度の年度代表馬として最右翼であったキタサンブラックではなくオジュウチョウサンの票として3票ほど獲得する結果となった。
7歳(2018年)
障害馬として初のJRAヒーロー列伝掲載馬として選出された。キャッチコピーは「超えていく、王者。」で、文章の最後に登場する「愛さずにはいられない。」は父ステイゴールドのキャッチコピー「愛さずにいられない。」から流用したものと思われる。
同年の初戦は3月の阪神スプリングジャンプの予定だったがこれを回避、故障説や春の本番である中山グランドジャンプでの臨戦態勢不安説が飛び交った。
同年の初戦は中山グランドジャンプ(J・GI)。
前記のように臨戦態勢が不安視され単勝オッズは1.5倍。
前年末の中山大障害で名勝負を繰り広げた最大のライバルであるアップトゥデイトが2番人気、前哨戦を圧勝し、同年初めに障害競走2000回騎乗で引退する事を表明している林満明騎手(同レースで1994戦目であり、事実上アップトゥデイトの最後の騎乗となる事が予想された)への応援などもあり2.3倍、競馬番組などでもオジュウチョウサンは強いと認めつつもアップトゥデイトを本命とするような予想が見られた。
レースは好スタートを切ったオジュウチョウサンに対し、あまり良いスタートを切れなかったアップトゥデイトが先頭に出るまで脚を使わされる展開となった。その後もオジュウチョウサンやマイネルクロップ他の馬がアップトゥデイトに競り掛けるような展開が続き、前年の中山大障害のような単騎大逃げの展開とならないままレースが進む。オジュウチョウサンは常に2番手くらいを淡々と進んでいたが、最後の4コーナーで先頭に立つと突き放す一方の大差での勝利となった。
タイムはこれまでの記録を3秒6上回る4分43秒0のレコードで、これでオジュウチョウサンは春秋の大障害レースのレコードを独占 。2着のアップトゥデイトも3年前に自身が作ったレコードを1秒2上回るタイムで入線、3着に入った3番人気のニホンピロバロン(これもこれまでのレコードに対して0秒2遅い程度)に対して9馬身程の差をつけており、彼自身も決して衰えた訳ではなく、ただただ生まれてきた時代が悪かったとしか言いようが無かった。
宝塚記念のファン投票が始まる頃(この時点での平地収得賞金が0であるオジュウチョウサンはどんなに上位の票獲得となっても出走権は与えられない)、前年の有馬記念の時同様にファン投票でどの位の順位になるかささやくファンがいる中で、同年の福島競馬場にて開催される平地500万下特別戦の開成山特別に鞍上武豊で参戦するという驚くべきニュースが発せられた。
福島競馬場100周年を記念する意味も込めると同時に「平地収得賞金が無いから走れないなら、平地で勝てばいいじゃない」という趣旨でもあるとの事。
根っからの障害ファンからはオジュウチョウサンを覚醒させた石神でいいじゃないかという意見もあったが、かつての高知競馬のアイドルホースであった113戦0勝のハルウララにも跨った武豊だけに、記念の意味もありスターホースにスタージョッキーをという意図がある事を理解しようという意見も見られた。
尚宝塚記念ファン投票の順位は43位、出走表明をした馬との比較では9番目相当という結果であった。
少し余談となるが、今まで中山大障害、中山グランドジャンプを勝った馬がその後平地競走に出走したことはあるのだろうか。
意外だと思われるかもしれないがそれなりにいる。有名どころを挙げると目黒記念や武蔵野Sに出走したフジノオー、3200mだった天皇賞(秋)に出走したバローネターフ、同じく天皇賞(春)に出走したポレール、中山グランドジャンプ勝った後はオーストラリアでは平地しか使わなかったカラジなど。彼らが平地に参戦した理由は主に重い斤量を避けるためであった。
また、重賞が賞金別定やハンデ戦ではなくなった1999年以降でも、叩きとして500万下や1000万下などにでることはあった。
だがいずれの場合でもよい成績を残すことはできていない。どの馬も平地に戻って勝利を挙げることはできていないし、掲示板に入ったのもフジノオーくらい(しかも6頭立てだったので最下位を避ければいいだけ)だった。
メジロパーマーなど入障後に平地で活躍する馬もいたが、大障害を勝った経験を持つ馬に限ればそのような馬はいない。
それを踏まえたうえで先ほどのニュースである。ファンの間では500万下でも勝てないのではないか、これで調子を崩してしまうのではないか、などと言われた。一方、前走中山GJの上がり3ハロンのタイムを考えれば勝てるかもしれないという声も聞こえた。
2戦目は予告通り天才武豊を鞍上に福島競馬場の開成山特別(500万下)。
これまで平地での勝利が無い為除外の可能性もある為に保険として1000万下のレースである松島特別にも登録してあったが、フルゲートが16頭のところ登録が14頭しか居なかったため無事に出走できる運びとなった。
予想する著名人も取捨に悩んだ結果、本命に推す者、対抗単穴クラスと予想する者、完全に切る者と様々であったが、それでも注目は集まり2.0倍の1番人気となった。
なお、開成山特別の売り上げは最終的に前年比の195.6%と大幅に増加した。当日も歴史的名馬と評されるクラスの馬がローカル競馬場のレースに出走する事は一生に一度あるかどうかの出来事の為、現地ファンも集まり、入場者数は前年比で138.3%と大幅に増加、パドックには重賞並みの人だかりが出来た。
レースは抜群の出を見せたが他に行きたがる馬の後ろにさっと入り4番手を追走する。1週目の3角4角を回り最初の直線では観客からの拍手に迎えられながら(このような事は障害競走では割と見られるものの、平地競走では長距離GIですらめったに起こらない。ましてやローカル競馬場の重賞もない土曜日に行われるメインですらない古馬500万下のレースでは前代未聞である)淡々と進んでいった。
3コーナー手前辺りのレースが動き始める頃、オジュウチョウサンも進出していき先頭に立つとそのままゴール板まで問答無用で駆け抜けた。ゴール後も「ここで止まれとかふざけてるんですか?まだあと1kmあるでしょ?」とでも言ってるかのように勢いが止まらなかった。
