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コレステロール値を下げる薬のスタチンと組織の再生や修復に用いるナノサイズの構造体を一緒に使うと、視神経を再生・保護する能力が増すことを、米ピッツバーグ大学のグループがマウスの実験で明らかにした。ヒトをはじめとした哺乳類では自然には起きないとされていた視神経の回復につながることを示す成果。将来的には外傷や緑内障などによる失明を防ぐ治療に期待できるという。 マウスの視神経を圧迫して傷つけた(赤星の部分)2週間後の視神経。生理食塩水(Ctr)の注入だけでは軸索は再生しないが(上)、スタチン(Fluv)とナノ構造体(MBV)を注入すると(下)、1.2ミリ程度まで伸びた(ピッツバーグ大学の桑島孝明助教提供) 目で捉えた光の情報は、網膜の神経節細胞から伸びた軸索が集まった視神経を通じて脳に送られる。目に外傷をうけたり緑内障を患ったりすると、神経節細胞の死滅や視神経の損傷が進み、失明に至る。神経細胞は自
ペルーのラ・リベルタ州にある大規模な多国籍企業の農場で、ブルーベリーを収穫する労働者たち。(Photograph by Alessandro Cinque) 8月初め、南米ペルー北部ラ・リベルタ州の海岸沿いの砂丘は、青みがかった紫色の果実で覆われていた。ほんの10年余り前には果実の栽培などできないと考えられていた砂漠が、数週間後にはブルーベリーの収穫期を迎える。この乾燥地帯のおかげで、ペルーは今や世界のブルーベリー市場の最前線に立っている。(参考記事:「糖尿病予防に効果的な果物と摂取方法」) 低木の間を歩きながら、農業エンジニアのアルバロ・エスピノーサ氏は身をかがめ、鈴なりの実に目を見張った。なかには驚くほど大きな粒が混じっている。 「このゲージ(測定用の計器)では測れないくらいです」。いくつかの丸い穴が開いたキーホルダー代わりのゲージを取り出しながら、エスピノーサ氏は言う。一番大きな穴は
日本にしか生息しないこのモモンガが、リスの進化の謎を解く重要な鍵となるかもしれない。 リス科のニホンモモンガ。その生態についてはまだ明らかになっていないことが多いが、最近の研究で春に約2匹、秋に約5匹の子を産むことがわかった。この結果が、リスの進化の過程を解明する鍵になる可能性があると、注目を集めている。 ヒトを含め、哺乳類が1度に産む子の数は「おっぱい(乳頭)の2分の1」という法則がある。今回、森林総合研究所九州支所の主任研究員である鈴木圭さんは、世界中から2363回のリスの出産記録を集め、その比較分析を試みた。すると、プレーリードッグのような地上で暮らす地上性リスは、木の上でも活動するシマリスを除いて乳頭は10個、子はほぼその半数と法則通りだった。一方、木の上で暮らす樹上性リスと、飛膜を使って移動する滑空性リスの「木の上で活動する」グループは、乳頭8個に対して子は約2匹と少なく、法則か
クレメント・クラーク・ムーアの作とされる1823年の詩「クリスマスのまえのばん(別題:サンタクロースがやってきた)」の1893年版に掲載されたイラスト。(Bridgeman/ACI) クリスマスといえば、サンタクロースとプレゼント。しかし、米国人がサンタクロースに夢中になり、プレゼントを贈って楽しむという伝統が生まれた背景には、想像以上に複雑な事情がある。その理由に迫るため、米国ニューヨーク州トロイで発行された1823年12月23日付けのトロイ・センチネル紙に注目してみよう。 この日に掲載されていたのは、バッファローの毛皮や地元産のハチミツの広告、議会の最新情報などだった。しかし、クリスマス気分に浸りたい読者は、3ページ目の「クリスマスのまえのばん(’Twas the night before Christmas)」という言葉に引きつけられたかもしれない。 これはいくつかの節に分かれた短い
光合成によって二酸化炭素を吸収して酸素と糖を作り出す葉緑体は、植物細胞や藻類にはあるが動物細胞や菌類にはない。もし、動物細胞内で葉緑体が光合成するようになれば、細胞を培養する時に外から与える養分を減らせるうえ、呼吸で出る二酸化炭素の排出を削減できる。 東京大学大学院新領域創成科学研究科の松永幸大教授(細胞生物学)によると、植物や藻類から葉緑体を単離し、人工的に動物細胞や菌類に移植する試みは50年以上前からあったが、葉緑体が光合成することはなかった。 動物細胞に移植した葉緑体が働かなかった理由として、まず、身近な植物や藻類から取り出した、外気温や水温で働く葉緑体を用いていたことがある。摂氏20度や10度程度で培養する葉緑体が、ヒトを含めた哺乳類の動物細胞に適した37度程度の環境では光合成を起こさなかった。 そこで松永教授は、イタリアの温泉で見つかった、42度で培養する紅藻のシゾンに目を付け、
