書体とは、ある一意の特徴や体系に指向した文字・字体への肉付け、様式などの特徴付け、デザイン(造形)のありさまのことである。文字デザイン。英訳としては「Typeface(タイプフェイス)」がこれを示す単語として現在では用いられている。
歴史的には、書道におけるいわゆる「五体」のような流儀、近代からはレタリング・活字・フォントなどによる文字装飾の種類まで指す。そうした特徴付けの共通する文字の集まったかたまり(フォント)自体を表す場合もある。
また、フォントや活字などのための書体をデザインすることを「書体デザイン」「書体設計」などといい、デザイナーを「書体設計士」と呼ぶ。
概要
書籍の本文を構成する格式ばった文字、筆記具で書かれた細くて丸い手書きの文字、毛筆で書かれた流麗な文字、看板に書かれている奇抜な文字、それに今こうして画面を通して表示されている記事の文章も、構成する文字には何らかの特徴があるだろう。このような、文字を表出させるための様式の決まりごとや属性が書体である。
均等・バラバラ、太い・細いなど、骨組みに対しての特徴付けの全てが「書体」である——人間で言うところの、どのような髪型や衣装で体を飾っているか、というような外観の情報の部分にあたる——という、実に包括的な概念である。
つまり文字はその種類や方法を問わず、「書かれた(あらわされた)その時点」で何か一つの「書体」という属性を持っていることになる。
また実際には装飾だけでなく、縦横比や位置バランスなど、装飾に応じて変化する字体や字形なども含めた観念であるように思われる[1]。
書体はおおまかには、用途・環境ごとに大別されることも多い。言語では日本語のものを「和文書体」「邦文書体」、英語のものを「欧文書体」と呼称するとか、環境の場合は打ち込み文字の書体を「活字書体」「写植書体」などと区分したり、手書きの文字を「手書き書体」と言い分けるなどである(環境ごとの「書体」項を参照されたい)。
その中で装飾の違い、類似する装飾でも細かい書風や流儀の違いに枝分かれしており、多岐の書体が様々な形で存在している訳である。
書体の役割はアニメーションにおける声優の声色のようなものであって、緊張から緩和まで、文面の雰囲気を大きく左右する。書体を活用するユーザーが意識すべき重要な点は、用途に合った適切な書体を選ぶことである。
[コラム]フォント、字体、書風……似た単語との違いは?
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読者は冒頭文を読んで、書体の英語はタイプフェイスではなく「フォント」ではないか?と疑問を持っただろうか。確かに、フォントという言葉は書体と同じ意味合いでしばしば用いられる。
しかしフォントというのは、共通した書体を有する文字がパッケージングされた結集のことを指すのであり、デザインされた文字、特徴付けられた文字といった書体の概念そのものを指すわけではない。
看板や特定のロゴのためにデザインされた文字の特徴などを指す場合も、手書きされた文字の特徴を言う時も、色などの特定の飾り付けのされた文字を言う時も、「フォント」ではなくて「書体」である。
既に少し本文中にも出てきているが、上記で紹介した「フォント」との区別の他にも、文字の造形概念を言い表す単語は「字種」「字体」「字形」「書体」「書風」「活字」「タイポグラフィ」「レタリング」などとあり、混同されることが実に多いのだが、これらも異なる部分を定義している。
ここで、それら周辺にある各単語の細やかな定義についても確認しておこう[2]。
- 「字種」は意味・機能ごとに分けられる文字の種類。細かいデザイン差があっても揺るがない文字の概念そのものであって、同じ意味や読み方として互換性を持つ、例えば「亜」「亞」とか「崎」「﨑」のような異なるが意味の通う文字のバリエーションまでの違いを包有する。
- 「字体」は文字の抽象的な構成のあり方を指し、パーツ配置など書き方が違っても共通する、根幹の「骨組み」として規定される部分。書き方などによってパーツ構成、字形、書体などに違いがあったとしても、同一の文字と認識することのできる、字種に根付く根幹の概念を指す。
- 「字形」は細部の文字のあり方のこと。「戸」の上を点で書いたり、「令」の最後を縦線で書いたり点で書いたり、また新字体・旧字体、繁体字・簡体字などの違いについて言う場合はこちらである。「書体」に影響される書き方の差異についても含む。
- 「書風」とは文字の書きざま、書き振りであって、主に手書き(また毛筆)の文字に言う場合が多い。同一の書き方をもっても、個人の個性や環境などによって変化することのある特徴、個性のこと。これにあたる英語として「Calligraphic style」がある。
- 「活字」は、活版印刷で用いられた文字のこと、それから転じて印刷で繰り返し再現される本文などの文字のことも指すが、文字の中でも特に設計済みの揺るがないものに言うことが多い。本単語の英語とされる「Typeface」は活字における書体のことを指すので、本来なら同単語の翻訳は「活字体」「活字書体」となる。
これらが文字の構成要素や条件の概念を示す一方で、デザインや外見を規定する部分の定義を言い表すのが「書体」ということである。あーもうややこしい!
