フィリップアイランドサーキットとは、オーストラリア南東部ヴィクトリア州のフィリップ島にあるサーキットである。
MotoGPのオーストラリアGPが開催される。
略歴
1928年~1940年 公道レース時代
フィリップ島でレースが初めて行われたのは1928年3月31日のことであり、4輪自動車が10.6kmのコースを16周して169km(105マイル)を走るレースだった(記事)。このとき、公道を封鎖して四角形のコースを作り上げてレースしたという[1]。長方形コースでのレースは1935年まで行われた。
1935年11月5日のオーストラリアドライバーズカップでは、1周5.3kmの三角形コースを作り上げて、そこで4輪自動車によってレースをした。この三角形コースでのレースは1940年まで行われた。
1956年~1978年 コース形状の原型が決まる
1951年になると地元の6人のビジネスマンがサーキット建設を始め、1956年にサーキットが開場した。このときのコース形状は、2021年現在のフィリップアイランドサーキットとほとんど同じものであり、1周4.8kmだった。1962年にはいったんサーキットが閉鎖され、1967年に使用再開し、1978年に再びサーキット閉鎖となっている。
1989年 オートバイの国際レースが開催されるようになる
1978年から10年ほどサーキットはほとんど使われていなかった。
1985年にファーガス・キャメロンという人物がプレースタック(Placetac)という会社を通じてサーキットを購入した。ファーガス・キャメロンはサーキットを農場に作り替えるつもりだったが、ボブ・バーナードという人物にモータースポーツの素晴らしさを教え込まれ、農場にすることをやめることにした。ボブ・バーナードが50%の所有権を買ってサーキットを再開発することにした(記事)。
1980年代の、サーキット再開発をする前の画像はこちらである。羊が道路を横切っていて、なんとも牧歌的な風景となっている。
1987年にオーストラリア人のワイン・ガードナーがMotoGPの500ccクラスでチャンピオンを獲得して、「サーキットを再開発してオーストラリアGP(MotoGP)を誘致しよう」という気運が一気に盛り上がった。
1988年12月4日に開業し、スワン保険国際シリーズというオートバイレースを開催した。1989年4月7日~9日にはMotoGPが開催され、500ccクラス決勝でワイン・ガードナーが優勝した。
1989年と1990年にMotoGPを開催したあと、1991年から1996年までシドニー近郊のイースタンクリークにMotoGP開催権を譲っていた。しかし1997年にMotoGPの開催権を奪還し、それ以来2019年までMotoGPを23年連続開催した。2020年はコロナ禍の影響を受けてMotoGPの開催が中止となったが、2021年の開催予定にはフィリップアイランドサーキットの名前が加わっている。
1990年からはスーパーバイク世界選手権を開催するようになった。1990年から2020年の31年間の中で1993年を除いて30回の開催をしており、定番となっている。
2004年 リンフォックスに買収される
2004年になると、リンゼイ・フォックスという実業家が率いるリンフォックスがサーキットを買収した。リンゼイ・フォックスは億万長者として知られる(記事)。実際の経営は、リンゼイ・フォックスの息子のアンドリュー・フォックスが務めている(記事)。
2004年以前の所有者のファーガス・キャメロンは、サーキットの管理者になっている。
立地
フィリップ島の中にある
オーストラリア南東部のヴィクトリア州には同国最大級の都市メルボルンがある。その中心地から南へ直線距離で80km離れたこの場所にフィリップ島があり、その中にフィリップアイランドサーキットがある。
東京駅から千葉県館山市(房総半島の先端)の距離が77kmなので、それと同じぐらいである。
メルボルン市中のホテルに宿を取ると移動が大変になるので、MotoGPの関係者はフィリップ島近くの民家にホームステイすることも多いらしい。この画像はMoto3クラスに参戦するチームの画像である。フィリップ島近くの民家を借り切って、スーパーに買い出しして、ライダーやメカニックが手料理を作り、お食事している。
