国債とは、以下のものを指す。
1.は広い概念で、国庫短期証券のなかの政府短期証券の部分も含むし、繰延債も含む。
2.は財務省の作成する資料で多く見られる概念で、国庫短期証券のなかの政府短期証券の部分[1]を含まないし、繰延債も含まない。
本記事では主に1.の定義に従って記述する。また本記事においては主に日本国の国債について説明する。アメリカ合衆国の国債については米国債の記事を参照のこと。
国債とは、政府が発行する債券である。
債券とは、発行者が「券面に記載された期日に券面に記載された通貨を券面に記載された金額だけ支払う」と約束して負債証明書として発行する証券のうち、市場で売買しやすくしてあるものである[2]。
Aという通貨を支払うと約束したB国政府の国債は、A建てB国債と表記される。日本円を支払うことを約束する日本政府の国債は円建て日本国債というし、米ドル(アメリカ合衆国ドル)を支払うことを約束するアルゼンチン政府の国債は米ドル建てアルゼンチン国債という。
中央政府が発行する債券を国債という。地方公共団体が発行する債券を地方債という。独立行政法人などの政府関係機関が発行する債券を政府関係機関債という。国債と地方債と政府関係機関債を合わせて公共債(公債)という。
公共債の対義語は民間債で、民間債は企業が発行する社債と、一部の金融機関が発行する金融債に分けられる。
公共債と民間債を合わせた概念を債券と呼ぶ。
債券と手形と小切手と株券と図書券と商品券などをまとめて有価証券と呼ぶ。
以上のことをまとめると次のようになる。
有価証券 | ||||||||||
債券 | 手形 | 小切手 | 株券 | 図書券 | 商品券 | その他 | ||||
公共債(公債) | 民間債 | |||||||||
国債 | 地方債 | 政府関係機関債 | 社債 | 金融債 |
日本政府にとって日本国債は負債である。つまり、日本政府以外の存在にとって日本国債は資産となる。日銀の貸借対照表を見ても(資料3ページ)、銀行の貸借対照表を見ても(資料5ページ
)、資産の部に国債が書き込まれている。
「ある人の負債が、それ以外の人の資産になる」という考え方は、簿記や貸借対照表(バランスシート)の知識が少しでもあると理解できる。
国債は、政府の負債を記した証券で、国会の議決を受けた上で政府が発行し(憲法第85条)、国債市場で売り出され、個人・企業・団体・他国政府などに対して売却される。
円建て日本国債は東京の国債市場で売り出される。米ドル建てアルゼンチン国債はニューヨークの国債市場で売り出される。このように国債はそれに明記されている通貨の流通する国で売り出されることを基本とする。
日本政府の予算の大部分を占める一般会計の歳入は、「租税及び印紙収入」と、「その他収入」と、「公債金」から成り立っている(平成31年度予算)。
「租税及び印紙収入」は、いわゆる租税収入(税収)である。
「その他収入」の大部分は税外収入と呼ばれるもので、政府の営利事業で得られる収入や、交通違反の罰金などの収入が含まれる。日本中央競馬会(JRA)や日本銀行からの納付金がここに入る。
「公債金」は、国債を発行して市場で売却して得られる収入である[3]。
日本政府の一般会計の歳入の中で公債金が占める割合を公債依存度という。日本の公債依存度の推移は次のようになっていて(資料)、「3分の1から2分の1程度」と憶えておいてよい。
年 | 公債依存度 |
2012年(平成24年) | 48.9% |
2013年(平成25年) | 48.2% |
2014年(平成26年) | 38.9% |
2015年(平成27年) | 37.5% |
2016年(平成28年) | 37.7% |
2017年(平成29年) | 36.3% |
2018年(平成30年) | 34.5% |
政府の支出について「我々の税金が使われている」と表現したり、政府の支出の無駄遣いのことを「税金の無駄遣い」と表現したりする例が見られる。
そういう表現は、政府予算の歳入の3分の1から2分の1程度を占めている国債のことを無視した表現であり、あまり正確な表現ではない。
政府の支出について「我々の税金と国債が使われている」と表現したり、政府の支出の無駄遣いのことを「税金と国債の無駄遣い」と表現したりするのが、より正しい表現といえる。
政府が発行済み国債の利子や元本を支払えなくなることを債務不履行とかデフォルトという。デフォルトで有名なのは、米ドル建てアルゼンチン国債を償還できなくなったアルゼンチン政府や、ユーロ建てギリシャ国債を償還できなくなったギリシャ政府である。
国債とは「何らかの通貨を支払うと約束する政府の負債」を記した証券なのだが、どういう通貨を支払うのかで分類することができる。
20世紀以降の世界において、大多数の国は中央銀行が発行する銀行券を通貨として採用してきた。その現実に従って国債を分類すると次のようになる。
名称 | 支払う通貨 | 債務不履行の危険性 | 例 |
自国不換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を強く受ける自国中央銀行が発行する不換銀行券 | 全く存在しない | 2021年の日本国債、1971年8月15日のニクソンショック以降の米国債 |
自国兌換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を強く受ける自国中央銀行が発行する兌換銀行券 | 存在する | 1971年8月14日以前の米国債 |
他国不換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を全く受けない他国中央銀行が発行する不換銀行券 | 存在する | 2001年の米ドル建てアルゼンチン国債 |
他国兌換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を全く受けない他国中央銀行が発行する兌換銀行券 | 存在する | 1904年のイギリスポンド建て日本国債 |
共通不換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を全く受けない中央銀行が発行する不換銀行券 | 存在する | 2015年のユーロ建てギリシア国債 |
共通兌換銀行券建て国債 | 「国債を発行する政府」の影響を全く受けない中央銀行が発行する兌換銀行券 | 存在する | (発行例なし) |
日本銀行は日銀法第4条によって日本政府の経済政策の基本方針に整合的な金融政策をとるように義務づけられており、日本政府の意向に逆らうことができず、日本政府の影響を強く受ける。日本政府が「日本国債を100%確実に償還する」という経済の基本方針を打ち立てたとき、日本銀行はそうした経済の基本方針に整合的な行動をとるしかない。
自国不換銀行券建て国債は、自国中央銀行のもつ無限の通貨発行権を行使することで返済できる。不換銀行券というのは、券面の金額に相当する資産を提供する義務が無期限に延期されていて、負債としての性格が極度に薄まっている負債であり、中央銀行の経営をまったく圧迫しないものであり、中央銀行が無限に発行することができる。
このため、自国不換銀行券建て国債は「どんなことがあっても100%確実に償還される極めて安全な金融商品」と位置づけられる。
発行した自国不換銀行券建て国債の返済方法は、通貨発行権を行使して償還するか、借り換えをして市中に残し続けるか、税収などによって償還するか、のいずれかになる。
通貨発行権を行使して国債を償還する具体例は、日本銀行が通貨を新規に発行してそれと引き換えに国債を買い取るものであり、資金供給オペレーションである。
本記事の『自国不換銀行券建て国債』の項目で自国不換銀行券建て国債についてさらに詳しく解説することとする。
日本において、銀行や証券会社で個人向け国債が販売されている。また個人向け投資信託(ファンド)で国債を必要に応じて組み込んでいることがある。そして、銀行はその資産の多くを国債に割り振っている。このように、国債そのものは、政府以外の存在にとって資産であり、金融商品のひとつである。ちなみに、金融商品ではあるが金融庁が監督していない。
