緊急企画! 徳永憲×中村佑介対談 & フリー・ダウンロード開始!
シンガー・ソングライターの徳永憲がニュー・アルバム『ただ可憐なもの』を発売する。静かに淡々と流れる歌の世界は、凛としてあまりにも美しい。「こんな素晴らしいアーティストは、もっと世の中に広まるべきだ」とWaikikiRecordに進言したら、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのジャケットでおなじみの中村佑介も彼のファンで、同じ事を言っているという。しかも彼のバンドS▲ILS(セイルズ)は、ニュー・アルバムをWaikikiRecordからリリースする事が決まっているらしい。これは、チャンス! 中村佑介に徳永憲の魅力を語ってもらおうと、急遽徳永憲と中村佑介の対談を企画。嵐のように喋る中村佑介と、さも喋りは苦手そうに話す徳永憲の対照的な2人が語る歌の世界とは。感動のロング対談。
進行&文 : 飯田仁一郎
徳永憲 / ただ可憐なもの 2011年初頭に放つ、孤高のシンガー・ソングライター、最高傑作! 21世紀も10年過ぎたこの時代感を見事にパッケージング。ひと呼んで、冬のアルバム。静かな冬の朝、薄氷を踏みしめてあの人に会いにいく。それをこんな風に表現出来る人は他にはいない。魔法の歌。それは今、この東京に確かに存在しているのだ。
TRACK LIST
1 : ただ可憐なもの / 2 : ボート / 3 : (ロスト)ウィークエンダーズ / 4 : ハッピーバースデイ / 5 : 死ね、名演奏家、死ね / 6 : 空を切る / 7 : ローラーコースターに乗ろう / 8 : ウサギの国 / 9 : 神に麻酔を / 10.サルベージ船 / 11: 本屋の少女に
徳永憲 / WaikikiWaltz 15年以上前に作曲された、南から吹く風、焦燥感、若さがにじみ出る曲。徳永憲は、日本が誇ると言っても過言ではないパワー・ポップ・シンガー・ソングライター。パワー・ポップと言ってもバッド・フィンガーズやELOやMOVEあたりの極上のド・パワー・ポップを聴かせる素晴らしい存在です。
所属するWaikikiRecordのコンピレーション・アルバム『Waikiki Waltz』から徳永憲の楽曲をフリー・ダウンロード開始!
TRACK LIST
1 : 焦燥感
>>>徳永憲「焦燥感」のフリー・ダウンロードはコチラ(期間1/27〜2/3)
S▲ILS / ライブ会場限定デモCD ASIAN KUNG-FU GENERATION等のジャケットや赤川次郎等のブック・カバーを手がけるイラストレーター中村佑介のバンドS▲ILS、待望の初音源! 2011年には、WaikikiRecordからアルバムの発売が決定。
TRACK LIST
1 : わたしの穴
2 : ミスター・ロンリー
>>>S▲ils「ミスター・ロンリー」のフリー・ダウンロードはコチラ(期間1/27〜2/3)
発明だと思いました
中村佑介(以下N) : 1年半位前の夏に、ELEKIBASSのレコ初イベントで僕らS▲ILSと、徳永憲さんとゴメス・ザ・ヒットマンの山田稔明さんとELEKIBASSの4組で、クラブ・ジャングルで出会った時が初めてですかね。
徳永 憲(以下T) : よく覚えてるね(笑)。
N : その時はデザイナーの小田島等さんも、トーク・ショウで出ていらっしゃいましたね。でもそこで出会う前から、徳永さんのことは知っていました。僕は大学中にバンドを組みたくてギターをやっていたんですよ。結果、4年間でバンドを組むことは出来なかったんです(笑)。軽音部の前で弾いてたんですけど、なんでですかね(笑)。しかも昔の徳永さんの歌を歌っていたんですよ。昔の徳永さんの歌って、サディスティックで、過激で誰も寄せ付けない魔力があるじゃないですか? だから徳永さんのせいだよ(笑)! まぁそれでやっと出会えた訳なんですけど、出合う前から画集を出した時にコメントを頂いていたりしてました。
——徳永さんは、中村さんをいつ頃知りましたか?
