功名が辻とは、
- 山内一豊の妻・千代(見性院)を主人公にした司馬遼太郎の歴史小説。
- 1.を原作とする、2006年1月8日から12月10日に放送された45作目のNHK大河ドラマ。
本項では、主に2.について解説する。
概要
脚本は連続テレビ小説「ふたりっ子」などの作品で知られる大石静。司馬遼太郎原作の大河ドラマは1998年の「徳川慶喜」以来8年ぶり。上記の原作小説をベースに、「国盗り物語」「関ヶ原」など、その他の司馬遼太郎の戦国時代を扱った歴史小説をストーリーに盛り込んでいる。ドラマの途中でしばしば「話は遡るが~」とナレーションが入り、しばしば他の話題に転換するなど、司馬遼太郎の作風を再現した演出もところどころで見られる。
大石静は大の大河ドラマファンでもあり、司馬遼太郎の作品以外にも「信長 KING OF ZIPANGU」「おんな太閤記」への過去の大河ドラマへのオマージュ要素も多い。なお、関ヶ原の合戦の戦闘シーンはほとんど2000年の「葵徳川三代」の映像を流用している。そのため、本作では別の役で出演してた津川雅彦の徳川家康も(画面では非常に小さいが)映っている。
なぜか2010年の「龍馬伝」と共通するキャストが多い。一豊役の上川隆也は中岡慎太郎、六平太役の香川照之は岩崎弥太郎、吉兵衛役の武田鉄矢は勝海舟、幽斎役の近藤正臣は山内容堂といった具合である。また、玉木宏は2008年の「篤姫」で坂本龍馬を演じた。
ドラマ版の千代は、幼少期の戦乱で両親を失ったことから一応反戦思想を持っているが、「利家とまつ」「天地人」のような極端で露骨な言動はない。千代が竹中半兵衛に慕われていたり、市と千代が仲が良かったりするなど、主人公が歴史の中心に顔を突っ込む点が「利家とまつ」と比較されることがあるが、こちらも時代劇として許容範囲内ではある。また、原作のオリジナルキャラクターである六平太や小りんには新たな設定やドラマ独自の展開が作られ、原作よりも深く掘り下げられている。さらに、原作では土佐入国後は唐突に暴君と化した一豊についても、序盤の純朴な青年から出世と共に、時には汚れ役を請け負いながら清濁飲み込んだ老練な武将へと変化させており、原作が連載当時批判されていた部分もいくつか改善されている。
音楽は1996年の大河ドラマ「秀吉」の小六禮次郎が担当。OP曲は秀逸との意見が多い。指揮はピアニストとしての活躍が最もよく知られるウラディーミル・アシュケナージ。オープニング映像では、千代と一豊を象徴するような二本の糸を中心に、CG映像で再現した屏風絵図や蒔絵が目まぐるしく描かれている。転調や変拍子が頻繁にあり、歴代大河ドラマOP曲の中でも特に難易度が高い。
キャスト・人物紹介
- 千代(仲間由紀恵)
- 本作の主人公。戦災孤児となり、母の実家である不破家を頼る途中で一豊と出会う。稲葉山城の戦いの最中に再会して、間もなく結婚した。ドジっ子で食いしん坊、そのうえ涙もろく泣き虫だが、陽気で機転が利くので山内家の皆から愛されている。裁縫と節約術が得意で、その才能は寧々や市からも一目置かれるほど。
- 山内一豊(上川隆也)
- 千代の夫。武将としての能力はほぼ平均(あるいはそれよりちょっと上)だが、持ち前の実直さで信長・秀吉・家康の三英傑全てに仕えたサラリーマン武士。秀吉から浅井長政の遺児・万福丸の串刺しを命じられて執行するなど、戦いの残虐さを十分に理解している。朝倉家との戦いで顔に弓が突き刺さる瀕死の重傷を負い、よく見ると死ぬまで頬の傷跡が残っている。
- 五藤吉兵衛(武田鉄矢)
- 一豊の重臣。史実の吉兵衛は一豊より年下だが、原作・ドラマでは一豊の父親代わりの老臣として描かれている。説教ばかりするのが玉に瑕だが、一豊と千代を優しく見守り続ける。賤ヶ岳の戦いの直前、伊勢亀山城を攻撃する時に、獅子奮迅の働きを見せるが深手を負い、一豊に看取られながら息を引き取った。大の坂本龍馬ファンで有名な武田鉄矢は、下士を差別した山内家を激しく嫌っており、当初は辞退していたが、土佐入り前に戦死する役柄であるため、了承したという。