環境ごとの「書体」
概要にも述べた環境ごとの書体の有りようについて、ここで触れておこう。
フォントや活字の文字、書道の文字など、それぞれの界隈にそれぞれの「書体」の決まりごとがあり、社会の中に複雑に絡み合って併存しているのが実際である。
そうした体系の一部に名前が付けられて、歴史的に現在まで続いているというわけである。
書道 / 手仕事における書体
書き文字や書道などの現場では、一定の様式を定めて伝えるものがある。文字の筆記を安定させ、可読性もしくは能率、記録の性能を向上させる目的で手法が築かれ、現在に至っている。
そうした傾向は様々な国家・言語体系にみられるが、本項では漢字・和字・英字の例をとって紹介する。
五体 ——中国に由来する漢字書体
書道の世界には「五体」という主に中国の各時代に由来した漢字の流儀区分がある。
これらを単に書体ということもあり、大抵の場合は以下の五つを指す。
- 篆書体
- 秦代以前に用いられた書体、特に周末期の「金文体」を起源に中国戦国時代に成立した「小篆」のことを指す。整理された奇妙な骨格や均等な太さ、曲線や丸みを帯びたフォルムが特徴のものであって、主にハンコの印章に今でもみられる。ハンコを彫ることを「篆刻」と呼ぶのはこの名残。
- 隷書体
- 戦国時代から秦代にかけて成立、漢王朝の時代まで盛んに用いられた書体。木簡に書き記す筆記体として発達しており、横長のフォルム、波打つような筆の動きなどを特徴とする。現在の漢字に近い骨格の整理が行われたのはこの頃から。
- 楷書体
- 南北朝から隋・唐の時期にかけて、隷書体と入れ替わる形で成立した書体。一画ごとが繋がることなく完全に区別され、また線や払い、点などがはっきりと書き分けられている。書道における最も基本的な書体の一つで、手書き文字の基本形ともされ、筆記教育の過程で用いられる。
- 行書体
- 隷書の速記に起源を持つといわれる、一部の文字が接続する筆記体である。大きく崩すことはしないのでそれなりに可読性をもつ。ペンなどで手書きしてもこの筆法になりがちで、現代で頻繁に使われているのはこの行書だといえる。
- 草書体
- いわゆる崩し字。行書体と同じく筆記体だが、我流で強い省略などを行うため、可読性に乏しいスピード特化の書体である。日本の伝統的な書物で長らく盛んに用いられたのはこの草書体であって、「連綿体」などに派生して多くの能書を産んだほか、「平仮名」もここから派生し誕生した。
書道における個人由来の書の特徴については、先のコラムで挙げた「書風」で語られる。ただし、それをもとに活字体、フォントなど参照可能な状態にまとめられた場合には「書体」として区別されるようになる、という傾向がある。
江戸文字 ——表示のための書き文字
日本に於いては、江戸期以降に確立した「江戸文字」も知られる。書道における五体が長文を書き表すための書体であるのに対して、宣伝用とか表示用といった特定の用途に特化しているのが特徴で、見出し用なのでいずれも太いという特徴がある。
より装飾要素が強く、五体と違って緻密に書き加えられていくため、書家ではない専門の書き文字職人によって書き下ろされるのが基本である。
- 芝居文字 / 勘亭流
- 歌舞伎の現場で用いられている書体で、番付のポスターや看板、役者の名前を示したりするのに使われている。元々、書家の岡崎屋勘六によって生み出されているのが勘亭流の由来。太い一方で、くねくねと曲がりくねったしなやかで丸みのある線の質が特徴的。
- 寄席文字 / 橘流
- 染め物屋や落語家などの間に成立した、落語の現場におけるコーポレート書体。四角い文字枠いっぱいに埋め尽くすように文字のハネや払いを誇張、右肩上がりに書く。これは「寄席が満席になるように」等の験を担いだものといわれる。中興の祖・橘右近から流派の名がある。
- 相撲字 / 根岸流
- 現在では行司に伝来する、相撲の番付などにおける書き文字。一部の文字の字形や字体を崩しながら、肉太・直線的に書く。他の書体に比べて曲線が少なく、控えめ。流派名は、相撲の番付を担当しスタイルを確立した根岸家の姓から。