全レース終了後に開かれたインタビューにてオーナーの長山氏より、同年残りは障害競走には出走せず、暮れのレースも中山大障害ではなく有馬記念を目指したいという宣言がなされた。
但しこの時点では平地獲得賞金的には未勝利戦を1つだけ勝った後に勝利があげられないまま古馬になった馬と差は無く、殆どの特別レースで競走除外となりうる為、有馬記念のファン投票にワンチャンを期待するか、フルゲートにならなそうな高額レースを効率よく選んで勝ち上がり賞金を稼ぐか、収得賞金上位馬が有馬記念を回避するのに期待する(過去にも収得賞金が自身より上位の馬が回避したために1000万下で有馬記念に出走したレゴラスという馬がいる)しかない。
この開成山特別に出走した一連の決定が第5の転機であるが、連勝していたからこそのファンの支持票であって惨敗をすれば一気に票が逃げる可能性もあり、いばらの道であるかもしれない(もちろん、大竹柵障害や大生垣障害に比べたら楽勝!と軽く飛び越えてしまうかもしれない、障害馬だけに)。
実は3戦目の前にフランスギャロからパリロンシャン競馬場で行われる芝4000mの長距離G1カドラン賞への出走オファーがオーナーのもとに届いていた。
これはオジュウチョウサンという馬をGIに挑戦するに値する馬であると評価しているという意味でも大変名誉なことではあったし、前走鞍上の武豊は同週日曜に行われる凱旋門賞へ挑戦するクリンチャーに騎乗する為に渡仏する予定でもあった為、鞍上の都合にも合致していたが、同年の目標は有馬記念制覇であった為にオファーに対してお祈りお断りをする形となった。
なおレースはコールザウインドという馬が勝利。タイムは4分24秒41で、タイムの計測の仕方が国によって異なる為に単純比較はできないが、前年暮の中山大障害(4100m)のタイムから11秒7しか変わらず、もしかしたら…?と思わせる結果ではあった。
3戦目は中山芝2500mの予行演習として1000万下の九十九里特別を予定していたが、直前に脚部不安が出たために回避、11月に東京競馬場で行われる同じく1000万下の南武特別へ出走する事となった。
南武特別の同週日曜にはGIIのアルゼンチン共和国杯もあり、開成山特別を勝った直後には秋は同レースへ出走か?という声もあったが、九十九里特別を回避した結果平地では「500万下特別競走で2着との着差0.5秒で勝つ程度の馬」という実績しかなく、ハンデキャップレースである同重賞に参戦するとなると最軽量の49㎏となる可能性が濃厚で武豊にとって非常に厳しい重量である事と、また同年は本来は地方競馬の各競馬場で持ち回り開催としていたJBC競走がより知名度を高める目的で京都競馬場で開催される事もあって、ダートにも何頭か重賞級の持ち馬がある武豊が関東にいる可能性が無い事も予想されたためか、こちらへの登録は無かった。
前日売りでは1番人気だったが、前走が直線の短い福島競馬場で馬場が渋ってた為にタイムの無い馬でも勝てたという評価で東京競馬場の良馬場の長い直線でタイムが出せるのかを疑問視され、レース直前では両親併せて12冠の超良血馬ジナンボー、1000万下で2着を繰り返し勝利間近と見られていたブラックプラチナムに次ぐ3番人気となる。
レースはブラックプラチナムが好スタートを切るもオジュウチョウサンもそれに劣らないスタートを切り、同じく好スタートを切ったグリントオブライトの2番手に付け、それを見るように3番手ジナンボー、4番手トラストケンシンという隊列でレースが進む。
だが逃げていたグリントオブライトが1000m63秒台という非常にスローなペースに持ち込んだために1番人気のジナンボーは掛かってしまい、向こう正面で先頭に並びかける展開となってしまう。この辺は流石と言うべきか、障害レースでこれよりもスローなペースも経験していたオジュウチョウサンはそれに慌てる事なく、前の2頭を見ながら4馬身差くらいの3番手でレースを続け、3角辺りから徐々に進出。
4角回って坂の下からスパートを掛けると前の2頭を捲り、外から伸びてきたブラックプラチナムを半馬身差抑えてゴール板を2分25秒0、上がり3F34秒5で駆け抜け、直線勝負のコースでも使える脚を備えている事を証明してみせた。
これで11連勝し中央競馬の連勝記録を更新、国営競馬時代の記録に並んだ 。
4戦目はオジュウチョウサンが平地競走への挑戦を目指す切欠となったレースでもあるGIの有馬記念。
特別登録が開始される時点では平地成績が500万下特別+1000万下特別の2勝しかなく、1600万下クラス最低クラスの収得賞金しかない同馬にはファン投票による出走権獲得しかほぼ道がない状態であったが、先の2戦の勝利からも競馬ファンの注目が集まり、なんと10万票の大台を超える100382票を獲得し、古馬牡馬の王者として評価を集めていた秋の天皇賞馬レイデオロ、牝馬三冠にしてジャパンカップを世界レコードで駆け抜けたアーモンドアイに次ぐ堂々3位の支持を受け出走権を得た。
グランプリレースである同レースには一流馬が集う為、名手武豊の持ち馬とされる馬も多数出走する事が予想され、オジュウチョウサンに乗るのかという問題もあったが(事実、2016年のダービー馬であるマカヒキ、2018年に凱旋門賞に挑戦したクリンチャー、牝馬でありながら2017年のGII京都大賞典を勝ったスマートレイアーも登録してきた)、武豊はオジュウチョウサンの騎乗を承諾した。
下馬評では「GIに出るようなトップレベルのスピードなど無いし大差で最下位」「先行すらできる訳もなく後方追走」等と散々な言われ様であり、競馬情報誌の予想でも全くの無印となっている物が少なくなかった。
それでもファンは「勝ち負けを気にしているのではない、応援をしたいんだ」という事で前日売りでの単勝は2番人気、レース直前でも5番人気の支持を受けた(もちろんこれは単勝・複勝の人気であって、勝負をする馬券である連勝式では、例えば3連単では1番人気のレイデオロ→2番人気のキセキ→5番人気のオジュウチョウサンでの127.9倍がオジュウチョウサンの絡む馬券の中で最もオッズの低い組み合わせであったが)。