銀行は日銀当座預金をもっているが、その日銀当座預金が必要な分よりも余ることがある。政府は、そうした日銀当座預金を吸収するために、日銀当座預金の利率を上回る利回りで国債を売り出す[4]。日銀当座預金を余らせた銀行は自動的に国債を購入することになる。ゆえに、銀行にとって日本国債は、必ずお金を増やすことができる貯金箱のようなものといえる。
銀行にとって、余った日銀当座預金で株式(どこかの会社の所有権の一部)や外国の国債を買うという選択肢もある。ところが、株式には値下がりのリスクがあるし、外国の国債には為替リスクがある。後者は、日銀当座預金を外国通貨に両替して外国の国債を買った後に「円高・外国通貨安」になり、外国の国債が外国通貨で償還されたときに大損するということである。このため、銀行は、余った日銀当座預金で株式や外国の国債を買うことを本質的に非常に嫌がり、日本国債を買いたがる傾向がある。確実に日本の通貨を増やすことができる金融商品は、日本国債だということになる[5]。
世の中の金融商品は、安全性(償還されるかどうか)、流動性(換金しやすいかどうか)、収益性(利子が高いかどうか)の3つの基準で評価することができる(資料)。円建て日本国債は自国不換銀行券建て国債なので、安全性が極限まで高くてリスクフリー(risk free 「リスクが皆無」という意味)とされ、それにより流動性も非常に高いが、利子が低めになっていて収益性が今ひとつである。
日本国債は安全性が極度に高い債券である。このため資金を借りるときの担保にしやすい。
銀行や保険企業のような金融市場参加者が中期国債・長期国債・超長期国債といった「残存期間が1年を超える期間の国債」を持っているとき、中期国債・長期国債・超長期国債を日銀へ担保として差し出すことで日銀から融資を受けることができる。また短期金融市場のオープン市場の現先市場において中期国債・長期国債・超長期国債を売り現先[6]することができる。
このため銀行や保険企業は安心して「残存期間が1年を超える期間の国債」を保有することができる。
残存期間が1年を超える債券を購入した者は、貸借対照表の資産の部の中の固定資産の中に金額を書き込むことになり、本来なら「流動性が低い資産を持っていて財務体質がイマイチである」と評価される。しかし「残存期間が1年を超える期間の国債」なら話が変わってきて、「国債を担保として短期資金を借り入れすることが容易なので財務体質が良い」と評価される。
日本国債は自国不換銀行券建て国債であり、100%確実に償還されるという信頼があり、リスクフリー(無リスク)の債券とされている。
このため、日本国債の利回りが日本国内における貸し出し金利の基準となる。銀行が30年の住宅ローンを組むときは30年物の超長期国債の利回りを参考にするし[7]、銀行が10年の自動車ローンを組むときは10年物の長期国債の利回りを参考にするし[8]、自動車販売業者が5年間の自動車ローンを組むときは5年物の中期国債の利回りを参考にするし、銀行が1年間の貸し出しをするときは1年物の国庫短期証券の利回りを参考にする。
このため日本国債は日本国内の金融業者にとって「利率の見本」であり、日本国内の金融業者にとって一種のインフラと言っていい存在である。
日本政府はその気になれば国庫短期証券だけを売却して財政を組むことができるのだが、決してそのようなことをせず、2年債・5年債・10年債・20年債・30年債・40年債とバラエティ豊かに国債を売りだしている。その理由の1つは、国内の金融業者に対して貸出利率の基準を作ってあげるためである。
日本国債には様々な期間の国債があるが、「10年物固定利付債を1年に一度大量に発行する」ということをしておらず、「10年物固定利付債の総量を12で割って、1ヶ月ずつに分けて発行する」ということをしている。このため新規発行国債を扱う国債発行市場は年がら年中開かれている。
期間 | 償還方法 | 発行頻度 |
6ヶ月債 | 割引債 | 月2回 |
1年債 | 割引債 | 月1回 |
2年債 | 固定利付債 | 月1回 |
3年債 | 固定利付債(個人向け国債) | 月1回 |
5年債 | 固定利付債 | 月1回 |
固定利付債(個人向け国債) | 月1回 | |
10年債 | 固定利付債 | 月1回 |
変動利付債(個人向け国債) | 月1回 | |
物価連動国債 | 年4回(3ヶ月に1回) | |
20年債 | 固定利付債 | 月1回 |
30年債 | 固定利付債 | 月1回 |
40年債 | 固定利付債 | 年6回(2ヶ月に1回) |
政府が中央銀行に強い影響を与えつつその中央銀行の発行する不換銀行券を実質的に支払うことを約束して発行する債券で、期日になったときに不換銀行券を保有者に支払うか、中央銀行預金を保有者の中央銀行口座に送金するか、中央銀行預金を保有者の口座を管理する市中銀行に送金しつつその市中銀行に対して保有者の口座の金額を増やすように要請するもの
中央銀行に口座を開設している市中銀行が国債を保有していて、その市中銀行が国債の償還を受けるとする。その場合は不換銀行券と即時に交換できる中央銀行預金を政府が市中銀行に送金する[10]。
市中銀行に口座を開設している保険企業が国債を保有していて、その保険企業が国債の償還を受けるとする。その場合は、保険企業の口座を管理する市中銀行に対して政府が中央銀行預金を送金しつつ、その市中銀行に対して「保険企業に対して銀行預金を発行してあげてください」と要請する。
不換銀行券というのは中央銀行にとって負債性が極めて薄い負債で、中央銀行がごく簡単に発行することができる。このため「不換銀行券を発行する中央銀行には無限の通貨発行権がある」とか「自国不換銀行券建て国債が債務不履行(デフォルト)に陥る可能性は全く存在しない」と表現される。
自国不換銀行券建て国債を売り浴びせられたとき、中央銀行は売られた国債をすべて買い取ることができる。中央銀行が思い通りに国債を買い支えて国債価格を維持することができるため、「自国不換銀行券建て国債には市場原理が働かない」「自国不換銀行券建て国債は市場原理の枠から外れている」と表現することも可能である。
中央銀行は政府から完全に独立しているわけではなく、政府の影響を非常に強く受ける存在である。
日本の中央銀行である日本銀行は日銀法第4条で次のような義務を課せられている。
日銀法第4条 日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。
政府の経済政策の基本方針が「主」で、日銀の通貨・金融調節が「従」であり、日銀は政府の意向を常に伺わねばならず、日銀の拒否権など認められない・・・以上のことが日銀法第4条に明記されている。
政府は国会の議決を受けて国債を発行し(憲法第85条)、国債市場に売却するのだが、そのことを差し止める権限など日銀には全く備わっていない。
日銀が政府の経済政策の基本方針に対して公然と異を唱えて拒否権を発動すると、日銀法第54条第3項に基づいて日銀総裁が国会に呼び出される。衆議院の予算委員会や財務金融委員会で徹底的に吊し上げられ、「なぜ日銀法第4条を遵守しないのか」と問い詰められる。参議院の予算委員会や財政金融委員会でも同じことが行われる。
それでも日銀が政府の経済政策の基本方針に対して反抗する姿勢を示すと、国会議員たちが日銀法を改正したり日銀に関する特別法を立法したりして日銀総裁を解任する流れになることが予想される。
「自国不換銀行券建てではない国債」とは、他国不換銀行券建て国債や、共通不換銀行券建て国債のことである。米ドル建てアルゼンチン国債や、ユーロ建てギリシャ国債が典型例となる。
自国不換銀行券建て国債と「自国不換銀行券建てではない国債」は、次元が違うと言っていいほど異なる存在である。
前者は債務不履行の可能性が全く存在しない。後者は債務不履行の可能性が存在する。後者の返済に行き詰まったら、後者を発行した政府は通貨を発行する中央銀行に向かって土下座してひれ伏して「支援をしてください、国債を買い取ってください」と懇願することになる。
政府が自国不換銀行券建て国債を発行し、国内の国債市場に売却した場合、とても順調に売れていくのが常である。
日本国は、自国不換銀行券建て国債を順調に消化するために次のような手続きを踏んでいる。
