花王は2023年8月に「アタックZEROパーフェクトスティック」を発売したが、テレビCMでの訴求と店頭でのパッケージ認識にズレが生じた。1万GRPのCMを投入したにも関わらず、パッケージの認知度は約30%台にとどまり、目標の60%には大きく届かなかった。テレビCMをはじめとしたコミュニケーション戦略を転換し、パッケージ認知度を44%にまで高めた。
市場に全く新しい商品を投入し、消費者に認知してもらうことは容易ではない。特に、洗濯用洗剤のような競争が激しい分野ではなおさらだ。消費財大手である花王でさえ、革新的な商品を投入した際に、消費者の認知獲得で苦戦した経験がある。
- 「スティック型」を強調するマーケ戦略
- 1万GRP投下でも、成果は過去の半分
- GMSやホームセンターで緊急消費者調査
- 「店頭で商品を全然見つけられない」
- テレビCMのクリエイティブ戦略を転換
- 計量不要の手軽さを強調
2023年8月、花王は「アタック ZERO パーフェクトスティック」を発売し、計量不要の「ワンショットタイプ」の洗濯用洗剤の市場へ本格的に参入した。
同市場でシェア1位はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の「ジェルボール」シリーズだ。丸いボール形で洗濯機に1つ入れるだけでいい。洗濯物の容量などに合わせて計測する必要がない時短商品だ。
これに対抗する上で、花王はあえてスティック形状を採用した。花王が様々な形状を試した結果、粉洗剤を入れたスティック形状が最も高い洗浄力を実現できると判断したためだ。ジェルボールと同様にスティックを洗濯機にそのまま入れるだけでいいため、使い勝手は変わらない。
洗剤は「低関与商材」に分類され、消費者は購入決定時に多くの情報を集めたり、深く考えたりすることは少ない。化粧品のように個々人の趣味嗜好が強く反映されるカテゴリーとは異なり、洗剤は比較的顧客のこだわりが薄いとされる。自然と、目に留まりやすく、かつ価格が安い商品に購入が集中しがちになる。
そのため、花王 コンシューマープロダクツ事業統括部門 ハイジーン&リビングケア事業部門 ファブリックケア事業部の服部裕紀氏は、「洗剤市場で新しい価値を提供するためには、消費者に『何か新しいことをしてくれそうな商品が出た』という印象をしっかりと残すことが重要だ」と語る。
「スティック型」を強調するマーケ戦略
そこで、アタック ZERO パーフェクトスティックのコミュニケーション戦略では、スティック形状という新しさを前面に押し出すことで、競合商品との差別化を図った。
この戦略が顕著に表れたのが、テレビCMだ。洗剤のような店頭決定率の高い商品は、「店頭とテレビCMが、認知を左右する非常に重要な要素」と服部氏。特に、洗剤は主要顧客層が40~50代の消費者であり、商品認知を獲得する上で店舗やテレビCMが重要な接点となる。
アタック ZERO パーフェクトスティックの発売初月である23年8月から10月にかけて全国で放映されたテレビCM「これって洗剤?」篇は、画面いっぱいに巨大なスティックが現れるシーンから始まる。その後、大量のスティックが雪のように降ってきたり、鎖のように連なったりするなど、スティックの視覚的な目新しさを強調したクリエイティブだ。
俳優の松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮を起用。彼らは片手にスティックを持ちながら、「これって洗剤なの?」「ほんとに洗剤なの?」と不思議そうにつぶやく。
テレビCMの終盤では、「日本の洗濯を変える1本」というキャッチコピーが表示され、スティック洗剤が、従来の洗剤とは異なる革新的な商品であることを訴求している。
1万GRP投下でも、成果は過去の半分
結果として、アタック ZERO パーフェクトスティックに対する「スティック型の洗剤が出た」という認知は、期待通りに得られた。しかし、パッケージの認知度に関しては、思うように成果が上がらなかった。
テレビCMの投下量は1万GRP(延べ視聴率)で、花王が19年に発売したアタックZEROの液体・濃縮タイプとほぼ同様。花王にとってスティック型がいかに重点商品であるかがうかがえる。
ところが、同じ投下量でもパッケージの認知度には大きな差が出た。液体・濃縮タイプのパッケージ認知度はテレビCM放送後に約60%に達した。これに対し、スティックタイプはその約半分にとどまったのだ。
「発売時に、パッケージだけの認知で40~50%は取れている必要があったため、大きな課題が残った」(服部氏)
23年11月の調査では、アタックブランドからスティック洗剤が発売されたことを56%の消費者が認知したものの、パッケージの認知度は28%にとどまっていた(n=1200)。花王としては、このようにスティック型の認知度とパッケージの認知度に差が出ることを想定していなかったという。
調査データや顧客の声を見ても、「スティック型の洗剤が出た」という印象は顧客に残せているのに、なぜこれほどパッケージの認知度が上がらないのか、部内で議論が続いた。
GMSやホームセンターで緊急消費者調査
そこで、服部氏らは発売翌月の23年9月14~17日にかけて、流通業者の許可を得て、緊急で店頭での面接調査を実施した。対象はGMS(総合スーパー)とホームセンターの計4店舗だ。
服部氏を含むブランド担当者が店頭に立ち、消費者と直接会話することで原因究明を図った。
顧客の声は花王グループの「メーカー販売機能」と「卸売機能」の両方を担う花王グループカスタマーマーケティング(東京・中央)の販売部門を通じて集めることがある。だが、営業担当者の視点だけでは、どうしても顧客のリアルな視点を十分に捉えきれない。
「急成長するワンショットタイプ市場で、この商品を売っていかないといけない」という強い危機感から、スティックとパッケージの認知度のギャップに気付いてから2週間ほどで、店頭面接調査に踏み切った。
「店頭で商品を全然見つけられない」
店頭の面接調査で浮き彫りになったのは、「スティック型は認知している一方、店頭で商品を全然見つけられない」という状況だった。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。