レースは好スタートを切ったオジュウチョウサンが一瞬ハナを切り大歓声、すぐに外からキセキが前を主張し1~2馬身前を行き、先行しても控えてもレースができるミッキーロケットがオジュウチョウサンと並ぶように前に行き3頭で先団を形成し淡々とレースが進んだ(ちなみに100mから700mまでの3Fは11秒台が続いたが、平地転向してからの2戦も2F目で11秒台のラップとなるようなレースを経験している為にその程度のスピードが無い訳ではなく、またこの頃のオジュウチョウサンは競馬ゲーム的に言えば「ロケットスタート」スキル持ちかのようにスタートが上手くなっていた為に、よほど穿った見方でもしない限り最内枠の同馬が先行できないという分析は逆に難しい状態であった)。そして迎えた2度目の第4コーナー、後続が迫る中でオジュウチョウサンは「流石にもう脚が残ってないだろう」と誰もが思ったであろう瞬間に一瞬だけ脚を使い、ここでも大歓声が沸いた。
だが当日は馬場が大分痛んできており内ラチ沿いを走る先行馬よりも外枠の差し追い込みの馬が連対するレースが続いてきていた事、またレース前に良馬場から稍重馬場に状態が変わり、思われているよりも重適正が無いオジュウチョウサンにとっては脚を取られながら進んでいた事もあって、外側を走っていた差し追い込み勢が3着までを独占、3歳牡馬のブラストワンピースが勝利し、1番人気のレイデオロが2着、また一時は引退を表明していたが撤回したシュヴァルグランが前年に引き続いての3着となり、逃げ先行勢ではミッキーロケット4着、キセキ5着となり、オジュウチョウサンは9着と敗れた。
残念ながら連勝記録はここで途絶えてしまったが、それでも下馬評の「レースなどさせてもらえず大差負け」という評価を覆し勝馬から0.8秒差で駆け抜けた事から、同馬には十分にオープン級で勝負ができる実力があった事を証明してみせた。
また4コーナーを抜けて最後に脚が残っていた事を「魅せた」その雄姿に対し、鞍上の武豊からの「メンタルの強い馬で直線を向くところでは一瞬“おっ”と思いました」というコメント、競馬ファンからの「よく頑張った」という声が示すように、誰の心にもその姿が焼き付いたことであろう。
同年の成績は3-0-0-1、うち平地が2-0-0-1で障害が1-0-0-0という成績で終えた。同馬が2018年の日本競馬界を盛り上げた1頭であった事を讃えられ、2年連続2度目の東京競馬記者クラブ賞特別賞を受賞した。また同年の中山グランドジャンプでの見事な勝利を評価され、3年連続3度目の最優秀障害馬に選出された。
但し同年は障害戦は中山グランドジャンプの1戦しかしなかった為、得票は276人中228票であった。これでもたった1戦の勝利での評価としては凄い得票であるが、おそらく最大のライバルであったアップトゥデイトが中山大障害を勝利で飾れなかった事、同レースを勝利したニホンピロバロンも同年度成績がこの1勝しかなく、同じJ・GIの1勝馬同士だと春の印象が強すぎて評価の逆転がなかった事が大きかったものと思われる。
8歳(2019年)
同年の初戦は主戦騎手の石神を再び鞍上に阪神スプリングジャンプ(J・GII)。
平地重賞のダイヤモンドステークス(GIII)への参戦計画もあったという情報も流れたが、馬の状態を考えたことと「二刀流」は続けるという方針からこの選択となった。
久しぶりの障害を不安視する声もあったが単勝人気は1.1倍という圧倒的な支持を受け、開成山特別以来の1番人気となった。
レースはメイショウヒカルの好スタートを横目にまずまずのスタートを決め、その後ハナを切った2番人気で前走中山大障害2着馬のタイセイドリーム、それに競り掛ける中山新春ジャンプステークスを石神で勝利したシークレットパスを前に見つつ3~4番手を追走する展開となる。昨年までと違って障害ごとにスピードを緩めながら慎重に飛んでいるようにみえる飛越を続け、またタイミングが合わなかったのか若干つまづいているかのような着地を見せるシーンもあったが、順方向への周回になって最後の3コーナー辺りで逃げるタイセイドリームに競り掛け、最後の障害を飛越してから勢いを付けると一気に加速、最後は余力を見せつつ2・1/2馬身差の完勝。
先行してからの圧倒的な平地力の差で勝利するオジュウチョウサンの勝ちパターンは健在であった。
2戦目は中山グランドジャンプ(J・GI)。
前走勝利の直後は天皇賞(春)とどちらを選択するか未定であったが、その後春は中山グランドジャンプの後にファン投票次第だが宝塚を走れれば、というプランに決まった。
なおこのレースでは好敵手のアップトゥデイトが故障のため休養に入っており、また次代の障害エースとの声も挙がっていた5歳馬のトラストも前走の後に故障が見つかり秋までの休養となったため一強ムードが加速し、前日売りでは発売開始から数分間「オジュウチョウサン単勝1.0倍、他999.9倍」というオッズがネットで話題になったりもした。当日もさほどオッズが上がる事もなく1.1倍の圧倒的1番人気となった。
レースはばらばらとしたスタートとなり、オジュウチョウサンもそこまで良いスタートという程でもなかったが、テンの脚は健在でさっと番手に付ける展開となった。大きく逃げる馬がいない為に道中ではオジュウチョウサンが先頭に立つような場面も見られ、先頭グループがやや固まった状態で2度目の襷コースを過ぎる辺りまでは先頭が入れ替わり立ち代わり進んだ。
向こう正面から3コーナー辺りでシンギングダンサーが外から先団に競り掛けてきたのを合図にオジュウチョウサンも前へ出るが、この時点でオジュウチョウサンは殆ど仕掛けておらず馬なりに並走、その後4コーナーを回り最後の置き障害ではほぼ同時の飛越だったがその後の直線だけで競っていたシンギングダンサーを置き去りにし、2馬身半の差で勝利を飾った。この勝利で中山グランドジャンプ4連覇 となった。
タイムは4分47秒6と去年のタイムから見たら地味なものだったが、道中で色んな馬に競り掛けられつつもきっちり勝ちきる姿に「まるで百人組手をしているみたいだった」という声も見られたりと、王者の強さを見せつける結果となった。この勝利により自身の様々な記録を更新したと同時に鞍上の石神騎手もJ・GI連勝記録を7とした。