T : ポッドキャストをやっていたので声は知っていたし、文や絵の作品も知っていたので、出会う前から存在は知っていたけれど、本人だけは会っていませんでしたね。
N : いや、会っていたんですよ(笑)! 2年前のレーベルの忘年会でこんにちは程度の挨拶はしていましたね。
T : 初めてなのに、ガンガン来られたんですよ(笑)。
N : 人が多いところは徳永さんは来ないよって言われたんですけど、何としても連れて来て下さいって伝えていたんです。そしたら当日人混みの中を逃げ回っている人がいたんですよ。「いたー! 徳永憲発見! 」って叫んで捕まえたんですよ。わざわざ人に話しかけられないようにしているんですよ(笑)。もしかして僕から逃げていたんじゃないですか?
——徳永さんは中村さんがファンっていうことも知っていたんですか?
T : 知っていましたね。でも姿、形を知らなかったので来ているらしいという情報しかなかったんですよ。怖かったんで隠れていました(笑)。
——大学生の時に、中村さんが徳永さんを好きになった理由はなんですか?
N : とにかく歌詞が過激だったんですね。エロイことを歌っていたっていうのもあるんですけど、優しい音楽に、いままでのっていなかった過激な歌詞がのっているのを聞いた時に、かっこいいなって思えたんです。僕は昔からフォーク・ソングを聞いていたんですけど、昔でいう反戦を歌うようなものって、今の時代では過激ではないじゃないですか? 四畳半フォークとかは違いますけど、フォークは歌詞が過激なものと捉えていたんです。それで僕が大学生の時に、もう一回フォークのブームが来たんですよね。ゆずとか、サニーデイ・サービスになりますかね。そういった四畳半フォークをもう一回やろうとしている人達が「です。ます。」口調で風景描写しているものも好きなんですけど、それは果たしてフォークなのかと考えたら、当時のものとは違って考えられるんだろうなって思ったんです。吉田拓郎の最初の方の過激さって無いと思うんです。かといって今やっても皆やっているしって時に、徳永さんの曲を聴いてかっこいいなって。アコースティック・ギターを使っているのでフォークっぽいって言えば、そう聞こえるんですけどもうちょっとサイケというか、トラディショナルな感じなんですよね。その音楽の上に、こういう言葉がのっているっていうのがすごいと思いました。発明だと思いましたね。
——徳永さんは、何かを意識してましたか?
T : 歌詞を書く時に、物まねとか何かに置き換えるのは駄目だと思っていました。1人1人違うはずなのに、アーティストは似たようなことを歌っているんですよ。だから1人1人個の部分を突き詰めていって、正直なところを出したいんですけど、そのまま書いてしまうと歌詞としては成立しにくいんです。そこを精密に歌詞にしていくことを常に気にかけていますね。
N : それは最初から?
T : 心がけてたね。
N : 最近徳永さんは自身のブログで過去を振り返ることをされているんですけど、それが凄い面白いんですよ。高校の時や中学の時にバンドを組んだ話とか、1番最初にオリジナル盤を作った時の話とか、知りたかったことを書いてくれるんです。1番最初にオリジナルの曲を作った時も歌詞の書き方は固まっていました?
T : 最初は英語で歌いたかったんだよね。それで書こうとしたんだけど、書きたいことを書けないことに気づいたんです。
N : 翻訳の障害があったんですね。
T : そうそう。そこは小沢健二みたいに頭が良くないからね(笑)。そこで、日本語の微妙なニュアンスを書きたいんだなっていうことに気づいたんですよね。後は昔の歌謡曲を聞いていたりしたんだけど、なんせお手本が無かったから、歌詞の書き方とかは意識していなかったけど、書きたいように書いて努力してたね。
N : 発明ですよ。あんな書き方出来るの1人しかいないですもん。たまも好きだったんですけど、たまに似ているかもしれない。たまは抽象的な物語のような絵を描いている歌詞世界ですけど、本当に何にも捕われていなくて、今まで日本語の歌を聞いていないんじゃないかって位に自由さがあって、徳永さんには似たようなものを感じましたね。
——どうですかね?
