経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・底をはう景気

2014年12月28日 | 経済(主なもの)
 少しでも効果があると思うと、どんなに代償が大きくても、やめられないんだね。消費増税も、法人減税も、そして、金融緩和も。穏健な財政さえすれば、痛みも少なく、大きな効果が得られるのだが、どうしても信じられないらしい。経営改善には凡事の徹底が何より大切なのだと説いても、即効を求めて奇手に走り、失敗を繰り返すのと一緒である。

 消費増税は、2014年度をマイナス成長に突き落とす抜群の威力を見せたし、法人減税は、配当を2割増やして設備投資を2%だけ伸ばすという偉大な成果を上げた。金融緩和は、円安と株高で景気を浮揚させたものの、消費税には抗すべくもなく、異次元第二弾を打って、せっかくの原油安メリットを無駄にする立派な貢献をした。

 皆さんは、ため息が出ないだろうか。どうして、増税幅を刻み、投資減税にとどめ、好機を素直に受け取るという、平凡な対処で済ませられないのだろう。犠牲を秤にかけない極端な政策が、成長を妨げ、財政を害し、国民生活を損なっている。その認識すらないのだから、「凡事こそ難しい」で済まぬほど、問題は根深い。

………
 11月の鉱工業生産は、底バイと評価すべきだろう。底が抜けなくて幸いだったと思わねばなるまい。これが良く分かるのが消費財の動きである。鉱工業全体は、投資財の高めの動きに支えられていることに注意が必要だ。通常なら、投資財は、消費財以上に景気変動の影響を受けるので、大きく崩れてもおかしくない。それが振れつつも保たれているのだから、ありがたいことだし、危うくもある。

 その理由は、企業収益の強さだろう。これまでの円安による増益で耐久力はあるし、ようやく輸出も上向きとなって、設備投資を落とさなければならない苦しさはない。また、消費財の落ち込みも、2012年後半のノダ後退のレベルで、何とか踏みとどまっている。加えて、落ち方が急だったことが、早く底入れを迎えることにつながり、先行きに対する不安が募らずに済んだ。

 1997年の時は、鉱工業生産の落ち方は緩やかだったが、消費財の低下が長引くとともに、投資財が急速かつ大幅に低下して、経済構造を大きく変革してしまった。これが今に至るデフレ体質となる。今回は、変わるほどの構造がなかったのかもしれないし、あるいは、前回の金融破綻や通貨危機のような、もう一押しのショックがあれば、同様にスパイラル的崩壊に至っていたのかもしれない。

(図)



………
 消費に関しては、上向きという評価が一般的だが、さて、どうか。11月の家計調査は、季節調整済指数の前月比のプラスが続いたが、今月は消費性向が上がっており、一進一退というところだろう。商業動態も、高めに浮いていた小売業が引き続き低下し、卸売業は悪かった夏場のレベルに逆戻りである。ただ、12月には、一時的にしても、ボーナス増による持ち直しが期待できよう。実際、東大売上指数も上向き傾向にあり、稲田義久先生の超短期予測も今月に入って切り上げて来ている。

 雇用については、11月の労働力調査は、失業率が横バイでも、就業者数の季節調整値が2か月連続で10万人台の減となった。職業紹介状況では、新規求人数の季節調整値は前月比1.2%増である一方、求職が多かったことから、新規倍率は-0.03となった。やはり、雇用も停滞していると見るべきである。注目は、このように勢いを失った状況で、どれだけ所得が伸びるかになる。

 毎月勤労統計を見ると、繰り上がった時期の速報とは言え、実質賃金の前年同月比が-4.3に拡大し、今年の最低値を大きく下回ったのは予想外であった。更に気になるのは、常用雇用が+1.3まで落ちたことである。前年11月が高めだったことを割り引いても、水準が下がっており、これ以上は低くなってほしくないところまで来た。実際、季節調整値で見ると、前月比は、10月の0.0から、とうとう-0.1となった。雇用は減少へと転換したのだ。

………
 こうした中、昨日、政府は3.5兆円規模の経済対策を決定した。前にも書いたように、これでは、前年比で1.5兆円程度の緊縮になる。消費再増税を見送ったから当然という見方もあろうが、なぜ景気でなく財政の観点で規模が決まるのか、問題なしとしない。もっとも、消費のテコ入れをしようにも、アイデアを持ち合わせていないようにも思える。

