2025年1月24日(金)

BBC News

2025年1月23日

ドナルド・トランプ米大統領は22日までに、連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業に携わる全職員を直ちに有給休暇扱いにするよう命じた。

ホワイトハウスは22日午後5時(日本時間23日午前7時)までに連邦政府のすべてのDEI職員を有給休暇扱いにすると認めた。該当する部局はその後、閉鎖され、事業も中止されるという。

トランプ氏は21日に署名した大統領令で、多様性への取り組みは「危険で屈辱的かつ非道徳的」なものだとして、政府事業の中止を命じた。

連邦政府職員80万人を代表するアメリカ政府職員連盟(AFGE)によると、この命令でどれだけの人数が影響を受けるかは不明という。

トランプ氏は大統領就任以来、選挙中の主要公約を果たすため、議会承認の必要がない大統領令に次々と署名している。

DEI事業の廃止もそうした公約の一つで、選挙中にトランプ氏はDEI事業は差別的だと繰り返していた。就任演説でも、「肌の色が見えない、実力主義の社会を築く」と表明した。

DEI推進事業は、さまざまな背景を持つ多様な人々の職場参加を促進しようとする取り組み。

DEIの支持者は、特定のグループ、特に人種的少数派に対する歴史的な不平等や差別に対処するものだと位置づけている。しかし、むしろ差別的な取り組みになりかねないという批判がある。

アメリカ政府の人事管理局は21日、DEI担当の職員を休暇扱いにするよう政府機関トップに通知した。DEI事業関連部局の公式サイト削除などの指示も、通知に含まれていた。

連邦政府の省庁は23日までに、DEI部局と職員のリストを作成するほか、DEI部局で関係職員を解雇するための計画を31日までに書面で提出する必要があるという。

一方、トランプ氏の大統領令は、DEIおよびDEIA(多様性、公平性、包摂性、アクセシビリティ)を推進する「違法な」政策が、アメリカの法律に違反するものだと主張。DEI政策は、アメリカ人を差別から守る基本的な公民権法に「違反」する可能性があるとしている。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット大統領報道官は、DEI事業中止は「すべての人種、宗教、信条のアメリカ人にとっての勝利」で、トランプ氏の選挙公約実現につながると話した。

大統領令は、連邦政府の職員採用、昇進、業績評価において「DEI関連の要素」ではなく「個人の主体性」を評価するよう指示。さらに120日以内に「民間でも同様の多様性努力を終了させるため」勧告を提出するよう、司法長官に求めている。

トランプ氏の命令はさらに、リンドン・ジョンソン元大統領が1965年に署名した大統領令第11246号を撤回した。ジョンソン政権のこの大統領例は、連邦政府と契約する業者が自社内での採用時に「人種、肌の色、宗教、性別、性的指向、性自認、国籍」に基づいて差別することを違法としていた。

トランプ氏が廃止したこの大統領令は、連邦政府の契約業者に対して、採用時の機会平等確保のため積極的な対応も求めていた。

大統領令第11246号の撤回は、連邦政府と民間企業にさまざまな波及効果をもたらすと、政治学者のアルヴィン・ティレリー博士は話す。

民間部門でDEIトレーニングを行う「2040戦略グループ」共同創設者でもあるティレリー博士は、トランプ政権の決定によって理論上は、企業が従業員を全員白人にして、黒人やラティーノや女性を採用していなくても、「連邦政府の契約を受注する際に、政府の多様性基準に準拠していると示さなくてもよい」ことになったと説明する。

差別抑制やポジティブな行動を強化するための訓練が、廃止されかねないという指摘もある。

「何が差別なのか、差別とはどう見えるものなのか、周知が後退することになる」と、首都ワシントンを拠点とする公民権専門のレス・オルダーマン弁護士は話す。

連邦政府・議会の職員を代理することの多いオルダーマン氏は、「私たちの活動について、善意の人たちが一部を誤解するようになる。それはさまざまな影響を呼ぶ」と懸念する。

連邦職員を代表する複数の労働組合も、トランプ氏の大統領令を非難している。

AFGEは、連邦政府職員の間の性別および人種による賃金格差が、多様性プログラムで減少したと主張している。

AFGEのエヴァレット・ケリー会長は声明で、DEI取り組みの廃止は「実力主義の公務員制度を弱体化させ、連邦政府ポストに採用されるか解雇されるかの決定が、忠誠心テストになってしまう」と述べた。

全国連邦労働者連盟のランディ・アーウィン会長は、トランプ氏の命令が「無党派の公務員を脅迫し攻撃するために設計された」ものだと述べた。

21日の大統領令に先立ちトランプ氏は20日にも、関連する命令に署名している。そこで大統領は、すべてのDEI部局、役職、および事業を「法律で許される最大限の範囲で」60日以内に終了すると宣言した。

廃止される役職には、「多様性最高責任者」や「環境正義」関連の職が含まれる。

アメリカではこのところ、マクドナルド、ウォルマート、フェイスブックを運営するメタなど、複数の大手企業がDEIの取り組みを終了または縮小している。

一方、アップルや小売業者のターゲット、コストコなどは、自社のDEIの取り組みを公然と擁護している。

ティレリー博士は、バイデン政権が政府全体にDEI関連の役職を増やそうとしたのは良い取り組みだったものの、目標を達成しなかったと述べた。

「DEIのポストは予算不足で、人員不足で、仕事をしている人々は非常に少ないリソースで果敢に働いていたが、それが今ではゼロになる」

(英語記事 Trump puts all US government diversity staff on paid leave 'immediately'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/czj348r4nmmo


新着記事

»もっと見る