- 祖父江新右衛門(前田吟)
- 一豊の重臣。吉兵衛と共に、浪人時代から一豊を支え続ける。高齢を理由に隠居したが、一領具足の粛清時に嫡男・新一郎を失う。
- 山内康豊(玉木宏)
- 一豊の弟。父が織田信長に敗死したことから、兄に仕えず諸国を流浪していた。本能寺の変の直後、幽閉されていたガラシャに命を救われ、これを機に山内家に帰参する。関ヶ原の合戦では西軍の人質にされそうになったガラシャに脱出を勧めるが叶わなかった。
- 法秀尼(佐久間良子)
- 一豊の母。なかなか出世できずにいらだつ一豊を叱咤したり、大地震で娘を失い悲嘆に暮れる千代を励ます山内家の精神的支柱。佐久間良子は1981年の大河ドラマ「おんな太閤記」で、秀吉の妻・ねねを演じた。
- 不破市之丞(津川雅彦)
- 千代の養父。身寄りのない千代を引き取り、我が子同然に可愛がる。千代が一豊と結婚する際、十両の金子を山内家の大事な時に渡すように助言した。
- よね(森迫永依)
- 一豊と千代の一人娘。内ヶ島氏理の一族郎党が全滅したことでも有名な、天正大地震で命を落とす。
- 湘南(三浦春馬)
- 長浜城で捨て子だったところを千代に拾われた一豊の養子。実子ではないため後継者から外されて出家、一豊の死後京都移り住んだ千代を庇護した。
- 六平太(香川照之)
- 千代の幼馴染。千代の父の最期に立ち会い、終生千代を影で守り続けることを誓う。甲賀の忍びとなり、時には一豊の仕える織田家とは敵対しながらも、一豊・千代夫妻に全国の情勢を伝え続けた。関ヶ原の戦い後、自ら一領具足の謀殺という汚れ役を志願し、事が終わると毒を飲んで自害した。「龍馬伝」の岩崎弥太郎が史実以上に貧窮してるのは、必要悪とはいえ前世の報いとも…
- 小りん(長澤まさみ)
- 六平太の仲間の甲賀忍び。一豊に興味を持ち、一夜を共にしたり姉川の戦いで遭難したところを救うなど、六平太とは別に独自で暗躍する。原作ではいつの間にか姿を消すが、ドラマでは偵察に行った三木城が秀吉の兵糧攻めに遭い、巻き込まれて失明する(元ネタは上記の「おんな太閤記」)。
- 織田信長(舘ひろし)
- 一豊の最初の主君。一豊が秀吉の麾下に配属されたため直接関わることは非常に少ないが、馬揃えでは名馬を用意した一豊を褒め称えた。並外れたカリスマと狂気を持つエキセントリックな人物として描かれ、その恐ろしさから2chでは畏敬を込めて「お舘さま」と呼ばれた。本能寺の変では西部警察ばりの銃撃戦を繰り広げるが、満身創痍になって息も絶え絶えになりながら自害して果てた。
- 濃(和久井映見)
- 信長の正室。明智光秀とは幼馴染であったため、微妙な関係にある。徐々に独裁者と化する信長の考えが信じらなくなるが、それでも本能寺では夫を見捨てず殉じた。
- 市(大地真央)
- 信長の妹。育ちのよさゆえ、少々世間知らずなところもあるが好奇心旺盛で、嫁ぎ先の近江国について出身者である千代に問い訪ねたこともある。本人の描かれ方はほぼこれまで通り。
- 足利義昭(三谷幸喜)
- 室町幕府最後の将軍。信長の傀儡にされることを嫌い、信長包囲網の謀略を張り巡らしたため、信長の怒りを買って京を追放される。その後もしぶとく活動していたようで、本能寺の変で信長が死ぬと大喜びした。出番は少ないが、三谷幸喜の圧倒的な存在感で強烈なインパクトを残した。
- 明智光秀(坂東三津五郎)
- 足利義昭の配下を経て、信長に仕える。朝廷などの古来の伝統を重んじるため、それらを破壊して自ら王にならんとする信長に不安を覚えるようになる。逆賊の汚名を被ることを承知で、差し違えるように信長を本能寺で討ち、自らもまた滅びの道を歩んでいった。
- 細川幽斎(近藤正臣)
- 明智光秀の盟友。光秀が謀反を起こすと、細川家を守るために袂を分かち、秀吉に臣従する。近藤正臣は1973年の大河ドラマ「国盗り物語」で明智光秀を演じている。