- 籠文字
- 千社札という、寺社参拝の記念にかつて貼られた札のために書かれた文字。主に浮世絵師によって書かれていた。「籠字」では文字のアウトラインをとった文字のことをいうので注意。
- 髭文字
- 慶事の際に用いられる、太い上に払いなどに「ヒゲ」という装飾がある筆文字。お酒のパッケージでロゴに使われている例が主流。
- 提灯文字
- 読んで字の如く、提灯に使われている文字。輪郭線を書いてから中を塗り込む筆法を基本とし、提灯における位置によって筆法や書体が変化する特徴がある。
- 角字
- 四角を垂直水平の線で分割して文字を表現する文字。印章などに用いられてきた特性上から篆書の影響を受けており、その他では法被・半纏の袴文字にも用いられる。正方形か、縦が長めの長方形という比率で書かれる。
この頃の書体デザインは、のちの活字体における極太なディスプレイ書体の考えなどに影響を与えている。
カリグラフィー・欧文の書き文字
欧文に於いても、手書きのための文字として一定のスタイルが確立していた。手書きで美しく、かつ情報を効率よく記すためのものだが、東洋と違うのは毛筆でなく羽根ペンや金属ペンなどの専用の付けペンを用いたところであろう。
横書きのために、ある程度共通する何段階かのラインを揃えて書くなど、図形的・規則的なアプローチが体系化されており、のちに活字・フォントのタイプフェイスデザインにも強く影響を残している。
- ブラックレター(ゴシック体)
- 𝕷𝖔𝖗𝖊𝖒 𝕴𝖕𝖘𝖚𝖒
- 「フラクトゥール」「ゴシック・スクリプト」「バスタルダ」といった、縦線が太く横線が細い、縦長の造形をしている特徴的な書体の総称。のちに西洋初の活字体として登用された。ゴシック体というと、西洋ではこちらを指し示す場合が多い。
- この特徴は、紙がまだ高価だった頃に聖書の写本などに確立したものであって、手書きで隙間なく一定の可読性をもって筆記するために開発されたのに起因する。一字ごとの可読性は劣るが、記録用ということで仕方ない面があった。「ニューヨークタイムズ」のロゴなどがこれ。
- スクリプト体
- 𝓛𝓸𝓻𝓮𝓶 𝓘𝓹𝓼𝓾𝓶
- 「クーレ」「ロンド(ラウンド・ハンド)」などのおおよそフォーマルな筆記体、また崩した雰囲気の「インフォーマル」な筆記体に分かれる。カリグラフィとは区別されるが、その技芸の内の一つとしてもみられる。
- 連続する文字が線で繋げて書かれる続け字(連綿体)。斜めに倒れ込むように表現され、フォーマル系は招待状など気品を要する場面で用いられている。
日本におけるその他の例
- 丸文字
- 文字の骨組みを歪ませてでもとにかく丸く表現する、硬筆・ペン字書体の一種。日本に於き、文通文化の盛んであった1970年代から80年代後半にかけて、主に女子中高生といったナウでヤングな若者の間で大・大・大流行。アイドルなどがこの文字を使って記述していたことからも、その隆盛が伺えるものである。詳しくは単語記事も参照。
- ゲバ字
- 1960年代、学生運動の中でガリ版印刷や立て看板、ヘルメットなどでの文字表示のために発達した表示用書体。ツブれず、書きやすく、かつ目立つようにと極度に角ばった四角いパーツで構成され、簡体字や江戸文字のように大胆な字体の省略・改変が行われることもあった。団体によって書風に差異があり、これによって団体を見分けることが出来たという俗説もある。
- 修悦体
- 工事現場の警備員によって、ガムテープの貼り付けで案内を表示するために考案された書体で、強烈な造形が話題を呼んだ。強い個性もさることながら、テープを用いるという工事現場ならではの手法、またそれをまとめた書籍の出版が行われていることなどから、実用例はそれなりに多く、体系化を果たしている。単語記事も参照。
活字 / フォントなどにおける書体
あらかじめ用意された文字を複製する形で繰り返し打ち込んで文章を構成するための、フォント・活字のための書体、いわゆる「活字書体」「活字体」であって、一般的に「フォント」と呼ばれるモノ。