国債市場の参加者たちが持っている余剰の通貨が減ってくると、国債の売り手に対して国債の買い手が少なくなって国債の価格が下がり、国債の金利(利回り)が上昇し、政府が国債を売却しても狙いどおりの売却益を得られなくなる。また、長期金融市場の国債市場と短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場の両方に参加している金融機関が多く、長期金融市場の国債市場で政府が国債を発行して余剰資金を吸収すると短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場でも余剰資金の減少が起こって短期金利が上昇する。そうしたことは中央銀行ならすぐに察知できる。
そういう場合は、中央銀行が新規に通貨を発行して、国債市場の参加者達が保有する国債を次々と買いオペし、国債市場の参加者たちが持っている余剰の通貨を増やしてあげている。余剰の通貨を抱えた国債市場の参加者達は、国債が売り出されると自動的に国債を購入していく。
国債市場の参加者達が国債を保有していない場合は、中央銀行が新規に通貨を発行して、国債市場の参加者達に対して、短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で証書貸し付けしたり、短期金融市場のオープン市場の現先市場で買い現先[11]したりする。このときの中央銀行は、国債の利回りよりも低い金利で貸し付ける。国債市場の参加者達は、中央銀行から借りた資金の利子よりも高い利回りの国債を買うことができれば十分に利益ができるので、中央銀行から借りた資金で次々と国債を購入する。
こうした中央銀行の行動を政府の国債売却に伴う短期金利上昇を防ぐための資金供給オペレーションという。
国債市場に参加する市中銀行は、中央銀行預金(日本なら日銀当座預金)を資産として持っている。国債は中央銀行預金の利率よりも高い利回りで売り出される。そのため中央銀行預金を余らせている市中銀行は、国債が新規に売り出されたら、自動的と言っていいほど即座に買う。
国債市場に参加する企業は、銀行預金を資産として持っている。国債は銀行預金の利率よりも高い利回りで売り出される。そのため銀行預金を余らせながら国債市場に参加する企業は、国債が新規に売り出されたら、自動的と言っていいほど即座に買う。
どこの国でも中央銀行は政府を支援している。特に日本には日銀法第4条があり、政府の経済政策の基本方針と整合的な金融政策をすることを日銀に義務づけている。
国債市場に参加する市中銀行や企業は、日銀に日銀法第4条が課せられていることを知っている。
国債市場に参加する市中銀行や企業は、政府が「国債が債務不履行になると金融の大混乱が起こるので、そうした事態を絶対に回避する」という経済政策の基本方針を堅持していることも知っている。
それゆえ国債市場に参加する市中銀行・企業は、「政府の発行する国債が債務不履行になることは、日銀があらゆる手段を尽くして必ず阻止するだろう」と高く信用している。このため日本国債は売り出されるたびによく売れていく。
21世紀現在は、ドル化を採用したり通貨同盟を採用したりする国もあるが、自国の中央銀行が発行する不換銀行券を主力通貨として採用する国が世界の多数を占めていて、日本もその多数派のうちの1つである。
その多数派の国の中央銀行は、国民生活を支えるために不換銀行券や中央銀行預金という通貨をある程度発行して国民経済の中にばらまかねばならない。
不換銀行券や中央銀行預金は、極めて薄いという性質を持つが、中央銀行の負債である。ゆえに中央銀行は何らかの資産を受け取ったときにその代償として不換銀行券や中央銀行預金を発行する。
21世紀現在において、各国の中央銀行は「自国不換銀行券建て国債を資産として受け入れて、その代償として不換銀行券や中央銀行預金を発行する」という方式を主に採用している。日本銀行の2019年9月30日時点における貸借対照表を見ても(資料3ページ)、そのことは一目瞭然である。資産の部において国債金額が飛び抜けて大きく、負債の部における発行銀行券(不換銀行券)と預金(日銀当座預金)の合計金額と同じような金額になっている。
このため「自国不換銀行券建て国債は不換銀行券や中央銀行預金といった通貨の材料になる」と憶えておいてよい。
カレンシーボード制を採用する国の中央銀行は「特定の外国通貨を資産として受け入れて、その代償として不換銀行券や中央銀行預金を発行する」という方式を採用している。しかしカレンシーボード制を採用する国はごく少数である。
国債を発行目的によって分類すると、歳入債・財投債・繰延債・融通債の4種類になる[12]。
歳入債
市場に売却して資金を調達し歳入を増やして歳出需要をまかなう目的で発行するもの。普通国債とも呼ばれる。当該年度の歳出を賄うために発行する新規財源債と、復興債と、国債の償還資金を調達するために発行する借換債がある。新規財源債は建設国債と特例国債に分けられる。
歳入債 | 新規財源債 | 建設国債 |
特例国債 | ||
復興債 | ||
借換債 |
財投債
財政投融資の費用をまかなう目的で発行するもの。正式名称は財政投融資特別会計国債という。償還・利払いが財政融資資金の貸付回収金によって賄われているという特性から、一般政府の債務には分類されない。財政投融資特別会計の歳入になる。
市場に売却されず金銭の給付に代えて交付(譲渡)されるもの。政府は繰延債の償還期日まで支出を繰り延べることができる。交付国債や出資・拠出国債が含まれる。
融通債
国庫金[14]の一時的な資金不足に対応するため、言い換えると国庫金の資金繰りのために発行するもの。国庫短期証券のなかの政府短期証券の部分が融通債に該当する。財務省はこの融通債を国債と扱わない傾向があり、「国債や政府短期証券」といった風に両者を分けて表現することが多い[15]。
国債市場参加者の業種が変わると、好む国債も変わる。銀行は通常は5年以内の債券に投資するのが一般的で、保険企業は10年を超える超長期の債券に投資するのが一般的であると言われる[16]。
日本は2年債と5年債と10年債をそれぞれ同じぐらいに発行しており、この3種が発行額の上位3番手を占める。2019年度は10年債(固定利付債)が25兆2000億円、5年債が22兆8000億円、2年債が24兆円だった[17]。
諸外国も同じようなことをしており、どれか一つの種類に偏重せず、様々な種類の国債を発行している。債務管理リポート2020の54ページに棒グラフが掲載されているので参照のこと。
割引債以外の3形態は、すべて、償還期間の間に定期的な利払いを受ける。ちなみに、日本国債において、利子の支払いは半年に1回である[18]。「額面金額100万円・表面利率2%の固定利付債」なら、1万円の利払いを年に2回受け取る。
保有者 | 保有率(%) | ||
---|---|---|---|
国債 | 国庫短期証券 | 全体 | |
日本銀行 | 46.5 | 10.8 | 43.5 |
銀行等 | 15.2 | 15.5 | 15.2 |
生損保等 | 21.2 | 2.1 | 19.6 |
公的年金 | 4.1 | 0 | 3.8 |
年金基金 | 3.1 | 0 | 2.8 |
海外 | 7.4 | 71.6 | 12.8 |
家計 | 1.3 | 0 | 1.2 |
その他 | 1.0 | 0 | 0.9 |
一般政府(除く公的年金) | 0.3 | 0 | 0.3 |
財政投融資 | 0 | 0 | 0 |
かつては銀行の保有率のみが単一で突出していた時代もあったが、2019年の時点では日本銀行の保有割合がとても多くなっている。
財務省の国債等関係諸資料のページに掲載されている国債等の保有者別内訳 (令和元年6月末(速報))
から抜粋した。
年度 | 普通国債残高 | 対GDP比 | 国・地方合計債務残高 | 対GDP比 |
---|---|---|---|---|
1998年(平成10年) | 295兆円 | 56% | 553兆円 | 105% |
2003年(平成15年) | 457兆円 | 88% | 692兆円 | 134% |