新たな研究では、エジプトルーセットオオコウモリ(ネブラスカ州オマハのヘンリードーリー動物園で撮影)の血液を詳しく調べた。(Photography by Joel Sartore, Photo Ark/NPL/Minden Pictures) 寒冷な状況になるとコウモリの赤血球の細胞に劇的な変化が起こり、そのおかげで冬眠を乗り切れているかもしれないことが明らかになった。冬眠中に体温が低い状態になっても、血液の循環はしっかり保つ必要がある。赤血球の変化はそれに影響するが、温度が下がると何が起こるのか、これまで細胞レベルではほとんどわかっていなかった。(参考記事:「【動画】雪の中で冬眠するコウモリ、初報告、日本」) 「人間を冬眠状態に導くという夢が、われわれの原動力です」。学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に2024年10月14日付けで発表された論文の共著者であるドイツ、グライフスバル
米国カリフォルニア州のベニスビーチでスケートボードをする女性。1人でもチームでも、運動は心身の健康に良い効果をもたらす。(PHOTOGRAPH BY DINA LITOVSKY, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 趣味を選ぶとき、ただ楽しいだけでなく、自分にとって有益かどうかを考えているだろうか? もし考慮していないのであれば、科学の力を借りてほしい。近年、数え切れないほどの研究によって、さまざまな趣味に体や心にいい効果があることが示されている。 2023年9月に医学誌「Nature Medicine」に掲載された論文では、65歳以上の趣味への関わり方と精神的な幸福をテーマにした5つの調査結果がまとめられている。調査を実施した地域は米国、日本、中国および13のヨーロッパの国々で、4〜8年にわたって9万3000人以上が追跡された。いずれの地域でも、趣味を持つ人は趣味を持たな
鳥インフルエンザは、数十年前から世界の養鶏場で何度も流行してきた。今、このウイルスがヒトからヒトへと感染するようになるのではないかという不安が強まっている。(Photograph By Nir Elias/Reuters/Redux) 米国疾病対策センター(CDC)の12月18日の発表によると、ルイジアナ州で米国初の鳥インフルエンザの重症患者が確認された。患者は裏庭で鳥を飼育していて、病気にかかった鳥や死んだ鳥に接触していたという。また、2024年4月以来、少なくとも鳥インフルエンザの感染が61人で確認されている。そのほとんどが、ニワトリやウシとの濃厚接触によるものだ。 乳牛への感染も確認されている。2024年3月以来、このウイルスは米国の16州の800以上の乳牛群に広がっている。そのうちの500以上がカリフォルニア州で、感染の制御ができない状態にある。12月18日には、カリフォルニア州の
プエルトリコにあるアレシボ天文台に、2020年に崩壊するまで、世界最大級の電波望遠鏡のひとつがあった。この天文台は、はるか遠い宇宙から自然に発生する信号を検出するとともに、人類が初めて地球外知的生命に向けてメッセージを発信した。(Photograph by The University of Central Florida/American Photo Archive/Alamy Stock Photo) 半世紀前の1974年11月16日、人類はちっぽけな地球から、遠く離れた星々の集団に向けて1と0からなるメッセージを送った。それは人類初の意図的な星間通信であり、「宇宙人」に向けた長距離電話だった。送信元はプエルトリコの丘に位置するアレシボ天文台の巨大な電波望遠鏡で、送り先は地球から約2万5000光年離れた「メシエ13(M13)」と呼ばれる星団だ。 この「アレシボ・メッセージ」は、地球外生
