憲法とは、国の統治の基本原理、その組織と権限について定めた法規範のことである。 ひょっとしたら→拳法
憲法とは何か
「憲法とは何なのか」と問うたとき、いくつかの答えを考えることが可能である。
例えば、ある意味でトートロジーではあるが、「憲法」という名前の付いている、ある単一の法典が憲法なのだ、ということができる。こうした考え方を「形式的意味の憲法」という。
諸外国の法を見てみると、ドイツのボン基本法は、基本法(ドイツ語で"Grundgesetz")という名前であり、憲法(ドイツ語で"Verfassung)という名前が付いていないので、この意味ではボン基本法は憲法ではない、ということになる。また、ある単一の法典を形式的意味の憲法とする以上、成文化されていることが大前提なので、イギリスにもこの意味での憲法は存在しない。
なお、聖徳太子の十七条憲法は、憲法という名前こそ付いているものの、そもそも法ではなく単なる道徳規範なので形式的意味の憲法には当たらない。
こうした考え方に対して、名前などではなく法の中身によって判断しようという考え方がある。これを「実質的意味の憲法」という。この場合、単一の法典である必要も成文化されている必要もなく、複数の法典で憲法を形成していることもあれば、不文法(慣習法)が憲法を形成していることもある。
とはいえ、もちろんこれだけでは何が憲法なのかは定まらない。具体的にどういう中身(内容)の法を憲法とするのか、という問題が残っているからだ。
1つには、国の公権力が誰に帰属するのか、そしてそのような国家権力がどのように行使されるのか、ということを定めた法が憲法であるとする考え方がある。これを「固有の意味の憲法」という。いかなる国であれ、統治をする以上、国家権力とその行使に関するルールは必ずあるはずなので、この意味での憲法はあらゆる国に存在すると言われる。
もう1つには、近代立憲主義という思想に基づく内容をもつ法が憲法なのだとする考え方がある。これを「立憲的意味の憲法」(近代的意味の憲法)という。今日において最も重要な意義を有するのがこの意味での憲法であり、憲法学でも立憲的意味の憲法をその対象としている。
近代立憲主義とは、国民の自由と権利を保障するために、権力の分立を定め国家権力を制限するという思想で、フランス革命に際して1789年に採択されたフランス人権宣言の第16条が立憲主義を最も端的に表現するものであり、かつ、近代立憲主義の出発点でもある。
フランス人権宣言第16条には『権利の保障が確保されず権力の分立が定められていない全ての社会は、憲法をもたない』と書かれている。逆に言えば、権利の保障を確保し権力の分立を定める社会は憲法をもつということであり、憲法とは権利の保障と権力の分立が目的であり本質なのだということを高らかに宣言したものである。
ただし、実を言えば、国家権力を制限し国民の権利を保障しようという考え方自体は、古くには古代ギリシャや古代ローマにも見られるし、1215年のイギリスでは国王の権利を制限し国民の権利を保障するマグナ・カルタが制定され、法律家ブラクトンが『国王といえども法の下にある』という極めて有名な言葉を残している。
しかし、そうした近代以前の立憲主義は、封建制社会、身分制社会を前提としているという点で、近代立憲主義とは決定的に異なる。近代立憲主義は身分制社会から解放され平等となった個人の尊重を前提とするものである。
我が国の日本国憲法において【すべて国民は、個人として尊重される】と定めた第13条が最も重要な条文とされるのも、こうした歴史的・思想的背景があるからである。
最後に注意をしなければならないのは、一見すると立憲的意味の憲法に見えて、その実態は、立憲主義は単なる建前で実質的には立憲主義を否定するような内容(人権の保障に消極的・国家権力をほとんど制限していない)である場合がある。このようなものを「外見的立憲主義」という。一般的に、大日本帝国憲法(明治憲法)は外見的立憲主義とみなされている。
以下、この記事では立憲的意味の憲法について説明する。
憲法の分類
成文憲法・不文憲法
成文化され憲法典が存在している憲法が成文憲法、不文法(慣習法)によって形成される憲法が不文憲法である。
大多数の主要国は成文憲法を有する。イギリスは不文憲法の国とされるが、不文法だけでなく、実は一部の成文法典もイギリスの憲法の一部を構成している。1215年に制定されたマグナカ・カルタはその代表例で、制定から800年以上経った今でも、マグナ・カルタは現行法であり、イギリスの憲法の一部をなしている。
欽定憲法・民定憲法・協約憲法
君主が制定し、国民に与える憲法が欽定憲法(大日本帝国憲法や1814年のフランス憲法など。)、国民が制定する憲法が民定憲法、君主と国民の合意によって制定する憲法が協約憲法である。
硬性憲法・軟性憲法
通常の法律よりも厳しい改正手続を有する憲法が硬性憲法(日本国憲法など)、通常の法律と改正手続が変わらない憲法が軟性憲法である。 世界の主流は硬性憲法である。
硬性憲法と軟性憲法は単に改正手続による区別に過ぎないのど、社会的条件や歴史的背景などにより、硬性憲法であっても頻繁に改正が行われる国や軟性憲法であってもほとんど改正が行われない国などがあり、実際の改正のしやすさとは必ずしも関係しない。
連邦制国家の州
連邦制国家を構成する州は、日本の都道府県などとは違い単なる自治体・行政区画ではなく、それ自体が本来1つの国家であるため、連邦国家そのものとしての憲法とは別に、各州がそれぞれ独自の憲法を有する場合がある。
例えば、ドイツはボン基本法とは別に各連邦州が独自の憲法を持っているし、アメリカも合衆国憲法とは別に各州が独自の憲法を持っている。
世界的に見て特殊な憲法
ほとんどの国は、憲法を『最高法規』としており、憲法がその国の法体系における頂点に君臨するが、オーストリアとオランダは歴史的経緯などから国際法を非常に重視しており、国際法を憲法よりも上位に置いている。つまり、オーストリアやオランダの最高法規は憲法ではなく国際法なのだ。
オーストリア連邦憲法の第50条3項では、条約によって憲法を改正・補充することができると定められている。条約によって憲法を変えることができるということは、条約、すなわち国際法が憲法よりも優先されるということである。
オランダ憲法の第91条3項では、『憲法に抵触する条約』も議会で3分の2以上の賛成があれば承認できると規定されている。憲法に反する条約を承認できるということは、憲法よりも条約、すなわち、国際法の方が上位ということである。
また、宗教の聖典を憲法とする国もある。イスラム諸国の1つであるサウジアラビアは、イスラム教の聖典であるコーランと、預言者ムハンマドの慣行であるスンナが憲法であるとされており、その他の法律もイスラム法に基づいている。
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