 本コラムは、もう1年前となる1/12に、消費増税後は底をはう展開になるとし、バラマキの対策をするようになると「予言」した。まったく、そのとおりになったわけである。将来を的確に見通し、対策まで示しておいても、何も変わらない。まあ、それもまた、予想どおりではある。再増税を回避できただけでも、良しとすべきだろう。

 税収や見通しをごまかさず、穏健な財政運営を行い、一時のバラマキとしないで、まじめに所得再分配の政策を樹立するという、ごく当たり前のことをすれば、日本の成長力は解き放たれて行こう。計量不能の「戦略」とは異なり、基本に忠実であることにコストもリスクもない。経済でも「Let it go」は心に響く言葉となるのだ。


(昨日の日経)
 法人税率下げ2.51%、実質減税3500億円。成長戦略・4-9月に配当22%増、設備投資2%増、手元資金70兆円。郵政の初回売却1兆円超。11月鉱工業0.6%低下。介護保険料の軽減拡充。ロシアが市場介入や銀行支援。

(今日の日経)
 経済対策決定、補正は3.1兆円。企業の本音映す内部留保・有形資産9兆円減、現預金21兆円増、長期証券65兆円増・滝田洋一。
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12/25の日経

2014年12月25日 | 今日の日経
 メリー、クリスマス。国に安らぎを、民に喜びを。

 今年は静かな年の瀬だね。消費増税が致命傷にならなくてホント良かったよ。輸出が上向き、原油安もあり、再増税の危険は除かれた。むろん、経済は何が起こるか分からないけれど、まずは、平穏を味わうことにしよう。
 
(今日の日経)
 第三次安倍内閣発足。NY株最高値更新。日航が法人税納税へ。大機・賢人より民主・カトー。経済教室・レジーム転換・岩田規久男。
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12/24の日経

2014年12月24日 | 今日の日経
 諮問会議が中長期試算について、潜在成長率並みの場合とか、従来のPB比以外の指標とか言い出したのは、従来の指標だと、10%超の消費再増税なしで、2023年頃には、目標を達成してしまうからだと思うね。

 2015年度の税収を55兆円強に設定すると、PB曲線はGDP比で0.5ほど上方にシフトする。そうすると、2023年度には、PB達成に、あと0.5くらいまで接近し、グラフを見た印象では、達成も同然に受け取られる。

 その差は消費税1%を切るくらいしかないわけだし、中長期試算は消費増税後の税収の伸びを名目成長率と同じにしていて、弾力性が1.1もないから、普通に考えれば、更にシフトして、2020年度は無理でも、その2、3年後には達成してしまう。

 結局、1月に中長期試算が、まっとうに改定されると、これを根拠に消費増税を叫んでいた人は、一気にハシゴを外される。だから、面目がまる潰れにならないよう、別の見方も用意するということなのだろう。財政再建派も様子を見ないと恥をかくよ。


(一昨日の日経)
 JXが全国で水素供給。受取配当1000億円増税。ピケティ・消費増税は景気後退に。

(昨日の日経)
 日本郵政が来年9月上場。50年後に2%成長・地方ビジョン。諮問会議・債務残高のGDP比も見る必要。GPIF・試算見直しで赤字30兆円のリスク。スーパー通年もマイナス。ヤマト・人手不足は自動化で。経済教室・原油急落・斎藤潤。

(今日の日経)
 原油安が個人マネーに影。ホンダ生産計画比15%減。米7-9月期GDP年率5.0%に上方修正。
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2014、15年度の税収予想

2014年12月21日 | 経済
 7-9月期のGDP速報で最も衝撃的な事実は、反動減が民間消費を押し潰し、増税の所得減の効果と合わせて、トレンドから13兆円もGDPを落としてしまったことだ。余りの犠牲の大きさに、一気増税の愚かさから目が覚めなければいけないはずだが、世の中の認識は、ちっとも変わらないみたいだね。

