2025-01-23

ワンパンマンがもうめちゃくちゃ

 近年の漫画界を語る上で外せない作品の一つに『ワンパンマン』がある。ご存じのように、ONE先生によるWeb漫画として始まり、その斬新な世界観と圧倒的なギャグセンス話題を呼んだ。ヒーローの中でも最強の男、サイタマがどんな相手も一撃(ワンパンチ)で倒してしまうというシンプルかつ痛快な設定。さらにその設定を支える絶妙テンポ感やキャラクターバリエーションリメイク版では村田雄介先生作画を手掛け、圧倒的な画力ファンを魅了してきた。アニメ化成功し、世界中で人気を博している。しかし、ここ数年、どうにも「ワンパンマンがもうめちゃくちゃ」だと言わざるを得ないような状況が続いている。とくに、Web連載版に関しては「なかったことになったんじゃないか?」と思うほどの混乱が生じ、そもそも原作自体が全く進んでいないのでは…という声も少なくない。今回は、そんな『ワンパンマン』をめぐるファンの混乱と、作品が抱える問題について考えてみたい。

Web連載が一体どうなっているのか

 そもそもワンパンマン』はONE先生個人サイトで連載を始め、Web漫画として公開されていた。初期の頃は作者のONE先生自らが簡素な絵で描きつつも、斬新なヒーロー像やユーモアによって爆発的に人気を得たのは有名な話だ。それが大手出版社編集者の目に留まりリメイク版が始動。ここで村田雄介先生による本格的な画力が注ぎ込まれ、「読んでいるだけで映画を見ているようだ!」と絶賛されたのも記憶に新しい。

 ところが、リメイク版が進むにつれ、Web連載版とのストーリー差異が次第に拡大していった。リメイク版の制作過程で、ONE先生が加筆や修正を繰り返し、リメイクオリジナルの展開やキャラクター描写が増えていったのだ。それ自体ファンとしては嬉しいところもある。「同じ話を高画力で読むだけじゃなく、新鮮な驚きが味わえる」という声も多かった。しかしいつしかリメイク版があまりにも“公式”っぽい雰囲気を帯びるようになり、読み手の間で「Web版ってもう存在しないかのように扱われてる?」という疑念が生じ始めた。実際、「いま村田版を読んでいるけど、ONE版(Web版)はどうなってるの?」と疑問を抱くファンも多い。

 極めつけは、Web連載版の更新が極端に少なくなり、かつ更新されたと思ったら大幅な書き直しや展開の再構成が入ることも珍しくなくなった点である。一時期は「Web版の最新話が消えた」「過去の話が大量に改稿された」という噂が飛び交い、事実関係確認しようにも公式アナウンスが乏しく、「なかったことにされた」と受け取る人も出てきた。これらの混乱が積み重なり、「どのバージョンの話をどこまで追えばいいんだろう?」という状態に陥ったファンも少なくない。

複数回の描き直しでストーリーが迷走

 リメイク版においても、人気エピソードの盛り上がりどころで何度か大幅な描き直しが行われたのは記憶に新しい。とくに怪人協会編においては、「すでに公開されたはずの話数が差し替えられ、新しい展開になっている」という事態が何度か発生した。もちろん「クオリティアップのため」とか「矛盾の解消のため」という説明があればまだ納得もしやすいが、明確な理由が示されないまま再度描き直しがされることもあり、ファンは混乱を極めた。

 描き直し自体クリエイターにとってよくあることだ。クオリティを求めるがゆえに何度も手を加えるのは、それだけ情熱を注いでいる証拠でもある。ただ、『ワンパンマン』の場合物語の要所でバトルの展開そのものがガラッと変わる、キャラクター描写が激変する、といった大幅な修正複数回わたり繰り返されてきた。いったん掲載されたストーリーが「なかったこと」扱いになって別の流れに置き換わるわけだから単行本派の読者もネット連載を追いかけている読者も、「前回読んだ話と整合性が取れない!」と困惑することが多かった。

 そしてそのたびにSNS上では「あのシーンが変わってしまった」「前の方が良かった」「今回の変更でようやく繋がる部分が出てきた」といった感想議論が飛び交う。これがファン同士の新たな盛り上がりを生むこともあれば、逆に離れてしまう読者が出る原因にもなっているようだ。いずれにせよ、何度かの描き直しを経てリメイク版の物語は複雑な層を重ね、どのバージョンがどう公式なのか明確に説明しにくい状態へと突入してしまった感がある。

原作が全く進んでいない?