ニューロン(赤)のまわりに形成されるアミロイド斑(黄色)を描いたイラスト。アミロイド斑はアルツハイマー病に重要な役割を果たしていると考えられている。2024年には、アルツハイマー病を90%の精度で判定できる血液検査が開発された。(ILLUSTRATION BY THOM LEACH, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 2024年は発見の多いエキサイティングな年だった。人工知能(AI)や計算ツールの飛躍的な進歩が大きな話題となったが、生物学や医学分野の最先端でも多くの興味深い発見があった。(参考記事:「「AI」 人工知能が切り開く科学の未来」) 例えば、科学者たちは年齢とともに成長する心臓弁を移植する方法を知った。また、アルツハイマー病を簡単に検出できる血液検査を開発した。女性が自己免疫疾患にかかりやすい理由についての理解も深まった。2024年の医学において最も注目すべきブレイク
網膜をとらえた走査型電子顕微鏡の着色画像。網膜色素変性症は、目の奥にある網膜と呼ばれる組織層に影響を及ぼす希少な病気だ。網膜の光を感知する部分は、桿体細胞と錐体細胞という光受容体細胞からなる。(Micrograph by Louise Hughes, Science Photo Library) 2019年、エディット・ペルティエ、セバスチャン・ペルティエ夫妻の生活は一変した。4人いる子どもたちのうちの3人が、失明に至る場合もある希少で元に戻らない目の病気を患っていることがわかったのだ。 来たるべき日に備えられるよう、夫妻は子どもたちに、目が見えなくとも自立して生きていくためのスキルを教え始めた。そして、病状が進行する前に「視覚的な記憶を美しいもので満たす」ために、子どもたちを世界を巡る旅に連れ出した。その旅を記録したナショナル ジオグラフィック(TV)の新作ドキュメンタリー「ブリンク~美
2013年の研究によると、ホモ・フロレシエンシスの脳の大きさは、ホモ・サピエンスの3分の1程度だった。(Photograph By Ira Block, Nat Geo Image Collection) はるか昔、インドネシアのフローレス島では、巨大なコウノトリや小型化したゾウに混じって、小さな体を持つ奇妙な人類が暮らしていた。今から20年前、ホモ・フロレシエンシス(フローレス原人)が初めて世に紹介されたとき、この古代の人類の親戚は人々に、まるでファンタジー小説に登場するキャラクターのような印象を与えた。ピーター・ジャクソン監督の映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで当時人気を博していた小さなヒーローにちなんで、彼らはすぐに「ホビット」の愛称で呼ばれるようになった。 しかし、20年間にわたる研究と少なからぬ議論の末、ホモ・フロレシエンシスは、ホビットとは似ても似つかぬ存在だったことが
米ニューヨークで開催されたイベントに集まったヒルソング教会の人々。オーストラリアで創立されたこのメガチャーチは、今や世界最大級の教会となり、27カ国に1100カ所近い集会所を擁している。(Photograph by Andrew White, The New York Times/Redux) 米ネバダ州ヘンダーソンにあるセントラル・キリスト教会では、日曜日朝の礼拝に4850人が集う。スポットライトで照らされた会堂内の黒い壁は、ロックバンドの音楽に合わせて鼓動し、人々は歌い、踊り、手拍子をする。ブロードウェイで最も大きな劇場でさえ、この半分の人数しか収容できない。(参考記事:「ルネサンス期の教会にステレオ効果?」) ステージ横の巨大画面には、大きすぎるバスタブのような洗礼槽に順番に身を浸して、牧師から洗礼を授けられる人々の列が映し出されている。 セントラル教会は、ヘンダーソン以外にも全米各
13日の金曜日にまつわる迷信の起源は、宗教的信条にあるという説がある。ただし、研究のほとんどは、この日がほかの日よりも不吉なわけではないことを示している。(Photograph by Alex Saberi, Nat Geo Image Collection) 13日の金曜日がまたやってきた。2022年には、暦の中で一番恐ろしいこの不吉な日は5月13日の1回だけだった。2023年は2回、1月13日と10月13日。そして2024年は2回、9月13日と12月13日だ。寒い季節の中、この日はさらに震え上がる一日を過ごすことになるかもしれない。 グレゴリオ暦では、400年ごとに同じ日と曜日が繰り返される。時折起きるこの偶然を恐れる理由など何もない。とはいえ、13日の金曜日はかなりの影響力を持ち続けている。(参考記事:「13日の金曜日、起源と現代の迷信」) 迷信を信じない人も影響されている 米シカゴ