- ガラシャ(長谷川京子)
- 光秀の娘、細川忠興の正室。上述の康豊を助けた話以外は、ほぼ史実通り。但し、夫の忠興は特に病んではいない。
- 豊臣秀吉(柄本明)
- 一豊の二番目の主君。美濃攻めの頃から、信長から一豊を配下にもらい受ける。したたかで抜け目のない謀略家としての一面が特に強く描かれており、信長の死後天下統一の為には家族をも犠牲にしていく。若い頃はそのひょうきんな性格から千代にも好かれていたが、晩年は耄碌しきった老害と化し、淀に恨み言を浴びさせられながら息絶えた。
- 寧々(浅野ゆう子)
- 秀吉の正室。千代の上司的な存在で、世話好きで面倒見の良いこれまでの人物像に比べ、ドライな性格となっている。秀吉からは「おかか」と呼ばれているが、これは「おんな太閤記」で秀吉が寧々を呼ぶ時の愛称である。
- 淀(永作博美)
- 秀吉の側室。母の敵である秀吉に心許さず、周囲に対して高慢な態度を振るうことが多い。三成に対して特別な感情を抱いている節がある(「江〜姫たちの戦国〜」では関係が逆転している)。大阪夏の陣では秀頼に自害を促されたが頑なに拒否したため、やむなく側近の大野治長に刺し殺された。
- 豊臣秀次(成宮寛貴)
- 秀吉の甥。原作では一豊に内心馬鹿にされている暗君であるが、ドラマでは賢明ながら後継者争いに巻き込まれた悲運の青年武将と正反対の人物像になっている。幼い頃一時期ではあるが千代に養育されたため、一豊・千代夫婦とは昵懇の間柄。関白を退く代わりに朝鮮出兵を止めるよう秀吉に諫言したため、その怒りを買って自害に追い込まれる。
- 竹中半兵衛(筒井道隆)
- 秀吉の軍師。千代とは美濃に住んでいた頃から長い付き合いであり、不破市之丞は半兵衛千代の婿にしようと考えていた。秀吉の稲葉山城攻略に協力すると同時に、千代と一豊を引き合わせるように手はずを進める。三木城攻めで倒れた際、千代のことを好いていたと告白した。
- 石田三成(中村橋之助)
- 五奉行の一人。生真面目で直言も辞さない性格のために、周囲からの誤解と軋轢を生みやすく、一豊も当初は苦手としていた。豊臣家を守るための大義を何よりも大切にしており、家康や一豊も敵ながらその姿勢を評価していた。司馬遼太郎の「関ヶ原」の三成像に近い。
- 堀尾吉晴(生瀬勝久)
- 秀吉の家臣で一豊の同僚。時々一豊と一氏の言い争いを仲介してなだめるなど、温厚な人柄で「仏の茂助」と呼ばれた。但し、個性的な演技が得意な生瀬にとっては、少々役不足の感が否めなかった。
- 中村一氏(田村淳)
- 同。一豊や吉晴より少し若い年代のためか、直動的で出世への意欲も強く、二人に対してライバル意識を燃やしている。
- 前田利家(唐沢寿明)
- 秀吉の盟友。2002年の大河ドラマ「利家とまつ」では主役として利家を演じていた。当初ドラマでは未登場の予定だったが、上川隆也との共演がきっかけで、第39回のみ特別出演した(ちなみに、この回は最高視聴率を記録している)。
- 徳川家康(西田敏行)
- 一豊の最後の主君。従来通りの忍耐強く、なおかつ老獪な狸親父として描かれた。飄々とした雰囲気を全体に漂わせており、関ヶ原の合戦では自分と同世代の武将がほとんどいなくなってしまったことを一豊にぼやいた。西田敏行は、「おんな太閤記」では豊臣秀吉役、「葵徳川三代」では徳川秀忠役を演じており、今回満を持しての家康役であった。
- 徳川秀忠(中村梅雀)
- 家康の嫡男。最終回のみ登場。秀忠役は1985年の「真田太平記」以来、西田敏行との親子(しかも共に徳川家の将軍)役での共演は1995年の「八代将軍吉宗」以来となる。
- 老商人(北村和夫)
- 安土城下で商いをする老翁。名馬に相応しい人物を見定め、千代のへそくりである十両を持ってきた一豊に馬を売った。
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