 では、そもそも原作であるONE先生の“本来の”ストーリーはどうなっているのか。ファンの多くが「Web版こそがONE先生オリジナル」と捉えていたが、リメイク版が“準公式”のような存在になり、更新頻度や描き直しの多さも加わって、いったいどれが正史なのか分からない――というのが現状の印象だろう。

 さらに言えば、ONE先生の別作品モブサイコ100』は見事に完結し、アニメ化も第3期まで走った。こちらは一定区切りを持って作品が終わったので、ファンとしても「完走した作品なんだ」という満足感を得られた。しかし『ワンパンマン』については、明確な“終わりの形”どころか、ストーリーの大部分が「これからどうなるの?」という段階で止まってしまっている。しかWeb版に関しては長らく大きな展開が更新されない状態が続き、「原作が全く進んでないのでは?」と揶揄されるほどだ。

 リメイク版の更新や描き直しに対してはファン比較情報を追いやすものの、Web版の原作がどういう状況なのか、どこまでが最新なのか、いまどういったペースで執筆が進んでいるのかが見えにくい。それゆえ、いっそ「Web版の展開なんてもう無かったことにされたんだよ」と皮肉を言う読者も出てきているほどだ。これが最終的にどのように整理されるのか、あるいは整理されないまま走り続けるのか、誰にも分からないというのが正直なところだろう。

メディアミックスによる混乱の拡大

 さらにややこしいのは、アニメやグッズ、ゲームなどのメディアミックス展開だ。アニメ基本的村田先生リメイク版をベースとしつつも、オリジナル要素や省略した部分が存在する。グッズやコラボイベントで扱われるキャラクター設定も、リメイク版をもとにしていることが多い。そうなると「Web版の○○というエピソードは反映されていないの?」と思うファンもいれば、「そもそも原作Web版の描写リメイク版では設定が違うから、どこまで辻褄を合わせるのか?」という問題も発生する。

 アニメアニメで、制作陣の都合や放送枠、予算なども絡み、原作に追いつきそうになると止まる、あるいはストックが足りなくて中途半端に終わる――といった状況が一般的に起こりやすい。『ワンパンマン』の場合例外ではなく、シーズン1やシーズン2、そして今後のシリーズ展開をどうするのか、ファンの間で色々な憶測が飛び交っている。結果として、リメイク版・Web版・アニメ版それぞれがどのあたりを公式な「本筋」として見るのかが人によってバラバラになり、ある意味“好きなように解釈してくれ”とでも言うかのような混沌さが生まれているように思える。

■ それでも愛される理由

 では、ここまでめちゃくちゃな状態になった『ワンパンマン』は果たしてファンに見放されているのかといえば、必ずしもそうではない。むしろ、これだけ混乱が生じているにもかかわらず、多くの読者が引き続き作品を追いかけ、議論を交わしている。それはやはり、作品が持つ独特の魅力が大きいからだろう。

 主人公・サイタマの「どんな相手でもワンパンチで倒してしまう」という最強すぎる設定と、そのまわりにいる個性的ヒーローや怪人たちとの絡み。戦闘シーンの迫力とギャグ要素の絶妙バランス。それに加えて、時折挟まれシュール人間ドラマ。どの要素も中毒性が高く、読者は続きが気になって仕方がない。だからこそ、「次はどんなバトルが見られるんだろう」「あのキャラクター活躍シーンがまた描き直されるかもしれないけど、どう変わるのか興味がある」という期待を捨てきれないわけだ。

 また、ONE先生作品作りの過程ファンを驚かせるアイデアを次々と生み出すことでも知られている。「この後、どう展開するんだろう?」というワクワク感が、混乱の中でもファンの心を掴んで離さないのだ。だから多少ストーリー前後しようが、キャラクターの設定が変わろうが、「まあ、ワンパンマンからな」と受け入れてしま空気があると言える。