2009年(平成21年) | 594兆円 | 121% | 820兆円 | 167% |
2010年(平成22年) | 636兆円 | 127% | 862兆円 | 173% |
2011年(平成23年) | 670兆円 | 136% | 895兆円 | 181% |
2012年(平成24年) | 705兆円 | 143% | 932兆円 | 189% |
2013年(平成25年) | 744兆円 | 147% | 972兆円 | 192% |
2014年(平成26年) | 774兆円 | 149% | 1001兆円 | 193% |
2015年(平成27年) | 805兆円 | 151% | 1033兆円 | 194% |
2016年(平成28年) | 831兆円 | 155% | 1056兆円 | 197% |
2017年(平成29年) | 853兆円 | 156% | 1077兆円 | 197% |
財務省・財政関係パンフレット教材ページの中にある日本の財政関係資料(令和元年6月)
から抜粋した。財務省・国債等関係諸資料ページ
の国債発行額の推移(実績ベース)
でも普通国債残高の推移を確認できる。
2013年3月に黒田東彦が日銀総裁に就任してから、量的・質的金融緩和(異次元金融緩和)と称して大規模な量的金融緩和を進めた。
日銀は日銀法第4条に従う存在であり、政府を追い詰めるような行動をとる可能性が極めて低い。このため政府は日銀保有の国債の元本や利子の返済を考えなくてよいと言われる。日銀が量的金融緩和をすると、政府の実質的な債務が減っていく。
日銀が保有する国債が満期を迎えたとき、満期を迎えた国債と同額分だけ日本政府が借換債として国庫短期証券を発行して、その国庫短期証券を日銀が直接買い取っている。これを日銀乗換(のりかえ)といい、中央銀行の国債直接引き受けの一種である。日銀は、保有する国債の元本に対する債権を放棄しているのと同じである。
日銀が利付債の国債を保有している場合、日本政府がいったん日銀に利子を支払ったあと、日銀が日本政府から利払いとして受け取った額の95%のお金を日本国政府に国庫納付金として返還している[19]。日銀は、保有する国債の利子の95%を放棄しているのと同じである。
日銀保有の国債が急激に増加し、国債の総額から日銀保有分を差し引いた額がどんどん減少していることを示す表は以下のようになる。
発表時 | 国債などの総計 | 日銀保有分 | 総計-日銀保有分 | 日銀保有比率 |
---|---|---|---|---|
2010年(平成22年)12月末 | 727兆円 | 58兆円 | 669兆円 | 8.0% |
2011年(平成23年)12月末 | 755兆円 | 67兆円 | 687兆円 | 9.0% |
2013年(平成25年)3月末 | 807兆円 | 93兆円 | 713兆円 | 11.6% |
2014年(平成26年)3月末 | 840兆円 | 156兆円 | 683兆円 | 18.7% |
2015年(平成27年)3月末 | 883兆円 | 224兆円 | 658兆円 | 25.5% |
2016年(平成28年)3月末 | 955兆円 | 317兆円 | 637兆円 | 33.2% |
2016年(平成28年)12月末 | 958兆円 | 370兆円 | 587兆円 | 38.7% |
2017年(平成29年)12月末 | 988兆円 | 427兆円 | 560兆円 | 43.2% |
2018年(平成30年)12月末 | 1013兆円 | 466兆円 | 546兆円 | 46.0% |
財務省の国債出版物のページに各年度の債務管理リポートが載っている。「保有者層の多様化」のページの「国債の保有者別内訳」を参考にした。
日本政府は大量の国債を発行しており、2020年の時点において政府債務残高はGDP比で約237.6%(2.376倍)と世界最大になっている(資料)。
1965年に初めて特例国債を発行し、1966年に初めて建設国債を発行した。それから積極財政とプライマリーバランス赤字が恒常化しており、政府債務残高が右肩上がりに増え続けている。
2012年12月発足の安倍晋三政権は緊縮財政を志向しており、新規国債発行を年々減らしていた。
2012年(平成24年)度 | 44兆2440億円 |
---|---|
2013年(平成25年)度 | 42兆8510億円 |
2014年(平成26年)度 | 41兆2500億円 |
2015年(平成27年)度 | 36兆8630億円 |
2016年(平成28年)度 | 34兆4320億円 |
2017年(平成29年)度 | 34兆3698億円 |
2018年(平成30年)度 | 33兆6922億円 |
2019年(平成31年)度 | 32兆6605億円 |
※財務省・国債等関係諸資料のページの「国債発行額の推移(当初ベース)
」を参考にした。
2021年現在の日本国債は100%自国不換銀行券建て国債であり、日銀が通貨発行権を行使して無限に買いオペすることが可能なので、財政破綻の可能性はゼロである。
100%自国不換銀行券建て国債で財政をまかなっているのだから、すでに日本は健全なる財政を達成しているといってよい。
かつての日本は他国通貨建て国債を発行した時代があった。他国通貨建て国債に頼っていた時代は、債務不履行・財政破綻の可能性と隣り合わせだったので、かなり危険で不健全な財政状態だったと言ってよい。
1904年から1905年の日露戦争において軍需物資を外国から購入するためにイギリス・ロンドンでポンド建て日本国債を売りだしたことは有名である。この当時は英国が世界一の超大国であり、英国のポンドが基軸通貨で、日本政府が海外から軍需物資を購入するときに使うことができる外貨だった。この日露戦争の他国通貨建て国債を返済し終わったのは1986年である。
また、1950~60年代の日本は世界銀行から米ドル建てで巨額の融資を受けており(詳しくはプライマリーバランスの記事を参照)、国内企業が海外物資を輸入しても米ドル対象の固定相場制を維持できるように米ドルの準備を増やしていた。これは米ドル建て日本国債を発行したのとほぼ同じ意味を持つ。世界銀行の融資を返済し終わったのは1990年7月である。
2021年現在は、日銀による量的金融緩和の継続という要素があり、長期金利(新規発行10年物国債の利回り)が世界最低クラスを維持している。国債に対して買い手が多く、国債の値段が高くて国債の利回りが低い状態が続いている。
日本国債は100%自国不換銀行券建て国債なので、日本銀行という巨大な買い手に支えられており、利回りが急上昇しにくい構造になっている。
日本銀行にとって日本円は不換銀行券であり、額面金額に相当する資産を提供する義務を無期限に停止している銀行券なので、日本円を発行するとき日本銀行に負担がまったく掛からない。そして日本政府は、日銀法第4条に基づき日本銀行に対して政府の経済政策の基本方針に整合的な通貨発行をするように義務づける権力を持っている。
以上の事柄から、日本政府は好きなように日本円を入手できる立場にある。日本政府が日本円を入手するとき、日本銀行にも日本政府にも負担らしい負担がかからない。
日本銀行や日本政府は「国債の利回りが高くなったら日本政府の財政負担が増加する」といったことを一切考える必要が無く、国債の利回りが上昇しても慌てる必要が無く、政府の財政的な都合で無理矢理に国債利回りを引き下げる必要が無い。日本銀行と日本政府は、「国債の利回りは実体経済に合わせて自然に決まれば良い」という方針を持つことができる。
日本は対外純資産が世界で最も多い国で、「世界最大の対外債権国」という称号を得ており、その座を1991年以降ずっと堅持している。2020年末の時点で、対外純資産は356兆9,700億円となっている(資料)。
対外純資産は、日本の政府・企業・個人が外国向けに保有している資産から、日本の政府・企業・個人が外国に対して負っている負債の額を差し引いた額である。
アメリカ合衆国財務省が発表している「2019年6月28日の時点において米国債を大量保有している国のランキング」のなかで日本が第一位になっており、日本政府や日本企業が保有している米国債の合計値は1兆1253億米ドルとなっている[20]。
