「男は仕事、女は家庭」否定と肯定がきっ抗 横浜市の意識調査(神奈川新聞)
横浜市は3日までに、「男女共同参画に関する市民意識調査」の結果をまとめた。「男は仕事、女は家庭を中心にする方がよい」との問いに対し、否定的な考えの割合が前回(2009年度)調査から7・2ポイント増え、33・7%と肯定派の34・0%とほぼ同程度となった。市の担当者は「固定的な性別の役割分担意識の解消が進んだ」と分析。ただ、男性だけの結果では、依然として肯定派が否定派を上回っている。
調査は昨年10月、市内に住む18歳以上の男女5千人(うち外国籍市民100人)に郵送で配布し実施。有効回答率29・2%に当たる1462人から回答を得た。調査はおおよそ5年おきに行っている。
「男は仕事、女は家庭を中心にする方がよい」との考えについて、前回調査では全体で26・5%が否定的な考えで、39・0%が肯定的な考えだった。男女別でみると、否定派は男性で21・4%、女性で30・2%。肯定派は男性46・4%、女性32・5%だった。
今回の調査では、否定派が男性で6・9ポイント、女性で6・8ポイント増え、それぞれ28・3%、37・4%となった。一方、肯定派は男性で3・9ポイント、女性で4・7%減った。結果、全体では否定派が33・7%、肯定派が34・0%とほぼ同じになった。
しかし、男性では前回調査より減ったものの肯定派(42・5%)が否定派(28・3%)を大きく上回っており、依然として男女での意識の差が目立っている。
……ということですが、同様の調査は内閣府によっても行われており、既報であったりします。とりあえず、両者の結果を比べるとどうなのでしょうか。横浜市の場合、「男は仕事、女は家庭を中心にする方がよい」との問いに対し「否定的な考えの割合」が「33・7%」で「肯定派」が「34・0%」なのだそうです。一方、同2014年の内閣府調査によると「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」との項目で「賛成」が44.6%、「反対」が49.4%との結果でした。どちらも賛否は拮抗しているように見えますが、少し違いがありますね。それでは神奈川新聞が報道できていない部分を、突っ込んで眺めてみましょう。
横浜市の場合「男は仕事、女は家庭を中心にする方がよい」という考えについて
「そう思う」が7.1%
「どちらかといえばそう思う」が26.9%
「どちらともいえない」が30.6%
「どちらかといえばそう思わない」が9.4%
「そう思わない」が24.3%
出典:横浜市政策局 男女共同参画に関する市民意識調査(平成26年度実施)
内閣府調査の場合「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考えについて
「賛成」が12.5%
「どちらかといえば賛成」が32.1%
「わからない」が6.0%
「どちらかといえば反対」が33.3%
「反対」が16.1%
出典:内閣府 女性の活躍推進に関する世論調査(平成26年度)
両調査で微妙に文面は異なりますが、賛否が拮抗しているのは内閣府の調査でも横浜市の調査でも同じです。これで同じような結論しか導き出せないのなら、国と自治体が同じことを別々に予算を投じて行っていることになる、これぞ二重行政の弊害云々と批判されかねません。なお神奈川新聞報道によれば「33・7%」と「34・0%」という数値を挙げつつ、「男性だけの結果では、依然として肯定派が否定派を上回っている」とのこと。回答数がわずか1400人程度の調査で0.3%の差なんて誤差の範囲、当初は神奈川新聞の記者が統計の見方を理解していないだけに思えてしまいましたが――同段落で挙げられた数値は男女混合でした。なお男性に限れば高低派が否定派を上回るってのは、言うまでも無く内閣府が公表済の調査結果と同じです。
それはさておき、内閣府の調査では「わからない」と賛否を表明しなかった回答が6%に止まるのに対し、横浜市の場合「どちらともいえない」との回答が30%を上回っているわけです。ここに内閣府――全国規模での調査結果――と横浜市調査との大きな差があるのではないでしょうか。その一方で内閣府調査では「どちらかといえば反対」が33.3%で「反対」が16.1%、横浜市の場合は「どちらかといえばそう思わない」が9.4%が「そう思わない」が24.3%と、一転して明確な反対意見が強いことも分かります。横浜市は全国に比べて、「明確な反対派」と「どっちにも付かない派」が多いのでしょうか。ともあれ「国がやっていることとは別に」地方自治体が調査したのですから、その違いぐらいは分析してくれないと予算の無駄遣いになってしまいますね。
内閣府の平成24年調査では「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考えに賛成する回答が51.6%と過半数に達していました。これは平成21年調査の41.3%からの大幅増で、一時は「妻は家庭」と考える人が増加に転じていたことが分かります。まぁ、何事も希少なものほど価値が上がるわけです。不況のピークともなれば、夫だけの稼ぎで妻子を養えるような甲斐性のある男性を捕まえるのは、女性にとって会社勤めで昇進を重ねること以上に難しいことなのではないでしょうか。キャリアウーマンになるよりも専業主婦になることの方が難しければ、野心的であるからこそ家庭志向の強い女性が増えたとしても不思議ではありません。
こういうのは景気によって左右されるところも大きいと思います。景気が良ければ会社勤めに価値を見出す人も増えますし、逆に景気が悪ければ「働いたら負け」ですから。内閣府の調査によると、女性は家庭云々に反対する理由として「妻が働いて能力を発揮した方が,個人や社会にとって良いと思うから」と回答した人の割合は大都市で高くなっているそうです。田舎と都会とでも、傾向の違いは現れるものなのでしょう。内閣府(全国)の調査と、横浜市という全国平均よりも格段に規模の大きい自治体とでは当然ながら違いも現れるはず、そこを調査してこそ意味のある調査と思えますが――どうにも横浜市は国と同じことを自治体がバラバラにやっただけみたいな印象を拭えませんね。
年代別、地域別あるいは性別による違いも興味深いところではありますけれど、既婚者と未婚者の違いとかも私は気になります。よくネット上でミソジニーをむき出しにしている人を見かけるところ、そうした人は軒並み「女も働け」的な立場で、良くも悪くも「女性は家庭」という価値観には明確に反対しているわけです。でも、そういう類の人が「妻」を持つ可能性は低いでしょう。逆に「妻」の就業機会を左右するであろう妻帯者の男性の見解はどうなのか、そこに的を絞った統計があると面白いと思います。女性に縁のなさそうなミソジニストが「女も働け」と「女性は家庭」に反対しても、肝心の妻帯者男性が「女性は家庭」に賛成だったら、単純な両者の合計とは違ったものが導き出されるはずです。
←ノーモア・コイズミ!