少しでも効果があると思うと、どんなに代償が大きくても、やめられないんだね。消費増税も、法人減税も、そして、金融緩和も。穏健な財政さえすれば、痛みも少なく、大きな効果が得られるのだが、どうしても信じられないらしい。経営改善には凡事の徹底が何より大切なのだと説いても、即効を求めて奇手に走り、失敗を繰り返すのと一緒である。
消費増税は、2014年度をマイナス成長に突き落とす抜群の威力を見せたし、法人減税は、配当を2割増やして設備投資を2%だけ伸ばすという偉大な成果を上げた。金融緩和は、円安と株高で景気を浮揚させたものの、消費税には抗すべくもなく、異次元第二弾を打って、せっかくの原油安メリットを無駄にする立派な貢献をした。
皆さんは、ため息が出ないだろうか。どうして、増税幅を刻み、投資減税にとどめ、好機を素直に受け取るという、平凡な対処で済ませられないのだろう。犠牲を秤にかけない極端な政策が、成長を妨げ、財政を害し、国民生活を損なっている。その認識すらないのだから、「凡事こそ難しい」で済まぬほど、問題は根深い。
………
11月の鉱工業生産は、底バイと評価すべきだろう。底が抜けなくて幸いだったと思わねばなるまい。これが良く分かるのが消費財の動きである。鉱工業全体は、投資財の高めの動きに支えられていることに注意が必要だ。通常なら、投資財は、消費財以上に景気変動の影響を受けるので、大きく崩れてもおかしくない。それが振れつつも保たれているのだから、ありがたいことだし、危うくもある。
その理由は、企業収益の強さだろう。これまでの円安による増益で耐久力はあるし、ようやく輸出も上向きとなって、設備投資を落とさなければならない苦しさはない。また、消費財の落ち込みも、2012年後半のノダ後退のレベルで、何とか踏みとどまっている。加えて、落ち方が急だったことが、早く底入れを迎えることにつながり、先行きに対する不安が募らずに済んだ。
1997年の時は、鉱工業生産の落ち方は緩やかだったが、消費財の低下が長引くとともに、投資財が急速かつ大幅に低下して、経済構造を大きく変革してしまった。これが今に至るデフレ体質となる。今回は、変わるほどの構造がなかったのかもしれないし、あるいは、前回の金融破綻や通貨危機のような、もう一押しのショックがあれば、同様にスパイラル的崩壊に至っていたのかもしれない。
(図)
………
消費に関しては、上向きという評価が一般的だが、さて、どうか。11月の家計調査は、季節調整済指数の前月比のプラスが続いたが、今月は消費性向が上がっており、一進一退というところだろう。商業動態も、高めに浮いていた小売業が引き続き低下し、卸売業は悪かった夏場のレベルに逆戻りである。ただ、12月には、一時的にしても、ボーナス増による持ち直しが期待できよう。実際、東大売上指数も上向き傾向にあり、稲田義久先生の超短期予測も今月に入って切り上げて来ている。
雇用については、11月の労働力調査は、失業率が横バイでも、就業者数の季節調整値が2か月連続で10万人台の減となった。職業紹介状況では、新規求人数の季節調整値は前月比1.2%増である一方、求職が多かったことから、新規倍率は-0.03となった。やはり、雇用も停滞していると見るべきである。注目は、このように勢いを失った状況で、どれだけ所得が伸びるかになる。
毎月勤労統計を見ると、繰り上がった時期の速報とは言え、実質賃金の前年同月比が-4.3に拡大し、今年の最低値を大きく下回ったのは予想外であった。更に気になるのは、常用雇用が+1.3まで落ちたことである。前年11月が高めだったことを割り引いても、水準が下がっており、これ以上は低くなってほしくないところまで来た。実際、季節調整値で見ると、前月比は、10月の0.0から、とうとう-0.1となった。雇用は減少へと転換したのだ。
………
こうした中、昨日、政府は3.5兆円規模の経済対策を決定した。前にも書いたように、これでは、前年比で1.5兆円程度の緊縮になる。消費再増税を見送ったから当然という見方もあろうが、なぜ景気でなく財政の観点で規模が決まるのか、問題なしとしない。もっとも、消費のテコ入れをしようにも、アイデアを持ち合わせていないようにも思える。
本コラムは、もう1年前となる1/12に、消費増税後は底をはう展開になるとし、バラマキの対策をするようになると「予言」した。まったく、そのとおりになったわけである。将来を的確に見通し、対策まで示しておいても、何も変わらない。まあ、それもまた、予想どおりではある。再増税を回避できただけでも、良しとすべきだろう。
税収や見通しをごまかさず、穏健な財政運営を行い、一時のバラマキとしないで、まじめに所得再分配の政策を樹立するという、ごく当たり前のことをすれば、日本の成長力は解き放たれて行こう。計量不能の「戦略」とは異なり、基本に忠実であることにコストもリスクもない。経済でも「Let it go」は心に響く言葉となるのだ。
(昨日の日経)
法人税率下げ2.51%、実質減税3500億円。成長戦略・4-9月に配当22%増、設備投資2%増、手元資金70兆円。郵政の初回売却1兆円超。11月鉱工業0.6%低下。介護保険料の軽減拡充。ロシアが市場介入や銀行支援。
(今日の日経)
経済対策決定、補正は3.1兆円。企業の本音映す内部留保・有形資産9兆円減、現預金21兆円増、長期証券65兆円増・滝田洋一。