活版印刷機・写真植字機・電子計算機(コンピューター)といった、文字の複製を行って表示する技術媒体のために設計されてきた。書籍として文字表を発売、これを複製させる体裁のものもある。
筆記のためのものとは異なる要件で設計や用意を行う必要がある。統一感を保ち、いかなる形で文字を組んで列を構成しても、違和感のない可読性をもつことが大事であるし、初期の活字時代は、彫刻を行うことから彫りやすい造形であることも求められた。
表現の幅の広がった写真植字以降は、活字専用ではない手書きにおける書体の多くも活字体化されており、デザインを構成する一要素として汎化している側面がある。
ここでは活字のために体系化された代表的なカテゴリを挙げるが、同じ体系の中にも設計士や企業の違いで設計思想の異なるバリエーションが細分化されている。同じ書体区分の中でも、異なる設計であれば異なる書体とみなされることを留意したい。
日本語における活字体
漢字圏における活字の書体区分はある程度共通しているが、各国で微妙に呼称が異なっている場合がある。ここでは日本語のメディアである本サイトの記事として、日本式の呼称で紹介を行う。
- 明朝体
- 縦が太く横が細い、コントラストのある書体。どこか筆のようだが非現実的な、三角形の「ウロコ」などのパーツが特徴。フォーマルな本文、特に縦書きの文章に用いられる。
- 元はと言えば中国の宋時代に盛んに用いられた書体。漢字の多くの典拠となっている「康熙字典」にも用いられている。そうした中国の印刷物を参照しながら、フランス王立印刷所で彫られた漢字の木活字が、現在の明朝体の源流となった。
- ヨーロッパのプロテスタント系の人間が布教のために開発した金属活字を、日本の本木昌造らが参照し改良。肉筆的な仮名書体と混成し、現在に至る。単語記事も参照のこと。
- ゴシック体 / 角ゴシック体
- 四角く一定の太さを持つ線で構成された、装飾性の乏しい書体。ただし全く装飾がつけられないというわけではなく、主に伝統的なゴシック体には始筆に「打ち込み」と呼ばれるアクセントがみられたりする。かつては明朝体の方が優勢であったが、サイン表示、コンピューターやスマートフォンなどの光源表示において視認性があることから、デジタル主流の現代におけるデファクトスタンダードとなっている。単にゴシック体と言う場合、丸ゴシック体のことも含める場合がある。
- 横書きにおいては明朝体よりも可読性が優れるとする説もあって、本文・見出しともに盛んに用いられている。
- 丸ゴシック体
- 線が一定、かつ線の端が丸で構成された書体のことをいい、角ゴシック体よりも更に装飾が抑えられる傾向にある。
- 欧文においてはあまり発達しなかったほか、日本でも活字時代は篆書から発展し作られたデザイン系書体のポジションだったが、それを端緒に写真植字へ継がれ、モダン系書体の草分けである「ナール」を契機に、メジャーな活字体の一つとして地位を確立するに至った。
- 道路標識、工事現場の表示など、サインでの利用に人気。
- 筆書体
- 前の項目で挙げられたような、書道などで発達した伝統書体はまとめて筆書体と分類される。手書きとの違いは、当然ながら文字が場面毎に変化することがあまりないことである。そのため多くは「手書き風書体」などあくまでも「風」であって、手書きによる「本物」とは区別されている。
- デジタル以降は、そのプログラム技術の発展につれ、合字・異体字などの機能を用いて同じ字種に複数の字形バリエーションを用意し、より再現度を高めようと試みる例も増えている(これは特に草書の連綿体を再現したフォントなどに多い)。
- 体系化されたその他の書体
- 活字時代からの一定の歴史を持つために体系化したものとして上記の他では、「宋朝体」「アンチック体」「ファンテール体」「ラテン体(タイポス系書体)」などが挙げられるだろう。
- 宋朝体は中国においてはフォーマルな場面で主流の、右上がりの書体。アンチック体は漫画の本文基本書体としてしられる、主にゴシック体の漢字に仮名で組み合わせられる毛筆系書体。ラテン体は「タイポス」に代表される、明朝体同様の強弱を感じさせるが装飾性の少ない書体。ファンテール体は明朝体と逆に横を太くしたコントラスト書体である。