3戦目に予定していた宝塚記念、前年の平地競走挑戦とは異なり鞍上を主戦の石神でという計画で進められていた。
ファン投票では第2回の中間発表で2万6000票を超え同時点で8位と出走権取得はほぼ確実であったが、体調が整っていないとしてファン投票最終結果の発表前に出走取りやめを決定、同日和田牧場に放牧となった。
ここ数年は年に4~5戦しかできない事が続いており、障害GIを激走する事の反動の大きさもあったものと思われる。
3戦目は東京競馬場の芝2400m平地戦、六社S(3勝クラス)で、鞍上は引き続き石神騎手が手綱をとる事となった。
準オープン戦とは言え昨年度の有馬記念では並み居る重賞馬に先着した事もあって前日で2倍台のオッズを付け、最終オッズでも3.4倍の1番人気だったが、連勝式馬券での1番人気はどうやら単勝2番人気であったアフリカンゴールドとなっていた。
このあたりは「そうは言ってももう8歳馬、それに開幕週で良馬場の府中は上がりの切れ味勝負になりやすく、そのような競馬の経験がないオジュウチョウサンには厳しいに違いない、応援はするけど馬券は別」「石神騎手は障害では名手の域かもしれないが平地はもう何年も勝っていない」という心理が働いたものと思われる。
レースはベイビーステップが逃げ、それをオジュウチョウサンが半馬身~1馬身差つけて追う展開となったが、ベイビーステップは押し出されたからハナを切っただけで思い切って逃げるタイプではなく、石神騎手も多少競り掛けてもっと前に出るよう促すも1000mを62.7とゆっくりしたペースで進んでしまう。切れ味勝負となると厳しいオジュウチョウサンにとって非常に苦しい展開に。3コーナー辺りで仕掛けるものの後続馬も徐々に進出する仕掛けどころであり、4コーナーを回った辺りで先頭には並んだものの後続に飲まれての10着という厳しい結果に終わった。
ここを快勝するようなら平地重賞を取って今年も有馬へという構想もあったものと思われるが、馬齢的にもこれ以上の伸びしろを期待するのは厳しいという意見が見られた。
4戦目は東京競馬場の芝2500mのハンデ重賞アルゼンチン共和国杯(GII)。
鞍上は思い切った逃げができる騎手をという事で松岡正海騎手へと乗り替わりになったが、これは前走の大敗の原因について、レースを引っ張り後続がなし崩し的に脚を使わされる展開とする事が出来ていたなら…という思いがオーナーにあり、逃げが出来る騎手に変更する事に決めたという記事も見られた。
ともあれ前走の大敗により斤量が53kgとメンバー中2番目に軽くなり、単勝も13頭中の7番人気と大きく人気を落とす事となった。レースはオジュウチョウサンがスタートを卒なく決め、オーダー通りに逃げた。だがレース後に関係者コメントとしても述べられたように、前に馬がいないとそこまで闘志を見せないのか、テン4Fのラップも過去10年と比べて極端に早くなる事もなく進み、向こう正面でもあまり行く気を見せず1馬身から3/4馬身程度のリードで逃げる展開となる。残り1000mくらいで後続も迫って来始め、直線を向いた時にやや外に膨れた隙を見て内から伸びた2番人気のムイトオブリガードや5番人気のタイセイトレイル、外からも1番人気のアフリカンゴールド等の後続馬が一斉に上がり、オジュウチョウサンは馬群に沈んだ。
意図して上がり勝負となるレースにしたつもりは無かったが、終わってみれば掲示板に載った馬はみな上がり3Fを33秒台で駆け抜ける、直線の長い東京コースにありがちな上がり勝負のレースとなってしまい、オジュウチョウサンは12着と再び惨敗する事となった。
この大敗を受け、去就についてはすぐには決めず、馬の状態とオーナーの判断で決める事になったが、レース後の疲労も見られず調子が維持できている事もあってステイヤーズSに参戦する事となった。
5戦目中山競馬場の芝3600m戦のステイヤーズステークス(GII)。
東京競馬場に比べて直線が短い中山競馬場は先行馬である同馬にとって有利なコースである事、その先行馬にとって好枠な1枠1番を得た事、日本競馬の平地最長距離戦という事もあって中距離馬の紛れも少なくスタミナで不安視されない同馬にとって最もチャンスがある重賞だと思われた事、一緒に走る馬で近走で好成績を挙げた馬がいない事(ただし同レースは距離の特殊性もあって普段の成績とは関係なく勝つ馬がいるリピーターレースとしても認知されてはいるが)、などもあって4番人気に押された。
レースは好スタートを見せるが、一気に前に出たレイホーロマンスにハナを譲り2番手を追走する。だが単騎で逃げていたレイホーロマンスも最初の4コーナーで徐々に下がって来て馬群に飲まれ、2週目のホームストレッチでは前に出てきたエイシンクリックとネイチャーレットが入れ替わる形となる。オジュウチョウサンはこれを見ながらの3番手を追走し2週目3コーナー手前で徐々に進出、ネイチャーレットを捲ってエイシンクリックに並び掛ける。この勢いに前年の中山グランドジャンプを重ね合わせ、もしかしたら直線で抜け出し勝つのかもしれないという期待を見せたファンも多かったのかもしれない、スタンドから大歓声が上がり、否応なくテンションが上がった。だが4コーナーをエイシンクリックと並走する形で抜けて最後の直線、残り200m辺りで後ろから来たモンドインテロに捲られた辺りで脚を使い切ったか先頭から脱落、6着に終わった。
だが同年に走ったどの平地レースよりも盛り上がりを見せ、普段は辛口なネット民からも勝てなかったけどよくやったの称賛の声が見られた。
同年の成績は2-0-0-3(うち障害は2-0-0-0)、春季の障害戦では相変わらずパーフェクトな成績ではあったが、その後の平地での惨敗続きがあまり印象を良くできなかったのか、それとも暮れの中山大障害を勝ったシングンマイケルが他に重賞2勝を挙げていて成績的に優ったと判断されたためか、同年の最優秀障害馬での得票を175対95と大きく差を付けられての2位となり受賞を逃す事となった。
