ヴァンパイア(Vampire)とは
- 吸血鬼。怪物・妖怪の一種。本項で解説するが、「吸血鬼」の記事でもほぼ同様の内容を扱っている。そちらの記事も参照されたい。
- カプコンの格闘ゲーム。ヴァンパイア(ゲーム)を参照。「ヴァンパイア」タグ検索の約6割を占める。
- Janne Da Arcの楽曲。
- 電気式華憐音楽集団の楽曲。「Vampire」タグ検索の約半数を占める。
- 手塚治虫の漫画作品『バンパイヤ』、および、それを原作とする水谷豊主演のTVドラマ。
- 加藤和樹の楽曲。
- 駆逐艦。英国・オーストラリア所属で太平洋戦争にて撃沈されたヴァンパイア(駆逐艦・初代)とオーストラリア所属で主に東南アジアで活動、現在はシドニーにて記念艦となっているヴァンパイア(駆逐艦・2代)がある。
- アズールレーンの登場人物。ヴァンパイア(アズールレーン)を参照。
- VIPRPGのフリーゲーム。ヴァンパイア(VIPRPG)を参照。
- 音楽ゲームのSOUND VOLTEXに収録されたnyankobrqの楽曲。VAMPIRE(BEMANI)。
- DECO*27による初音ミクオリジナル曲。動画記事 を参照。
概要
吸血鬼とも呼ばれる。世界的に見られる悪霊・屍鬼・吸血鬼伝承の中でも、東ヨーロッパの民間伝承を源流とする。
もともとの伝承はヨーロッパ各地にあり、それぞれが他地方の悪霊伝承と劇的な違いはなく、「それは死者に限らず、人間に危害を加える存在」といったものであったが、ブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」および映画化作品の世界的ヒットを契機としイメージが統合され広く知れ渡る。現代のフィクション作品では、ヴァンパイアのイメージはおおむね同小説の登場人物「ドラキュラ伯爵」の影響を強く受けている。
近代に生み出された、銀幕を媒介として誕生した稀有なケースの妖怪である。契機が映画であるが故か、ドラマチックで魅力的な存在として描かれ、イメージされ、捉えられている。そしてヴァンパイアをテーマとした作品が作られ続けている以上、そのイメージは今もなお豊饒に広がり続けている。
ヴァンパイアの歴史
英語の「vampire」の語源となったのは、スラブ圏で使われている「vampir」と言われる。この英語表記が初めて登場したのは1732年のメドヴェキア(現セルビア)の事件報告書で、現代的な「吸血鬼」としての足跡が始まったのは比較的近年となる。
この報告書は、そもそもオーストリア皇帝にあてた内容で、兵士としてギリシャへ派遣された人物が吸血鬼に襲われ、帰国後に彼も吸血鬼化した、という内容であった。これが一般向けに出版されたことでベストセラーとなり、誰もが知る単語となったのだ。
ヴァンパイアはハンガリーの言葉であるマジャール語で「死にきれない者」を意味する。またはリトアニア語の「飲む(wempti)」に接頭辞vaがついてできた、あるいはトルコ語の「魔女(uder)」にセルビア・クロアチア語の「吹く、飛ぶ(pirati)」が加わって「空飛ぶ魔女」を指した、という説もある。いずれものちの吸血鬼の能力と合致する。また一方で英語でvampとは「男をたらす毒婦」という意味でもある。性的魔力で男を虜とし、運命を狂わせる魔性……。
ならばそもそも、吸血者のイメージはどこから来たのかと辿ってみれば、おそらくもっとも古いのは古代バビロニアのリリスと思われる(唯一神教ではアダムの最初の妻にして、夫に主導権を執られるのが嫌で出奔、悪魔化した、という話で知られるが、彼女の出展はアダムよりはるかに古い)。しかし当時においてさえ彼女はすでに吸血鬼じみており、荒野の夜に出没して、出産する女や幼児をおびやかしていた。欽定訳聖書「イザヤ書」第34章14節では、リリスという名前が「鳴き立てるフクロウ」と翻訳され、夜の魔物というイメージが強まった。
リリスはこのあと、唯一神教系の民間伝承(聖書ではない)によって、淫らさからルシファーの妻となり、その娘リリンが夢魔の原型になる。夢魔は人間の精を奪う、吸血鬼に類似したデーモンである。
リリスと同等に吸血怪物のイメージを作った存在としては、ギリシャ神話のラミアも無視できない。本来はスキタイ(現リビア)の戦いの女神だったらしいが、ギリシャ神話が現在知られる形になる際、蛇女のエキドナと結びついて半人半蛇の怪物にされてしまう。ゼウスの愛人だった彼女は、ヘラの嫉妬によって子供たちをすべて奪われて怪物化し、男を誘惑したり、子供を誘い出して吸血あるいは食べるようになった。
