カーネギー国際平和財団のスティーブン・ワータイムが、欧州はその安全を北大西洋条約機構(NATO)通じて米国に頼ることは最早出来ないことを知る必要があるという論説を2024年12月30日付のフィナンシャル・タイムズ紙に寄稿している。
一世代の間、米国は最も重大な面を別とすれば、あらゆる面で欧州における支配的な軍事力であった。最も重大な面とは、重要なコストを払って戦うことにより防衛のコミットメントをまっとうする用意があるということを指す。トランプはこの問題を映し出しているが、彼がその問題を起こした訳ではない。
冷戦期、米国の欧州防衛のコミットメントは信頼に足るものだった。欧州で二度の大戦を戦った米国民は義務を負った。米国民は欧州大陸全体を征服するに足る通常戦力を有する共産主義の敵方に立ち向かった。
しかし、冷戦後、欧州で米国が支配的軍事力を維持することの根拠は覆った。脅威は甚だしく微細であるので米国の軍事的負担は重荷とは全く思われなかった。低いコストの見返りに、東欧諸国の市場民主主義を支持し、バルカンを安定させる控え目な利益を米国は得た。
米国はNATOの際限のない拡大を支持すらして、1990年に16だった加盟国を今日の32にした。米国は名目上保護を提供した諸国を防衛するという決意からではなく、一旦保護を提供すれば不本意なことを強いられる攻撃が起きることはないと信じて拡大を支持した。
バルト諸国を含む7カ国を加盟させたNATOの「ビッグバン」の議会上院による全会一致の承認を考えてみるとよい。上院議員達は、仮にロシアに侵攻された場合、米国がこれら諸国を防衛するかをほとんど考えもしなかった。それ故に、彼等は拡大を米国の世界的指導力とテロとの戦いに対する支持を獲得するための象徴的行為と見做した。
米国は非常に強力であるので誰も敢えて挑戦しようとはしないと考えた。NATOにこれら諸国を加盟させること、そのこと自体が彼等を防衛してやることを必要としないことになると。この考え方はいまだに続く。特に、ウクライナのために戦うことを拒否した同盟にウクライナを加盟させることを主張する諸国の考え方がこれである。