2019年6月末の時点の日本政府の外貨準備高の合計額は1兆3222億米ドルで、そのうち証券として保有しているのは1兆1256億米ドルである[21]。この「1兆1256億米ドルの証券」というのは、日本政府が保有しているすべての外貨建て証券を米ドルに変換して合計した数値であって、ポンド建てイギリス国債のようなものも含まれている数字であり、米国債の保有高を示す数字ではない。とはいえ、「1兆1256億ドルの証券」のうち大部分が米国債ではないかとみられている[22]。
これらのデータから、日本政府が米ドル建て日本国債を発行する可能性が極めて低いことが分かる。米ドル建て日本国債は他国不換銀行券建て国債であり、債務不履行(デフォルト)の可能性があり、日本政府にとってとても危険なものであるが、日本政府はそういうものを発行する必要性がない。
2018年における日本の経常収支は19兆932億円の黒字になっている。貿易収支は小幅な黒字に留まっているが、第一次所得収支が20兆8,102億円の巨額に上っている(資料)。
第一次所得収支とは、日本企業が海外において子会社を設立するなどの投資をして得られる利子・配当の積み重ねを指す。多くの日本企業が海外に工場を持ち、堅調に利益を上げていることになる。第一次所得収支は、安定的な稼ぎであり、それが順調に増えている(資料)。
経常収支は1981年から2020年まで40年連続で黒字になっている(資料)。これは、日本が産業に恵まれ、米ドルなどの外貨を極めて大量に稼いでいることを意味している。
産業に恵まれない貧乏国は、外貨を稼ぐ手段を持ち合わせておらず、経常収支が小幅な黒字になったり赤字になったりする。それなのに、ときおり、外貨を使って石油などのような国家の生存に不可欠な外国製品を購入しなければならない。
ある国が固定相場制を採用し、外貨を稼ぐ手段が乏しいのに民間人が自国通貨を外貨に両替してから外貨を使って石油を大量購入するのなら、政府の外貨準備高が一気に底を付く。そこで政府は他国不換銀行券建て国債を発行して外貨を調達して外貨準備高を増やすことになる。他国不換銀行券建て国債は、通貨発行権で返済できず債務不履行の危険があり、極めて危険である。
経常収支が赤字になって外貨を稼げなくなるとこういう事態になる。日本は、経常収支が40年連続黒字で外貨をたっぷり稼いでいるので、これらの事態から最も縁が薄い国の1つである。
2021年6月末の時点で、国債の約87%は国内で消化され、海外投資家の保有率は約13%になっている[23]。
「海外投資家の保有率が高くなると、海外投資家が一斉に日本国債を売りに出して日本国債が暴落して日本国債の利回りが急上昇することが起こりやすくなる」と主張する人がいるが、日本国債は自国不換銀行券建て国債なのでそういった事態が起こりにくい。海外投資家がどれだけ日本国債を売り浴びせても、日本銀行が全て買い取ることができる。
「政府が国債で金融市場からお金を借り入れると銀行預金が減る」というイメージがあるが、そうではない。
政府が国債で金融市場からお金を借り入れて国内向けに政府支出する場合、国債発行前と政府支出後を比べると、市中銀行の預金額が国債の金額だけ増えるか、市中銀行の預金額が増減無しになるか、のどちらかになる。
日銀に口座を開設して日銀当座預金を保有している金融機関というと、銀行、信用金庫、農林中央金庫、そして証券企業である(日銀資料1、日銀資料2
)。
そうした金融機関が国債を購入して保有し、政府が国債発行で得た資金を国内向けに政府支出した場合、市中銀行の預金額が増える。
市中銀行が国債を購入する流れは以下のようになっている。
資産 | 負債または収益 | 備考 | |
ドワンゴ建設 | 銀行預金 +10億円 |
公共事業に関する収益+10億円 | 労働の代償としてお金をもらった |
カドカワ銀行 | 日銀当座預金 +10億円 |
銀行預金 +10億円 |
少しだけだが、損をする。日銀当座預金には短期金利の幅の最低限ぐらいの利子がつき、銀行預金には短期金利と同じぐらいの利子を付けねばならない。ただし、日銀当座預金を使って短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で貸し付けしたり、日銀当座預金を使って国債を購入すれば、その損を取り返すことができる |
ニコニコ銀行 | 国債 +10億円 日銀当座預金 -10億円 |
少しだけだが、得をする。国債は基本的に日銀当座預金の利率よりも高い利回りで発行されている。 |
4.を終えた時点で、今度はカドカワ銀行に10億円の余剰の日銀当座預金が発生した。カドカワ銀行は、余剰の10億円の日銀当座預金で国債を購入することができる。このように、民間部門は国債の購入を無限に続けることが可能である。
「日本国政府が国債を発行しまくると、市中銀行は預金者から集めた預金をどんどん減らすことになる」という考え方は間違いである。
実際はその逆で、日本国政府が国債を発行して市中銀行に保有させて得られた資金で公共事業を行うたびに、それと同額だけ市中銀行の預金額が増加するし、世の中の通貨流通量(マネーストック)が増加する。
2019年6月3日の参議院決算委員会において、西田昌司参議院議員が、日本銀行の加藤毅企画局長に対して質問し、加藤局長は「銀行が国債を保有するケースということについて申し上げますと、政府が国債を発行し、かつ、その資金を国内で支出するという場合には民間貯蓄は増加するという形にはなりますので、そういう意味では民間の預金が増える形でそこはファイナンスされている形になるというふうに認識しております」と答弁している(議事録四ページ、動画1
、動画2
)。
2019年5月23日の参議院財政金融委員会において、西田昌司参議院議員が、日本銀行の雨宮正佳副総裁に対して質問し、雨宮副総裁は「国債発行による財政支出が預金通貨の創造につながるかどうかは、国債の最終的な消化形態によっても変わってくるわけでありまして・・・(中略)・・・銀行が保有している分について申し上げますと、それは信用創造を通じて預金が増加するという格好になります」と答弁している(議事録三ページ
、動画
)。
2019年10月23日の衆議院内閣委員会において、安藤裕衆議院議員が、日本銀行の藤田研二企画局審議役に対して質問し、藤田審議役は「委員御指摘のとおり、発行された国債を銀行が保有しまして、財政支出が行われた場合には、同額の預金通貨、マネーといいますか、これが発生することになるということでございます」と答弁している(議事録三ページ
、動画
)。
さて、最近の日本国政府は、政府小切手を使わずに財政支出をするようになった。そのため、上記の説明は、ちょっと古いものとなった。政府小切手を使わずに支払いをする現状を踏まえて説明すると、以下のようになる。
日銀に口座を開設できず日銀当座預金を持っていない金融機関というと、生命保険や損害保険などの保険企業である。また、一般人や一般企業も日銀に口座を開設できない。また、GPIF(年金の積立金を運用する団体)も日銀に口座を開設できない。
そうした人や企業や団体が国債を購入するときは、手持ちの銀行預金を減らすことになる。政府が国債発行で得た資金を国内向けに政府支出する場合、市中銀行の預金額が増える。銀行預金がいったん減って同額だけ増加するので差し引きゼロになる。
保険企業が国債を購入する流れは以下のようになっている(よく知られている政府小切手モデルで説明する)。
4.が終わった時点での仕訳をすべてまとめた図は次のようになる。民間部門全体で見ると、公共事業に関する労働の対価として国債という資産を得たことになる。
資産 | 負債または収益 | 備考 | |
ドワンゴ建設 | 銀行預金 +10億円 |
公共事業に関する収益+10億円 | 労働の代償としてお金をもらった |
カドカワ銀行 | 日銀当座預金 +10億円 |
銀行預金 +10億円 |
少しだけだが、損をする。日銀当座預金には短期金利の幅の最低限ぐらいの利子がつき、銀行預金には短期金利と同じぐらいの利子を付けねばならない。ただし、日銀当座預金を使って短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で貸し付けしたり、日銀当座預金を使って国債を購入すれば、その損を取り返すことができる |