時を経て中世にスラブ人の間で語られた吸血鬼は、リリスイメージの延長か、熟睡している人を襲っては血を吸い取る、あるいは窒息させると言われていた。被害者が朝まで生き延びると、多くの場合、最近亡くなった家族や知り合いが犯人だったという。
ドラキュラの誕生
メドヴェキア事件ののち、現代的ヴァンパイアが文学史上に現れたのは、19世紀初頭になる。詩人として有名なジョージ・ゴードン・バイロン卿が、スイス・ジュネーブ湖のほとりにあるディオダディ荘にジョン・ポリドリ、パーシー・ビッシュ・シェアリー、その愛人メアリ・ゴドウィン(のちのメアリ・シェリー)、クレア・クレアモントと滞在していた。彼らはある嵐の夜、それまで読んでいたドイツの幻想怪奇小説の話題から、自分たちも恐怖譚を一人ひとつずつ書こうと企画する。後日、これを実行したのがメアリ・シェリー(『フランケンシュタインの怪物』)、といま一人バイロンの侍医であり作家、詩人のポリドリだった。その作品が『吸血鬼』(1819年)。世に知られている中では最古の吸血鬼小説である。
ただしこれはもともと、バイロンが書き散らしていた断片をもとに完成させたという。ハンサムな吸血鬼ルスヴン卿が、ロンドン社交界に現れ、純情な若者オープレイの恋人と妹を餌食にしたあげく、彼を絶望の淵へ突き落してしまう。ポリドリはバイロンを熱狂的に崇拝していたが、同時に冷たくされていて憎悪と怒りも抱いていた。そのアンビバレントな気持ちがルスヴン卿に結晶化したのである(バイロンはツンデレならぬデレツンな性格だったと言われる)。それまで田舎の民話で語られていた垢抜けない怪物が、いきなり貴族的、知的、性的な逸脱者にして残酷な悪の貴公子となった瞬間だった。※
19世紀の小説でいまひとつ触れねばならないのは、アイルランドのジャーナリスト、ジョセフ・シェルダン・レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』(1872年)である。これは女性吸血鬼であり、当時禁忌とされていた同性愛を匂わせる内容となっている。19世紀は女性のイメージが娼婦と聖女に激しく二極化していた時代だった。モラルに厳しいヴィクトリア英国主義の絶頂期、女性は家の中で貞淑たるべきいっぽう、政治経済事情から娼婦が市街にあふれていた。こうした背景によってリリスやラミアといった古代吸血魔女のイコンが復権し、男の精を食らいつくす吸血鬼としての女性像と接続されたのである。
このような吸血鬼像を受け、アイルランド人でロンドンのライシアム劇場のマネージャーをしていたブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)を刊行する。レ・ファニュのスタイルに憧れ、吸血鬼小説を書こうとしていたストーカーは、ブダベスト大学で民間伝承の豊富なルーマニア地方の知見に触れる。彼はそこで恐ろしく強い中世武将の伝説を見出し、吸血鬼物語へ融合した。
これがドラキュラのモデルとされる15世紀に生きたヴラド串刺し(ツェペシェ)公である。当時ハンガリーとトルコの狭間にあったワラキア地方を統治し、戦闘では勇猛果敢にして残虐(でなければ守れなかった)、敵味方合わせて10万人を串刺しにした人物だ。「ドラキュラ」の意味は、父であるヴラド2世の称号であったドラクル(竜)の息子というものだが、そもそもドラゴンはキリスト世界で悪魔に近く、吸血鬼にぴったりと考えたようだ。
※漫画『銃夢last order』に登場する吸血鬼(コグニート)の長もバイロンというが、これは作者の木城ゆきと氏がこの話を知っていたからなのかも知れない。
一般的なヴァンパイアのイメージ
- 処女の生血を好む
- 高貴で知能が高い
- マントにタキシードなどゴシックなファッションのイメージが強く、かっこいい存在として描かれることも多い
- 永遠の命
- 変な能力が使える
- 西洋風の棺桶で寝起き
- 牙がある
- 血を飲まないと消耗する
- 日光、十字架、にんにく、鉄などに弱い
- 胸に杭を打ち込まれると滅ぶ
- 城に住んでいる
- 蝙蝠や狼、霧などに変身できる
- 顔がいい
- 黒ずくめ
- 流水を渡ることが出来ない
一般的なイメージは以上であるが、作品や文献により、さまざまな特徴が多岐に渡って記されている。招き入れられない限り他人の門戸をくぐる事が出来ない、鏡に映らない、炎に弱いといった、比較的知名度の低い特徴もある。中には網戸に弱い、豆に弱い、聖画に弱いというイメージに乖離した特徴を説明するものもあれば、ヴァンパイアの『聖書』を出版したものもある。(ノド書 ブック・オブ・ノド)