フィリップ島はこぢんまりとした島で、縦13km・横20kmの四角形に収まる(航空写真)。フィリップ島の北海岸はCowesという地名で住宅地が並んでいるが、南海岸には住宅がほとんど無い。
フィリップ島とオーストラリア大陸をつなぐ橋は、この場所に架けられている1本だけである。レース終了後は当然のように大渋滞となり、フィリップ島を出るだけで5時間かかる。
フィリップ島周辺にはホテルもなく、フィリップ島とメルボルン国際空港も直線距離で100km離れている。日本人にとっては遠征するのが辛いサーキットと言える。
南の海岸に面する
サーキットは南の海岸線近くのこの場所にあり、南のバス海峡(タスマン海)から吹き付ける潮風の影響を強く受ける。フィリップ島をGoogle地形図で見ても、島の中にたいした隆起がなく、風がどんどん流れ込む地形になっていることが分かる。
バス海峡から吹き付ける強風で雲が運ばれやすく、天候が変わりやすい。
本サーキットからバス海峡を隔てて250km程度のところにタスマニア島があり、本サーキットから3,100km程度のところに南極大陸がある。ゆえに「サーキットに南極大陸からの風がやってくる」というのは、やや大袈裟な表現である。
時差
日本との時差は1時間かまたは2時間となっている。手っ取り早く調べたいのなら「東京 メルボルン 時差」で検索すると便利である。
本サーキットのあるオーストリア・ヴィクトリア州はサマータイムを導入しており、10月第1日曜日午前2時になったら時刻を1時間進め、翌年4月第1日曜日午前3時になったら時刻を1時間遅くして元に戻す制度である。
現地時間の10月第1日曜日午前2時から翌年4月第1日曜日午前3時はサマータイム期間であるから、日本との時差が2時間で、サーキットのほうが2時間進んでいる。
現地時間の4月第1日曜日午前3時から10月第1日曜日午前2時はサマータイムがない期間であるから、日本との時差が1時間で、サーキットのほうが1時間進んでいる。
緯度と気候
サーキットは南緯38度30分のところにある。北緯38度15分のところに宮城県仙台市があり、北緯37度54分のところに新潟県新潟市があるので、それらと同じぐらいの緯度にある。
仙台市や新潟市は雪が多く降るが、メルボルンやフィリップ島はほとんど雪が降らない。
最も暑い2月でも平均最高気温は23.8度にしか上がらない。これは東京の5月下旬程度と同じで、冷涼な気候の場所に位置するサーキットと表現できる(資料1、資料2)。
MotoGPが開催される10月の平均最高気温は17.9度であり、東京の4月と同じぐらいで、やはり涼しい。
MotoGPの開催を3月に移すという噂があるが、3月の平均最高気温は22.3度で、東京の5月下旬程度で、だいぶ暖かい時期である。
南半球のテストコース
北半球が冬に突入した際に、南半球に位置している本サーキットは夏を迎える。
北半球で活動するモータースポーツのチームは、自動車・オートバイの走行に向かない冬になったら本サーキットにやってきてテストをすることができる。このため、2輪・4輪の様々なレーシングチームがテストコースとして使用する。
ただし、このサーキットはFIAグレード3で、F1マシンの走行に必要なFIAグレード1を取得していない。このためF1のテストには使用されない。
最寄りの病院
本サーキットで負傷したら、ドクターヘリで空輸され、サーキットから北に75km離れたこの場所にあるアルフレッド病院に搬送される(記事)。
動物
本サーキットが位置するフィリップ島は、島全体が動物園といったようなところで、野生動物が次々と出現する。
カモメのバードストライク
フィリップ島にはカモメが生息していて、走行中のバイクに衝突することがある。走行中の乗り物に鳥がぶつかることをバードストライクといい、飛行機のバードストライクが有名だが、このサーキットを走るライダーにも発生する。
フィリップ島のカモメは、人を怖がらず、ライダーに向かって平気で近づいてくるので厄介である。ライダーからすると、カモメが当たるとものすごく怖いとのこと。
2009年のメランドリ、2010年のロレンソ、2013年予選のオリヴェイラ、2013年予選のロレンソ、2015年のイアンノーネがバードストライクの被害に遭った。
2013年のホルヘ・ロレンソは、予選中にカモメと衝突し、カモメを装着したまま4分間走り、最速時計を記録してポールポジションを獲得した(記事1、記事2、記事3)。