だが障害での絶対的な評価を逃すこととなっても平地への挑戦をする決意表明は既に前年に行っており、いつかは訪れる結果であったのかもしれない。
春には障害戦から復帰するという陣営からのコメントもあり、国内では前人未到(前馬未到?)で世界でもトップタイとなる同一GIの5連覇記録への夢もまだ残っている。
9歳(2020年)
年明けて9歳となった同馬の初戦は前年と同じく阪神スプリングジャンプ(J・GII)、障害戦での主戦騎手である石神騎手との最強コンビで挑む事となった。
前年の障害復帰初戦でも不安定な飛越があり馬齢での衰えは隠せないという不安材料を囁く者もいた一方で、やはり絶対王者である事や前年末のステイヤーズステークスで見せた平地力は本物であろうという評価から1.7倍の1番人気となり、前年末の中山大障害で優勝し最優秀障害馬に選ばれた2番人気のシングンマイケル、故障で長い休養を余儀なくされた為に充実が遅れるも故障前には次代のエースとも目されていた3番人気のトラストと3強の様相となる。
レースは相変わらずの好スタートを決めるも外から前を主張する馬に先を譲り、道中は4番手辺りで前から少し距離を取った位置で進める。逃げるブライトクォーツは後続に接近されては突き放すを繰り返し、それを追うトラスト、やや離れオジュウチョウサンと同じ位の位置取りを続ける経験豊富なシンキングダンサー、オジュウチョウサンのすぐ後ろで虎視眈々と追走するシングンマイケルという隊列でレースが進む。全てはオジュウチョウサン包囲網のようにも見え、襷コースを抜けた後の向こう正面では一時5番手になり足が鈍ったのかとヒヤッとさせる所もあったが、何も無げに先団との距離を詰め、3コーナーで鞍上がGOのサインを出すと先頭に並びかけ、4コーナーを明け最後の障害で完全に先頭に並ぶと後はため息か震えしか出ないような圧巻の末脚で駆け抜け、2着シングンマイケルに9馬身差をつけるレコード勝ち 、まだまだ衰え知らずな所を見せつけた。
新型コロナウイルスの感染拡大防止で無観客開催となっていた為に静まり返った阪神競馬場も、まるで余りの強さに震撼し言葉が出ないかのような演出にも思える圧勝劇であった。
2戦目は中山グランドジャンプ(J・GI)。
世界記録に並ぶ同一GI競走5連覇の偉業が掛かっていたこのレース、コース上の障害とは別に巨大な障害があった。
一つは新型コロナ、中山競馬場のある千葉県も4月7日に発令された緊急事態宣言の対象自治体であったが、早くから無観客開催を続け競馬場での感染事例が無かった事が説得力となったのか、引き続き無観客での開催を続ける事となった。
また一つの障害はレース当日の天候、前日夜から夕方に掛けて雨風共に大荒れの予報とされ、場合によっては延期ないしは中止の可能性があった。
これらの能力ではどうしようもない障害をクリアし無事出走できる事にも運が必要であったのかもしれない。
当日になり競走の開催自体は確定したものの、前日から振り続けた雨の影響で不良馬場での開催、2001年のグランドナショナルを彷彿とさせるパワーとスタミナを要求される非常にタフな条件となった。
前走で春の最大のライバル達を完全に子供扱いにした事が評価され、最終オッズは1.1倍となった 。
下馬評では「1.1倍付くかどうかだ」と囁かれていた一方で荒天予報の為に何が起こるか分からないとする意見も散見された。
レースはいつものように好スタートを決め、外のメドウラークが前に出るとそれを追走する形をとり、同馬をマークする形で3番人気のメイショウダッサイ、2番人気のシングンマイケルが追走、4番人気のブライトクオーツがそれらをマークするような形でレースが進む。
大竹柵・大生垣を超え(大生垣でセガールフォンテンが転倒し競走中止)淡々と進んだ向正面外回りコースで先頭を走るメドウラークが右前肢跛行を発症しそのまま競走を中止、2番手につけていたオジュウチョウサンが早くも先頭に立つとマークしていた他馬もペースを上げてこれに並びかかろうとするが鞍上の石神は持ったまま、3コーナーで差を広げ、最終ハードルを無事クリアすると2番手にいたメイショウダッサイに差を詰めさせる事なくゴールに駆け込み、中山グランドジャンプ5連覇を達成 。同一重賞5連覇は平地含めJRA初。
タイムは5分2秒9、脱落馬が11頭中3頭も出(シングンマイケルは頚椎関節脱臼で死亡)、同馬自身も何度か脚を取られたかのような動きを見せたような極めて激しいスタミナ勝負であった。事実、5回走った中山グランドジャンプの中でもタイムが5分かかったのは今回だけである(他の回は4分40秒台)。他馬にとっても過酷なのは同様で、2着メイショウダッサイとの着差は3馬身だったが、そこから大差⇒大差⇒8馬身⇒8馬身⇒大差⇒大差という着差が付いていた。
3戦目は京都ジャンプステークス(J・GIII)。
鞍上の石神の落馬によるケガからの復帰を待つ為に同レースを選択。
京都競馬場の改装工事により阪神競馬場で開催された同レース、早くから陣営が宣言していた事もあり出走が6頭となった。人気は80.39%という圧倒的な1番人気を受け、2番人気のタガノエスプレッソが一時は10倍を超えるほどの一本被りを見せた。
レースはいつものようにスタートを決めたオジュウチョウサンを捲るようにタガノエスプレッソとビッグスモーキーが内から進出し3頭でレースを引っ張る展開で淡々と進む。残り800の辺りで先頭に並びかけるも内を行くタガノエスプレッソが抜き返す形でコーナーを回って直線に入り、外に回ったオジュウチョウサンのエンジンが掛かるかと思われたが、3140mという距離は他の馬にとってもロスさえ無ければ走り切れる距離。前で粘るタガノエスプレッソにはむしろ突き放され、内を走るビッグスモーキーも粘り、ビッグスモーキーを捉えたのは道中は後方を進み直線で勢いよく突き抜けたブライトクォーツに差された後となった。
実は最終障害にて脚を強かにぶつけており、直線で全力を出せなかった原因ではという声も出た。高く上にではなく早く前に飛ぶ飛越であった為、以前からSNSなどでは飛越が下手だという指摘もあったが(それでも競走中止が一度もないのだから特別下手な訳ではないが)、今回はいつもより更に低かった為に脚をぶつけてしまったのではないかと見られる。
