概要
少し簡単に言えば少年少女の刑事事件に関する刑法&刑事訴訟法。
少年少女の更生の可能性を考えて成人とは異なる刑、処分を下し、また少年に向けた特別な手続を定めた法である。
具体的には保護観察や少年院送致、実名報道を避ける努力義務(強制ではない)、刑の減刑(18歳未満の者は死刑にならない)などがある。
また、戦後まもない戦災孤児たちの止むに止まれぬ犯罪に対して、情状酌量するために作られたという言説が見られるがそれは全くの誤りである。少年法自体は、20世紀初頭でアメリカで行われて一定の成果があがったのを見た大正期の我が国において、激しい議論の末に1922年(大正11年)に成立した法律である。(ちなみに当初は日本全国ではなく、少年犯罪の多かった都市部を抱える三府二県に限って施行されていた。全国で施行されるようになったのは戦中の1942年から)
議論
ぶっちゃけ刑法39条(心神喪失・心神耗弱)と並んで評判の悪い法律である。改正・廃止すべきという声も多い。ただし、廃止には人権派弁護士をはじめとして、少年少女の権利擁護を訴える団体からの反対も根強い。
理由は被害者の感情、また死刑にならないことで少年少女が凶悪事件を起こす、(ようするに犯罪の低年齢化)そうでなくても保護処分など軽い処分のせいで図に乗るという意見が多い。実名報道と死刑は科すべきであるというわけである。
少年法のボーナスがあれば、顔も実名も報道されず、刑期も刑罰も大幅割引のサービス期間。
悪人にしてみれば犯罪を犯さないと損だし、「今犯罪をやらなくてどうするの?」というもの。
その一方で少年少女の責任能力の問題から維持すべきという意見もある。これはどういうことかというと、「少年に大人と同じ罰を与える=大人と同じ責任能力があると判断する」ことを意味するから、例えば少年に自動車運転免許や選挙権を与えても良いことになるし、性風俗に走っても自己責任として片付けられ、守られなくなってしまう恐れがあるからである。「少年に対し大人と同様の刑罰を負う義務だけを与え権利を与えないことは人道上あってはならないことである」という観点から、少年法を支持する者も居る。
専門家や法曹界の見解としては、少年法の廃止は一貫して否定されており、部分的な改正を支持する者はいるものの少年法そのものを全面的に廃止すべきという見解はほぼないと言える。その理由などについては、次の項に記す。
少年法が必要である理由
成人の場合は刑法で定める犯罪に当たらない限り処罰することは許されないが、少年法の場合犯罪ではない非行(夜間徘徊など)でも補導や家裁での審判・保護観察が出来る。少年法が廃止されると却って非行少年が野放し状態になってしまう。また、刑法上14歳未満の行為は犯罪にならない(刑法41条)ため、少年法がなければ少年院にすら入院させられないことになる。
量刑相場から見ても、成人なら執行猶予となり社会復帰できる件も、少年であるがゆえに少年院に送致され一定期間社会から隔離されるケースも多い。ゆえに「少年法があるから非行少年が図に乗って犯罪を犯すという主張は誤りである」とする意見もある。
また少年に対し事件や事故の責任を大人と同じ重さで負わせるということは、同時に親の監督責任を全否定することを意味するものであり(子供も大人と同じ責任=子供も1人の人間=親や周りの大人に責任はない、という理屈になる)、少年・子供にとって過酷な(=大人に都合の良い)社会が形成されてしまい、子供の未来に閉塞感を与えてしまうことが懸念されることなどから、少年に大人と同じ罪の責任を被せることは好ましくないと言わざるを得ない。現在の刑事裁判においては、社会復帰後の犯罪者の更生については本人の努力にほぼ丸投げされており、社会経験に乏しい少年に対して同じことを行うならば、放り出された少年が更なる罪を重ねることにもつながってしまう。また厳罰化が過度に進行すると、少年にとって過剰な責任を課することによって追い込まれた少年が、唯一犯罪にならない殺害=自殺を選ぶことに繋がりやすくなる恐れもある。
実名報道の禁止に関しては少年法第61条が根拠とされているが、それ以前に同法第1条の条文を読み解くと、少年といえど凶悪犯は非行の範疇外であると捉えることもできる。ゆえに61条の規定や人権を盾にする弁護士らを恐れて萎縮し、あらゆる少年犯罪の実名報道を自粛するマスコミ自体を非難する声も挙がっている。
死亡者が1人の殺人罪や交通死亡事故などの重過失致死罪のように、大人であっても死刑にならないか、死刑となる可能性が極めて低い犯罪に対し有期刑が下された場合も少年法のせいにする声がよく挙がる。確かに少年の場合刑が大人よりも1段階軽くなるのが相場と言われているが、死刑云々の話となるとそもそもが筋違いな主張(大人でも死刑にならない=刑法による刑罰の重さの問題)になってしまうのであり、少年法とは別の問題として捉える必要がある(→死刑存廃問題の項も参照)。
ちなみに「18歳未満の少年に死刑を適用することが出来ない理由は少年法があるからである」というのは誤解である。少年法にもそのような規定はある(少年法51条)が、実質的にこれを禁じているのは日本も批准している2つの条約である。
まず、「児童の権利に関する条約」の37条(a)が挙げられる。なお、この条約は第1条で18歳未満の者を「児童」と定義しつつも、児童の年齢は国の法律で変更することを許している。しかし、第37条aでは「児童」ではなく「18歳未満」の死刑及び終身刑を禁じており、死刑及び終身刑については成人年齢の変更による死刑及び終身刑の可能性を否定していると解釈される。
また、国際人権規約の自由権規約第6条5項においても18歳未満への死刑は禁止されている。
日本国憲法では憲法を例外として一度批准した国際法は国内法に優越するとされており、仮に少年法を撤廃してもこれらの条約が適用され、死刑は禁止されることとなる。
特に児童の権利に関する条約に批准している国家は196カ国中193カ国である。もしこの条約を破棄したり、例えば少年に対する死刑の執行を可能にするため第37条aを留保するなど、条約の理念に反する形で留保をしたりすれば、国際社会における日本の立場がどうなってしまうかは想像に難くないであろう。
なお、批准していない3カ国のうちの1つにアメリカ合衆国が含まれているが、アメリカ国内でも州によっては死刑そのものを廃止していたり、死刑を残してはいても児童への死刑は廃止していたりするなど考え方が一枚岩ではないことに注意する必要がある。
少年法改正
少年法は2000年、2007年、2008年、2014年、2021年に改正されており、刑事処分可能年齢の引き下げや有期刑・不定期刑の上限の引き上げなどが行われており厳罰傾向である。少年法改正以外にも様々な手段が講じられているが、1990年から増加傾向であった少年の犯罪は2000年から減少傾向になり、再犯率(再入率)も緩やかな減少傾向にある。
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