T : たまは知っています。聞き込むというよりは、テレビで流れているのを聞く位の感じ。全然詳しくないです。その頃はメタリカとか聞いてたんで(笑)。
N : 翻訳カードは読んでたんですか(笑)? イメージではメタリカは「串刺しにしてやるぜ! 」なんですけど、どんなバンドなんですか?
T : えーっとね。戦争は悲惨だよっていう歌詞もある(笑)。
N : それに感銘を受けていたんですか?
T : あっ、それはない。歌詞で影響を受けたのは、ブルース・スプリング・スティーンとかかな。中学生の頃とかに、歌詞を読んだら日本語では想像もつかないような内容だったんですよ。元々フォークの人なんだけど、ちょっと病んでた80年代頃の歌かな。他愛ない歌詞を載せようと思えば載せられるのに、そこには衝撃的な内容があるっていうことに驚いて、影響されたのかな。
N : 中学からなんでそんなに音楽に詳しかったんですか? 誰かの影響ですか?
T : 周りに詳しい人は居なかったんですけど、親がラジオ局のKBS京都に勤めてたんです。だから昔からレコードのドーナツ盤が家にいっぱいあったんですよね。さらに親父がハードとか機器を集めるのが好きだったので、ステレオとかも凝ったやつが揃ってたんです。そこが入り口でしたね。
N : 僕も似ていて、おじさんが朝日放送に勤めていて、お父さんも元々音楽が凄い好きだったんです。松任谷由実とか、フォークもそうだし、ビートルズやカーペンターズがリビングで鳴っていたんですね。だから自然とですね。
——音楽を始めたのは、いつ頃なんですか?
N : 僕最初は、音楽はしないって言い続けて目の敵にしてきたんですよ。なぜかというと、小学校の時からずっと一緒に漫画を書き続けていた友達のA君っていう子と、交換漫画をしてたんですよ。昔はメールとかなかったから、女子とか交換日記してたじゃないですか? そんな感じで2人の間で出来ている少年ジャンプっていう感じで。高校2年までやったから7年間は続けて、「将来は、藤子不二雄だね」って言ってたんですよ(笑)。そしたらHUNTER×HUNTER並みに連載が止まって。でも、高校生だから勉強とかが忙しいのかなって思ってたんです。そうしたら高校2年生の時に「解散したい」って言われて、なんでって聞いたら「受験があるから」って言われたんです。でも彼のその後の人生があるので、しょうがないなと思ったんです。藤子不二雄もAとFに分かれたように、僕もそろそろソロ活動をするべきなのかなって思ってたんです。さらに美大の受験があったので、デッサンの勉強をしなきゃいけないタイミングだったし。そうしたら高校2年生の時に、1個上の兄ちゃんが文化祭でLUNA SEAのコピー・バンドをするから見に来てくれよって言われたんですね。そしたら2年生の部で、チェッカーズとジュディ・アンド・マリーのコピー・バンドのギターをやっているのが、そのA君だったんですよ!
(一同爆笑)
N : 「いるじゃん! 」って思って。なんで、それまで気づかなかったんだろうと思いましたね。それはまぁいいとしたんですけど、次の日からその子に彼女が出来たんです(笑)。その彼が女の子と一緒に帰っているのを見て、「一生ギターなんて触らねぇ! 絵で大成してやる! 」って誓ったんです。
(一同爆笑)
N : 家にもギターがあったんですけど、敵だと思ってたんです。でも受験に受かって、ギターが出来る友達が下宿の前の部屋にいたので教えてもらい始めたんです。その友達はジョン・レノンがかなり好きで、せっかく色々な音楽を知っているのに部屋にビートルズのCDしかないんですよ。そこでまずCとFを、教えてもらったんです。それが始めてだったので、「コードって何? 」っていう位だったんですけど、その友達が「中村君CとFのコード覚えたでしょ! ジョンはね、ワン・コードで曲を作ったんだ。中村君はもうツー・コード知っているんだから、10曲作れなきゃおかしいよ! 」って言われて、曲を作り始めたんです(笑)。部屋で小沢健二とか、たまの歌を弾けたらいいなぁ位だったんですけど、いきなりオリジナル曲を作れって言われたんです。それで大学の時に50曲位作ったんですよ。その時期が90年代だったんですけど、古い日本語の歌を聞くことが身の周りでは流行っていたんですね。そんな中で、徳永さんとかゴメス・ザ・ヒットマンに出会ったりして、歌詞がいいものってあるんだなって気づいたんです。そこに気づいてから自身のバンドに至りますね。
——結局、バンドを始めて彼女は出来たんですか?
