産経新聞、未確認の投書で記事 宇治山田商の応援団服装(朝日新聞)
第89回全国高校野球選手権大会に三重代表で出場した宇治山田商の応援団の服装をめぐり、産経新聞大阪本社発行の16日付朝刊に「『戦争想起』投書に過剰反応?甲子園で学ラン封印」とする記事が掲載された。「学ランはもともと海軍の軍服で、戦争を思い起こさせるのは不適切」とする投書が他の学校に届き、県教委の連絡を受けた宇治山田商が、県高校野球連盟と協議して学ランをトレーナーに変更した、とする内容。だが同校や県教委、県高野連は事実関係を否定し、投書の存在も確認されていない。同校は30日、産経新聞に訂正記事の掲載を申し入れた。
産経新聞は「学校関係者への取材に基づいて書いた。捏造(ねつぞう)ではない」としているが、投書の確認や県教委への取材をしなかったことを認めており、実在しない投書をもとにした記事だった可能性が強まっている。
記事では、今年の県大会決勝後、「学ランはもともと海軍の軍服。高校野球という舞台で戦争を思い起こさせるのは不適切だ」と指摘した投書が別の高校に届き、県教委が宇治山田商に連絡。同校と協議した県高野連が「やめておいた方がいいのでは」と助言し、白地に校名の入ったトレーナー姿に改め、日の丸の鉢巻きを取りやめた、などと書かれている。
日本が誇るクオリチーペーパー産経新聞が捏造に基づいた記事を掲載していたのではと疑惑が投げかけられています。まぁ、これとかこれとか、「産経新聞だけが取り上げる」独自色の濃厚な記事を掲載してきた産経新聞です、どうやら産経新聞関係者だけが見ることの出来る特別な情報源をお持ちのようですね。今回も関係者や第三者の触れることのできない独自の情報ルートで取材したのでしょう。
あの9.11同時多発テロの2ヶ月後、ブッシュ大統領はこう言いました「でも、すべてひっくるめて、ローラと私にとっては信じられないほど素晴らしい一年だった」、あるいは北朝鮮によるミサイル実験の直後に麻生外務大臣はこう言いました「金正日に感謝しないといけないな」と。何なのでしょうね、この人達は? 自国が攻撃を受けたり、脅されたりすることが、彼らにとっては好ましいことなのでしょうか?
自分達は脅かされているのだ、と主張したがる人がいます。そして自分達は脅かされている、だからその脅威に立ち向かうために戦わなければならない、主張はそんな風に繋がります。実際のところ本当の願いは「戦う」ことにあるわけですが、「戦う」ためには大義名分が必要です。その大義名分は何かを攻めるためであるよりも何かを守るためである方が望ましい、私欲のため、侵略のために「戦う」のではなく、大切なものを守るために「戦う」と主張した方が名分としては理解を得られるところです。そこで「自分達は脅かされている」必要がある、それを印象づける必要が出てきます。
ブッシュにしてみればテロの脅威が大きければ大きいほど、イスラム諸国と戦う大義名分の価値も高まります。何の脅威もなしに戦争を始めれば非難されますが、アメリカを脅かす脅威から自国を守るためと訴えれば、それを信じる人はブッシュを支持するでしょう。あるいは麻生大臣等にしてみれば北朝鮮の脅威が大きければ大きいほど、強硬路線や平和外交の否定への大義名分も成り立ちやすいわけです。何の脅威もないのに戦争のための準備を進めれば非難されますが、日本を脅かす脅威から自国を守るためと訴えれば、それを信じる人が麻生大臣等を支持する結果に繋がります。
ところがまぁ、そう都合良く「脅威」が転がっているわけでもありません。「俺たちは脅かされているのだ」といくら主張して交戦を呼びかけたところで、「脅威」の提供元がないことには単なる独り相撲、大方の人々からは冷ややかな視線を浴びせられるだけです。ではどうするか、そこで「仮想敵」が生み出されます。そして仮想敵の脅威を根拠として自分達を「守る」ための戦いを呼びかける、わざわざ敵を作ってそれと戦おうとする人々もいるわけです。
脅威があるよりも脅威がない方がよいはずなのですが、ともすると脅威の存在を好ましく思う人もいます。その脅威によって自らの正当性を維持している人にとって脅威はなくてはならないものであり、捏造してでも存在してもらわねばならないものなのです。
そこで産経新聞の場合です。果たして産経新聞にとって、学ランに日の丸はちまきへの抗議は「あって欲しい」ものなのか「ない方がよい」ものなのかどちらなのでしょうか? 産経が選んだのは前者でした。学ランと日の丸はちまきが「『戦争想起』という過剰反応」によって脅かされていると、そう印象づけようとしたわけです。自分達は「過剰反応」によって脅かされ沈黙を強いられる側、「あいつら」は言いがかりをつけて我々の自由を脅かそうとしている、そんな位置づけが狙いだったようで、その意図はある程度までは成功したようでもあります。まぁ、実際には学ランがダメ云々などとはだれも言っていないわけで、嘘がばれては赤っ恥もいいところですが。