黄金時代とは、国家・集団・個人・概念などがもっとも輝いている(輝いていた)時期である。
曖昧さ回避
- 1930年にフランスで公開された映画(原題 L'Âge d'or)。
- 1930年にロシアのショスタコーヴィチが完成させたバレエ曲(原題 Золотой век)。
- 2016年にRADIO FISHが発表した曲。
概要
同義語に「黄金期」「全盛期」があり、それぞれ充実した大百科記事があるので、本項では黄金時代という言葉の語源を解説することに注力したい。
日本で最初にこの言葉を使い出したのが誰かは不明だが、小学館の日本国語大辞典には内村鑑三が1893年に『基督信徒の慰』の中で黄金時代を使った例が掲載されている。内村は英語学習を受けているので、英語の Golden Age を訳して使った可能性が高い。いずれにせよ、現在では黄金時代というのは英語の Golden Age の和訳だという説明が一般的である。
同様の表現は英語に限らずヨーロッパの各言語に見られ、語源をたどれば古代ギリシアに行きつく。紀元前700年ごろの詩人ヘシオドスが作詩した『労働と日々』(『仕事と日』とも和訳される)の中に登場する「5つの時代」の1番目が黄金時代とされる。
それによれば、神々は最初に「黄金世代の人間(χρύσεον ένος)」を創造したという。彼らは悲しみを感じることなく神のように暮らし、老いることなく、手足が衰えることなく、いつも宴をして楽しみ、死ぬときはまるで眠りに落ちるかのように安らかだったそうだ。大地は彼らに惜しみなく果物を与え、おかげで黄金世代の人間は平和にリア充な暮らしを満喫できたらしい。
従って、ここから生まれた黄金時代という言葉には「繁栄の時代」とともに「争いのない平和な時代」「安定した時代」という意味合いがあった。「ローマ帝国の黄金時代」と言うときなどにはその傾向が顕著であろう。とは言え、今では強烈なライバルに脅かされていたり、そもそもその分野でナンバーワンになっていなかったり、ほとんど長続きしなかった場合にも「○○の黄金時代」と言うケースがある。
それでもわざわざ黄金時代という言葉を使う意味は、以下の英語のことわざが的確に言い表している。
The Golden Age was never the present age.
黄金時代が今の時代だった例は皆無である。
いつの時代も、人間は過去を振り返って「昔は良かったなあ」と思わずにはいられないらしい。そして一番輝いていた(はずの)時期が黄金時代と形容されるのだ。
ではここでヘシオドスの『労働と日々』の続きを見てみよう。
黄金世代の人間たちは、やがてみな安らかな眠りについて精霊となった。そこでオリンポスの神々は「白銀世代の人間」を作り出す。彼らは身体・精神ともに黄金世代より劣っていた。白銀世代の寿命は百年だが、その間彼らはまるで成長していない。ずーっとガキのまま母親のところにいて、ようやく大人になったと思ったら不道徳なことばかりするせいで苦しむ羽目になって速攻で死んでしまうのだとか。見るに見かねたゼウスが彼らを「かたづけた」ことで白銀時代は終わった。
次にゼウスが作った「青銅世代の人間」はもっと酷かった(だったら前世代を始末するなよ)。彼らは暴力大好きで青銅の鎧を身にまとい、青銅の家に住み、青銅の道具を使い、戦いに明け暮れて自滅してしまった。
再びゼウスの手によって第四世代の、半神半人のような存在でずっと道徳的な人間が作られた(最初からやれ)。第四世代は英雄時代とも呼ばれ、色々な文献によればヘラクレスやペルセウスのようなギリシア神話に登場する英雄たちが活躍したのはこの時代ということになっている。黄金時代と違って、人々が戦いに明け暮れる時代ではあった。戦乱によって多くの者が死んだが、何人かは人の住まう地から隔絶された場所で安らかに過ごすことを許されたという。
そして五度目に作られたのが「鉄の世代の人間」つまり我々である。昼は労働の苦しみに追われ、夜は死の恐怖から逃れることができない。父は子を信用せず、子は父を信用せず、客も主人を信用せず、戦友同士も、兄弟も前の時代と違って互いを大事にしない。以下、ヘシオドスによってやけに具体的な文句が長々と続く。要するに鉄の時代は嫌な時代なのだ。
これだけ見ると白銀時代や青銅時代より鉄の時代の方がマシに見えるかもしれないが、寿命は縮んでいるし、生きるために必要な労働量もはるかに多い。英雄時代という例外はあるが、基本的に人間の暮らしはどんどん悪くなっているという歴史観があるのだ。まあ、スケールのでかい懐古厨だと思えばいい。
人類の歴史をこんな風にとらえたのはギリシア人だけではない。仏教にも釈迦の教えが正しく広まっていた「正法」、形骸化した「像法」、全く守られなくなった「末法」という概念があり、日本では平安時代末期に「末法時代ハジマタ、人類オワタ」という末法思想が流行してたりする。
そんなこんなで、黄金時代と言った場合には今は劣っているというニュアンスが含まれている可能性、あるいはそう捉えられる可能性がある。また、神話と違って、いつが黄金時代だったかなどというのは主観に拠るところが大きいので、談義するときはその辺りを承知の上で喧嘩腰にならないように気をつけたい。
また、「これから黄金時代が始まる」という表現があるように、現在や未来が黄金時代でも構わないじゃないかというスタンスの人も多い。願わくば皆さんにとって今が黄金時代であり続けますように。
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