 政府も日銀も消費増税の反動が和らいでいるという認識のようだが、7-9月期の民間消費の0.4%増はトレンドより弱いくらいで、反動減は戻らずに終わったと認識せねばなるまい。まあ、枠組がないと、認識ができない典型だね。1997年と違い、トレンドが折れていないのは、不幸中の幸いだったが、それをもって回復とは、おかしかろう。

………
 数字を読まない世の中に代わり、今日も、つまらん数字を追うことにしよう。来年度予算の税収はいかほどかである。財政再建派の人に限って、こういう数字は気にせず、当局のものを鵜呑みにするが、本当に心配なら、予想を立てることにより、評価の枠組を作る努力をし、検証していくことが大切だ。

 結論から言うと、本コラムの予想は、2014年度が52.7兆円、2015年度が55.9兆円である。日経によれば、財政当局は、前者を51.7兆円、後者を55兆円程度としているらしいから、いつもの大幅な過少算定をしていないのは、意外なほどである。その理由は、あとで探るとして、本コラムが、どのように予想したかという、つまらん説明からしていく。

 ベースにするのは、2013年度決算の数字で、これを2014年度の名目成長率の予想値1.48%で伸ばし、税制改正要因を増減する。成長率は12月のフォーキャスト調査の平均値を用いた。これで得られるのが51.6兆円であり、当局の数字とほぼ同じになる。実際には、所得税や法人税が成長率以上に伸びているから、この超過分を上乗せすると、本コラムの予想になる。

 所得税の超過分については、10月までは実績値を用い、11月以降は、賃金動向を勘案し、前年より2.6%多いと仮定して、0.55兆円とした。法人税の超過分については、野村證券、日興証券の企業業績見通し(含む金融)を基に、経常利益増加率の平均値から成長率を差し引いたものを乗じることで、0.55兆円とした。2つを合わせて1.1兆円の上乗せとなる。

 当局の数字と本コラムの予想の差は1兆円あるが、簡易な方法での予想であるから、まあ、許せる範囲かなと思う。今回の補正では、0.8兆円の国債減額をさせてもらえるらしいので、それなら隠しておくまでもないのだろう。国債減額には次年度の法人減税の見合いという意味もあろうし、過少算定をやめれば、2015年度の補正の規模縮小にもつながるから、賢い選択である。

(表)



………
 次に、2015年度の税収の予想である。方法は同じであり、先の2014年度の税収予想の数字を、フォーキャスト調査の名目成長率2.36%で伸ばしていく。これに8%消費増税の平年度化分1.1兆円を足し合わせると、55.0兆円となり、やはり、当局の数字と、ほぼ一致する。ここでも、法人税については、超過分を計算し、その0.84兆円を上乗せすると、55.9兆円となる。

 これを眺めると、今度の法人減税の純減の規模は、超過分を帳消しにするくらいが頃合いかと思う。それ以上すると、目立ってしまうだろう。それでも、今年度に実施した投資減税は0.6兆円もあるし、復興法人税の廃止は、2015年度では1.4兆円もの価値があるから、全部を合わせると、消費税1%に相当する大きさになる。

 こうして、13兆円もGDPを減らした消費増税の1/3が蕩尽されていく。法人減税で設備投資が加速された様子もないから、消費増税と法人減税の組み合わせは、経済と財政を損壊させる政策でしかない。大幅な円安が実現したのに、相変わらず、国際競争力のためには法人減税が必要とする人もいたりして、理解に苦しむところである。

………
 2015年度の税収が55.9兆円になると、中長期の経済財政に関する試算の予定額を、実質的に1.8兆円上回ることになる。国の7割の規模がある地方の税収構造も同様だから、基礎的財政収支のカーブは、GDPで0.5%強、上方へシフトしていると考えられる。したがって、7/27に書いたように、2025年度でのゼロへ向かって、順調に進んでいる。 

 この歩みへの最大の脅威は、一気の消費増税で成長を屈曲させることである。これが今回なかったことは、本当に運が良かった。次いで問題なのは、無闇な法人減税である。どうしてもしたければ、他方で、利子・配当への税率を25%に上げ、国債金利の上昇によって利払費が増えても、自然増収で相殺できるようにしておくことをお勧めする。

