竹本健治(たけもと けんじ)とは、日本の推理小説家兼漫画家兼アマチュア棋士である。
日本ミステリー四大奇書の一つ『匣の中の失楽』の作者として有名(三大奇書とされる場合もあり、その場合『匣』は入らない。奇書の項目を参照)。同業者を無残な方法で死なせる事でも有名。
筆名は本名。たまに「じけんもとけた」のアナグラムと言われるが偶然である。
概要
1954年兵庫県相生市生まれ。1977年、探偵小説雑誌『幻影城』から『匣の中の失楽』でデビュー。まったくの無名新人でありながら、いきなり連載を持つと言う破格の待遇であった。これは、『匣』の原型である『静かなる祝祭』を中井英夫(あの『虚無への供物』の作者)に見せたところ絶賛され、『幻影城』の編集長であった島崎博への推薦を貰ったことによる。
メタミステリ『匣の中の失楽』は大きく話題を集め竹本は中井の跡を継ぐ存在として期待されたが、次なる大作を上梓する前に『幻影城』が休刊となり、SF雑誌『奇想天外』に活動の場を移し、SF、ファンタジーなど様々なジャンルの作品を手掛ける。一方で少年棋士・牧場智久を主人公としたシリーズなど推理小説からも離れなかった。
そんな中同誌に連載した『ウロボロスの偽書』によって再び注目を集める。これは、実在の推理小説家や業界関係者が実名 (といってもペンネームの場合もあるが)で登場するエッセイ風の小説でありながら、作中で殺人事件が起き小説家たちが事件に巻き込まれるというメタ構造のミステリである。しかもややこしい事に、作中の竹本が作中で書いているという設定の作中作や、登場人物の一人である殺人鬼が竹本のワープロを勝手に操作して混入させたという設定の文章まで現れ、しかも最後には各作中作の世界同士がリンクし始めるというたいへん複雑なメタ構造を取っている。
以降、『ウロボロスの基礎論』『ウロボロスの純正音律』と続刊し、この「ウロボロス三部作」は『匣の中の失楽』と並ぶ竹本の代表作と看做されている。
2016年には48首に及ぶいろは歌を組み込んだ暗号ミステリ『涙香迷宮』を刊行。同年の「このミステリーがすごい!」で1位に輝き、第17回本格ミステリ大賞を受賞するなど高い評価を集め、還暦を超えてなお健在ぶりを示した。またこれにより、品切れとなっていた旧作が2017年より各社から続々と復刊された。
2017年末には20年以上に及んだ『闇に用いる力学』の連載を終え、2021年に1巻目『赤気篇』(1997年刊)の改訂版を含めて『黄禍篇』『青嵐篇』と全3巻同時刊行。300部限定の豪華特装版(お値段なんと3万円)も制作された。
その他
竹本は以前少女漫画家志望だった事もあり、自著に自ら挿絵を入れることもある。また、囲碁の腕は相当なもので文人囲碁大会で優勝を飾り、アマ名人戦に特別出場したこともあるほどである。これらの趣味が合わさり『入神』という囲碁漫画を発表した。また、『ウロボロスの純正音律』では詰め碁が重要なファクターになっており、作中で登場する『崑崙』と題された詰め碁は「八十八目ナカデ」という暫定世界一の記録を持つものらしい。残念ながら囲碁に疎い筆者にはこれがいかに凄いことなのか今一ピンとこないが、作中人物の反応を見るにこれはもうモノスゴイことだと思われる。囲碁に詳しい読者の方がいらっしゃったら是非解説して頂きたい。
『匣の中の失楽』は新本格に強い影響を与え、新本格作家との交流も多い(新本格作家たちとの交流は「ウロボロス三部作」に活かされている)ため、いわゆる新本格作家ではないが、島田荘司や笠井潔と並んでプレ新本格作家として扱われることが多い。ただ新本格第一世代のようなゴリゴリのミステリマニアだったわけではないようで、Twitterではちょくちょくこの世代のミステリマニアなら常識と言われそうな有名作について初読の感想を書いている。
作品リスト(刊行順)