後日の検査で脚に腫れが見られた為に同年の中山大障害は回避すると表明、同年成績は3戦2勝で終わった。次年度の中山グランドジャンプの6連覇達成を目指して休養の後に飛越の改善をすることとなった。
10歳(2021年)
同年最初のレースは連覇の掛かる中山グランドジャンプ(J・GI)。
前走から間を空けた形となったが馬体は510kg、これまで6戦中5戦でその体重で挑んでおり調整は十分という形で挑んだ本戦、直前まで前年2着で前年度の最優秀障害馬に選出されたメイショウダッサイと1番人気を競う展開になり、最終的には2番人気となる(障害レースで1番人気でないのは2016年の中山グランドジャンプ以来)。
レースはいつものようにスタートを決めた同馬とタガノエスプレッソが入れ替わりながらレースを引っ張る展開となるが、途中大生垣障害を飛越する所で若干失敗したように映り場内で悲鳴が上がる。
すぐ後ろをつけていたスマートアペックスが前に出、1コーナーから2コーナーに掛けて4番手にいたメイショウダッサイと併走、その後追走するような形で向こう正面を迎えるもやはり行き脚が怪しく、レース勘が鈍っていた事もあったのか3コーナーでずるずると6番手まで下がる。
直線に入ってエンジンが掛かり直し1頭差し返しゴールするも1位入線のメイショウダッサイは2.6秒前にゴールを決めた後の5位だった。
かつて絶対王者と言われた馬の、掲示板入着とは言え力無き姿に、ついに新時代到来のように受け取る者も決して少なくなかった。
4月20日になり左前脚の第1指骨の骨折が明らかになり手術。現役続行し、復帰戦は中山大障害前の10 月、東京ハイジャンプ(J・GII)。1年4か月という長期離脱から復帰した8歳馬ラヴアンドポップの3着に付けた。復帰初戦を勝利とはいかなかったものの掲示板確保で無事完走。
次走は4年ぶりの出走となる中山大障害(J・GI)。中山GJでオジュウチョウサンを破ったメイショウダッサイが繋靭帯炎で戦線離脱したものの、東京HJを勝ったラヴアンドポップとの再戦や悲願のJ・GI制覇を目指すタガノエスプレッソらと激突。1番人気はタガノエスプレッソに譲っての2番人気で迎えた。前目外から大生垣で内に入るいつものスタイルで進め、向正面の竹柵障害を飛ぼうかというところで早めに抜け出すと、直線では後続との差がどんどんと開くばかり。最後はブラゾンダムールに3馬身つける横綱相撲で勝利、絶対王者復活と健在をアピールした。10歳での中央競馬のGI級競走の勝利は日本調教馬としては初とのこと[4]。
なお、クロノジェネシスらの引退により、JRA所属の現役競走馬ではGI年間3勝の現役最強馬エフフォーリアや古豪のダービー馬マカヒキ、三冠牝馬デアリングタクトらを抑えて獲得賞金ランキングのトップとなった。
11歳(2022年)
前走の結果を受けて早くも長山オーナーら陣営は11歳の現役続行を表明。「もう10歳だし無事に帰ってきて欲しい」というファンの思いも飛び越えた障害競走のレジェンドは未だに進化を続け、カラジが打ち立てた12歳でのJ・GI制覇に向けて2022年へ突入した。
初戦は阪神スプリングジャンプ(J・GII)。オジュウチョウサンは負担重量62kgで、ほかの馬は60kgであった。序盤はベイビーステップがレースを引っ張ったが出遅れたエイシンクリックが道中どんどんと前に進んでいきそのまま先頭に立ったレース展開。オジュウチョウサンは終始2~4番手あたりを進み最後の直線も2番手で入ったがそこから伸びを欠きそのまま先頭のエイシンクリックの逃げ切り勝ち。3番手のレオビヨンドにも最後抜かれてクビ差の3着となった(レオビヨンドとエイシンクリックの間は1馬身半差)。しかし3着以下は10馬身→10馬身と離れておりまだまだ力があるところは見せた。石神騎手もレース後、最後スタミナが切れてしまったが年齢と負担重量の差が響いたのではないかとコメントした。
2戦目は1年ぶりの優勝がかかった中山グランドジャンプ(J・GI)。序盤は中団にいたが、徐々に上がっていき、3・4コーナー中間で鞭が入ると加速。最後の可動式障害を飛越するとブラゾンダムールとのたたき合い。残り100mで突き放すとそのままゴールへ駆け込み、中山グランドジャンプ6勝目をあげた。3着はマイネルレオーネで、こちらもステイゴールド産駒なので、ディープインパクト産駒のブラゾンダムールをサンドイッチする形になった。この勝利で、史上初の11歳のJRA所属馬による重賞勝利、中央GI9勝を達成した(国際GI9勝自体はアーモンドアイが先に達成している)。更にステイゴールド産駒の連続GI勝利年数も14とし、偉大な祖父サンデーサイレンスに並ぶ1位タイとなった。そしてこの勝利をもってヤマブキオーが1978年に達成して以来、21世紀に入ってからは初となる中央競馬における通算20勝を達成した。
鞍上の石神騎手はこのレースが障害通算1000回目の節目の騎乗及び障害重賞勝利数が1位タイとなり人馬共に喜ばしいレースとなった。
夏の休養を経て、秋初戦は東京ハイジャンプ(J・GII)。先行集団につけたが、向正面2つ目の障害の飛越でのトラブルもあり、最終直線に差し掛かり、最後の障害を飛越したら、鞍上の石神騎手が追うのをやめたこともありずるずる後退。終わってみれば1着から7秒5離された9着に沈んだ。彼が障害競走で掲示板を外したのは、4歳の暮れの中山大障害以来であった。
今後については様子を見ながら12月24日の中山大障害を目指すこととなり、そしてこのレースをもって引退となることが東京ハイジャンプから一夜明けた10月17日に発表された[5]。オーナーが東京ハイジャンプから帰宅するため電車に乗っていると、小学生以下らしき子供が「オジュウなんで負けたんだ!負けるわけないんだ!」と泣いている姿を見て引退を決めたとのこと。おそらく最強のままで引退をしようということなのだろう。同時にオジュウチョウサンを種牡馬入りさせたいという思いも報道された。その後、JRAから中山大障害当日に引退式を行う告知とともに、坂東牧場にて種牡馬入りの予定であると発表された[6]。