 いまだに、基礎的財政収支をゼロにするのに、10%を超える消費増税が不可欠と唱える人もいるが、そうした人は、消費増税の悪影響の計量もしないし、税収の最新動向も把握していないと思わざるを得ない。単に、財政当局の「以前」の見解をオウム返ししているのではないか。つまらん数字を追わなければ、自分の見解など持ちようがないのである。


(昨日の日経)
 出光が昭シェル買収へ交渉。原油安・5.4兆円安く・MUFG R&C。補正で交付税1兆円。2013年の年金受給総額0.7%減。冬のボーナス5.26%増。11月百貨店1%減。バイト・パート時給最高更新。

(今日の日経)
 東南ア賃金が中国に迫る。法人税3年で20%台。低投票率の主因は中高年・大石格。読書・リーダーなき経済。

※投票率の数字を分析した良い記事だね。
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12/19の日経

2014年12月19日 | 今日の日経
 今日の日経には経済対策3.5兆円が出ていた。ざっと見たところ、補正予算は、前年度比-1.5兆円の緊縮になるのではないか。前回は実質3兆円(2013/12/13参照)であり、今回は、3.5兆円から、実質繰越の震災復興の1兆円と、来年度に組込むだけの地方交付税交付金の1兆円を差し引けば、1.5兆円となる。景気の足元は脆弱でも、原油安で強気に出たようだ。

 8年ぶりに国債減額0.8兆円をするようだが、来年度の法人税の純減と同じくらいはさせてもらうということかもしれない。「かしずく霞ヶ関」と言うが、したたかなものだ。8年前と言えば、第一次安倍内閣のときで、過去最大の公債減額2.5兆円を誇ったは良いものの、景気は下り坂となり、翌夏の参院選で大敗したなんてことがあったね。

(今日の日経)
 地元就職なら奨学金。原油安・ドル高は新興国の債務危機にも。経済対策3.5兆円に。かしずく霞ヶ関。海外証券投資4年ぶり高水準。大機・金融所得を25%に・ミスト。経済教室・政治改革・野中尚人。
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12/18の日経

2014年12月18日 | 今日の日経
 国の税収をざっと推計してみたんだが、2014年度は52.1兆円で2.1兆円の上ブレ、2015年度は55.7兆円というところだね。今日の日経の額は堅めの数字だろう。2015年度は、消費再増税を前提にした「中長期試算」の55.6兆円とほぼ同じになる。つまり、消費再増税分の1.5兆円の穴は自然増収で埋まる。むろん、法人減税をしなければの話だよ。

 7/27に書いたように、税収が、国と連動する地方税収と合わせ、GDP比で0.5%強上ブレすると、消費税は10%で、2025年にはPBがゼロに到達する。2007年にはゼロに近かったのだから、経済の回復で戻るのは、不思議でもなんでもない。2020年に達成できないと気に病むことはないんだがね。むしろ、焦って増税して成長を壊したら水の泡になる。

(今日の日経)
 地方に本社移転で税優遇。補正3兆円、2014年度上ブレ1.6~1.7兆円。月例経済・基調判断据え置き。輸出数量指数11月1.1%低下。経団連・ベア選択肢。訪日は不思議の冒険。リニア料金に深謀。経済教室・円安転換を・小峰隆夫。国立大学を三分類へ。

※基調の「緩やかな回復」とは何を指すのだろうね。反動減からの回復は絶望的で、従来の成長トレンドだけは、まだ失われてないというところかな。
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12/17の日経

2014年12月17日 | 今日の日経

(今日の日経)
 原油安が金融市場揺らす、ルーブル急落。賃上げで外形増税緩和。来年度予算の税収55兆円見込む。賃上げ継続・政労使会議。大機・英国並みなら9800万人・鵠洋。経済教室・財政の説明責任・田中直樹。

※日本が消費増税をすると、ロシアで通貨危機が起こるのはなぜなのかな。※税収については、また後日。
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消費増税・血染めの報酬

2014年12月14日 | 経済(主なもの)
 デフレ下の一気の消費増税という極めて危険な行為は、景気を壊す一方で、二つの貴重な知見を与えてくれた。一つは、消費の駆け込みの反動減は永続化すること、もう一つは、増税額と同じだけの消費減をもたらすことである。若いエコノミストには、これを踏まえつつ、的確な計量を行ってもらい、冷徹に将来を見通すことによって、日本の財政当局の三度目の愚行を防いでほしいものだと思う。