強大な力を持ちつつ、このように多彩な弱点的な特徴も併せ持つアンビバレンツな存在は、単純な『完全無欠の存在』とはまた違った魅力を引き出している。
弱点について
なお、独断と偏見に基づくもので大変恐縮であるが、弱点的な特徴が存在するようになったのは、キリスト教が大いに影響した結果であるのではないかと見る。
ニンニクや十字架や日光や炎など、そういう弱点は映画によって確立する以前から、キリスト教によって付けられた悪鬼の弱点である。
「悪しき存在・異教は必ずやキリスト教および聖なるものに屈する」という事で、キリスト教が設定したものである。
死して土に返らぬ不浄なるものを杭にて地面に縫いとめる事により、強制的に土に返らせるといった、理屈的なものも混じるが。(これにも宗教的な理由がある可能性も捨てきれない)
また、キリスト教の文化圏では土葬が主流であった為、医学が進歩していない時代では、仮死状態に陥った人物が完全な死亡と誤診され、埋葬されてしまった人物が息を吹き返すことが稀にあった。
棺桶の裏側に酷い引っ掻き傷が出来ていたり、土から実際に這い出たという文献も存在する。
当時は迷信深い人々が多かったので、このような「早過ぎた埋葬の被害者」が悪鬼として蘇ったと勘違いして"確実に殺しきる"為に心臓に杭を打ち込んだことが有り、このことから墓場から蘇る吸血鬼にも同じ弱点が連想されたのではないだろうか。
「銀の武器が弱点」とされることも多いが、これは元来「鉄の武器」である。託宣を主体とする魔法的な古代文化を打倒し、力の時代が始まったきっかけのひとつが「鉄」の加工技術の出現であり、「魔法は鉄に効かない」とする逸話のもとになっている。これが古い存在である吸血鬼にも適用され、中世に吸血鬼を封じる場合は「鉄」の杭を用いることが多かった。そこに「銀」が入ってきた理由は定かではないが、銀に殺菌作用があったことと無関係ではないかもしれない。あるいは、人狼伝説との混合という可能性もある(狼男の項を参照のこと)。
他にも、狂犬病にも関連性を認める事が出来る。罹患した症状に「水を嫌う」、「眩光を極端に嫌う」、「『ニンニクなどの』強い匂いを嫌う」、「唾液感染」、「情緒不安定化」というように類似点をいくつも挙げることが出来る。罹患した患者は中世の医学では原因を究明できず、「気が触れた」や「魔に魅入られた」とされ、人狼伝説はもちろん、ヴァンパイアや前段階の悪鬼伝説に大いに影響を与えた事は間違いないだろう。
以上のように理由があって成立した弱点だけではなく、明確な理由のない、半ば民間信仰のまじないのような弱点も存在する。例えば、豆に弱いという弱点。これは「日本の『鬼』が炒り豆によって火傷する」という事を吸血『鬼』に結びつけたかのようにも見えるが、そういう事ではない。(作品によってはそのような解釈を持つものも無くはないが)
西洋に実際に存在するまじないの一つであり、「悪鬼の類は網戸の目や地面に撒かれた豆など、『無数』のものをみつけると数えずにはいられない。更に一夜ごとに1つずつしか数えられないので、家に訪れる事はない」というもの。これをそのままヴァンパイアにあてはめたものであり、これにはあまり宗教的な意味合いなどは見受けられない。
このような弱点的特徴の中で、見解が分かれるものが少なからず存在する。
最も顕著なのは「吸血鬼は流水を渡れない」というものだ。
そもそも、何故吸血鬼は流れる水を渡る事が出来ないのであろうか。
それは、キリスト教には「流刑」が存在する事が理由の一つである可能性が高い。
吸血鬼という最も憎むべき存在が流刑から逃れてしまっては面目が立たない、ではないが、神の裁きにおける流刑では、いかに吸血鬼とて逃れる事は出来ない、という事なのだろう。
流刑によって孤島に残された吸血鬼は、血を吸う事が出来ずやがて滅びてしまう。下された裁きは覆る事が無い。
または、キリスト教には洗礼という儀式が存在してきた事も考えられる。
聖書に水のパプテスマと書かれている通り、これは元々は川という水の流れにより罪を洗い流すことであった。
このことから邪悪な存在である吸血鬼は、存在の根源である邪気を流水によって流されてしまうために動けなくなってしまう、という解釈がなされたのではないだろうか。
いずれにせよ、流水と悪鬼は相容れぬ存在という考えは確かに存在する。
では、雨も流れる水であるが、それに触れる事は可能か否か?