N : バンドを始める前に出来ました。結局関係なかったですね(笑)。
今回は、出せるものを出してみようと思った
——徳永さんが音楽を始めたきっかけを教えてもらってもいいですか?
T : 同じようなものですよ。友達がメタルをやっていたんですけど、もうやっていることにビックリしてしまいましたね。
——徳永さんの出身はどこですか?
T : 滋賀県の彦根ですね。大阪で大学生をやって、22歳で上京してきました。デモ・テープも作って色々な所に送りましたね。
N : MTRで録ったんですか?
T : そうそう。ポニー・キャニオンが拾ってくれたんだよね(笑)。そこまではトントン拍子だったんだけどね。ライヴとかも全然やっていなかったけど、東京のレコード会社の人が良いって言ってくれるなら、上京してもいいじゃないかって思ったんだよね。地元に残すものが無かったからね。
N : 大学生の時は、家で録音していたりしたんですか?
T : サークルもやっていたんだけど、自分の音と歌詞に友達を強引に引き寄せるのは、性格上無理だったんだよね。だからチマチマ録音しながら打ち込みをやっていたりしてたね。他にインスト・バンドとか変なことをやっていたね。
N : 徳永さんの大学時代とか見たいなー。絶対暗かったですよね(笑)。
T : そんなに暗くないよ。
——徳永さんは、中村さんの作品にシンパシーを感じるところはどこですか?
T : S▲ILSのライヴは2回位しか見ていないけど、センスいいですよね。
N : うわーい!!
T : 絵は完成された作品で鉄壁な感じがあるんですけど、S▲ILSはノー・ガード戦法って感じがしますね(笑)。まずは殴ってからみたいな(笑)。
N : (笑)。的を射てますねー。その通りですよ。
T : 真似しようと思っても、真似出来ないですからね。そこが凄いと思う。
N : 徳永さんの歌詞も参考にしていますからね。その人らしい歌詞ってなんだろうってずーっと考えていても出来なかったんです。でも、今回インディーズでデビューさせてもらうってことは、「君は何か自分らしさが見つかったね」っていう形で、声をかけてもらったと思っているんです。それが結果ノー・ガードになることなんです。今はラジオもやらせてもらっているんですけど、最初は組み立てて台本を作ってやっていたんです。でもアドリブが凄いうけるようになってきたところから、最初から決めてやるのは辞めようってなったんです。それを音楽に持って来れないのかなって思ったんですよね。でも僕も「これが演奏したいから、全部一緒にやってくれ」っていうのは出来なくて、メンバーがちょっとでも共有出来るやつを選んでもらって、やっているんですね。例えばAV女優に捧げる歌とか、遅刻をしてひたすら言い訳をしている歌とか(笑)。後はパン屋で働いている金髪の女性の歌なんですけど、これが徳永さんの歌に似ているんですよ。今までは曲を作って歌詞をのせていましたけど、今は言葉にメロディーを付けていくっていう作り方に変わりましたね。それで皆が共感してくれるっていうか、楽しんでくれるものを5曲選んで今回は作りましたね。
——言葉にメロディーを付けるというのは、徳永さんもそうですか?
T : 僕は逆なんだよね。メロディーに歌詞を付けるんですけど、苦しんでいるんですよね。
N : メロディーが出て来るっていうのは、テンションとか映像があって、浮かび上がってくるものじゃないですか? そこに歌詞を落とし込むっていうのは、どういう関係なんですか?
T : メロディーが歌詞を呼ぶっていうのもあるけど...。
N : 今かっこいいこと言いましたね。
(一同笑)
T : (笑)。いや本当に。メロディーがあっても出来ないものは出来ないけど、一行書いたらスルスルっとかけちゃうのもあるんだよ。歌詞とメロディーが合うと不思議なんだよね。
N : 狙ってやることもあるんですか? このメロディーにはいつもだったらこれを乗せるけど、敢えてこっちをいったら面白いだろうなって思い付くことはあるんですか?