………
 年末になると、来年度の経済成長率はいくらかといった話題がマスコミを賑わす。手元の統計データは7-9月期までしかないのに、6期先まで予測しなければならないから、なかなか大変である。特に、足元の延長線上で考えられないときは、難しさもひとしおだ。思えば、去年の12月、大方のエコノミストは、2014年度の成長率を+0.8%程度と予想していた。結果は、実績見込みで-0.5%あたりまで下がっており、大ハズレになっている。

 政府の経済見通しに至っては、1.4%成長であったから、ひどいものだ。経済財政諮問会議の発足以来、的確な見通しを出していたのに、「それはない」と思うような超強気だった。こんな状況にあって、優れた眼を持っていたのが、ニッセイの斎藤太郎さんである。成長率は+0.2%とし、輸出が期待はずれなら、容易にマイナスに転落する内容だった。消費増税の影響を計量モデルで分析し、民間消費の寄与度を-0.7とし、設備投資も控え控え目にしていた。現実は、これに一番近かったわけである。

 他方、若いながら日本のエコノミストのエース格である第一生命の新家義貴さんは、民間消費をわずかなマイナスにとどめ、設備投資の寄与度を+0.7と高めに置き、+0.9%成長と予想していた。当時は、こうした見方が普通だった。それでも、新家さんは、高難度のこの7-9月期の成長率について、最弱気の+0.2%かつネガティブと予想する辣腕ぶりを見せている。こうした動向への鋭敏さが彼の持ち味である。

 優秀なお二人にして、2014年度の成長率を違えることになった最大の理由は、一気の消費増税の打撃が余りにも大きかったことである。民間消費の寄与度は-1.7にもなるだろう。これでは、設備投資や輸出がいくら好調でも埋め切れない。一気の消費増税は、稀に見る大失敗であることは明白である。しかも、7-9月期の結果が分かった今になって思えば、ある方法で予測も可能であったことに気づく。

………
 それは意外に簡単である。まず、民間消費を前年以来のトレンドで伸ばすことで、消費増税がなかった場合の額を計算する。次に、そこから、消費増税によって減る分と、駆け込みとその反動減によって、消費が前年度にシフトする分とを差し引くのである。これで出てくる数字は、なぜか、現実の2014年度の民間消費の実績見込み額にピッタリ合う。ちょっと細かくなるが、具体的には次のような遣り方だ。

 手始めに、実質季節調整系列を使い、2013年10-12月期の民間消費315兆円を起点に、過去2年の実績を踏まえ、毎期0.5%成長で伸ばしていく。それで得られる2014年度の民間消費は321兆円である。他方、現実の2014年度の民間消費は308兆円と見込まれるから、その差は13兆円にもなる。消費増税で8兆円を家計から政府に移すだけのために、その1.6倍もの国民所得を失った勘定だ。

 この13兆円の差は、主に、消費増税の所得減と、駆け込みの反動減で生じたものである。前者の所得減は、単純に増税額が消費減に直結すると仮定しよう。従って8兆円だ。後者の反動減は、それと対称である駆け込みの大きさを量ることによって算出する。実際の1-3月期の民間消費は322兆円だから、0.5%で伸ばした仮想の民間消費317兆円を差し引くと5兆円になる。こうして、先の消費減13兆円=所得減8兆円+反動減5兆円となって、ピッタリ合うことになる。

 ここで注意が要るのは、季節調整系列は年換算値だから、反動減の5兆円は、4-6月の反動減が1年間続いた場合を意味することだ。すなわち、これでピッタリ合うのは、今回の消費増税では、反動減からのV字回復がまったくなく、反動減で落ちてしまった水準を、そのまま引きずったということである。こういう解釈は、実感としても、十分、納得が行くのではなかろうか。