流水を渡れぬのであれば、流れの無い湖沼ではどうか?
流刑を元に考えるのであれば、吸血鬼自身の領地内にある湖沼ではどうか?
洗礼を元に考えるのであれば、聖河と呼ばれぬ河川や汚水、水深が浸礼(洗礼の所作の一つ)に足りえぬ流水ではどうか?
蝙蝠と化して水の上を飛び去る事は可能か否か?
この弱点に対する疑問は尽きない。
結果、この弱点に対する見解は作品毎に差異を生じさせる。
とある作品では夜雨に濡れつつ血を求めさまよい歩く。
とある作品では雨を肌に伝わらせる事すら出来ない。
またとある作品では下水道を自分の庭の如く巣食い、汚水を自在に渡る醜いヴァンパイアもある。
清流のみを禁忌とする見解もあれば、そのような弱点を最初から持ち合わせていない作品もある。
究極的には、吸血行為を必要とはしないヴァンパイアもいる。これは精神依存型として分類され、文字通り血に対する精神的な依存をしており、吸血不能に陥ると精神の疲弊を起こして滅びる、というスタイルを持つ。そもそも血液には、ヴァンパイア化したとはいえども実体を伴う、人間のような肉体を維持するだけの栄養は含まれておらず、血液を摂取したところで栄養失調で滅んでしまう、という論から来ている。このタイプにとっては、吸血はあくまでグルメであり、栄養は食物から摂取できることが多い。実在のエリザベート・バートリなどは、まさしくこのタイプの吸血鬼であるといえよう。
逆に吸血行為そのものが必須であるにもかかわらず、人間に対する吸血行為への嫌悪から、ネズミなどの動物を捉えて吸血行為を行わないと実体を維持できない者もいる。こちらは身体依存型として分類される。
しかしながら、こういった差異について、何が正しく何が間違った見解かは、論じる事に意味をもたない。
なぜならば、ヴァンパイアは作品が生み出される毎にそのあり方を変え続けるのだから。
ヴァンパイアを題材にした作品
ニコニコ大百科に記事のあるもののみ。その他の作品についてはWikipedia「吸血鬼を題材にした作品の一覧」の項を参照。
小説
映画/ドラマ/特撮 その他実写作品
漫画/アニメ
- HELLSING
- 月詠
- 亜人ちゃんは語りたい
- ときめきトゥナイト
- となりの吸血鬼さん
- ジョジョの奇妙な冒険第一部(ファントムブラッド)、第三部(スターダストクルセイダース)
- ロザリオとバンパイア
- ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド
- ぶらどらぶ
- ババンババンバンバンパイア
ゲーム
- 悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)
- ヴァンパイア → 「ヴァンパイア(ゲーム)」の記事を参照。
- ヴァンパイア(VIPRPG)
- 月姫
- 東方紅魔郷
- ヴァンパイアレイン
- ボクらの太陽シリーズ
- アイドルマスター → 「きゅんっ!ヴァンパイアガール」「マイディアヴァンパイア」の記事を参照。
関連動画
関連項目
- ドラキュラ
- エルフ - 同様にとある作品を契機とし魅力を確立した存在。
- 吸血鬼
- 妖怪
- コウモリ
- ルーマニア - トランシルバニア
- ヴラド・ツェペシュ
- ヴァンパイアハンター
- ダンピール
- ノーライフキング
- 19
- 0pt