T : わざわざ狙いはしないかな。出来たメロディーの良し悪しもあるから。だから曲は作って寝かしていますね。全て自分で責任をとるので、勢いだけではやらずに2人目、3人目の自分に聞いてみますね。
N : 時々昔の曲が、アルバムに入ってたりしますもんね。
T : だからアルバム用の曲を用意しているうちに、「この曲の横にあの昔の曲があったら良いんじゃないか」とか考えつくからね。
N : ブログに昔のことを書き出したのは、なんでですか? あれは大きいと思うんですよ。
T : 自分で喋るとか書くっていうのは、ほとんどやってきてないんだよ。インタビューで色々聞かれても本質は応えないというか... (笑)。上手いこと言えない本質の部分があったんです。だから1度ここは振り返ってみようと... でもなかなか筆が進まないですね(笑)。
N : どのくらいの時間がかかっているんですか?
T : 書いては忘れているから、アルバム制作が終わってから書き出してて、一回につき2、3回は時間を置いているかな。
N : 徳永さんがエッセイを書き始めていらして、それも面白いんですよ。曲もそうなんですけど、自然と終わっていくんですよね。ガチッとオチがあるわけではないんです。最後に残り香を残すように終わっていくんです。あれは出来ないなって思うんですよね。言葉の選び方も何にも捕われずに、自分はこうだっていうものが最近とれてきている気がします。ある意味昔の自分と距離がとれるようになってきている気がするんですよね。その時の自分は自分ではないし、今はこのアルバムがあるんだよっていうような感じがします。
——徳永さんの新譜は聞かれましたか?
N : 聞きましたよ。徳永さんが1周して戻って来てくれたような気がしました。前作『裸のステラ』も好きで、テンションの上がり下がりじゃないですけど、多分徳永さんは2週位しているんですよね(笑)。前作は頑張ったっていう気合いが見えたんです。でも今回はそれが無くて、エッセイを書いている徳永さんに戻った感じですね。僕が昔聞いた中ではファースト・アルバムも気合いが入ってましたけど、セカンド・アルバムの『眠り込んだ冬』の時には1回普通の徳永さんに戻ってきているんですよ。次のアルバムの『スワン』でも、もう1回戻ってきていたんです。そこでもテンションが上がったんですよ。だから3週しているんですね(笑)。このアルバムにはキャッチーな曲も入っているし、これからまた印象が変わりそうなアルバムだと思いました。
——3週位回ったと言われましたが?
T : 今回は、出せるものを出してみようと思いましたね。今まではシンガー・ソングライターとしての形を出したがるというか、それを守りたかったっていうのもあるんですけどね。今回は関係なくインストとか、自由に入れてますしね。
——凄いタイトルの曲ありましたよね。「死ね、名演奏家、死ね」でしたっけ?
T : あれは本であるんですよ。不条理な短編小説なんです。あの曲もジャズっぽいんですけど、本もジャズをテーマにしていて。タイトルが頭から離れなくなってしまいましたね。だからこれもインストがあって、何の名前付けようかなって思った時に思い付いたんです。
——今作のタイトル『ただ可憐なもの』の由来は何でしょうか?
T : タイトルはいつも最後に付けるんですけど、いつも困るんですよね。曲として最後まとめてる感じがあったので、これがふさわしいかなって思ったんです。
N : この「可憐なもの」って何を指しているんですか?
T : 具体的には、女の涙です。
N : 恥ずかしそう(笑)。
T : (笑)。そうやって読むと分かるんですよ。誰を対象にするかは、ぼかしてますけどね。涙って書いちゃうとストレートになっちゃうので、よく分からないものを歌詞の節々から感じとってもらえばいいかなと思います。どんどん想像してほしいですね。
N : ジャケットも今までよりも子供向けですよね?