■ 今後、整理される日は来るのか

 しかし、このまま「何度でも描き直しOK!」という状態が続けば、やはり読者は戸惑いを拭いきれない。単行本を揃えて楽しみたい派の人にとっては、どのタイミングで買えばいいのか、どこまでが決定版なのかが分からない。Web版を応援していた人にとっては、新しいエピソード更新されない寂しさや、リメイク版とのズレに対するモヤモヤが募るばかりだ。

 理想を言えば、例えばリメイク版がある程度の章を完結させた段階で「これが確定した正式ストーリーです」とひとつ落とし所を示してもらえると嬉しいかもしれない。あるいはWeb版に関しても「ここから先は絶対に改稿しない」「次の章まで一気に描きます」という形で区切りを示してくれれば、ファン安心できる。もっとも、それらはあくまで読者目線要望であって、作者サイドにとっては「もっと自由に描きたいし、納得のいくまで修正したい」という思いがあるかもしれない。

 だが、このまま複数バージョンが並立しつつ、さらにその中でも何度もアップデートが入るという“流動的”な状態が続けば、どうしてもついてこられないファンが増えるだろう。今はまだ熱狂的な支持層が「更新されたらとりあえずチェックしたい!」という意欲を持ち続けている。しかし、長いスパンで見れば、いつかはその熱も薄れていくかもしれない。いずれにせよ、作品の勢いを持続させるためにも、どこかの段階で「ここで一回確定版を提示します」という区切り必要になるのではないかと感じる。

■ めちゃくちゃ、でもワクワ

 以上のように、Web連載がまるでなかったことになっていたり、複数回の描き直しでストーリー紆余曲折を経たり、原作が全く進んでいないのではと疑われるほど停滞したり。『ワンパンマン』をめぐる現状は、確かに「もうめちゃくちゃだ!」と言いたくなるほど混乱を極めていると言える。 

 しかし、その混乱をも超えるほど魅力的な作品であることもまた事実だ。どのバージョンを読んでも面白いし、「次はどう変わるのか」「どんな強敵が出てくるのか」という期待は尽きない。めちゃくちゃであるがゆえに、多様な解釈が許され、ファン同士での議論も盛り上がる。ある意味、『ワンパンマン』は一種の“ライブ感”を持って進行しているとも言えよう。 

 作者と作画担当がどこまで自由作品を作り込み、描き直しを続け、ファンがそれに付き合っていくのか。あるいは、どこかで「完成形」が打ち出されるのか。今のところ誰にもはっきりとした答えは分からない。ただ一つ確かなのは作品根底にある魅力――サイタマの圧倒的な強さや、個性的キャラたちが繰り広げるギャグとバトルの融合――は変わらず、今後もファンを惹きつけ続けるだろうということだ。 

 いつの日か「ワンパンマンはめちゃくちゃだったけど、それが最高に面白かったよな」と笑い合える未来を信じつつ、混乱を楽しむのもファン醍醐味かもしれない。もしかすると、この“めちゃくちゃ”な状況こそ、ONE先生意図的無意識かはともかく、『ワンパンマン』という作品に込めた壮大なギャグなのかもしれない――そう思えてくるほどに、今日もまた読者は次の更新を待ちわびているのだ。

  • AIすごいな

  • 阿鼻叫喚なんて結局村田作画に魅了され餌付けされきった連中のツンデレでしかないな 数字も大して変わらんだろうし(無料の絵でシャブ漬けになった奴が小っちゃい増減で大騒ぎする...

  • ファンなら分かる明確な間違いが散見される。 AIを使う奴はマトモに内容チェックしないで投稿するから嫌なんだよ。

  • 原作しか読んでないけど村田は今すぐにタツマキやスイコがボコボコにされて犯されるマンガを描くべきだと思う

  • 『ガラスの仮面』も迷走して雑誌掲載時と単行本で話が変わってるんだよな 有名なのは「おやりなさいませ」だ 両思いだがすれ違い続けるマヤと速水 出会った頃は13歳と24歳だったので...

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