そんな中山大障害。平地・障害通算40戦目となるクリスマスイブの一戦を勝てばラストランでJ・GI10勝の大台に乗ることとなる。過去J・GI9勝の実績もあり、単勝2.4倍の1番人気となった。
前を行く3頭を見るような形でレースは始まった。だが、2周目の大障害コースを抜けるころには5番手に下がっていき、ニシノデイジーとビレッジイーグルがつくるペースに追走することも難しいようであった。そうこうしている間にニシノデイジーが仕掛けてきたが、もはや戦う力は残っておらず、6着に沈んだ。しかし11歳の引退レースを無事完走したことにより、障害レースのキャリア中オジュウチョウサンは一度も落馬せずに全レースを完走した事になる。無事是名馬とはこの事であろう。
全レース終了後、引退式が行われた。障害競走を主戦場とする競走馬でJRAの引退式が行われたのはフジノオー(1968年)・グランドマーチス(1976年)・バローネターフ(1980年)の3頭しかおらず、42年ぶり4頭目となった。
そして自分に先着した5頭のうち、彼がJ・GIを制する前に生まれていたのはマイネルレオーネ(10歳)ただ1頭のみ。勝ったニシノデイジーは彼が初めて中山グランドジャンプを制した翌々日、2016年4月18日生まれで、まさに世代交代を象徴するレースとなった。
そして12月27日をもって競走馬登録を抹消、名実ともに引退という大団円を迎えたのであった。
2023年1月10日、2022年JRA賞の発表があった。投票総数288のうち、オジュウチョウサンは138を獲得。137のニシノデイジーを振り切り、2022年最優秀障害馬に選出された(その他は該当なし8、ホッコーメヴィウス5)。これはJRA賞創設以来最小票差での受賞であった。
種牡馬時代
繋養先未定のまま、故郷の坂東牧場へ戻ったオジュウチョウサン。その後、Yogiboヴェルサイユリゾートファームにて繋養されることが発表された。
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https://twitter.com/Versailles_Farm/status/1617425724499197952
当初はオジュウチョウサンが環境に慣れるまでは見学禁止であったが、2023年3月5日より厩舎外からの見学が、3月14日より放牧地での見学が順次可能になった。
引退馬の繋養がメインだが、エタリオウやエンパイアペガサスなどが種牡馬として繋養されているので、種牡馬の繋養実績はある。ただし交配設備はないため、種付けの際にはブリーダーズスタリオンステーションへと向かう。
飛越のスタイル
オジュウチョウサンはしばしば飛越が下手だと語られるがそれは全くのデタラメである。
何より主戦の石神騎手が何度も語っている。例えば2016年に書かれたこの記事では「飛越は初めから上手だった」と語っている。2019年のインタビューではこの馬の強さとして「まず飛越が上手です」と言い、2022年の記事にも飛越が上手と答えておりほぼ一貫して飛越の上手さを褒めたたえている。
ではなぜ飛越が下手だと言われてしまうのか。原因はオジュウチョウサンの独特な飛越の仕方にある。普通馬が障害を越えるときは首を高くする。だがオジュウチョウサンは逆に首を低くして走ったまま飛越をする。時には胴体よりも低く、生垣にも当たりそうになるほど頭を下げるその飛越は他の馬と比べて跳ぶ高さが低く見えてしまい、前脚も映像から見えづらくなる。頭の位置もさほど変わらないので「飛んでいない」と言われるのである。さらに首が下がった状態で着地もするため一見すると着地したときに前へバランスを崩したようにも見える。だがオジュウチョウサンの飛越をよく見て欲しい。生垣障害では脚で生垣を掻き分けていて見づらいかもしれないが障害の高さまでしっかり体を上げている。掻き分けにくい竹柵障害では障害に一切接触せず飛越するといったこともやっている。飛んでないというのは(一部を除いて)決してないのだ。
他の馬と異なるところは他にもある。障害を越えるとき後ろ脚が当たらないように体の方へ引き込む必要があるが、しっかり足を畳むのは難しく普通はある程度障害にぶつかってしまう。だがオジュウチョウサンは体がとても柔らかく、それを生かして深く後ろ脚を折りたたんでいる。それは石神騎手の視界に後ろ脚が映るほどである。これもオジュウチョウサンのスムーズな飛越を支えている。
飛越が上手いことは確かだが、もちろん失敗することもある。だがオジュウチョウサンはそれをリカバリーするほどの体幹を持っている。たとえ躓くことがあったとしても騎手が乗っている土台の部分は全くぶれることが無い。石神騎手曰く「うまく着地できるかどうかは踏み切る前に分かる」とのこと。そういった意味では現役中一度もバランスを崩したことが無いとも言える。
ここまでいろいろ述べてきたが実際のレース映像を見ると現役期間中ある程度飛越の形が変わっていっているのが分かる。
障害初戦となったレースでは調教とは違う騎手が乗った影響もあるのだろうか障害に近いところで飛越をして上手く飛ぶことが出来なかったが、2戦目は打って変わってかなり高めの飛越を見せている。3戦目になるとすでに首を低く下げるいつもの跳び方をし始めており、その後も安定した飛越を見せている。初めての中山大障害でも大竹柵、大生垣ともに無難に飛越しており、4歳の時点ですでに飛越は上手いと言っても過言ではない。
たが2016年、5歳の初戦は耳あてを外した影響かどうかわからないが安定さを欠き、障害を突き破るような飛越さえも見せていた。続く中山グランドジャンプでもその影響が続き、特に大竹柵障害では危ない飛越を見せている。この2戦に限って言えば下手と言われてもしょうがないと言える。だがその後はまた安定さを取り戻し連勝を重ねていった。
