国民栄誉賞とは、日本においてスポーツや文化面で著しい功績を残した者に対し、日本の内閣から送られる賞である。
概要
1977年に、通算本塁打数の世界記録を達成した王貞治に対し、当時の福田赳夫内閣が送ったのが最初。当時同じ系統で存在していた「内閣総理大臣顕彰」にはスポーツ選手を対象に含める規定がなく(同顕彰でオリンピックメダリストを表彰したことがある)、また叙勲を行なうには王は若すぎたため、「何とかして王を表彰したい」という考えで創設されたものである。
以後歴代内閣によって継承され、受賞者が出るたびにニュースでも大々的に報道されるが、その一方で「受賞者が政権の人気取りに使われている」「受賞者の選出基準があいまい」といった批判が付きまとう。
実際、国民栄誉賞の受賞規定には「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」というどうとでもとれる文章しか記されておらず、その時々の内閣の都合や、総理大臣の胸先三寸によって決まる感は否めない。宇野内閣、森内閣、麻生内閣、鳩山内閣、菅内閣といった低支持率の短命政権がいずれも受賞者を出している一方で、長期安定政権だった小泉内閣が一人も出していないあたりは、この賞が政権の人気取りに使われている一つの証だろう(ただし、小泉内閣もイチローへの授与を打診しているが固辞された)。
言わば首相の好みで受賞者が決まるため、これまで「何故○○が選ばれない」といった議論がたびたび起こっている。代表的なものは以下の通り。
- 漫画家の長谷川町子が受賞している一方で、多くの大ヒット作を抱える手塚治虫が受賞していない。
- シドニー五輪のマラソンで金メダルを獲得した高橋尚子が受賞したが、同じシドニー五輪の柔道で優勝した田村亮子(バランスを取るためか、彼女には内閣総理大臣顕彰が授与されている)や前人未到の3連覇を果たした野村忠宏、続くアテネ五輪のマラソンで金メダルを獲得した野口みずき、体操で個人・団体併せて金銀計7個のメダルを得た体操の内村航平、アテネ・北京で平泳ぎ100m・200mの2種目連覇を果たした北島康介などは受賞していない。
- ソチ・平昌五輪のフィギュアスケートで連覇を果たした羽生結弦の受賞が取りざたされた時には上記の選手についてだけでなく、23歳というその若さもあって「まだ若すぎる」「五輪連覇で受賞できるのならもう誰でも受賞できるのでは」「国民栄誉賞の価値が落ちた」と議論が噴出した。
- スポーツ選手は明確な記録を達成した際や引退時、文化人は没後に贈られることが多いが、「同じ舞台を2000回やった」という記録で生前に森光子が受賞。
- 長年個人にしか送られてこず、受賞規定にも「者」と規定されていながら、団体のなでしこジャパンが受賞。
- 世界記録や新記録を達成したわけではなく、現場を退いてかなり経つ長嶋茂雄が松井秀喜と同時に受賞。
なお、叩かれるのはあくまで「基準が不明瞭」という一点のみで、受賞した面々はいずれも「国民に敬愛され、社会に希望を与えた」そうそうたる実績の持ち主であることは言うまでもない。
受賞者一覧
年数 | 受賞者 | 職業 | 当時の首相 |
---|---|---|---|
1977 | 王貞治 | プロ野球選手 | 福田赳夫 |
1978 | 古賀政男 | 作曲家 | 福田赳夫 |
1984 | 長谷川一夫 | 俳優 | 中曽根康弘 |
1984 | 植村直己 | 冒険家 | 中曽根康弘 |
1984 | 山下泰裕 | 柔道家 | 中曽根康弘 |
1987 | 衣笠祥雄 | プロ野球選手 | 中曽根康弘 |
1989 | 美空ひばり | 歌手 | 宇野宗佑 |
1989 | 千代の富士 | 力士 | 海部俊樹 |
1992 | 藤山一郎 | 歌手 | 宮澤喜一 |
1992 | 長谷川町子 | 漫画家 | 宮澤喜一 |
1993 | 服部良一 | 作曲家 | 宮澤喜一 |
1996 | 渥美清 | 俳優 | 橋本龍太郎 |
1998 | 吉田正 | 作曲家 | 橋本龍太郎 |
1998 | 黒澤明 | 映画監督 | 小渕恵三 |
2000 | 高橋尚子 | 陸上選手 | 森喜朗 |
2009 | 遠藤実 | 作曲家 | 麻生太郎 |
2009 | 森光子 | 女優 | 麻生太郎 |
2009 | 森繁久彌 | 俳優 | 鳩山由紀夫 |
2011 | なでしこジャパン | サッカーチーム | 菅直人 |
2012 | 吉田沙保里 | レスリング選手 | 野田佳彦 |
2013 | 大鵬 | 力士 | 安倍晋三 |
2013 | 長嶋茂雄 | プロ野球選手 | 安倍晋三 |
2013 | 松井秀喜 | プロ野球選手 | 安倍晋三 |
2016 | 伊調馨 | レスリング選手 | 安倍晋三 |
2018 | 羽生善治 | 将棋棋士 | 安倍晋三 |
2018 | 井山裕太 | 囲碁棋士 | 安倍晋三 |
2018 | 羽生結弦 | フィギュアスケート選手 | 安倍晋三 |
2023 | 国枝慎吾 | 車いすテニス選手 | 岸田文雄 |
この他、プロ野球選手の福本豊、イチロー、大谷翔平、作曲家の古関裕而が受賞を打診されたが断っている。
参考:内閣総理大臣顕彰
単独記事がないので参考までにこちらで触れるが、1966年2月に時の佐藤栄作内閣によって閣議決定された顕彰で、「国家、社会に貢献し顕著な功績のあったものについてこれを顕彰することを目的」としている。この為、スポーツや文化的な面が中心な国民栄誉賞と異なり、国の重要政策や防災・災害救助、道義の高揚、文化・学術面における功績が中心となる。
詳しい受賞者一覧は内閣府のページやWikipediaに譲るが、松代群発地震の対応にあたった旧松代町の関係者やよど号ハイジャック事件の人質救助に当たった山村新治郎運輸政務次官とよど号の乗員、強盗犯の追跡・逮捕に協力したが返り討ちにあって落命した大学生、日本の主要インフラとなる道路や空港、トンネルや橋梁を建造した各種団体等が受賞している。
文化・学術面では日本人初の南極点到達を果たした当時の南極観測隊、宇宙飛行士の毛利衛・向井千秋・土井隆雄・若田光一、将棋の当時の7大タイトルを史上初めて独占した羽生善治や囲碁の7大タイトルを史上初めて独占した井山裕太(この2人は後に羽生が史上初の永世七冠、井山が2度目の7冠達成で2018年に国民栄誉賞を同時受賞することになった)、前人未踏の将棋8大タイトル独占を達成した藤井聡太が受賞。スポーツでの受賞者は前述の田村亮子を始め、東京・メキシコ両五輪重量挙げ連覇の三宅義信、ハンマー投げでアジア大会5連覇の室伏重信、自転車世界選手権スプリント10連覇の中野浩一、全米女子ゴルフツアーで活躍した岡本綾子、日本のサッカー界に貢献したジーコ、幕内最多勝利記録更新&在位100場所達成の魁皇、日本人初のインディ500勝者となった佐藤琢磨などが挙げられる。
関連動画
関連項目
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