ニコニコ銀行 | 日銀当座預金 -10億円 |
銀行預金 -10億円 |
少しだけだが、得をする。 |
ひろゆき生命 | 国債 +10億円 銀行預金 -10億円 |
少しだけだが、得をする。国債は基本的に銀行預金の利率よりも高い利回りで発行されている。 |
この場合、カドカワ銀行とニコニコ銀行の預金額の合計は、増減がない。
2006年頃から2019年現在まで、国債保有者における保険企業の割合は18~22%程度となっている。ゆえに、上記のケースも多々発生していることになる。
「ひろゆき生命の銀行預金が、国債を介して、ドワンゴ建設の銀行預金に姿を変えた」という風にとらえることもできる。ひろゆき生命の銀行預金があまり消費されない性質のもので、ドワンゴ建設の銀行預金は従業員の給料になるなどして消費に使われる性質のものなので、このケースにおいても国債発行は景気刺激の効果があると言える。
ちなみにこのことを経済学の用語を使って表現すると「ドワンゴ建設の銀行預金は高い乗数効果をもたらす、ひろゆき生命の銀行預金は低めの乗数効果しかもたらさない」となる。
政府が国債を発行して得られた資金で国内の向けに財政支出するとき、日銀当座預金を持つ金融機関が国債を保有するケースと、日銀当座預金を持たない企業が国債を保有するケースを比較すると、次のようになる。
日銀当座預金を持つ金融機関が国債保有 | 日銀当座預金を持たない存在が国債保有 | |
代表例 | 銀行、証券企業 | 保険企業、個人、GPIF |
日銀当座預金の全体額 (マネタリーベース) |
増減なし | 増減なし |
銀行預金の全体額 (マネーストック) |
増加する | 増減なし |
いずれの場合でもマネタリーベースが増減なしになる。一方、日銀当座預金を持つ金融機関が国債保有するときに限り、マネーストックが増加する。
政府が自らの歳出需要をまかなうため、自国通貨を金融市場から借り入れることがある。そのときは政府が自国通貨建て国債を発行する。
日本やアメリカ合衆国やイギリスなど多くの国が不換銀行券を自国通貨にしていて、自国不換銀行券建て国債を発行している。
国債が満期になるとその元本を償還しなければならない。また、国債が利付債なら満期になるまでの間に定期的にその利子を支払わねばならない。
自国不換銀行券建て国債の元本と利子をどのように支払うかについて、大きく分けて3つの方法がある。中央銀行が国債を買い取る方法と、借り換えを行う方法と、税金で返済する方法である。
中央銀行が国債を買い取って国債の返済をする方法は買いオペレーションという。買いオペは中央銀行が通貨を発行して自国通貨建て国債を買い上げることであり、中央銀行の持つ通貨発行権を利用して国債の返済をするものである。
日本において、銀行などのように日銀に口座を持つ金融市場参加者から日銀が買いオペすると、その金融市場参加者の日銀当座預金が増える。保険会社などのように日銀に口座を持たない金融市場参加者から日銀が買いオペすると、その金融市場参加者の取引銀行の日銀当座預金が増え、その金融市場参加者の銀行預金が増える。いずれにせよ、世の中の日銀当座預金が増える。
日銀当座預金や銀行預金の変化は2パターンに分かれる。銀行は日銀当座預金を持つ存在の代表で、生命保険は日銀当座預金を持たない存在の代表である。
日銀当座預金 | 銀行預金 | |
買いオペで銀行保有の国債の元本・利子を払う | 増加 | 増減なし |
買いオペで生命保険保有の国債の元本・利子を払う | 増加 | 増加 |
世の中の日銀当座預金が増えると、短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で資金の貸し手が多くなって資金の借り手が少なくなり、無担保コール翌日物金利が下がり、短期金利(名目利子率)が下がる。物価が硬直的であるうちなら実質利子率も下がり、投資が増え、日本発のキャリートレードが増えて円売りドル買いが増え、円安ドル高になって名目為替レートが上がり、実質為替レートが上がり、純輸出が増えていく。日本は大国開放経済の国なので買いオペによってそうした効果が発生する。
「買いオペをするといずれは物価が上昇してインフレになる」とされている。
経済学の教科書のように解説すると次のようになる。中央銀行が金融政策を拡大して国債を買いオペするとマネーサプライMが増え、長期において物価Pが上昇し、インフレになる。この考え方を貨幣数量説という。
買いオペによる国債発行残高の変化は1通りであり、次のようになる。
累積国債発行残高 | 市中に出回る国債 | 日銀保有の国債 | |
買いオペで元本・利子まとめて返済 | 増減なし | 減少 | 増加 |
買いオペをすると、政府の味方になることを義務づけられていない人が保有する国債が減り、日銀法第4条によって政府の味方になることを義務づけられている日銀が保有する国債が増える。そのため「買いオペは国債恐怖症を煩った人の恐怖を癒す返済方法である」といえる。
借り換えという方法は、国債返済の資金を新規国債の売却で調達する方法である。借り換えの際に発行される新規国債のことを借換債(かりかえさい)という。
利付債の国債Aの利子を払う期日が近づいたら、国債Bを発行して国債市場に売却し、世の中の日銀当座預金を減らし、日本国政府の政府預金を増やす。国債Aの利子を払う期日になったら、政府が政府預金を支払って償還し、世の中の日銀当座預金を増やし、日本国政府の政府預金を減らす。
利付債または割引債の国債Cの元本を払う期日が近づいたら、国債Dを発行して国債市場に売却し、世の中の日銀当座預金を減らし、日本国政府の政府預金を増やす。国債Cの元本を払う期日になったら、政府が政府預金を支払って償還し、世の中の日銀当座預金を増やし、日本国政府の政府預金を減らす。
いずれにせよ、世の中の日銀当座預金の量は一定を保つ。
日銀当座預金や銀行預金の変化は次の3パターンに分かれる。銀行は日銀当座預金を持つ存在の代表で、生命保険は日銀当座預金を持たない存在の代表である。
日銀当座預金 | 銀行預金 | |
銀行に借換債を購入させて銀行保有の国債の元本・利子を返済 | 増減なし | 増減なし |
銀行に借換債を購入させて生命保険保有の国債の元本・利子を返済 | 増減なし | 増加 |
生命保険に借換債を購入させて銀行保有の国債の元本・利子を返済 | 増減なし | 減少 |
生命保険に借換債を購入させて生命保険保有の国債の元本・利子を返済 | 増減なし | 増減なし |
世の中の日銀当座預金が一定なら、短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で資金の貸し手と資金の借り手が一定のままであり、無担保コール翌日物金利が一定のままであり、短期金利(名目利子率)が一定のままである。物価が硬直的であるうちなら実質利子率と投資も一定のままであり、名目為替レートと実質為替レートと純輸出も一定のままである。
「借り換えをすると物価が一定を保ちインフレが発生しない」とされている。
経済学の教科書のように解説すると次のようになる。借り換えは古い国債を新しい国債に置き換えるだけの行為で、中央銀行が買いオペをしてマネーサプライMを増やすわけではない。マネーサプライMが増えないので、貨幣数量説に従えば、物価Pが上昇せずに一定を保つ。
借り換えによる国債発行残高の変化は1通りであり、次のようになる。
累積国債発行残高 | 市中に出回る国債 | 日銀保有の国債 | |
借り換えで元本返済 | 増加 | 増加 | 増減なし |
借り換えで利子返済 | 増加 | 増加 | 増減なし |
借り換えをすると、累積国債発行残高や市中に出回る国債の量が利子の分だけ少しずつ増えていく。
借り換えをすると、政府の味方になることを義務づけられていない人が保有する国債が増える。そのため「借り換えは国債恐怖症を煩った人の恐怖を増幅させる返済方法である」といえる。
税金を徴収して日本国政府の政府預金を増やし、その政府預金で国債を償還する方法がある。必要に応じて税率を上げて税収を増やす。