ただ5歳以前と違うのはスパートをかけている時などスピードが出ているときの飛越では踏み切りが近くになりがちで飛越が乱れやすいことである。例えば2017年の東京ハイジャンプでは逃げるタマモプラネットに焦ったためか2週目6号障害で前脚で踏み切っており低すぎる飛越となった。同年の中山大障害はさらに顕著で2週目2号障害では飛んでないし4号障害では体を捻って飛越している。
そういったミスがありながらもかなり安定した飛越をしていたが2020年になると踏み切る位置が安定しなくなった。さらに同年の京都ジャンプステークスでは障害の高さより低い飛越を繰り返し、最終障害では脚をぶつける痛いミスを犯している。翌年の中山グランドジャンプでもそれは変わらず大生垣ではかなりゴタついた飛越となるなど衰えが見え始めた。
しかし2021年の後半ではそれまでのスタイルを変え、以前よりも首を上げるような飛越をするようになった。その結果安定した飛越を取り戻した。その変化を受けてからかこの時期あたりから飛越が上手くなったと言われるようになった。
余談
- 障害競走に出走するために北総乗馬クラブにてトレーニングを受けていた時、他の人は「とびきり上手い訳では無い」などと言うなか、同クラブの代表で、乗馬で五輪にも出場経験のある林忠義氏は「将来は大障害を勝つ」と明言していた。
- ステゴ産駒らしく?気性が激しかった。
- 長沼厩務員の肋骨を3本折ったことがある。
- それでも中山グランドジャンプが近いからと痛み止めを飲みサラシを巻いて世話をし続けた。
- 筋肉注射の時、嫌がって暴れたら大変だろうから、鼻ネジ[7]を使って5人がかりで取り掛かった。しかしオジュウチョウサンはひと暴れしただけで全員を吹き飛ばした。
- 怒られるとゴメンという顔をするが5分経つと忘れる。
- レースが近づくと自分で調整をする。
- 頭をすごく下げる特徴的な飛越のせいか、ファンから「飛んでない」と言われる。
- フランスギャロからカドラン賞への出走オファーが来たのは有名な話だが、実はこれ以外にも海外遠征についてのプランがあった。それは障害競走の人気が高いイギリスの最高峰の舞台、チェルトナムフェスティバルにて行われる最高峰のハードル競走、チャンピオンハードル(G1)を目指すというもの。だが、こちらの競走は毎年3月に行われるため、四、五、六連覇のかかっていた中山グランドジャンプと時期的に被ることからあきらめたようだ。
- 現役期間中に走った距離は135,680メートル。これは大阪から名古屋の直線距離139キロメートルに匹敵する。また越えた障害の数は381個。一度も落馬、転倒することなく最後まで跳び切った。
- 放牧地は千葉県の和田牧場。
千葉、和田と聞いてさっと思い浮かぶ方もいるかもしれないが、この牧場のすぐ隣にかのシンボリ牧場が存在する。あの近辺で2頭の”絶対”と評された馬が過ごしていたことになる。
血統表
ステイゴールド 1994 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
ゴールデンサッシュ 1988 栗毛 |
*ディクタス | Sanctus | |
Dronic | |||
ダイナサッシュ | *ノーザンテースト | ||
*ロイヤルサッシュ | |||
シャドウシルエット 2005 鹿毛 FNo.4-i |
*シンボリクリスエス 1999 黒鹿毛 |
Kris S. | Roberto |
Sharp Queen | |||
Tee Kay | Gold Meridian | ||
Tri Argo | |||
ユーワジョイナー 1990 黒鹿毛 |
*ミルジョージ | Mill Reef | |
Miss Charisma | |||
サシマサンダー | *ネヴァービート | ||
シアラ | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Hail to Reason 4×5(9.38%)
関連動画
関連リンク
関連項目
- 競走馬の一覧
- 2014年クラシック世代
- JRAヒーロー列伝
- ステイゴールド
- ステイゴールド産駒
- 石神深一
- 武豊
- 中山グランドジャンプ / 中山大障害 / 有馬記念
- 第140回中山大障害
- アップトゥデイト / ニホンピロバロン
脚注
- *元々「馬主名より」という由来のチョウサンという馬を所持していたが、当馬が2007年毎日王冠をレコードで勝利するなど活躍したことで、彼の名がそのまま冠名になったという経緯がある。
- *なお、あくまでもランキングは国内で獲得した賞金だけしか計上しない点に注意する必要があるが、2022年7月5日時点で、オジュウチョウサンは9億4137万7000円で、タイトルホルダー(2021年菊花賞・2022年天皇賞(春)・宝塚記念など)が7億9311万1000円、エフフォーリア(2021年皐月賞・天皇賞(秋)・有馬記念など)が7億3663万6000円、マカヒキ(2016年東京優駿など)が6億3007万5000円と続く。
- *中山大障害は時代によって条件が色々異なるので単純比較はできない。参考までに当時の中山大障害は別定戦でありシンボリモントルーは斤量が59kgで出走した。オジュウチョウサンは63kgで出ておりその時と比べ4kgも増えている。また障害の大きさも当時より一部変化があり、当時より高さのある障害が2つ、低くなった障害が1つ、幅の増えた障害が1つ、減った障害が1つある
- *外国調教馬ではカラジという事例がある。
- *この時、引退しないという記事が出たりして若干の混乱が起きた。
- *繋養先は坂東牧場としたが、この時点では種牡馬のための繋養先を探していたため、将来的には繋養先を移動する可能性がある事も発表された「障害絶対王者」オジュウチョウサンの種牡馬入り(netkeiba)。
- *鼻をねじる道具。馬は鼻をねじられると癒されるらしい。
親記事
子記事
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兄弟記事
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