 もし、去年の12月の時点で、消費増税の打撃について、①家計からの所得の吸い上げ額に匹敵する規模の消費減となる、②駆け込みの反動減からは、ほとんど回復しないという二つの設定をしていたならば、2014年度の民間消費は、正確に言い当てられたはずだ。なお、反動減については、実際の1-3月期の数字を知る前であっても、1997年と今回の駆け込みがともに前期比で2%強であったことからすると、容易に予測ができたと考えられる。

(表)



………
 こうしてみると、今回の消費増税の打撃は、理論的に起こり得る範囲の最大値であったと評価できる。大方は反動減からの回復を当然視していたのに、反動減の衝撃で家計がへたってしまい、完全に期待を裏切って、まったく消費が戻らなかった。また、所得減があっても、貯蓄の「クッション」によって、ある程度は消費が保たれるのが常識的なのに、その効果がほとんど見られないという驚くべき結果だった。いかに家計が弱体化し、余裕を失っているかの証左であろう。 

 一部の経済学者は、「駆け込みと反動減は、差し引きゼロだから、対策は無用」などと勇ましいことを言うが、机上の空論に過ぎないことが実証された。企業にしてみれば、反動減は分かり切っているから、駆け込み需要は、できるだけ輸入や残業・短期雇用で対応し、反動減になったら、サッサと労働力を絞るのが合理的だ。そうなれば、反動減からの消費回復が見られないのは当然ではないか。

 家計調査では、作り溜めが峠を越えた年明け頃から、勤労者世帯の実質実収入の低下が始まり、増税後の反動減の時期には、低い消費支出に見合うほどのレベルにまで収入が下がっていた。これは偶然とは思われない。今回の「反動減がそのまま消費を縮小させた」という経験は、肝に銘じておくべきだろう。「経済運営は安定を旨とすべし」という経験知を、教科書の理屈でもって蔑ろにはできないのである。

 そもそも、1997年の景気失速を消費増税のせいにしない学者でも、反動減の危険性と緩和の必要性を指摘していたのに、財政当局はポーズだけで無視してしまった。まじめに対応するなら、かつてのエコポイントのような仕組みで、住宅、車、大型家電などへの増税を、事実上、遅らせる道もあった。驕りゆえの無策、無策ゆえの失態としか言いようがあるまい。

………
 「反動減の永続化」と「増税額分の消費減」という二つの知見は、もし、10%への再増税を延期していなければ、どうなっていたかも明らかにしてくれる。ざっと推計すると、民間消費の暦年の伸び率は、2012年が2.3%、2013年が2.1%であったものが、2014年は-1.1%になり、2015年が0.1%とほぼゼロに、そして、2016年は再び-1.0%に転落する。消費増の基調を前期比0.5%で置いても、こうなるのである。

 GDPの6割を占める民間消費がこうなると、基調を維持することは、とても無理であろう。消費減が設備投資や住宅投資の縮小を呼び込み、デフレ・スパイラルに陥ることは必定だ。そうなれば、財政再建どころの話ではない。一気の消費増税の連発は、日本経済を破滅の淵に追い込むような恐るべき計画だった。これに拘泥する財政当局の姿は、自殺行為を望んでいるようにしか見えない。

 エコノミストの中には、短期的な景気動向で、消費増税という長期的な財政赤字の問題を避けるべきではないという人もいるが、今回の13兆円を空費した「人体実験」の結果を、よくよく見てほしい。実験データを無視して、教科書の理屈だけで政策選択を語るのは、やめてもらいたい。現実を直視しないのでは、およそ学問的な態度とは言えまい。それでは、まるで緊縮財政思想の伝道者になってしまう。

………
 さて、将来のことである。再増税は、2017年4月に延期となったが、物価上昇率が今の程度にとどまるのであれば、民間消費に11兆円もの打撃を与えてしまうだろう。これは、「反動減の永続化」と「増税額分の消費減」という知見に基づく当然の帰結である。若いエコノミストには、今回の過小評価の誤りを糧とし、国民と共に味わった痛い経験を今後に活かしてもらいたいと思う。これは「血染めの報酬」なのである。

 物価上昇率の引き上げは、再増税に必須の条件となるが、それが適わないときは、増税幅を1%ずつに刻むか、家計所得を補填する施策を組み合わせるしかない。例えば、低所得者の社会保険料の軽減である(1/12参照)。基準を所得額で定めれば、物価上昇で自然に財政負担は減るため、増税の意義も薄れないで済む。他方、食料の軽減税率は規模が限られよう。規模と駆け込み抑制の観点からは、諸外国もしている住宅取得の減免なども検討対象となる。