- これらは日本においては重要な立ち位置とまでは言い難いが、一定の体系化をなし、現在までそれなりに続いている。
- ディスプレイ書体
- 以上に示した一定の体系に属さない書体は、まとめて「ディスプレイ書体」あるいは「デザイン系書体」、古くは「ファンシー書体」「図案文字」などまとめて呼称される。見出し系書体の大抵はこれに属する。
- 本文ではなく短文などに適し、可読性は時に度外視されるのが特徴。ファンテール体や、先述の江戸文字なども、用途としてはここに含まれるだろう。
- また伝統的な造形をある程度有していても、旧態を大きく逸脱した個性を持つ場合には、「その書体の要素を持つ」と前置きしての「デザイン書体」と呼称される場合が多い。
欧文における活字体
日本語の書体区分が若干入り組んでいるのに対し、欧文の書体区分はもう少し平易である。大別された区分の中でも書風の更に細かい分類化が進められており、厳密にはもう少し詳細で説明する専門的な表現が用意されている。
- セリフ体(Serif)
- フランス語で装飾という意味で、文字通り装飾のついた書体を総称する。日本人からは明朝体のようなものという理解がされがちだが、文字に飾りがついているなら、コントラストの有無にかかわらずセリフ体である。
- 有機的な斜めのラインを持ちコントラストの淡い「オールドスタイル」、少しコントラストがあって垂直的な「トランジショナル」、ハイコントラストで幾何学的な「モダン」、セリフや太くコントラストがほぼない「スラブセリフ」という種類がある。
- サンセリフ体(Sans-serif)
- 同じくフランス語で、装飾のない、という意味。線に飾りのない全般を指すが、その中でも、源流で無骨的な力強さを持つ「グロテスク」、より整理された「リアリスト」、手書きの風合いを残した「ヒューマニスト」、記号的な「ジオメトリック」という区分に分けられる。
- スクリプト体(Script)
- 和文における筆書体と同様、手書きにおける筆記体を再現した書体である。
- ディスプレイ書体(Display)
- その他の見出し用途などによるデザイン書体の総称で、「デコラティブ」「ノベルティ」とも。その他の汎用書体よりも限定的な書体が多い。
書体の選びかた
概要において、書体選びが重要であると少し述べていたが、具体的にどう選べばいいのよ、という話になってくるだろう。実際に書体は上記のように区分けしてなお多く、フォント製品としても何千何万と存在しており、その中からバシッと選ぶのは、困難なように思われても無理はない。
実際決まりはないし、感覚やフィーリングで選ぶことにはなるのだが、その中でもある程度のセオリーや指針というものはあるので、ここで書体の構成要素の紹介も兼ねて、選び方を紹介しよう。この項目は特に記事筆者の偏見・持論を含むので、実際に試すなどし、確実な方法を探ってほしい。
ウエイト ——太さを選ぶ
ウエイト(太さ)は書体を構成する最も基本的な要素の一つである。同じ画面の中でも、長く読ませる文章を細くする、強調したい部分を太くする、など用途によって太さを変化させるのがセオリー。
書体が異なることで全く太さの雰囲気が異なる、あるいは近い太さの雰囲気を持っているといったことがあるほか、同じ書体の系列でも、太さが異なるものが用意されたファミリーである場合は少なくないだろう。
基本的なこととして、書体が太くなるほど力強く、細いほどスマートに主張できる傾向があるが、太い文字ほど読める領域は狭まるというデメリットが現れる。
極端に言えば、小さい文字表示に太い書体を採用すれば細部が「潰れ」てしまって読めなくなるし、潰れていなくても、人間の目には太いほど文字というのを判別するのが難しくなってしまう。長文をずっと太い文字で読まされるとツラいものがあるので、高ウエイトは長い文字列であるほど自重を必要とする。
