人類、立入禁止。
「第9地区」(District 9)とは、2009年に公開されたSF映画である。
概要
監督はニール・ブロムカンプ、プロデューサーとしてピーター・ジャクスンがクレジットされている。
元はFPSゲーム「Halo」の映画化企画であり、「Halo」シリーズの実写CMで高いクオリティの映像を送り続けて来たブロムカンプが起用されていた。だが契約金の問題からHaloの映画化は中止となる。その後、ブロムカンプの短編映画「Alive in Joborg」をベースにしたオリジナル作品として本企画は日の目を見た。
元企画が元企画だけにアサルトライフル・ショットガン・グレネードランチャー・RPG-7・ガトリング砲に20mm対物ライフルといった様々な現実の武器やビーム銃・ミサイル・パワードスーツといったド派手なSF武器が登場し、とにかくFPS症候群患者は見ておいて損は無い。また、「死にたい人にお薦めの危険な街」ヨハネスブルグ育ちのブロムカンプが描くエイリアンと人間の関係は、南アフリカ共和国でのかつてのアパルトヘイト政策と今も続く差別や格差、排外主義の問題を反映し、かなり社会批評的な面も含まれてこれも評価が高い。
なお、本作は大量出血や部位欠損、そしてゲロといったシーンが多数含まれるため、そういったものが苦手な人にはおすすめしない。見る際には食事のタイミングも考えるように。
あらすじ
1982年、地球を訪れた巨大な宇宙船はなぜか南アフリカのヨハネスブルグ上空に停止し、何の反応も起こさなかった。半年後、業を煮やした人類は宇宙船に穴を開けて内部に突入。中にいたのは、病気で弱ったエイリアン達だった。外観から「エビ」と揶揄される彼らは、宇宙船の真下の「第9地区」に保護されて難民生活を送ることになった。しかし頭の悪さと繁殖率の高さから外の住人とのトラブルが絶えず、新設する新管理区域への移動が準備されることになる。
時に2010年、第9地区の管理を任された超国家企業「MNU」のエイリアン管理課に勤める主人公ヴィカスはその「エビ」たちに強制立ち退きを通告するため、傭兵部隊とともに第9地区に向かう。昇進も命もかかった大事な仕事。しかしそこで彼はエビたちが保管していた謎の液体を浴びてしまう。
液体を浴びたヴィカスは体調を崩して病院へ担ぎ込まれるが、そこで判明したのはヴィカスの肉体が「エビ」へと変化しつつあるという事実だった。「エビ」のもつテクノロジー解析のため実験材料として殺されそうになったヴィカスは隙をついて脱走したが、MNUは「エビ達と一発○ったために危険なウイルスに感染した男が逃亡中」という報道を行い、逃げ場を失ってしまう。彼に残された唯一の場所は、「エビ」たちの住処、「第9地区」だけだった。
登場人物
ヴィカス(シャールト・コプリー)
MNUのエイリアン課に勤務する男。「エビ」達のことは内心嫌悪しており、生まれる前の卵を殺して焼き払う悪趣味な面もあった。しかし謎の液体を被ったことで体細胞のDNAに異常が発生し、MNUとナイジェリアギャング団に追われる羽目になってしまう。なにかと利己的で悪く言えば自分勝手、良く言えば人間くさい男。
クーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)
MNU傭兵部隊の指揮官でたたき上げの元軍人であり、会社人間のヴィカスとは反りがまったく合わない。ヴィカス逃亡後はその追跡の指揮をとる。「エビ」を残虐に殺すことを好む。
タニア(ヴァネッサ・ハイウッド)
ヴィカスの奥さん。MNUの会長の娘でありヴィカスのよき理解者。だが、親父の「ヴィカスがエビと○った」というウソには乗せられてしまったようである。
オビサンジョ(Eugene Khumbanyiwa)
ナイジェリアギャング団のリーダー。足が不自由。エイリアンの能力を身につけるためヴィカスを付け狙う。
クリストファー・ジョンソン(ジェイソン・コープ)
エイリアン。数少ないまともな知性を持った「エビ」の生き残り。第9地区に移り住んで以来、あるものを収集していた。機械いじりにたけた一人息子がいる。