 おそらく、日本の財政当局は、なぜ民間消費がトレンドから13兆円も落ちたのかといった、失敗の内容分析は行うまい。たぶん、それは天気のせいであり、「太陽が眩しかったから」なのである。したがって、2年後も、ゴリ押しするだけであろう。戦前の軍部が「満州の解決には武力しかない」と息巻いたように、「赤字の削減には増税しかない」を繰り返すのだ。こんな不磨の財政当局に対し、筆者は2年後も元気でいられる自信がない。まあ、今のうちに、若い人達へ託しておく次第である。


(今日の日経)
 地銀7行が広域連携。読書・リターン・トゥ・ケインズ。

※消費総合指数が更新されて、前月比マイナスだった。家計調査や販売統計が乱れているときにはありがたい存在だね。
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12/9の日経

2014年12月09日 | 今日の日経
 経済の神様はイケズやな。いつも、予想外の事実を見せてくれる。筆者も、GDPは上方修正されると思っていたよ。分かってみれば、中小の設備投資が落ち込むことは、需要減退局面なのだから、予想できなくもない。アベノミクスでは、景況感に規模格差が大きいことは分かっていたつもりだったがね。

 在庫だって、一気に全部は始末し切れまいと思っていた。ところが、-0.6の数字はそのまま。よく見ると、1-3月期の在庫減が0.1減り、4-6月期の在庫増が0.1増えている。したがって、始末できていない在庫が0.3残っている勘定だ。一次速報では、これが0.1だったわけで、別の形で「始末し切れない」という予想が当たってしまった。

 これが10-12月期の成長の足を引っ張るから、「今度こそV字」なんて思っていたら、またやられかねん。11月の景気ウォッチャーも、かなり落ちたしね。唯一踏みとどまっていた雇用関連も50を割り、景況判断からも、「緩やかな回復が続いている」が削られた。すべてが弱くなっては、さすがに持たんよ。まあ、増税判断も終わったわけだし。

(今日の日経)
 NISA上限120万円に。GDP1.9%減に下方修正、設備投資推計に差、街角の景況感陰る。戸建ては富裕層に照準。経済教室・アベノミクス・齊藤誠。
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喪失した国家目標のありか

2014年12月07日 | 社会保障
 自民党は「福祉国家の建設」を目標としていたと言うと驚かれるだろうか。そもそも、結党時の「党の綱領」には、福祉社会の建設がうたわれており、1962年夏の所信演説では、時の首相・池田勇人が「働く機会を与え、経済力を実現し、もって福祉国家を建設する」と宣言しているのである。

 目下は長引くデフレにあるから、目標が「まずは景気回復」となるのは自然だが、それを実現したのちに、日本をどんな国にするかの議論がもう少しあっても良いように思う。経済成長それ自体が目標となり、社会保障の縮小は、その手段となるというのでは、目標の喪失感は拭えまい。

………
 一気の消費増税によって、日本経済は2期連続のマイナス成長に転落し、実質GDPは523兆円と、1年前に比べ1.1%、5.7兆円も縮小した。これは、日本の最優先の目標が、経済成長にも、福祉国家にもなく、財政再建にあることを物語っている。その意味で、消費増税で8.1兆円もせしめたのであるから、それだけで、喜ばしいのかもしれない。

 しかし、もし、経済成長を最優先にしていたら、どうなっていたか。2012、13年は1.5%成長であったから、増税をしていなければ、2014年の各期が0.4%、年率1.6%成長になっていたと仮定しても、おかしくはなかろう。すると、7-9月期のGDPは533兆円になっていたはずだ。現実との差は10兆円にもなる。

 国民負担率、すなわち、GDPに占める国・地方税と保険料の割合は約3割なので、何もしなくても、この時に税等は3兆円増していたはずである。むろん、残りの7兆円は、国民が自由に使える。結局、税を5兆円余計に取ろうとするあまり、成長を犠牲にして、国民には、消費税8.1兆円+得べかりし所得7兆円=15兆円の負担を与えたことになる。