動画など次々切り替わる文字を表示する上では短文の連続であることも多いし、その場合では太いウエイトをバンバン使っても意外と平気であることもあるのだが、そうした条件も含め、伝えたい物事の強弱と環境に合った太さを書体から選ぶとよいだろう。
フトコロ・重心 ——字形(スタイル)を選ぶ
特にゴシック体や明朝体などを選ぶときなどでは、似たような特徴があるので混乱してしまいがちである。そこで字の骨格に着目する。書体には書体ごとに骨組みの特徴が規定されるが、これを言い表す中に「フトコロ」「重心」という概念がある。
文字のパーツの配置を幅に対してどれほど広げるか、その横軸の広さがフトコロである。キュッと引き締まっていれば「フトコロが狭い」、四角に均等に書かれれば「フトコロが広い」と言う。前者が緊張感、後者が優しさをイメージさせる。
そして重心、これが縦軸におけるパーツの配置である。上に寄って詰まるほど「重心が高い」、均等なほど「重心が低い」と言うわけである。前者に高級、後者に庶民的な感じがあると評されることが多い。
そしてここから、オールドスタイル・ニュースタイルという区分を示すことができる。
古典的なものに多い特徴、新しい潮流の書体に多い特徴がそれぞれ分かれたためにこうした区分名がついたのだが、「フトコロが狭く重心が高い、かつ装飾がある」書体がオールドスタイル、「大ぶりで均等、無装飾」の傾向を持つ書体がニュースタイルと呼ばれている。
単純に、普段使いにニュースタイル、気取りたいときにオールドスタイルの傾向を探す……これだけでも書体選びの方向性が決まりやすくなるのではないだろうか。
密度・濃度 ——整理感を選ぶ
フトコロ・重心といったスタイルは、同じ書体区分に属する複数書体から選択する時に役立つが、デザイン書体なども含めて検討したい、ということも多いだろう。
そこで検討するのが整理感である。当然一概には括れないが、大雑把には以下のようなことがある。
- ある程度筆脈が整理され、一つ一つのストローク(点画)が長い、また線が円滑な書体は、密度が高く見え、またキッチリし、格好良さや清廉さなどを演出できる傾向があるだろう。本文書体はもちろん、見出し用途でもこの傾向がある。
- ポップ体など、逆にストロークが短く歯切れの良い書体は、小ぶりだったり、可愛らしい、または元気な印象を受けやすい。ただ、前者よりもこちらの方が可読性を犠牲にすることが多く、より表示用途であることを留意する必要がある。極太の書体も、縦横比のために線として見ると短いためこちらに入る場合が多い。
ほか、一見すると不揃いな書体、完成度が低く見える書体といったものも、活かし方次第で「低クオリティ」ではなく「味わい」に変わったりもする。
活字・手書き、本文・見出し、いずれにおいてもこの選び方はある程度効く。丸みや装飾性などの物差しとともに多重的に検討し、書体選びを進めよう。
書体の探しかた
そもそも書体にどのようなものがあるか把握できていない場合、それを探索するための手段を講じなければならない。
とりあえずここまでに述べた書体の分類や特徴の指針を胸におきつつ、引き出しに入れておく書体探しの旅に出かけよう。
書体見本をみる
ある条件に従って書体の特徴を実際の見本とともに書体をまとめているのが書体見本である。第三者によってまとめられたもの、フォント販売を行なっているタイプファウンドリー自身が公開しているものなどがある。
有料のフォントを販売している会社のものでも、見本は売り込むために無料でネット公開していたりするため、Webサイトをチェックしてみよう。PDF、あるいはサイト自体が書体見本になっていたりもする。様々な書体のデザイン例を眺めることができるし、購入・契約などをしている場合はそれ自体がフォント選びの見本帳となる。
レタリング(書き文字)でも、バリエーションをまとめた書籍などもあるので、用途・探したい傾向に応じては検討しておきたい。
色んな良さげなデザインの資料を集めておく
フォント選びでも、書き文字の書き起こしでも、理想となる文字の印象はある程度は予めイメージしておきたい。引き出しを物理的に持っておくことは重要である。