この方法を採用するには緊縮財政をしてプライマリーバランスを黒字にせねばならない。プライマリーバランスの黒字の分だけが税金による国債の返済の金額になる。
税金で国債を返済するとき、お金の流れを詳しく解説すると2つのケースに分かれるのだが、いずれも世の中の日銀当座預金が一定を保つ。
日銀当座預金を持つ存在(銀行)が国債保有者であるケースは、次のようになる。
ニコニコ銀行が1億円の国債を保有していて、それを税収で償還するとする。
民間人が政府に対して1億円を納税し、民間人の銀行預金1億円が消滅する。市中銀行から政府に対して送金が行われ、市中銀行が日銀当座預金1億円を減らし、政府が政府預金を1億円増やす。
政府は、手にした1億円の政府預金でニコニコ銀行保有の国債を償還し、政府預金を1億円減らす。ニコニコ銀行は政府から日銀当座預金1億円を受け取り、ニコニコ銀行が保有していた国債は消滅する。
以上を振り返ると、銀行預金が1億円減り、日銀当座預金に増減がないことが分かる。
日銀当座預金を持たない存在(生命保険)が国債保有者である場合は、次のようになる。
ひろゆき生命が1億円の国債を保有していて、それを税収で償還するとする。ひろゆき生命はニコニコ銀行に口座を開設していることにする。
民間人が政府に対して1億円を納税し、民間人の銀行預金1億円が消滅する。市中銀行から政府に対して送金が行われ、市中銀行が日銀当座預金1億円を減らし、政府が政府預金を1億円増やす。
政府は、手にした1億円の政府預金でひろゆき生命保有の国債を償還するため、ニコニコ銀行に1億円の送金をする。政府は政府預金を1億円減らし、ニコニコ銀行は日銀当座預金を1億円増やす。ニコニコ銀行はひろゆき生命の口座に1億円を書き入れ、ひろゆき生命が保有していた国債は消滅する。
以上を振り返ると、銀行預金に増減なし、日銀当座預金にも増減がないことが分かる。
民間人の銀行預金が、ひろゆき生命の銀行預金に化ける形になる。
日銀当座預金や銀行預金の変化は次の2パターンに分かれる。銀行は日銀当座預金を持つ存在の代表で、生命保険は日銀当座預金を持たない存在の代表である。
日銀当座預金 | 銀行預金 | |
銀行保有の国債の元本・利子を税金で返済 | 増減なし | 減少 |
生命保険保有の国債の元本・利子を税金で返済 | 増減なし | 増減なし |
世の中の日銀当座預金が一定なら、短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場で資金の貸し手と資金の借り手が一定のままであり、無担保コール翌日物金利が一定のままであり、短期金利(名目利子率)が一定のままである。物価が硬直的であるうちなら実質利子率と投資も一定のままであり、名目為替レートと実質為替レートと純輸出も一定のままである。
「税金で国債を返済すると物価が一定を保ちインフレが発生しない」とされている。
経済学の教科書のように解説すると次のようになる。税金で国債を返済する行為は、中央銀行が買いオペをしてマネーサプライMを増やすわけではない。マネーサプライMが増えないので、貨幣数量説に従えば、物価Pが上昇せずに一定を保つ。
税金で国債を返済するときの国債発行残高の変化は2通りであり、次のようになる。
累積国債発行残高 | 市中に出回る国債 | 日銀保有の国債 | |
税金で元本返済 | 減少 | 減少 | 増減なし |
税金で利子返済 | 増減なし | 増減なし | 増減なし |
税金で国債の元本を返済すると、政府の味方になることを義務づけられていない人が保有する国債が減る。そのため「税金で国債の元本を返済することは国債恐怖症を煩った人の恐怖を癒す返済方法である」といえる。
貨幣数量説に従って考察しつつ国債の返し方を比較すると以下のようになる。
税金返済 | 借り換え | 中央銀行購入 | |
貨幣数量説に従った考察 | マネーサプライMと物価が一定を保ち、インフレにならない | マネーサプライMと物価が一定を保ち、インフレにならない | マネーサプライMが増え、物価が上がり、インフレになる |
貨幣数量説に従った考察からは「インフレを起こさず平穏に国債を返済するのなら、税金返済と借り換えのどちらかを選ぶべきである」という結論が導かれる。
そして、税金で徴収したお金で国債を返済するという方法は、先進国においてなかなか採用しにくい。この方法を採用するにはプライマリーバランスを黒字化しなければならないが、プライマリーバランス黒字化を達成したら不況に陥るという不吉な法則が存在する(詳細はプライマリーバランスの記事を参照のこと)。
資本量が多くて有効な投資の余地が少ない先進国でプライマリーバランスを黒字化させるほどの緊縮財政を行うと、クラウディングアウトが十分に起こらず、実質利子率が下がりすぎて投資が増えすぎてしまう。そうなると需要も無いのに需要が有るかのように見せかけて投資家から融資を騙し取る投資詐欺を行う知能犯罪者が増え、過剰投資となり、バブル景気とバブル崩壊が発生し、大量の不良債権が生まれ、長期にわたる不景気になる。
借り換えという方法は、市中に出回る国債の量が一向に減らずにじわじわ増えていくので、国債恐怖症を発症している人から見ると極めて過激で恐ろしい方法に思えるのだが、経済に与える影響という観点では最も安全で穏健な方法である。
「国債とは、基本的に借り換えされるものである。それゆえ、基本的に増え続けていく」といわれることが多い。その言葉通り、日本の国債はずっと右肩上がりで増え続けている。アメリカ合衆国の国債も同様で、右肩上がりで増え続けている。日本もアメリカ合衆国も、借り換えという穏健な方法を採用し続けてきたのである。
市中に出回る国債の量の変化や国債恐怖症を患った人の気分といった観点で国債の返し方を比較すると以下のようになる。
税金返済 | 借り換え | 中央銀行購入 | |
市中に出回る国債の量 | 減る | 増える | 減る |
国債恐怖症を患った人の気分 | 安心できるので採用できる。考えることができる。 | 恐ろしくてとても採用できない。考えることもできない | 安心できるので採用できる。考えることができる。 |
自国不換銀行券建て国債を返済しきれずに債務不履行(デフォルト)になることは発生しない。
なぜなら自国不換銀行券建て国債の返済に関しては中央銀行が買いオペして返済するという手段があるからである。中央銀行は不換銀行券を無限に発行できるため、通貨発行権を無限に行使できるし、買いオペを無限に行うことができる。
「いざとなったら中央銀行が買いオペして返済する」という信用があるので、政府は自国不換銀行券建て国債を借り換えすることを極めて容易に行える。
政府が自らの歳出需要をまかなうため、自国通貨を金融市場から借り入れることがある。そのときは政府が自国通貨建て国債を発行する。
統合通貨ユーロ採用国のような通貨同盟の国は共通不換銀行券を自国通貨にしている。エクアドルのようなドル化の国は他国不換銀行券を自国通貨にしている。1897年から1917年までの日本のような金本位制の国は自国兌換銀行券を自国通貨にしている。
歳出需要をまかなうための共通不換銀行券建て国債・他国不換銀行券国債・自国兌換銀行券国債を返済する方法は2種類があり、①税金で支払うという方法と、②借り換えである。
「あの国は①の方法で外国通貨を返してくれるだろう」という信用があるうちは②の方法を採用できる。
この種類の国債は自国の通貨発行権を行使して返済することができない。「自国の中央銀行に買いオペさせる」といった方法をとることができない。
歳出需要をまかなうための共通不換銀行券建て国債・他国不換銀行券国債・自国兌換銀行券国債を返済しきれずに債務不履行(デフォルト)になることは世界中で発生している。
ギリシャは統合通貨ユーロを採用していて共通不換銀行券建て国債を発行していたが、2009年から2011年頃まで債務不履行の寸前になり、統合通貨ユーロを採用するほかの国から支援を受けて債務不履行を回避した。
固定相場制を維持するため、政府が固定相場制の対象となる外国通貨を借り入れ、その外国通貨を中央銀行に渡し、中央銀行の外貨準備を増やすことがある。そのときは政府が外国通貨建て国債を発行することが多い。