赤太字は2024年1月現在新品で入手可能なもの、青太字は品切れだが電子書籍で読めるもの。
- 匣の中の失楽 (1979年、幻影城→1983年、講談社文庫→1991年、講談社ノベルス→2002年、双葉文庫→2015年、講談社文庫[新装版])
- 囲碁殺人事件 (1980年、CBSソニー出版→1985年、河出文庫→1994年、角川文庫→2004年、創元推理文庫→2017年、講談社文庫)
- 将棋殺人事件 (1981年、CBSソニー出版→1994年、角川文庫→2004年、創元推理文庫→2017年、講談社文庫)
- トランプ殺人事件 (1981年、CBSソニー出版→1994年、角川文庫→2004年、創元推理文庫→2017年、講談社文庫)
- 狂い壁 狂い窓 (1983年、講談社ノベルス→1993年、角川文庫→2007年、講談社ノベルス[復刻版]→2018年、講談社文庫)
- 腐蝕の惑星 (1986年、新潮文庫)
→ 腐蝕 (1994年、角川ホラー文庫[改題])
→ 腐蝕の惑星 (2018年、角川文庫[再改題]) - クー (1987年、講談社ノベルス→2000年、ハルキ文庫)
- パーミリオンのネコ1 殺戮のための超・絶・技・巧 (1988年、トクマノベルズ・ミオ→1992年、徳間文庫→1999年、ハルキ文庫)
- パーミリオンのネコ2 タンブーラの人形つかい (1988年、トクマノベルズ・ミオ→2000年、ハルキ文庫)
- パーミリオンのネコ3 兇殺のミッシング・リング (1989年、トクマノベルズ・ミオ→2000年、ハルキ文庫)
- パーミリオンのネコ4 魔の四面体の悪霊 (1990年、トクマノベルズ・ミオ→2000年、ハルキ文庫)
- カケスはカケスの森 (1990年、徳間書店→1993年、徳間文庫)
- 殺人ライブへようこそ (1991年、トクマノベルズ→1996年、徳間文庫)
- ウロボロスの偽書 (1991年、講談社→1993年、講談社ノベルス→2002年、講談社文庫[上下巻]→2018年、講談社文庫[新装版・上下巻])
- 凶区の爪 (1992年、カッパ・ノベルス→1995年、光文社文庫)
- 定本ゲーム殺人事件 (1992年、ピンポイント) ※2~4の合本
- 妖霧の舌 (1992年、カッパ・ノベルス→1996年、光文社文庫)
- 眠れる森の惨劇 (1993年、カッパ・ノベルス)
→ 緑衣の牙 (1998年、光文社文庫、改題) - 閉じ箱 (1993年、角川書店→1996年、カドカワノベルズ→1997年、角川ホラー文庫→2018年、角川文庫)
- ウロボロスの基礎論 (1995年、講談社→1997年、講談社ノベルス→2018年、講談社文庫[上下巻])
- 闇に用いる力学 赤気篇 (1997年、光文社→2021年、光文社[改訂版])
- 風刃迷宮 (1998年、カッパ・ノベルス→2002年、光文社文庫)
- 入神 (1999年、南雲堂) ※漫画
- 鏡面のクー (2000年、ハルキ文庫)
- フォア・フォーズの素数 (2002年、角川書店→2005年、角川文庫→2018年、角川文庫)
- クレシェンド (2003年、角川書店→2017年、角川文庫)
- 闇のなかの赤い馬 (2004年、講談社ミステリーランド)
- 虹の獄、桜の獄 (2005年、河出書房新社)
- 狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役 (2006年、カッパ・ノベルス→2009年、光文社文庫)
- ウロボロスの純正音律 (2006年、講談社→2010年、講談社ノベルス→2018年、講談社文庫[上下巻])
- キララ、探偵す。 (2007年、文藝春秋→2010年、文春文庫)
- キララ、またも探偵す。 (2008年、文藝春秋)