スクラップブックでもピンタレストでもなんでもいいが、良いと思ったデザインを保存しておけば、この雰囲気にはこういう書体が合う、というような書体の使い所の参考に。
文字装飾、色付け、バランス感なども含めて引き出しにできるところだろう。
実際、使ってみる
いくら他の使用例や見本をみたところで、実際使ってみなければわからないのがやはり常である。
フォントならば入れて打ち込んでみる、手書き系なら自分で書いてみるなど、一度は実際に体験してみるのも重要である。「これはないな」と思っていた書体に、思わぬ発見や相乗効果があるかもしれない。
食わず嫌いにならず、物は試しと書体を当てはめてみてはいかがだろう。
[コラム]デジタルフォント入門としてのフリーフォント
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各社有料フォントはまだハードルが高いが、デジタルフォントを増やしたい。
そんな時、強い味方がフリーフォント、そしてインディーズフォントだ。
時の流れというもので、フォントの開発環境は一般にも広がりつつある。英語はもちろん日本語のフォントでさえ、無料や安価といった条件でも選択肢が増えてきている。
様々な紹介サイトがあるが、ここではいくつかピックアップして紹介しておこう。
- Google Fonts[Web]
- 天下のGoogle社が主宰するフォントサービス。その資本力を背景に、次々とフォントの無料化を進めており、その多くを自由なライセンスの元に無料で利用できる。ウェブフォントとしても引用できるのはうれしい。
- BOOTH[Web]
- pixivの運営するマーケットサイトで、フォントのカテゴリが用意されている。プロフェッショナル・アマチュアを問わず数千件のフォント出品が行われており、様々な価格帯から豊富な書体を探すことができる。
- デザイナーのフォント見本帳「F」[Web]
- Adobe Fontsも含まれるので厳密には全てがフリーではないが、Google Fontsほかいくらかのフリーフォントを強力で美麗なインターフェイスで縦断検索できる。
- (Adobe Fontsもプロユース書体のフォントを多数取り扱い、バリエーションが豊富な上使用だけなら月638円[4]から利用できるので、こちらも検討はしておきたい。)
- ためしがき[Web]
- フリーフォントを包括的に見本表示できるサイト。
- 数はそう多くないが比較的軽量で、試し打ちによい。
- フォントダス[Web]
- フリーフォントを紹介しつつ、サイト作者自身がオリジナルフォントも公開している。
- 豊富な知識によってセレクトされた書体紹介が魅力。
ここでは見本としての機能性を持ち合わせていることを意識してピックアップしたが、「フリーフォント」で検索して出てくる紹介サイトなどは他に多数あり、また個人公開のタイプファウンドリーも意外と多数ある。気が向いたら調べてみるとよい。
関連動画
関連静画
関連項目
脚注
- *先述の衣装の流れに例えるならば、この字体や字形の変化というのは衣服のためにウエストを締めたりシルエットを変化させる、背を高く見せるための衣服が身体の特徴に影響を及ぼすといった身体側を合わせる行為に近い。
- *ここでの各単語の定義は、「広辞苑」「大辞林」「大辞泉」といった各社の辞典と、大熊肇「文字の骨組み」、大町尚友「レタリングエッセンス」、文化庁の公開する「常用漢字表における「字体・書体・字形」等の考え方について」といった資料などにおける定義を参考にしている。特にリンクされている文化庁の資料は無料で誰でも読め、非常にわかりやすい。ぜひ併せて参照されたし。
- *この図案とは現代人向けに説明するとまさに「デザイン」に等しい言葉なのであって、つまり「デザイン文字」と言っている。創意をもって文字を造形することそれ自体は文字の有史以来行われてきたが、定義が確立したのは、海外の異なる体系の文字の流入によって、文字の造形に対する客観視が行われたことにあろう。
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