2015年のアンドレア・イアンノーネは、決勝中にカモメと衝突してフェアリングを壊したが、その状態で走りきって3位表彰台になった(記事1、記事2)。
カンガルー
サーキットにカンガルーが出現してライダーの目の前を横切っていくことがある(動画1、動画2、画像)。
ガチョウの行進
2014年6月にスズキワークスが本サーキットを借りてテストをしていたら、ガチョウ(oche)が路面に出てきて、ライダーが転倒してしまった(記事)。
2017年オーストラリアGPの土曜日MotoGPクラス予選で、ドルナの放送スタッフがサーキット近くの池にいるガチョウを撮影していて、そのガチョウはCape Barren Gooseと紹介されていた。和名はロウバシガンという。
2018年オーストラリアGPの土曜日MotoGPクラス予選で、ドルナの放送スタッフがサーキット近くの池にいる鳥を撮影していて、その鳥はAustralian cootと紹介されていた。これはオオバン(Eurasian Coot)のことで、ガチョウに似ているが正確にはガチョウではない。
コクチョウ
2018年オーストラリアGPの金曜日Moto3クラスFP1で、Black swanがサーキットに出現した(動画)。これはコクチョウである。フィリップ島西端のこの場所には白鳥の湖があり、そこにコクチョウが棲んでいるのだが(画像)、そのコクチョウがサーキットにもやってきた。
サーキットの施設など
メインストレートのこの場所には歩道橋があり、観客たちがコース外とコース内を行き来することができる。
歩道橋の隣に車が通れる大きさの地下道がある。転倒してコース外側に放り出されたライダーは、地下道を通ってコース内側にあるピットへ戻る。
メインストレートの東の横にピット施設があり(航空写真)、20本ほどの旗が間隔を開けつつずらっと並んでいる(画像)。この旗を見ると風向きが分かる。この状態だと西から風が吹いていることが分かる。
サーキットとは全く関係がないが、9コーナー(ルーキーハイツ)の外のこの場所に、赤い屋根とオレンジ色の突起物と茶色い壁を持った家が建っている。9コーナー(ルーキーハイツ)を駆け下って10コーナー(MGコーナー)へ格好良く突入していくマシンを映すとき、必ず入りこむ(動画1、動画2)。
コーナー名
フィリップアイランドサーキットのコーナーには異名がついている。
MotoGPではコーナー数を12個と数えるため(動画)、それに倣うことにする。
名称 | 由来 | |
直線 | ガードナーストレート | 1987年にMotoGP500ccクラスチャンピンを獲得したワイン・ガードナー |
1コーナー | ドゥーハンコーナー | 1994年から1998年までMotoGP500ccクラスで5年連続チャンピオンを獲得したミック・ドゥーハン |
2コーナー | サザンループ(Southern Loop) | 「南の湾曲」という意味。このコーナーがサーキット最南端になる |
3コーナー | ケーシー・ストーナー | 2007年と2011年にMotoGPのMotoGPクラスでチャンピオンを獲得したケーシー・ストーナー |
4コーナー | ホンダ・ヘアピン | バイク業界最大手のホンダ |
5コーナー | ||
6コーナー | シベリア(Siberia) | バス海峡から吹き付ける強風のせいでいつも寒い場所なので、シベリアと名付けられた。名付けたのはイギリス出身で晩年にオーストラリアに住んでいたバリー・シーンである(記事) |
7コーナー | ||
8コーナー | ||
9コーナー | ルーキー・ハイツ(Lukey Heights) | ルーキーの丘、という意味。ルーキーは4輪レーサーのレン・ルーキーのこと。レン・ルーキーは1950年代に本サーキットのレースで優勝し、1964年には本サーキットを買収した人物である |
10コーナー | MGコーナー | MGはイギリスのスポーツカーのブランド。 |
11コーナー | ||
12コーナー | スワン・コーナー(Swan corner) | オーストラリアやニュージーランドを地盤とするスワン保険(Swann insurance)が由来と思われる。この会社名はSwanのnが2つ重なる。 かつて南半球で11~3月に行われるバイクレースがあった。それをスワン・シリーズといい、スワン保険がスポンサーになっていた。サーキットや工業地帯の公道で行っていて、マシンは何でも良かったので、GPマシンを持ってきたGPライダーが参戦していた。ケヴィン・マギーやワイン・ガードナーも参戦していた。Youtubeにもいくつか動画がある(動画1、動画2、動画3、動画4) |