- せつないいきもの 牧場智久の雑役 (2008年、カッパ・ノベルス→2017年、光文社文庫)
- ツグミはツグミの森 (2009年、講談社→2013年、講談社ノベルス)
- かくも水深き不在 (2012年、新潮社→2017年、新潮文庫)
- 汎虚学研究会 (2012年、講談社ノベルス) ※27を収録
- 涙香迷宮 (2016年、講談社→2018年、講談社文庫)
- しあわせな死の桜 (2017年、講談社)
- 狐火の辻 (2020年、KADOKAWA→2022年、角川文庫)
- これはミステリではない (2020年、講談社)
- 闇に用いる力学 黄禍篇 (2021年、光文社)
- 闇に用いる力学 青嵐篇 (2021年、光文社)
- 話を戻そう (2023年、光文社)
- 瀬越家殺人事件 (2023年、講談社)
関連動画
関連リンク
- @takemootoo - 本人のTwitter
関連項目
親記事
子記事
兄弟記事
- 相沢沙呼
- 青崎有吾
- 青山文平
- 赤川次郎
- アガサ・クリスティ
- 芥川龍之介
- 浅暮三文
- 芦沢央
- 芦辺拓
- 綾辻行人
- 鮎川哲也
- 有川浩
- 有栖川有栖
- 泡坂妻夫
- アーサー・C・クラーク
- 池井戸潤
- 伊坂幸太郎
- 石川博品
- 石田衣良
- 石持浅海
- 伊藤計劃
- 稲見一良
- 乾くるみ
- 井上真偽
- 井上夢人
- 今邑彩
- 今村翔吾
- 今村昌弘
- 岩井志麻子
- 歌野晶午
- 内田幹樹
- 浦賀和宏
- 江戸川乱歩
- エラリー・クイーン
- 円城塔
- 大沢在昌
- 大山誠一郎
- 岡嶋二人
- 小川一水
- 荻原規子
- 奥田英朗
- 小栗虫太郎
- 小野不由美
- 折原一
- 恩田陸
- 海堂尊
- 梶尾真治
- 加納朋子
- 紙城境介
- 川原礫
- 神坂一
- 神林長平
- 貴志祐介
- 北方謙三
- 北村薫
- 北森鴻
- 北山猛邦
- 桐野夏生
- 久住四季
- 倉知淳
- 黒川博行
- 黒田研二
- グレッグ・イーガン
- 古泉迦十
- 甲田学人
- 古処誠二
- 小林泰三
- 小松左京
- 紺野天龍
- 今野敏
- 呉勝浩
- 佐々木譲
- 笹本祐一
- 細音啓
- 佐藤究
- 三田誠
- 時雨沢恵一
- 品川ヒロシ
- 篠田節子
- 島田荘司
- 島本理生
- 斜線堂有紀
- 朱川湊人
- 殊能将之
- 白井智之
- 真藤順丈
- 真保裕一
- ジョージ・オーウェル
- 水野良
- 須賀しのぶ
- 瀬名秀明
- 高木彬光
- 高村薫
- 田中慎弥
- 田中啓文
- 田中芳樹
- 田辺青蛙
- 月村了衛
- 月夜涙
- 辻堂ゆめ
- 辻村深月
- 土屋隆夫
- 都筑道夫
- 恒川光太郎
- 天藤真
- 遠田潤子
- 鳥飼否宇
- 中村文則
- 中山七里
- 仁木悦子
- 西尾維新
- 西澤保彦
- 西村京太郎
- 西村賢太
- 西村寿行
- 似鳥鶏
- 貫井徳郎
- 沼田まほかる
- 野崎まど
- 法月綸太郎
- 長谷敏司
- 羽田圭介
- 初野晴
- 早坂吝
- 林真理子
- はやみねかおる
- 氷川透
- 東川篤哉
- 東野圭吾
- 広瀬正
- ピエール・ルメートル
- 深水黎一郎
- 藤井太洋
- 船戸与一
- 方丈貴恵
- 星新一
- 誉田哲也
- 舞城王太郎
- 牧野修
- 万城目学
- 町井登志夫
- 松本清張
- 円居挽
- 麻耶雄嵩
- 真梨幸子
- 三崎亜記
- 道尾秀介
- 三津田信三
- 皆川博子
- 湊かなえ
- 宮内悠介
- 宮部みゆき
- 森岡浩之
- 森博嗣
- 森見登美彦
- 矢樹純
- 山田風太郎
- 山田正紀
- 山本巧次
- 夕木春央
- 横溝正史
- 横山秀夫
- 米澤穂信
- 詠坂雄二
- 連城三紀彦
- 魯迅
- 若竹七海
▶もっと見る
- 0
- 0pt