ギュスターヴクライ(Gustave Cry)は、2008年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牡馬。
通称「阪神大笑点」として知られる珍レースとなった、2012年第60回阪神大賞典の勝ち馬である。
19戦5勝[5-2-5-7]
主な勝ち鞍
2012年:阪神大賞典(GⅡ)
概要
父ハーツクライ、母*ファビラスラフイン、母父Fabulous Dancer。
父ハーツクライは有馬記念・ドバイシーマクラシックのGⅠ2勝で、特に2005年有馬記念で日本国内では唯一ディープインパクトに土をつけた馬として名高い。種牡馬としてもジャスタウェイ・リスグラシュー・スワーヴリチャード・ドウデュースらをはじめ優秀な産駒を多数輩出し大成功を収めた。本馬はウインバリアシオン・カレンミロティック・アドマイヤラクティらと共に父の初年度産駒の一頭であり、父子2代で三冠馬を抑えて勝つ「大物食い」の血を発揮することとなる。
母*ファビラスラフインはフランス産のマル外馬。1996年の第1回秋華賞優勝馬で、続くジャパンカップでもイギリスから遠征のシングスピールにハナ差2着の死闘を演じ、同年のJRA賞最優秀4歳牝馬に選出された。しかし同年の有馬記念を最後に故障に泣き復帰かなわず、わずか1年足らずの実戦期間で底を見せないまま引退した牝馬である。本馬は9番仔で、産駒では唯一の重賞馬。
母父Fabulous DancerはNorthern Dancer産駒で、フランスの芝でG3を2勝。また母母Mercalleはフランスの古馬長距離王者決定戦・カドラン賞(G1・芝4000m)の1990年優勝馬である。
2008年3月21日生まれ。馬名は、母の生国であるフランスの画家ギュスターヴ・モロー+父ハーツクライより。社台レースホースで75万円×40口で募集され、栗東・荒川義之厩舎に所属した。鞍上は蛯名正義の騎乗回数が最も多いが、主要勝鞍である2012年阪神大賞典は福永祐一がテン乗りで鞍上を務めていた。
クラシック出走届かず~4歳年初
2010年11月14日にデビューするも、2歳時は芝の1800m・2000mを3戦使って全て掲示板外の未勝利と苦戦する。
スタートで後方から流れに乗り切れず…というレースが続き、距離延長に舵を切った明け3歳初戦・1月22日の未勝利戦(京都芝2200m)にて、ウンベルト・リスポリ[1]の騎乗で初勝利。中1週で2月5日の500万下戦(東京芝2400m)にて内田博幸の騎乗で2勝目を挙げ、トライアルで好走すればクラシック出走が見えてくるという位置まで漕ぎつけた。
が、弥生賞はサダムパテックの6着、青葉賞はウインバリアシオンの4着で、皐月賞・日本ダービーへの出走には届かなかった。
なら、距離は長い方がいいタイプみたいだし、夏上がりで菊花賞を目指そうぜ……と行きたいところだったが、青葉賞の後は白百合ステークス3着。その後の夏~秋も自己条件で2着・3着を連発し、結局菊花賞の出走もならず。12月4日の1000万下戦(中山芝2500m)をクレイグ・ウィリアムズ[2]の騎乗で5馬身差圧勝し、ようやく3勝目を挙げて3歳を終えた。
4歳となった2012年は、2月5日の早春S(東京芝2400m)を蛯名正義の騎乗で制し、昇級初戦で1600万下を突破。続くダイヤモンドS(GⅢ)では、大逃げを打った15番人気・単勝190.0倍の大穴ケイアイドウソジンを半馬身捕らえきれず2着に留まったが、確実に収得賞金を加算し状態の良さを示していた。
2012年・第60回阪神大賞典
3歳の年末から好調を維持して長距離の重賞戦線まで上がって来たギュスターヴクライは、続いて3月18日の阪神大賞典(GⅡ)に登録した。