コース紹介(MotoGP)
概要
コース全長は4448mで、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から14番目である。コーナー数は12ヶ所で、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から17番目である。
メインストレートから美しい海を見渡すことができる風光明媚なサーキットである(画像1、画像2)。
攻め甲斐のある高速コーナーの数々がライダーを魅了する。本サーキットを絶賛するライダーは多い。
ブレーキに優しいコースである。ブレンボ(イタリアのブレーキメーカー。MotoGPクラスのほとんどのマシンにブレーキを供給する)が選んだ「ブレーキに厳しいサーキット」の中で、フィリップアイランドサーキットはVERY EASY(ものすごく優しい)と評価されている(記事)。
こちらがMotoGP公式サイトの使用ギア明示動画である。1速に落とすのは4コーナー(ホンダヘアピン)、10コーナー(MGコーナー)の2ヶ所である。
主なパッシングポイントは、メインストレートエンドの1コーナー(ドゥーハンコーナー)、2コーナー(SouthernLoop)、4コーナー(ホンダヘアピン)、10コーナー(MGコーナー)となっている。
低速コーナーが少なくて高速コーナーが多いので、大集団のレース展開になりやすい
このサーキットは低速コーナーが少ないのでエンジン性能差が出にくい。エンジン性能差が顕著になるのは低速コーナーからの立ち上がり加速のときであるが、フィリップアイランドサーキットにはそれが少ない。
このサーキットは高速コーナーが多いのでスリップストリームが効きやすく、前方車は失速しやすく、後方車は追いつきやすい。
低速コーナーが少なくて高速コーナーが多いので、本サーキットでのレースは10台ほどが連なる大集団になることが多い。「1番手集団が10台、それから5秒離れて11番手集団が10台」・・・・・・こういう展開が多い。
こちらは2017年の最大排気量クラスのレースで、8台が1番手集団を形成している。こちらは2017年のMoto3クラスのレースで、9台が1番手集団を形成している。
ちなみに、後方の大集団に呑み込まれると、もうその集団のトップになるしか希望が無くなってしまう。「後方の大集団から抜け出して前方の大集団に追いつく」というのは非常に難しい。
風が強く吹き込む
このサーキットは強い風が吹く。
一番多いのは南のバス海峡(タスマン海)から吹く風である。また、西の海岸線からの距離が7km、北の海岸線からの距離が6km、東の海岸線からの距離が5kmとなっていて(航空写真)、島には山らしい山が何もないので、西や北や東からも風が吹き込んでくる。つまり、東西南北、色んな方向から風が吹く。
強風により海岸に白い波が押し寄せる様子がテレビカメラに捉えられることが多い(動画)。
風が強いので、速い速度で雲が流れてきて天候が急変することがある。2011年MotoGPクラス決勝でいきなり雨が降り出し、青山博一とカル・クラッチローが全く同時にスリップダウンしたことがある。
強風が吹き込むと急に路面温度が下がり、タイヤがグリップしなくなる。走っているライダーも「あれっ、 タイヤがグリップしないぞ」と異変に気付くレベルである。
風というのはライダーの操縦に大きい影響を与える。詳しくは風(MotoGP)の記事を参照のこと。
平均速度が高いので、フロントタイヤやフロントブレーキディスクが冷えやすい
MotoGPを開催するサーキットの中で、平均速度が非常に高い部類に入る。2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から3番目だった。
平均速度が速いとなかなか目が慣れてくれず、慣れるまで大変である。
平均速度があまりに高いため、走っているだけでフロントタイヤやフロントブレーキディスクが空気をたっぷり浴び、冷えやすい。フロントタイヤがグリップしづらくなり、フロントブレーキの効きが悪くなる。
路面温度が高くても、ライダーの実感として「いまいちフロントタイヤがグリップしない。路面温度が低いんじゃないか」という感覚になる。