 国債の信用は、経済規模に裏打ちされるから、増税しても、GDPを縮小させてしまっては、意味がない。してみると、正確には、日本の目標は、財政再建でさえないのかもしれない。おそらく、地方や社会保険も視野になく、国の一部門における赤字の削減、あるいは、消費増税そのものが自己目的化していると考えられる。

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 ここで、1.5%という平凡なる成長が、福祉国家の建設に、どんな意味を持つかを見てみよう。社会保障給付費の伸びは、ここ3年(2010-12)を均すと、年率で2.4%である。額にすれば年に2.6兆円増といったところだ。他方、現在のGDPは523兆円であるから、1.5%成長は7.8兆円の経済力をもたらす。すなわち、成長の1/3で社会保障費の増は賄える計算だ。

 日頃、「高齢化による社会保障費の膨張が財政を圧迫し、経済を破綻させる」というような話ばかりを聞かされると、不安が募ろうが、こうして数字を確認するなら、「最悪、0.5%の成長があれば、ニャンとかなる」と達観できるわけである。そして、一部門の赤字だけを気に病み、マイナス成長にしてしまったら、どれほど痛手かも分かるはずだ。

 然るに、日経によれば、民間調査機関の2014年度の成長率の見通しは-0.5%まで落ちた。増税予算を決めた時の政府の見通しは+1.4%であったから、明らかに大失敗である。通貨危機や金融破綻のあった1997年の増税の際とは異なり、不測の事態は「夏の悪天候」くらいだったから、まったく言い逃れできない。これで、中国に異変でもあったりしたら、とんでもないことになっていただろう。 

 成長率については、期間の取り方によって、マイナスにならないとする主張もあるようだが、見苦しい言い訳は、やめるべきである。このカラクリについて、次の10-12月期以降、毎期0.4%成長が続く場合を仮定して表にしてみた。これで分かるように、年度では-0.7%成長になるものの、確かに、暦年では0.3%成長で済む。ところが、その代わり、暦年の悪影響は2015年にまで及ぶ。成長を失わせた事実は消え去らないのである。

(表)


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 50年の時を経ても、「働く機会を与え、経済力を実現し、もって福祉国家を建設する」というシンプルな国家目標は、立派に通用する。むしろ、変質したのは、私たちである。デフレの中で、成長や雇用の確保に苦闘するうち、福祉国家を重荷でしかないように感じ、財政破綻の脅しから逃れたい一心で、「痛みも必要」と叫びつつ、増税を焦るようになったのだ。

 かの池田勇人は、所信演説を「念願とする祖国の平和と繁栄は、われわれみずからの信念と努力によってのみ達成される」で終えている。この堂々たる国家目標への揺るぎなさは、鮮烈でさえある。これに比して、現在は、増税を焦り、成長も、福祉も、果ては財政の信用までも犠牲とし、ただ自虐を欲するのみである。

 どうして、これを後世に語れよう。この汚名を雪ぐには、大失敗をごまかさず、後の糧とするほかに道はない。ここに至り、成長への戦略がないと嘆くなかれ。戦略も未だしの2012、13の両年に、緊縮の足枷を解かれた日本経済は1.5%成長を果たし、雇用も財政も着実に改善させてきた。そして、その程度の成長であっても、福祉国家の建設は、十分、目標たり得るのである。


(昨日の日経)
 燃料電池車を増産へ200億円。米雇用32万人、ドル円121円台。10月景気先行指数は低下。民間予測・10-12月成長率3.25%、2014年度-0.5%。住宅・価格上昇で販売減。夕刊・イタリア国債格下げ、成長率見通し低下で。

※日本国債の格付けの引下げも、増税延期だけが理由でなく、成長率低下もあるようだ。

(今日の日経)
 円の実力40年で最低。大都市不動産に地銀資金、地価の一因。読書・経済行動と宗教。

※明日はGDP2次が公表されるから、表は1日の命だ。単純だが、こういうイメージを頭に置くと、IMFの2014年は0.9%成長といったものに、日経も引っ掛からずに済もう。見る目を持って、日本の若手エコノミストをプロモートしてほしいね。
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