もっともこの第60回阪神大賞典は、前年のクラシック三冠馬にして有馬記念も制した「四冠馬」オルフェーヴルの古馬始動戦であり、完全にオルフェの1強ムードであった。
出走12頭中には、前年の天皇賞(春)優勝馬ヒルノダムールに前々年の優勝馬ジャガーメイル、前年の阪神大賞典勝ち馬ナムラクレセントに前々年の勝ち馬である古兵トウカイトリック、菊花賞馬オウケンブルースリ、この直後の天皇賞(春)を制することになるビートブラック等、この時点で考えうる長距離戦線の有力馬はかなり充実していた。しかし、それらの面々すらも飛ぶ鳥を落とす勢いの四冠馬にとって問題ではないと見られ、オルフェーヴルは単勝1.1倍。馬券人気は完全に、2着・3着予想に妙味を見出したいという情勢であった。
一方、福永祐一がテン乗りのギュスターヴクライは、重賞未勝利の身ながら近走の好調が評価され、単勝13.4倍の3番人気に評価されていた。
……このレースの詳細は「阪神大笑点」の記事に詳しいので、以下はギュスターヴクライの動きにも注目する。
最内1枠1番スタートのギュスターヴクライ&福永祐一は、順当に内目を確保し、中団で静かに立ち上がった。3000mの距離と稍重の馬場状態の中で逃げを主張する馬はおらず、1000m通過が64秒9という超スローペース。
あまりに遅いとばかりに、1000m手前から前年覇者ナムラクレセント鞍上の和田竜二が外捲りをかけてハナを奪い、ペースを動かしにいく。それに思いっきり釣られたオルフェーヴルが1周目ホームストレートから池添謙一の抑えも聞かずに掛かり、暴走を始める。が、馬群の外側から開始された珍走劇も、内ラチ沿いかつ馬群の真ん中付近にいたギュスターヴクライにはあまり関係がなかった。向こう正面、すぐ前を走っていたリッカロイヤルが故障発生[3]で失速しこれをかわした以外は、経済コースを保って道中を運ぶ。
そして、掛かった末にハナを奪ったオルフェーヴルが3角で外ラチに向かって逸走を始め、場内がどよめきや悲鳴に包まれる。圧倒的一番人気馬の脱落(と思われた)に、俄然各馬は色気づき、3角から一気に全体がペースアップ。この状況でも、ギュスターヴクライは内目で下手に動かず脚を溜めた。というか右には内ラチ、前も先行集団の壁、かといって左は我先に位置を上げようと加速する他馬の競り合いで外に出すどころではなく、ここはじっと我慢の場面であった。
ところが、逸走・脱落、あるいは最悪の故障発生かとすら思われたオルフェーヴルは、自分を抜き去っていく他馬たちを視界に捉えるとブチギレて4角からレースに復帰。鞍上の池添が「化け物でした」と評した凄まじい脚で外捲りをかけ、次々に抜き去っていく。オウケンブルースリ鞍上の安藤勝己はあまりの事態に馬上で「戻って来たー!?」と叫んだそうな。このオルフェーヴルの捲りによって消耗戦に拍車がかかり、結果的に多くの馬が、早仕掛けの結果直線最後までもたない形に陥った。
ここで最終直線、内からスルッと抜け出したのが十分に脚の溜まっていたギュスターヴクライである。逃げ粘っていたナムラクレセント(1000m手前から集団を牽引し、道中オルフェに絡まれ、それでもペースを崩さず3着を確保したのだからこの馬も十分に前年覇者の意地を示したと言えるだろう)をかわし先頭へ。
最後は外から一頭、末脚を飛ばして突っ込んできたが、福永祐一は冷静に1/2馬身残してゴール板を通過。
なんと、あのロスがありながらオルフェーヴルが先頭に立とうとしています!
内はギュスターヴクライ、残り200m! ヒルノダムール追ってくる!オルフェーヴル! そして内インコースギュスターヴクライ!
ロスなく競馬をしたギュスターヴクライが先頭!
オルフェーヴル! この2頭の争い! 3番手は接戦!…ギュスターヴクライだ! ギュスターヴクライ、ゴールイン!
ギュスターヴクライ! ロスなく運んだギュスターヴクライが制しました!