ハードブレーキが少ないので、フロントタイヤやフロントブレーキディスクが冷えやすい
「長い直線を走ってからガツンとハードブレーキングする」という部分があれば、フロントタイヤに荷重がかかってフロントタイヤが温まるし、フロントブレーキも一気に温度が上がる。
しかし、このサーキットにはそういう部分がない。1コーナー(ミック・ドゥーハンコーナー)は緩い角度で、あまり激しいブレーキングをしない。
このため、フロントタイヤやフロントブレーキディスクが冷えやすい。フロントタイヤがグリップしづらくなり、フロントブレーキの効きが悪くなる。
路面温度が高くても、ライダーの実感として「いまいちフロントタイヤがグリップしない。路面温度が低いんじゃないか」という感覚になる。
ブレーキディスクが冷えやすいので、カバーを付ける(最大排気量クラス)
平均速度が高く空気を多く浴びる、ハードブレーキングポイントが少ない、これらの要因で、フロントブレーキディスクが冷えやすいコースといえる。
最大排気量クラスで主流のカーボンディスクブレーキは冷えてしまうと効きが悪くなる。ゆえに各チームはカーボンディスクブレーキにカバーを付けてレースを走ることになる。
2017年に各ライダーが付けていたカーボンディスクブレーキのカバーはマンホールのフタみたいな黒色の地味な見た目の円盤である。このカバーは回転しないので、見ていてすぐにわかる(画像1、画像2、画像3、画像4、画像5、画像6)。
10月開催で気温が低い。夕方に行う最大排気量クラス決勝はなおさら気温が低い
強風が吹き込んで路面温度が下がりやすい。
「平均速度が高く空気を多く浴びる」「ハードブレーキングポイントが少ない」といった要因で、フロントタイヤやフロントブレーキディスクが冷えやすい。
そういう悪い条件が重なっているサーキットなので、暖かい季節にたっぷりと直射日光を浴びる時間帯でレースをやらせてあげたいところである。
しかしながら、オーストラリアGPの運営をする人たちには配慮の心というものがないのか、10月という寒い時期にレースをする傾向がある。
また、中央ヨーロッパ時間諸国のテレビ視聴率を気にして、最大排気量クラス決勝を夕方16時という直射日光の少ない時間帯に実施するという傾向がある。
リアタイヤに厳しい
繰り返しになるが、このサーキットは「長い直線を走ってからガツンとハードブレーキングする」という部分がないので、フロントタイヤにとって優しいコースである。
その一方で、リアタイヤに厳しいコースとして定評があり、各タイヤメーカーを戦々恐々とさせる。
最終12コーナー(スワンコーナー)はマシンを傾けてアクセルを全開にしてリアタイヤにパワーを掛け続けるコーナーであり、ここでリアタイヤ左側が強く発熱する。
電子制御が未熟だった2002年~2003年頃はリアタイヤから白煙を上げて最終コーナーを立ち上がっていた。それだけスピンしやすくリアタイヤが発熱しやすく、リアタイヤに厳しいコーナーなのである。
この最終12コーナーに、千切れたゴムの塊が死屍累々と転がっている。まさにタイヤ殺しのコーナー。
2012年11月に路面を張り替える改修を行った結果、グリップが大幅に向上したのはいいが、グリップが向上しすぎてタイヤへの攻撃性が非常に強くなった。2013年のMotoGPクラスはちょっと走っただけでリアタイヤ左側がひどい状態になった(画像1、画像2)。
通常の形式でレースをするとタイヤが持たないとレース運営が判断し、強制乗り換えのレースになった。いつもなら1台のマシンで27周してレースを行うが、19周に減らす。それでもって9周目か10周目にピットインしてマシンを乗り換えることを義務づける。1台のマシンで9~10周だけしか走らない、そうでないとタイヤが持たず危険である、と判断された。
2014年と2015年のブリヂストンは、構造そのものをガチガチに頑丈にしたリアタイヤを持ち込み、無事にレースを終えた。ここで投入された頑丈な構造のリアタイヤはフィリップアイランド専用だった。
メインストレート~1コーナー
最終12コーナー(スワンコーナー)は、脱出部分まで平坦に近い緩やかな下りで、脱出部分がいきなりの下り勾配である(画像)。