用語
エビ(Prawn)
地球にやってきたエイリアンたちの蔑称。名前は見た目から。階級によって知能が違うらしく、宇宙船で発見された時には高知能階級はほぼ全滅していた。頭は悪いが体力は高く、素で屋根を飛び越え、人間の腕をもぎ取るほどの力がある。窃盗や放火などの犯罪を繰り返し、周辺の住民とのトラブルが絶えない。好物は古タイヤと猫缶。とくに猫缶には目が無い。
周辺住民は基本的にとっとと宇宙船を直して地球を出ていけ、というスタンスだが一応エビの権利保護を訴える人たちもいる。そして、出て行ってもらっては困る人たちもごく少数いる。
第9地区(District nine)
保護されたエイリアンたちが移り住んだ地区。浮遊している母船の真下にある。内部はボロいバラックが軒を連ねており、環境は決して良いとは言ない。壁や厳重な警備で外部とは隔離されており、人間の立ち入りは建前上禁止されている。ただしナイジェリアギャングが公然と「エビ」相手の商売をしていたりもする。
モデルになったのは、アパルトヘイト時代の黒人居住地区である「第6地区」。ただし第6地区自身は人種隔離を目的としたものでは無い。
エイリアンの技術
エイリアンの開発した道具や武器はビーム一発で人間を吹き飛ばしてバラバラにする・飛んできた弾丸を空中に停止させられるといった力があり、人類の技術を大きく上回る。ただし、動かすためにはエイリアンのDNA認証が必要らしく、人間では動かすことができない。
MNU(Multi National United)
主人公が所属する超国家企業。世界第2位の軍需メーカーであり、独自の傭兵部隊を持つなど民間軍事会社(PMC)的な側面もある。国からの委託で第9地区を管理しているが、その真の目的はエイリアン技術(とくに兵器)の回収とその実用化であった。ヨハネスブルグのMNUビル地下には大規模な実験施設があり、回収した物品のテストや「エビ」相手の実験が極秘に行われていた。
傭兵部隊の装備は南アフリカの軍需メーカーが開発したものが多い。
ナイジェリアギャング
ナイジェリアから「出稼ぎ」にやってきた犯罪者たち。「エビ」相手に商売・賭博果てはエイリアン相手の売春までやっている。特に密造の粗悪品による「猫缶詐欺」が悪名高い。第9地区は立ち入り禁止のはずだが、自動小銃からミニガン・RPGまで「ある程度以上」の戦力をもつので、MNUも衝突を避けるため無視している。
ギャング達はエイリアンを「食す」ことでその能力を手に入れ、エイリアンの武器が動かせるようになると信じており、何体もの「エビ」が殺されている。(これはアフリカの一部で現実に起こっている呪術師による殺人や魔女狩りを反映したものである)
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トリビア
- 本作には残念ながら「バールのようなもの」は出ない。 代わりと言っては何だが斧による痛~いシーンがある。
- ブロムカンプは『超時空要塞マクロス』のファンで、それを意識したと思われる(?)シーンがある。
- 「エビ」のモデルになったのはヨハネスブルグに住む巨大なバッタの一種「Parktown Prawn」。虫系が苦手な方は間違ってもイメージ検索しないように。
- 本作でデビューしたシャールト・コプリーは演技が評価され、この後『特攻野郎AチームTHE MOVIE』のマードック役が決定した。
- 劇中登場するナイジェリアギャング団の描写があんまりだということでナイジェリア国内では上映禁止になっている。
関連リンク
- 「第9地区」オフィシャルサイト
- 第9地区エイリアンフォント
- District 9 - MNU Alert (英語) 公式Flashゲーム。
- WETA (VFX・美術を担当したピーター・ジャクスンのスタジオ 設定資料あり)
関連項目
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