T : そうだね。今回の歌詞は場所とか時代とかを設定していなくて、少し現実味がなくて浮世離れしたものが多いから、そのイメージのジャケットにしたかったんだよね。
N : 「ウサギの国」っていう曲あるじゃないですか? 好きなんですけど、何のことを歌っているのかわからないんですよね(笑)。戦争のことだと思うんだけど、そうでもないし...。
T : 何の歌だろうね? あ、でもウサギを日本人だと例えたらそういう風にも見えるね。でも脅迫観念の歌ではある。
N : だからウサギなんだ!? 臆病だから。
自分とも戦いつつ、苦しみもある
——お子さんが生まれてから心境の変化はありますか?
T : そういうのはないんですよ。子供は好きなんですけど、作品とかには関係ないかな。
N : 完全に主人公が自分の時もあれば、誰かに乗り移っている時もありますよね。徳永憲が思うんじゃなくて、その人が思っていることが現れているというか。今作では、どの曲が自分ですかね? 色々な目線があって、これと言ったキャラクターにはなっていないんですよね。
T : インスト(笑)。どれかな? でも自分のフィルターは絶対通っていくから、何かしら自分の意志が入っていくと思うんだよね。曲として1つの個性が出るようには意識したかな。
N : 短編集的なものですかね?
T : そうだね。
——レコーディングは京都ですか?
T : ギターと歌は家で録って、ドラムとか機材はスタジオを借りてちゃんと録って頂いて、ミックスは京都ですね。
——京都に拘った理由がありますか?
T : 僕はけっこう音については、アバウトなんですよ。
N : いやいや、そんなことないでしょ?
(一同笑)
T : 京都でどうですかって話を頂いて、「いいですよ」位だったんです。自分から言ったわけではないんですよ。ただ、土地土地の空気があるじゃないですか? 今回は東京ではなかったんですよね。これはこれで面白いかなと思ったんです。僕はS▲ILSみたいに、ピュアな部分をまだ残したいんですよね。でももうピュアな部分を失ってしまっているんでね。せめてミックスとか、録音の時間かけなくても出来るものは時間をかけないで、出たところ勝負でピュアさを出したいんです。
——ピュアさを具体的に言うと?
T : 中村さんのデモを聞いても、ピュアな部分が残っているんですよ。
N : 気持ち?
T : そうだね。作った時の気分がちゃんとのっているんですよね。録った時は勢いで録っていたりするけど、後々聞くとその時の空気感とかが大事なんですよね。それがなかなかコントロール出来ないというか... こう考えている時点でピュアではないんですよ。だから録音とかは勢いに乗った方が、考え過ぎてやってしまうと大事な部分が消えてしまうのではないかという恐れがあるんですよね。良い音楽っていうのは、そういうのが残っているのでね。練習とかもし過ぎない方がいいんですよね。
——S▲ILSはどんな状況ですか?
N : 今はミックスの最終確認中で、完パケの一歩手前ですね。いやー、嬉しいですね。10年やってきて初めて商品になるっていうのは、CD-RやDVDが普及してからは自分で作ることも可能でやっていましたけど、やっぱりWaikikiRecordから出せるっていうのは凄い嬉しいし、何より自分が今まで聞いてきたアーティストの人達と遊ばせてもらうっていうのが嬉しいですね。出来上がったものには色々な人が関わっていて、絵とはまた違った世界なのでドキドキしていますね。
——絵と違うというと?
N : 絵は1人なんですよね。徳永さんも1人に近いと思うんですね。例えば、ベースもドラムも録音も1人でやらなきゃいけないのがイラストレーターなんです。そこに何かが飛び込んで科学変化が起きるということは、まずないですから。それと違って音楽というのは、テンションによって変わるし、録音によっても違うだろうし、ニュアンスを出せるだろうし、プレイヤーによっても変わるから、全てが違いますね。受け手が覚える感覚でいうと、絵は本を読むのに近いんじゃないですかね。興奮とか嬉しくなるといった感情には結び付かないと思うんです。どっちかというと、暇潰しのように考えにふける方に近いと思うんです。美術館に行くのはそういうことだと思うんですよね。
——S▲ILSを聞いてどうなってほしい?