メインストレートはワイン・ガードナーストレートという名が付いていて、最終12コーナー(スワンコーナー)脱出からスターティンググリッド最後尾あたりまで4mほどの急な下り勾配(画像1、画像2、画像3)、スターティンググリッド最後尾あたりから1コーナー進入まで1mほどのわずかな上り勾配(画像1、画像2、画像3)である。
1コーナーはミック・ドゥーハンコーナーという名が付いていて、10mほどの急な下り勾配になる(画像1、画像2、画像3)。
こうした勾配は、Googleアースを開いて路面にカーソルを合わせて右下に出現する標高を見るという方法で調べることができる。
メインストレートから1コーナーは海岸に向かって突っ込む形であり、南の海からの強い向かい風を浴びることが多い。そうなると、2輪では珍しいほどのダウンフォースとなり、前輪が強く地面に押しつけられ、予想よりも強いブレーキングになり、予想よりも遅いコーナリング進入速度になり、ライダーはすこし調子が狂う感覚になる。また、走行タイムも損してしまう。
1コーナーで高速コーナリングしているところにピットレーンの出口がつながっている(航空写真)。マシン乗り換えのレースの時、走行中のライダーとピットを出るライダーが接近して危ないことがある(動画)。
2コーナー~3コーナー
2コーナーはSouthernLoop(南の湾曲)という名が付いていて、進入部分が2mほどの上り勾配である。
2コーナー進入部分は海岸線に対して平行に走るので、南の海岸から横殴りの風が吹き込んでくることが多い。イン側にマシンを寝かし込むことができなくなり、上手く曲がれず、そのまま真っ直ぐグラベル(砂)に突っ込むことがある。ここの横殴りの風には悩まされるものであり、フロントカウルに多数の穴をあけて、風通しを良くする工夫をするチームもある(画像1、画像2)。
2コーナーのCの字部分の前半はさらに上り勾配で、わずかな距離で3m上る。2コーナーのCの字部分の後半は逆に下り勾配で、わずかな距離で7mも下る。マシンを傾けて旋回しているところに上り勾配と下り勾配がやってくる。
2コーナー脱出からアクセルを開け、すこし直線を走った後に急な2mの下り勾配になり(動画1、動画2)、3コーナー(ケーシー・ストーナーコーナー)に勢い良く進入していく。3コーナーでは各ライダーがアクセルを開けながら猛然と爆走し、リアタイヤを滑らせて白煙(青っぽい煙)を立ちのぼらせる(動画)。かつてケーシーはこのコーナーでリアタイヤをスライドさせながら鬼神のごとき走りを披露していた。
4コーナー(ホンダヘアピン)
4コーナー(ホンダヘアピン)は5mほどの上り勾配が付いていてブレーキングしやすいのだが、ブレーキングを終えて右にマシンを傾けたら、そこで転倒することが多い。
4コーナー(ホンダヘアピン)は久しぶりの右コーナーで、温まりきっていないタイヤ右側を使うので、転倒が多発する。ここはカント(傾斜)もあまり付いていないフラットなコーナーだから、なおさら転倒しやすい。転倒多発地帯であると同時に、パッシングポイントでもある。
この4コーナー(ホンダヘアピン)は海岸からの強い風が追い風として吹き込んでくることが多い。
ライダーにとって風は「向かい風」「横殴りの風」「追い風」の3種類だが、この中で最も危険なのが追い風である。
追い風を受けると後ろから押され、ブレーキをかけても思ったより止まらなくなる。慌ててブレーキレバーを強く握るとフロントタイヤがロックし、フロントタイヤからステンと転ぶスリップダウンとなる。こういうのを「握りゴケ」というが、4コーナーはその握りゴケが多発する場所である。
追い風はライダーにとって感知しづらく、大変に危険で厄介な現象といえる。
4コーナーでオーバーランしてもいいように、4コーナーから真っ直ぐにアスファルトが舗装されている(航空写真)。転倒したライダーやマシンがこのアスファルトの上を滑走することがあり(動画)、危ないことがある。
5コーナー~6コーナー(シベリア)
4コーナー(ホンダヘアピン)や5コーナーで右に曲がったマシンを左に切り返しつつ、6コーナー(シベリア)へ入っていく。
5コーナーはごくわずかに右へ曲がった部分を呼んでいるだけであり、ごく短い直線と表現してよい。この部分は4mほどの下りになっている。
6コーナー(シベリア)の立ち上がりはしっかりカント(傾斜)がついていて(動画)、高速コーナリングが可能である。
高速区間~9コーナー(ルーキーハイツ)