以前に撮影された頭にサケを乗せているシャチ。米国ワシントン州沖を泳ぐサザンレジデントの一員だが、今話題の個体ではない。(PHOTOGRAPH BY OCEAN WISE, DFO MARINE MAMMAL LICENSE, MML18) あれは1987年。映画『ビバリーヒルズ・コップ2』とバングルスの曲「エジプシャン」が大ヒットした年だ。そして、米国ワシントン州のピュージェット湾では、シャチが死んだサケを額に乗せて泳ぎ回っていた。 「群れの全体に広まっているようでした」と米ワシントン大学フライデーハーバー研究所の生物学者デボラ・ジャイルズ氏は振り返る。 この行動はKポッドというグループのメスから始まったが、数カ月のうちに、JポッドとLポッドでも「サケの帽子」が流行し、最終的に、南の定住型サザンレジデントを構成する3つのグループのすべてで見られるようになった。71頭から成るサザンレジデント
最新の研究によれば、妊娠中の定期的な運動は、子どもがぜんそくを発症するリスクを大幅に減らす可能性がある。(PHOTOGRAPH BY MACDUFF EVERTON, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 喘鳴(ぜんめい、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と鳴る呼吸音)、息切れ、胸の圧迫感。ぜんそく発作の症状は、特に子どもにとっては怖いものだ。しかし、10月9日付けで医学誌「Med」に発表された最新の研究は、子どもがぜんそくを発症するかどうかに妊婦がある程度の影響力を及ぼせる可能性を示唆している。 フィンランドの研究チームは、妊娠中に少なくとも週3回運動していた女性の子どもは、そうでない女性の子どもに比べて、ぜんそくと診断される可能性がほぼ半分であることを発見した。 「運動が(子どもの)ぜんそくの予防にもなることが初めて示されました」と研究を率いた東フィンランド大学のピルッカ・キル
米アリゾナ州の「オアシス・サンクチュアリ」で働くジーン・ボルドーさんと、コバタンの「サニー」。コバタンは60年生きることもある。(Photograph by Christie Hemm Klok) 米国アリゾナ州セドナに住んでいたルイーザ・ジャスクルスキーさんは、2023年に77歳で亡くなった。心臓病の手術は成功したかに見えたが、そのわずか数日後、睡眠中に息を引き取った。あとに残されたのは、4羽のクジャクバト、3羽のボウシインコ、3羽のヒインコ、つがいのフィンチ、2匹のサバクゴファーガメ、1匹のアゴヒゲトカゲ、そして1匹のアオジタトカゲだった。すべて、ジャスクルスキーさんが飼っていた保護動物だ。(参考記事:「カピバラやアゴヒゲトカゲなど、SNSの人気動物たちの危うい末路」) このような珍しいペットたちは、飼い主が亡くなった後どうなるのだろうか。これは非常に悩ましい問題で、おまけにそれほど珍
10月にはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の脳の完全な地図が初めて完成した。このほか、2024年には多くの科学的な大発見があった。(Micrograph by Dennis Kunkel Microscopy/Science Photo Library) 2024年は激動の年になったが、科学はその間も絶え間なく前進しつづけたおかげで、人類はこの世界について、かつてないほど多くの知識を持っている。では、2024年の科学的な発見の中で、最もスリリングで衝撃的なものは何だろう? 科学的な発見の中には、人類や世界や宇宙に関するパラダイムを転換することが最初からはっきりしているものもあるが、小さな前進にしか見えない発見が、最初に倒れるドミノのように、想像を絶するほど壮大で革新的な発見への道筋を開くことも少なくない。その意味で、あらゆる進歩が注目に値する。 それ