N : こういう人に聞いてほしいというのはありますけど。っていうよりかは、想像していなかった人にどう聞いてもらえるんだろうって考えています。僕たちの音楽性と僕の歌詞っていうのは、何か別のものをくっつけたみたいな感じなので、面白いものが好きな人も、可愛らしいものが好きな人にも相反すると思います。性を感じない音楽に敢えて性的なものをくっつけて、可愛い顔しているけど下ネタを言ってくる的なね。嫌がる人は嫌がると思うんですけど、普通の人に受け入れられるのかなって思いますね。
——徳永さんはこう聞いてほしいという気持ちはありますか?
T : これが特にないんですよね。どっちかというと僕が作っている感じでは中村さんが描いている絵に近いと思うんですよね(笑)。
N : 近いと思います。
T : 自分とも戦いつつ、苦しみもあるというか。聞いてほしいというのはあるんですけど、どんな風に聞いてほしいとかは想像がつかないんですよね。自分の悪いところだと思うんですけどね。
N : 徳永さんがそこを考えたら、この音楽が出来ないですよ。すごいそこは密接だと思います。
T : だから、ほぼ考えていないんですよね。
——2人の共通点はなんでしょう?
T : イラストを見て思うのは、繊細な部分をすごい大切にしているなって。そういうところは共通している気がしますね。どうかな (笑)?
N : 最近、谷崎潤一郎さんの本を読んだんです。あの人の本はエロ小説とも言われているけど、エロくない本を読んだんですね。その時に徳永さんの匂いを感じたんですよね。徳永さんの歌詞には特別フェティッシュな言葉は入ってこないように感じたというか、さっき話していた繊細な部分にも共通すると思うんです。これ分かるかなぁっていうところの境目というかね。昔の「爪の匂い」っていう歌が好きで、すごいエロイんですけど、世界観は好きなんですよね。そこも似ていると感じてしまったりしていて。でも徳永さんはもうちょっと布に包まれている感じはするんですよね。どっちもスケベなんですけどね。スケベの質がじっと見つめているスケベさですね。僕も徳永さんも(笑)。本屋にいる女の子をただじっと見つめながらエロイなぁと想像する。それを家に持ち帰って歌詞にするみたいな。徳永さんの歌の節々がエロイんですよね。表現の仕方が違えど、目線が同じ気がしますね。そこに親近感が湧くというか、同じレーベルに所属する先輩なんだなって感じます。
PROFILE
徳永憲(トクナガケン)
残酷なようで優しい楽曲を、裸の声に乗せて歌うシンガー・ソングライター。1998年ポニー・キャニオンより『魂を救うだろう』でデビュー。以来、隠遁的ながら着実な活動を続けている。聴き手の心を鷲掴むそのスタイルは最初から一貫したものだが、その表現力と世界観は年々深まる一方である。
徳永憲 officail web
S▲ILS(セイルズ)
ASIAN KUNG-FU GENERATIONやゲントウキのCDジャケットをはじめ、赤川次郎、石田衣良などの書籍カバーも数多く手掛ける大阪在住のイラストレーター中村佑介(ナカムラユウスケ)率いる3人組バンド。
愛すべきWaikiki Recordの仲間たち
ELEKIBASS / Paint it white
3枚目のフル・アルバム。『Paint it black』がオルタナ精神溢れる”陰”の部分なら、この作品は”陽”。カラフルでハッピーな、全曲日本語のかわいいポップス大本命! ジャケットはof monterealのイラストでおなじみのDavid Barnes。
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 / キング オブ ミュージック
大根! 人参! ロックンロール! くよくよしようぜ! 奇妙礼太郎をはじめとする、シナトラ気取りのフリークスとガラスのハートにワサビを塗りすぎた5名から10数名のキンキー・ミュージシャンズが、 春の入学&ファースト・キッス・シーズン、微熱なフォーエバー・ヤングスに贈る、 ソフト問題児×ハード迷子な栄光のオープン・チャック・集団ダンス・ミュージック! 60年代のスタンダード・ナンバーへの愛が伝わる好盤。
OverTheDogs / A STAR LIGHT IN MY LIFE
東京・福生市出身の5人組ギター・ロック・バンドOverTheDogsのファースト・アルバム。ボーカル恒吉豊のハイトーン・ボイスと、疾走感溢れるキャッチーなサウンド、そして「わたし」と「あなた」の世界を描いた、温かく実直な歌詞が胸を打つ作品。