……福永はゴール後に横を見て、突っ込んできたその「追い込み馬」が競走中止とばかり思っていたオルフェーヴルだと気づき、二度見ののち大笑いするしかなかった。下馬後、中継のマイクに「すごいなー、もうやめてると思った、あの馬」という声が捉えられている。
この競馬史に残る珍レースでは、ギュスターヴクライの勝利よりも、逸走・大暴走しながら2着連対したオルフェーヴルの良くも悪くも規格外な能力の方が後年まで語られがちである。
実況でも「ロスなく運んだギュスターヴクライ」と含みのある言い方をされてしまっているが、競馬自体は最内枠を存分に活かして経済コースで脚を溜め、出入りの激しい展開にも揺さぶられることなく、直線でしっかりと抜け出したソツのない勝ち方である。
そして、経緯はともかく絶頂状態の四冠馬を破っての初重賞勝利、父ハーツクライ譲りの大物食いを果たしたことは間違いない。
引退まで
蛯名正義に鞍上が戻って迎えた春の大一番天皇賞(春)では、変わらず1番人気のオルフェーヴル、前年2011年の天皇賞(秋)をレコード勝ちしたトーセンジョーダン、そして日本ダービー・菊花賞ともオルフェの2着だった同期のウインバリアシオンの3頭に次ぐ4番人気(15.5倍)。やはり中団で道中を運んだものの、最後は伸び切らずビートブラックの5着止まり。オルフェーヴル?後方で折り合って進もうとしたけど、結局最後まで行けずに11着だよ!
4歳秋は岩田康誠の騎乗で京都大賞典(GⅡ)から始動し、メイショウカンパクの3着。
続くアルゼンチン共和国(GⅡ)では蛯名正義に戻り1番人気(3.1倍)に推されたが、直線伸びず6着敗退。
レース後に右前浅屈腱不全断裂が判明。健在であれば長距離路線の常連として、重賞2勝目のチャンスも巡ってきたかもしれないが、それを果たせないまま引退することとなった。
引退後
引退後は滋賀県の忍者ステーブル(のち、名義変更でVigorous Stable)にて乗馬兼、調整中の現役競走馬のトレーニングパートナーを務める役目に就いた。
その後、引退名馬繋養展示事業の助成を受ける。勝ったレースが色んな意味で有名な、重賞1勝の成績以上に知名度のある馬でもあり、「ギュス」の愛称で同牧場の看板馬として過ごしている。
血統表
ハーツクライ 2001 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
アイリッシュダンス 1990 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
*ビューパーダンス | Lyphard | ||
My Bupers | |||
*ファビラスラフイン 1993 芦毛 FNo.3-e |
Fabulous Dancer 1976 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Last of the Line | The Axe | ||
Bryonia | |||
Mercalle 1986 芦毛 |
Kaldoun | Caro | |
Katana | |||
Eole des Mers | Carvin | ||
Deesse des Mers |
クロス:Northern Dancer 5×3(15.63%)、Almahmoud 5×5(6.25%)
- 母*ファビラスラフインはフランス産。1996年の第1回秋華賞優勝馬で、他にNZT4歳Sにも勝利。同年のジャパンカップではシングスピールにハナ差2着、JRA賞最優秀4歳牝馬に選出された。本馬は9番仔で、直仔では唯一の重賞馬。
- 祖母Mercalleはフランスの古馬長距離G1・カドラン賞の優勝馬。
- 半妹ファビラスタイム(2009年生・父シンボリクリスエス)の仔に、2020年の全日本2歳優駿2着のち、大井記念・東京記念など南関東で活躍のランリョウオー。
- 全妹エスプリドパリ(2012年生)の仔に、みちのく大賞典など岩手競馬で活躍のヒロシクン。
関連動画
1つ目が「ロスなく運んだギュスターヴクライ」の舩山陽司アナ(ラジオNIKKEI)版、2つ目が「あんな競馬をしてまでも勝ち切るのか!?オルフェーヴル!」の岡安譲アナ(関西テレビ)版。
関連リンク
関連項目
脚注
- *この2011年1~3月に短期免許で初来日していたイタリア人騎手。この前週に日経新春杯をルーラーシップで制して日本での初重賞を挙げていた。その後、3月に高松宮記念でキンシャサノキセキに騎乗してGⅠ初勝利を挙げる。
- *この時短期来日中のオーストラリア人騎手。日本では2010年天皇賞(春)のジャガーメイル、2011年NHKマイルカップのグランプリボス、2011年朝日杯FSのアルフレードのGⅠ3勝。
- *左前浅屈腱不全断裂で競走能力喪失、このレースを最後に引退。オーナーのサポートで暫く種牡馬を務めたのち鹿児島県の霧島アート牧場(ホーストラスト)で余生を送り、2023年に亡くなった。
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