「デジタルマーケティングにおける個別最適の罠(わな)」──。規模が大きい会社ほど陥りやすいこの難題に、NTTドコモは全社横断で各部門のパフォーマンスを可視化する新しいLTV指標を持ち込むことで立ち向かっている。2年あまりの改革は既に成果を生みつつあり、収益アップを成し遂げている。いったいドコモは、何を考え、何を実践したのか。その全貌を明らかにする。
NTTドコモは2022年12月、全社横断でデジタルマーケティングの予算配分を適正化する目的でコンシューママーケティング部内にデジタルマーケティング推進部門を立ち上げた。狙いは、デジタルマーケティングにおける「個別最適の罠(わな)」からの大胆な脱却にある。
23年7月からデジタルマーケティング改革を本格化。24年7月からは、組織変更でマーケティング戦略部に部署名を変え、デジタルマーケティング改革を実行してきた。
個別最適の罠とは、企業が成長する過程で典型的に陥りがちな現象のこと。様々なサービスが同時並行に立ち上がり、事業部ごとに個別最適化を進める結果、各種運用の品質に大きな差が生まれてしまうというもので、よく聞く話だ。
主力の携帯電話サービスを核として、金融やコンテンツ配信、通販など幅広い事業を展開するNTTドコモもご多分に漏れず、個別最適のわなに陥っていた。
特に同社が問題視したのは、デジタルマーケティング関連予算の振り分けが最適化できていないことだった。原因は単純で、サービスごとにCPA(顧客獲得単価)やLTV(顧客生涯価値)などの成果指標をバラバラに設計していたためだ。
デジタルマーケティング推進部門が誕生したことで、各事業のデジタルマーケティングの現状を横串で目を光らせることが可能になったわけだ。サービス間のシナジーを可視化でき、しかも最適な予算のアロケーション(適正化)もしやすい。
波及効果として、事業部間のデジタルマーケティングのスキルのばらつきが平準化されるという効果も生み出した。
「利益ベースで、年間億円単位の利益改善を生んでいる」。一連の改革の旗振り役を担った、NTTドコモ マーケティング戦略部デジタルマーケティング推進担当部長の橋田直樹氏は、改革について既に手応えを感じていると明かす。
全部門共通で使える「LTVの基準値」を考案
デジタルマーケティング施策を横串で統括するうえで、同社がこだわったのは成果指標の統一化である。
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