澤田侑那さん(京都大学、理学研究科:研究当時)と佐藤拓哉さん(京都大学、生態学研究センター)らの研究チームは、寄生生物のハリガネムシに行動を操作されたカマキリがアスファルトの道路に引き寄せられるせいで、ハリガネムシとともに死んでいることを解明し、学術誌「PNAS Nexus」に論文を発表しました。ハリガネムシが進化させてきた巧みな行動操作が、人間がつくり出した環境の下で、不利益な結末になっていると言います。今回の発見の「ここがスゴイ!」について、研究者自身に解説していただきます。(編集部) 秋になると、ハラビロカマキリが、川や池の周りのアスファルト道路をふらふらと歩いているのを見かけるようになる(写真1)。こうしたハラビロカマキリはしばしば、車や自転車に轢(ひ)かれたり、人に踏まれたりして死んでいる。そしてその傍らには、何やらひも状のものがのたうち回っていたり、干からびていたりしている(写
ヒスイのモザイクでできた小さな仮面。目と歯にはウミギクガイの殻が使われ、マヤの嵐の神を表している。西暦350年ごろにグアテマラのチョチキタム遺跡に埋葬された王の胸に置かれていた。2024年に話題をさらった考古学的発見の一つだ。(PHOTOGRAPH BY RUBÉN SALGADO ESCUDERO, NATIONAL GEOGRAPHIC) 近頃の最も重要な考古学的発見の多くは、すでに発見されている遺物や遺体に新しい技術を使うことでもたらされている。たとえば、青銅器時代のイングランドで起きた災害の詳細や、古代エジプトのファラオ、ラムセス3世の暗殺計画の犯人などだ。(参考記事:「誰がラムセス3世を殺したのか? ついに解かれた「3000年の謎」」) 2024年の場合も例外ではなく、DNA分析やリモートセンシング技術などの現代的な手法によって、過去の文化や技術、社会構造に関する新たな証拠が明ら
肥満や2型糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬(画像は生産ライン上のオゼンピック)が、アルコール、たばこ、薬物への渇望を減らすのに役立つ可能性を示す科学的証拠が増えつつある。(Photograph by Tom Little, Reuters/Redux) シャノン・ヒンダーバーガーさん(49歳)は、ただ体重をいくらか減らしたいという思いで2022年8月に「GLP-1(グルカゴン様ペプチド―1)受容体作動薬」(以下、GLP-1薬)を使い始めた。そして14カ月間で、実際に体重が30キロ近く減った。ところが、この薬は別の驚くべき効果をもたらした。飲酒の欲求が消え去ったのだ。 「今思えば私は、ストレスに対処するために、軽くアルコールに依存していたのだと思います。仕事から帰るとワインが飲みたくなり、一度にボトルの4分の3を飲み干すというのを週4回繰り返していました」と、米オレゴン州ベンド在住
2024年12月号 写真が記録した2024/復活するノートルダム/素顔のガラガラヘビ/極北に輝く新星たち 恒例企画「写真が記録した1年」では、ナショジオの写真家たちがとらえた傑作写真で2024年の世界を振り返ります。ノートルダム大聖堂の大規模な火災から5年。再開される一般公開の前に、特別に取材を許されたナショジオが再建事業を追いかけました。 特別定価:1,300円(税込) amazon 楽天ブックス
芽キャベツの苦味のもとは、グルコシノレートという物質だ。1990年代、研究者はこの野菜の苦味成分を抑える品種改良方法を見つけた。現代の科学者は、遺伝子操作によって、別の野菜で同じようなことを実現しようとしている。(lucentius-Getty Images) ホリデーシーズンに入り、家族で食卓を囲むとき、たいていの人はお皿にタンパク質や穀類、そして当然、デザートをどんどん盛っていく。しかし野菜にはなかなか手が出ないことが多い。とりわけ、苦味のある野菜、例えばケールやからし菜、芽キャベツ、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜は人気がない。酸味のある果物を敬遠する人もいる。 近年、苦味や辛味のある食べ物を嫌う傾向を受け、農産物の遺伝子を操作して、苦味や辛味の原因となる酵素を抑えようとする研究が進んでいる。その結果、最近では、苦味の少ないからし菜や、甘味の強いパイナップルといった品種が市場に出回
