これから起こること全ては『Mitaiken』──フリーダムな好芻が描く、過去のブルーと未来への愉楽
中嶋イッキュウと山本幹宗によるプロジェクト、好芻。2022年9月にミニ・アルバムを完成させ、今回が2作目のリリースとなる。お茶目なタイトルに反してメランコリックな歌詞が綴られた“大遅刻” “衝動買い”が前半に並び、後半の“カカオ”からはサウンド面も含めガラッと雰囲気が変わっていく。今作に収録された5曲、たった20分で中嶋イッキュウが綴る歌詞の共感性の高さや山本幹宗のアレンジの底力が伝わるのだから、2作目にしてひとつ名刺代わりとも呼べる1枚ではないだろうか。それぞれが他のフィールドで活躍しながらも結成された好芻は、ふたりにとって個性を存分に発揮できるフリーダムな場所なのだろう。様々なスケジュールに追われるふたりだが、取材中の1時間はのびのびと今作について語ってくれていたように思う。(編)
時代や場所を超越する、好芻のミニ・アルバム
INTERVIEW:好芻
tricotやジェニーハイのヴォーカルはもちろん、自身のブランドSUSU by Ikkyu Nakajimaなどさまざまなジャンルで活動している中嶋イッキュウと、The Cigavettesではかつてフロントマンを務め、現在はsunsiteのメンバー、またサポート・ギタリストとしてもさまざまなバンドで活躍している山本幹宗。このふたりからなる音楽プロジェクト好芻(SUSU)が、セカンド・ミニ・アルバム『Mitaiken』をリリースする。前作『Gakkari.』からおよそ2年ぶりとなる本作は、レトロなシンセポップからバレアリックなダンスチューンまで、さまざまなアレンジの楽曲が並ぶ。ふたりがその時やりたいことを自由に追求した全5曲は、音楽への情熱と喜びに満ちている。中嶋と山本に、本作の制作エピソードはもちろん、同時期に制作していたという中嶋の初ソロ作『DEAD』(5/29リリース)についても聞いた。
取材・文:黒田隆憲
写真:西村満
2曲作った段階でレトロ路線は飽きてしまって
──前回の好芻のリリースから今回までの期間。中嶋さんはSNSをお休みされてましたよね?
中嶋イッキュウ:はい。なんか病んでる人みたいですよね(笑)。
山本幹宗:わざわざ「やめる」と宣言してやめるところがね。
中嶋:確かに(笑)。私は好芻をはじめ、いろんなバンドに携わらせてもらっているだけでなく、自分でアパレル・ブランドを立ち上げたり、絵を描いて個展を開いたり、写真をやってみたりテレビに出させていただいたり……。
山本:めちゃくちゃやってるな(笑)。
中嶋:うざいですよね。なので、私の個人のX(旧Twitter)やInstagramでの情報の発信量が多すぎて、かえってファンの方に告知を見落とされてしまうことが結構あったんです。「中嶋の情報はここ見ておけばわかるやろ」と思って覗いてくれているのに、私も告知をよくこぼしていたし(笑)、ちゃんとtricotの情報はtricotのオフィシャル、ジェニーハイの情報はジェニーハイのオフィシャルをフォローしてもらえるよう、一旦辞めていました。
──なるほど。なにか思うところがあったわけではないんですね?
中嶋:あ、全然ないですね。SNS大好きなので(笑)。
──やっていない間はフラストレーションがたまりませんでした?
中嶋:SNSが見たくなって手が震える、みたいなことも特になかったし(笑)、「めっちゃ見たい」「みんな、なにしてるんやろ」とかもなくて。単純にSNSをしていた時間が、Kindleに代わっただけでした。いまはもう、(SNSを)めっちゃ見てますけどね。
──その、SNSおやすみ期間に今作『Mitaiken』やソロ作『DEAD』の制作をしていたわけですか?
中嶋:そうですね。たまたま制作期間が被ったというか、ダッシュで作ることになったので。
──曲自体はいつ頃からあったのでしょうか。
山本:いつからだろう……もう全然覚えてない(笑)。
中嶋:だって、去年の3月くらいに下北沢「近道」でライヴをした時には、すでに"Delivery"とかやっていましたし。
山本:Delivery”は、最初のミニ・アルバムを作っていた時にはありました。LINEの履歴を確認すると、“大遅刻”と“衝動買い”のデモは2022年8月23日に「こんな感じはどう?」ってイッキュウさんに送っています。リンクが切れてしまってもう聴けないですけど。
──"大遅刻"は昨年10月に先行リリースされていて、リリース順でいうと最も古い曲になりますよね。
中嶋:この曲を作ったあたりから、雰囲気がガラッと変わりましたよね。ちょっと歌謡曲っぽい、レトロな雰囲気の曲調が続いた。
山本:ちょうどその頃、映画『トップガン マーヴェリック』が公開(2022年5月)されて、前作『トップガン』のことを思い出したんですよ。映画はどちらも観てないんですけど、あの有名な主題歌(ケニー・ロギンス「Danger Zone」)で使われているシンベ(シンセベース)の音がいいなと。あれを使いたいというモチベーションで作ったのが"大遅刻"です。
中嶋:そんなところから出来た曲だったんですね。
山本:それと、同じくらいのタイミングでリリースされたTWICEのミニ・アルバム『BETWEEN 1&2』(2022年8月)に入っているリードトラックじゃない曲が、こんな感じだったんですよ。そこからインスパイアされたトラックを、さっきも言ったようにイッキュウさんにLINEで送って。その時点で、ほぼほぼ出来上がっていましたね。
中嶋:聴いて、「歌をつけるの楽しそうやな」と思ったのを覚えています。前回はチルい感じの曲が多かったんですけど、次の好芻はこういうモードでいくのかな、楽しげな曲が多くなりそうだなと。
山本:ところが、次の"衝動買い"を作った途端にこのレトロ路線は飽きてしまって(笑)。次からは全く違うモードになっていくんですけどね。