固定相場制を維持するための外国通貨建て国債は、他国不換銀行券建て国債か、他国兌換銀行券建て国債のどちらかに分かれる。固定相場制の対象となる通貨が不換銀行券なら前者になり、兌換銀行券なら後者になる。
日本は1949年から1973年まで米ドル対象の固定相場制を採用していた。その固定相場制を維持するためにアメリカ合衆国政府や世界銀行から米ドルを借り入れており、米ドル建て日本国債を発行していたのと実質的に同じである。
固定相場制を維持するための外国通貨建て国債を返済する方法は2種類があり、①中央銀行の外貨準備高から3ヶ月間輸入額を引いた金額の外国通貨を支払うという方法と、②借り換えである。
①の方法を説明すると次のようになる。輸入を減らして3ヶ月間輸入額を減らしたり、純輸出を増やして中央銀行の外貨準備高を増やしたりして、「中央銀行の外貨準備高から3ヶ月間輸入額を引いた金額」を増やす。「固定相場制を維持するためには外貨準備高を3ヶ月間輸入額だけ保有しておけばよい」というのが1つの常識であるため、「中央銀行の外貨準備高から3ヶ月間輸入額を引いた金額」の外国通貨は外貨準備高から取り崩して返済に回すことができる。
②の方法を説明すると次のようになる。外国通貨建て国債Aの利払いが近づいたり満期が近づいたりしたら、外国通貨建て国債Bを新規に発行して外国通貨を借り入れ、その外国通貨で外国通貨建て国債Aの返済をする。
「あの国は①の方法で外国通貨を返してくれるだろう」という信用があるうちは②の方法を採用できる。
この種類の国債は自国の通貨発行権を行使して返済することができない。「自国の中央銀行に買いオペさせる」といった方法をとることができない。
固定相場制を維持するための外国通貨建て国債を返済しきれずに債務不履行(デフォルト)になることは世界中で発生している。
アルゼンチンは1827年と1890年と1951年と1956年と1982年と1989年と2001年と2014年と2020年に債務不履行を起こしており(記事1、記事2
)、建国してから9回も債務不履行を起こした踏み倒し常習犯の国である。このアルゼンチンの債務不履行は、そのすべてが固定相場制を維持するための外国通貨建て国債を返済しきれずに債務不履行となったものである。
日本の江戸時代では、徳川幕府が江戸や大阪の商人に対して「御用金(ごようきん)」というものを課した。これは近現代の国債とよく似たもので、徳川幕府が商人に対して証書を発行して将来の返済を約束して小判(金貨)を借りたものである。
幕末になって薩摩藩や長州藩と徳川幕府の戦争が増えて徳川幕府が戦費の調達に励むようになると、商人に対して御用金が多く課された。
御用金について、表向きは利子を付けて元本を返済することを約束されたが、利子も元本も債務不履行になったケースが多かった。
江戸時代の後半になると徳川幕府が通貨発行権を完全に掌握していて、通貨の発行によって財政収入を得ることが常態化していた。第11代将軍・徳川家斉や第12代将軍・徳川家慶が世を治めていたころは文政の改鋳や天保の改鋳が行われ、徳川幕府に莫大な通貨発行益をもたらしている。
はいえ、この時代の主力の通貨は小判(金貨)であり、不換銀行券や政府紙幣(不換紙幣)ほど簡単に通貨を発行できるわけではなく、小判の新規デザインを考えてから世の中に流通する小判を回収し、中古の小判を鋳つぶして新規の小判を鋳造するという改鋳をする必要があった。
徳川幕府にとって新規通貨発行はやや面倒な作業であり、「御用金の証書に書かれている通貨」を極めて簡単に入手できるわけではなかった。このため債務不履行に踏み切ったことが多かった。
税金の徴収という行為は、国内に住む人に対して財産の一部を取り上げて財産権の一部を喪失させる行為である。徳川幕府の債務不履行は、それらの行為を被った商人にとって貸した金を喪失したわけであり、実質的に税金と同じである。
相手の資産を対象にして課税することを資産課税という(詳しくは税金の記事を参照のこと)。つまり、江戸時代の御用金の債務不履行は一種の資産課税だった。
日本政府が発行している国債は自国不換銀行券建て国債だが、その自国不換銀行券建て国債をどのように表現するべきかしばしば論争になる。
※これ以降の本項目では「自国不換銀行券建て国債」を「国債」と表記する。
国債は中央銀行にとって通貨の材料である。日本銀行は、「政府が円という通貨を支払います」と約束された国債を買い取って、その代償として円という通貨を新規に発行している。これを買いオペという。
また国債は中央銀行にとって掃除機である。中央銀行は、通貨を発行しすぎたと判断した場合、保有している国債を市場に売却して通貨を正式に消滅させている。これを売りオペという。
政府に発行されて国債市場に売却された国債は、日銀と、日銀以外の市場参加者の間を、キャッチボールの球のごとく行ったり来たりすることになる。日銀が買いオペして日銀の手元に国債が入ったら通貨が新規発行され、日銀が売りオペして日銀以外の市場参加者の手元に国債が収まったら通貨が消滅する。
「国債を発行する政府」や「国債の券面に書かれている通貨を発行する中央銀行」を除いたすべての国債市場参加者にとって、国債とは「100%確実に増殖することが保証されている金融商品」であり、通貨自動増殖券であり、経営を助ける貯金箱である。
株式・土地・金塊・石油といった商品にはすべて値下がりのリスクがあり、社債または金融債といった民間債には債務不履行のリスクがある。ある通貨を100%確実に増殖させる金融商品というのは、国債と、その通貨を発行する中央銀行が発行する中央銀行手形だけである。
政府にとって国債は無限の資金調達手段である。政府は日銀法第4条に基づいた日銀の支援をいつでも受けられる立場にあるので、国債による資金調達を無限に行うことができる。
また、政府にとって国債は実質利子率を引き上げる道具である。国債でお金を借りてから政府購入したり減税したりすると効果的に実質利子率を引き上げることができるが、税金でお金を徴収してから政府購入したり減税したりするとあまり効果的に実質利子率を引き上げることができない。詳しくはクラウディングアウトの記事の『財政政策の4形態の比較』の項目を参照のこと。実質利子率は日本のような大国開放経済の国にとって投資と実質為替レートと純輸出の量を決める要素であり、短期においては名目為替レートを決めて円の強さを決める要素であり、極めて重要な要素である。
日本国政府の一部門である財務省は、国債を「国の借金」と好んで呼んでいる。同省の作成する資料にはそういう表現が載っている(検索例)。
これに対し、経済評論家の一部は、国債を「政府の借金」と表現することを好んでいる。借金をしているのは政府であり、国民は政府に対して貸付を行っているのであり、政府が国債を発行して「政府の借金」を増やすほど国民の貸付金額すなわち資産が増加するのであり、政府が国債を発行するほど国民は豊かになる、という論理展開が行われることになる。「国債は政府の借金で、それと同時に政府以外の全員にとっての資産」という結論に到達することになる。
掲示板
589 ななしのよっしん
2025/02/28(金) 19:32:02 ID: TL3x7lzvKf
借金=悪ってイメージがとことん刷り込まれてるせいもある 借金は資産だよ(ある程度の返済能力さえあれば)
590 ななしのよっしん
2025/02/28(金) 22:49:07 ID: eCoNl8xsia
借金自体は金を貸してもらえる=信用や返済能力があるって事だから、むしろある程度借金して適切に返済してる方が実は信用が高い。クレカと同じ
借金しないと信用が上がらないと言うよりは、全くしないと「情報が少なくてそもそもこの人はちゃんと返してくれるんだろうか…?」となって相対的に評価が下がる感じだが
591 ななしのよっしん
2025/03/06(木) 22:55:00 ID: EglFRjmNNT
国債発行マンはとりあえずトランプおやびんを黙らせてきてくれよ
帳簿上は資産なんだよ利上げできねえこっちの事情も考えろって
急上昇ワード改
最終更新:2025/03/09(日) 19:00
最終更新:2025/03/09(日) 19:00
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