6コーナー(シベリア)の立ち上がりから再び高速区間に入り、7~8コーナーは左・右の超高速S字となる。さらにそのあとは9コーナー(ルーキーハイツ)の麓で左に切り返す。
7~8コーナーやルーキーハイツの麓は、時速220km程度で切り返すのでハンドルがずっしり重く感じられ、体力を消費し、難しい。
6コーナーから左の7コーナーは9mほどの上り勾配になっていて、右の8コーナーを過ぎてルーキーハイツの麓の左切り返しまでは平坦で(動画)、ルーキーハイツの麓で左に切り返してからどんどん上り勾配になっていき、15m(5階建てビルほどの高さ)をぐいぐい駆け上っていく(動画)。
9コーナー(ルーキーハイツ)は先が見えないブラインドコーナーになっていて難しい。また、コーナーの頂点ではリアタイヤが滑りやすい。
10コーナー(MGコーナー)~最終12コーナー(スワンコーナー)
9コーナー(ルーキーハイツ)を豪快に駆け下りながら10コーナー(MGコーナー)に入っていき、激しくブレーキングする(動画)。10コーナーまでには10mほどの高低差が付いており、盛んにパッシングが行われる。
10コーナーも久々の右コーナーで、温まりきっていないタイヤ右側を使わざるをえず転倒が多発する。10コーナーの外には芝生が広がっているだけでグラベル(砂)が無く(航空写真)、滑りやすくて危ない(動画)。
10コーナーの進入で一気に駆け下り、10コーナーの脱出から11コーナーで5mほど駆け上がり、最終12コーナー(スワンコーナー)に入っていく。
最終12コーナーは進入の直線部分が平坦で、湾曲している部分が2mほどの下りで、脱出部分からメインストレートの前半まで4mほど下っている。
最終12コーナーは左右のカント(傾斜)もバッチリ付いており、各ライダーが懸命にアクセルを開ける。ここでの加速がメインストレートの伸びに直結するので、渾身のアタックをする。11コーナーから最終12コーナーまで、かなり長い時間マシンを左に傾けながらアクセルを開けていく(動画)。最終12コーナーの最中にピットレーン入り口があり(航空写真)、スローダウンしているライダーがいたりして、危ないことがある。
最終12コーナーでは珍しいことに縦G(タテジー)がかかり、ライダーは上から頭を押さえつけられる感覚になる。
最終12コーナーはカウンターステアの撮影ポイントの1つである。マシンが左に傾いているのにフロントタイヤが右を向く(動画)。
最終12コーナーの走行ラインの外にタイヤカスが多く転がっていることが多い(画像1、画像2、画像3)。走行ラインを外してタイヤカスを踏んづけてしまうと大変で、タイヤカスがタイヤにめり込んでしまう。すぐに取れれば良いが、しばらくの間タイヤに付着したままになって乗り心地が最悪になることが多い。もちろん走行速度も落ちてしまう。
コース学習用動画
- 2輪レース動画 スーパーバイク世界選手権 2017年 第1レース
- 2輪レース動画 スーパーバイク世界選手権 2015年 第2レース
- 2輪レース動画 スーパーバイク世界選手権 2010年 第1レース
- 2輪レース動画 MotoGPのMotoGPクラス決勝 2016年
- 2輪レース動画 MotoGPのMotoGPクラス決勝 2013年
- 2輪レース動画 MotoGPのMotoGPクラス決勝 2012年
- 2輪レース動画 MotoGPのMotoGPクラス決勝 2007年
- 2輪レース動画 MotoGPのMotoGPクラス決勝 2006年
- 2輪レース動画 MotoGPの500ccクラス決勝 2000年
関連リンク
- フィリップアイランドサーキット 公式ウェブサイト
- フィリップアイランドサーキット 公式Twitter
- フィリップアイランドサーキット 公式Instagram
- フィリップアイランドサーキット 公式Facebook
- フィリップアイランドサーキット 公式Youtube
関連項目
脚注
- *http://www.the-fastlane.co.uk/racingcircuits/index.html のトップページでCircuits by Country の欄の中の Australia をクリックし、Phillip Island(Cowes)を選ぶと、1928年のコースから2021年現在のコースまで全てを閲覧できる
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