映像作家でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)であるバーティ・グレゴリー氏は、8年にわたって南極でペンギンを撮影してきた。ところが2024年、自らが司会も務めるドキュメンタリー番組を撮影中に、それまでほとんど知られていなかった現象を目にすることになった。 若いコウテイペンギンが一列に並び、高い氷床から地平線に向かって消えてゆく。
オオカバマダラのような渡りをする生き物の本質を捉えるには、写真家も移動しなければならない。 写真家であり、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探究者)でもあるハイメ・ロホ氏は、北米大陸を縦断するオオカバマダラの数世代にわたる壮大な旅を20年近く追い続けている。 ロホ氏は、メキシコのミチョアカン州にあるオオカバマダラ生物圏保護区で、オヤメルモミの木に群がるオオカバマダラと共に寒さに震え、オオカバマダラが米テキサス州やオクラホマ州、カンザス州、アイオワ州、ミネソタ州を北上するときには、共に太陽の暑さにやられた。 青空を背景に木々の間を飛び回るオオカバマダラを捉えたロホ氏の写真は、見る者に畏敬の念を起こさせる。見事な眺めに目をそらせず、空を見上げ続けたときに首が痛くなる感覚を呼び起こすほどだ。この写真は、2024年1月号の特集「旅するチョウを守る」に掲載された。 2024年のべスト動
調査のためにかけられた麻酔から意識を取り戻したメガネグマ。このときは位置情報を追跡する首輪を装着したが、別に4頭にカメラがつけられ、驚きの発見が続々ともたらされた。(PHOTOGRAPH BY THOMAS PESCHAK) 南米に生息する唯一のクマであるメガネグマ(Tremarctos ornatus)にビデオカメラを装着して行動を調べたところ、木の上で交尾をする映像が確認された。これはメガネグマだけでなく、クマ全体で初めての科学的な報告だ。2024年12月4日付けで学術誌「Ecology and Evolution」に論文が発表された。 論文の筆頭著者であるルースメリー・ピルコ・フアルカヤ氏は、オスのメガネグマから回収したカメラをコンピュータに接続したとき、自分がどんな映像を見ることになるのかまるで想像していなかったという。 「1000本以上の動画があったので、ただ適当に選んで再生した
2019年4月の火災の後、考古学者たちは損傷した大聖堂の床下を発掘する許可を得た。掘り出された遺物は数世紀にわたり行方不明になっていたもので、その多くが現在、パリのクリュニー中世美術館で開催されている「石の声を聴く。ノートルダムの中世の彫刻」展で展示されている。開催期間は2025年3月16日まで。(Photograph Courtesy Denis Gliksman, Inrap) 2022年2月、パリのノートルダム大聖堂の再建を始める準備がようやく整った。だがその前に、考古学者に助言を求めなければならなかった。フランスの法律では、古代の遺物や遺跡が見つかる可能性のある土を掘り起こすような建設プロジェクトには、政府の考古学者による介入が義務付けられているからだ。 今回の考古学者たちの仕事は、尖塔(せんとう)の再建に必要な770トンの足場によって貴重な遺物が押しつぶされないようにすることだっ
ある種のものや状況に対して嫌悪感を抱くことは、病原体にさらされにくくする可能性がある。(Photograph KrakenImages/Shutterstock) 子どもがノミだらけの子イヌを拾ってきたり泥だらけの靴で家の中に入ってきたりしたとき、父親は特にとがめないが、母親は慌てて徹底的な除染作業を始める。ホームコメディーの定番パターンだ。この現象には、単なるステレオタイプではない科学的な根拠がある。ヒトを含むいくつかの霊長類において、女性や成体のメスは男性や成体のオスよりも不潔さに敏感であることが、研究によって示されているのだ。 例えば、ハイイロネズミキツネザルやニホンザルのメスは、オスに比べて汚染された食べ物を避ける傾向が強く、ニシローランドゴリラやアヌビスヒヒのメスは皮膚感染症にかかった仲間を避ける傾向がある。 彼女たちはなぜこんなに潔癖なのだろう? 科学者たちは、女性やメスが不潔
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