消費増税は、2014年度をマイナス成長に突き落とす抜群の威力を見せたし、法人減税は、配当を2割増やして設備投資を2%だけ伸ばすという偉大な成果を上げた。金融緩和は、円安と株高で景気を浮揚させたものの、消費税には抗すべくもなく、異次元第二弾を打って、せっかくの原油安メリットを無駄にする立派な貢献をした。
皆さんは、ため息が出ないだろうか。どうして、増税幅を刻み、投資減税にとどめ、好機を素直に受け取るという、平凡な対処で済ませられないのだろう。犠牲を秤にかけない極端な政策が、成長を妨げ、財政を害し、国民生活を損なっている。その認識すらないのだから、「凡事こそ難しい」で済まぬほど、問題は根深い。
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11月の鉱工業生産は、底バイと評価すべきだろう。底が抜けなくて幸いだったと思わねばなるまい。これが良く分かるのが消費財の動きである。鉱工業全体は、投資財の高めの動きに支えられていることに注意が必要だ。通常なら、投資財は、消費財以上に景気変動の影響を受けるので、大きく崩れてもおかしくない。それが振れつつも保たれているのだから、ありがたいことだし、危うくもある。
その理由は、企業収益の強さだろう。これまでの円安による増益で耐久力はあるし、ようやく輸出も上向きとなって、設備投資を落とさなければならない苦しさはない。また、消費財の落ち込みも、2012年後半のノダ後退のレベルで、何とか踏みとどまっている。加えて、落ち方が急だったことが、早く底入れを迎えることにつながり、先行きに対する不安が募らずに済んだ。
1997年の時は、鉱工業生産の落ち方は緩やかだったが、消費財の低下が長引くとともに、投資財が急速かつ大幅に低下して、経済構造を大きく変革してしまった。これが今に至るデフレ体質となる。今回は、変わるほどの構造がなかったのかもしれないし、あるいは、前回の金融破綻や通貨危機のような、もう一押しのショックがあれば、同様にスパイラル的崩壊に至っていたのかもしれない。
(図)
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消費に関しては、上向きという評価が一般的だが、さて、どうか。11月の家計調査は、季節調整済指数の前月比のプラスが続いたが、今月は消費性向が上がっており、一進一退というところだろう。商業動態も、高めに浮いていた小売業が引き続き低下し、卸売業は悪かった夏場のレベルに逆戻りである。ただ、12月には、一時的にしても、ボーナス増による持ち直しが期待できよう。実際、東大売上指数も上向き傾向にあり、稲田義久先生の超短期予測も今月に入って切り上げて来ている。
雇用については、11月の労働力調査は、失業率が横バイでも、就業者数の季節調整値が2か月連続で10万人台の減となった。職業紹介状況では、新規求人数の季節調整値は前月比1.2%増である一方、求職が多かったことから、新規倍率は-0.03となった。やはり、雇用も停滞していると見るべきである。注目は、このように勢いを失った状況で、どれだけ所得が伸びるかになる。
毎月勤労統計を見ると、繰り上がった時期の速報とは言え、実質賃金の前年同月比が-4.3に拡大し、今年の最低値を大きく下回ったのは予想外であった。更に気になるのは、常用雇用が+1.3まで落ちたことである。前年11月が高めだったことを割り引いても、水準が下がっており、これ以上は低くなってほしくないところまで来た。実際、季節調整値で見ると、前月比は、10月の0.0から、とうとう-0.1となった。雇用は減少へと転換したのだ。
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こうした中、昨日、政府は3.5兆円規模の経済対策を決定した。前にも書いたように、これでは、前年比で1.5兆円程度の緊縮になる。消費再増税を見送ったから当然という見方もあろうが、なぜ景気でなく財政の観点で規模が決まるのか、問題なしとしない。もっとも、消費のテコ入れをしようにも、アイデアを持ち合わせていないようにも思える。
本コラムは、もう1年前となる1/12に、消費増税後は底をはう展開になるとし、バラマキの対策をするようになると「予言」した。まったく、そのとおりになったわけである。将来を的確に見通し、対策まで示しておいても、何も変わらない。まあ、それもまた、予想どおりではある。再増税を回避できただけでも、良しとすべきだろう。
税収や見通しをごまかさず、穏健な財政運営を行い、一時のバラマキとしないで、まじめに所得再分配の政策を樹立するという、ごく当たり前のことをすれば、日本の成長力は解き放たれて行こう。計量不能の「戦略」とは異なり、基本に忠実であることにコストもリスクもない。経済でも「Let it go」は心に響く言葉となるのだ。
(昨日の日経)
法人税率下げ2.51%、実質減税3500億円。成長戦略・4-9月に配当22%増、設備投資2%増、手元資金70兆円。郵政の初回売却1兆円超。11月鉱工業0.6%低下。介護保険料の軽減拡充。ロシアが市場介入や銀行支援。
(今日の日経)
経済対策決定、補正は3.1兆円。企業の本音映す内部留保・有形資産9兆円減、現預金21兆円増、長期証券65兆円増・滝田洋一。