昨今話題のユニクロのブラック問題で、柳井会長が日経ビジネスのインタビューに答え、この内容がまたさらなる波紋を呼んでいるようです。
◆日経ビジネス「甘やかして、世界で勝てるのか」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130411/246495/?rt=nocnt
柳井氏がインタビューの中でいくつかポイントをあげて“言い訳”をされているのですが、その最大の論拠にしていると言えそうなものが、氏が言うところの「グローバル・スタンダード」であるようです。というのは、氏が他に挙げている他の“言い訳”ポイントである「サービス業を正しく理解していない人の入社」や「ユニクロ経営の考え方を理解しない人の入社」は、突き詰めればサービス業は世界的にみてどこも過酷なんだ、ユニクロの「グローバル・スタンダード」を基準とした経営を理解していないのだ、ということを言っているにすぎないと思われるからです。
では、氏が言うところの「グルーバル・スタンダード」経営が果たして、本当にユニクロ経営を正当化するものなのでしょうか。焦点をこの点に絞り、私が考える氏の主張、すなわちユニクロ経営がブラックと言われる所以と思しき3つの問題点を指摘しておきます。
まずその1は、氏の言う「グローバル・スタンダード」の基準が不明確で、つまみ食い的に各国の例を引っ張っているのではないかということ。
これまでのインタビューや著作の中でも問題によって「これはライバル企業がひしめくヨーロッパでは当たり前」「中国やインドでは常識」「世界をリードしてきたアメリカでは昔から当然のこと」のような、日本の常識や基準を都度自分の主張に合う海外のそれを引き合いにして論理を展開するのですが、これは「グローバル・スタンダード」の名の下に主張を正当化していく、言ってみれば単に柳井氏の都合に合わせた“柳井スタンダード”ではないのか、と思えるのです。
経営者である以上、自己の価値観をもって企業経営にあたり、自己の基準でその主義主張を正当化して自社スタッフを引っ張っていく、それは決して間違ったことではないと思います。しかし、それが多くの人の目から見で疑念を抱かせるものである場合に、正当化する手段としてご都合主義的にケースバイケースで各国の「グローバル・スタンダード」を利用するなら、下手をすれば結果として各国水準の最低線ばかりを集めしまうことにもなりかねません。柳井氏の各所での発言を聞いていると、どうもそう言った懸念がぬぐいされず、現在のブラック批判の大きな要因になっているのではないかと思うのです。
その2は、各国の経済状況の差違を「グローバル・スタンダード」を持ち出す際に斟酌していない点。
ユニクロが現在のビジネスモデルをもって国内で大成功できた理由は、90年代半ば以降の長引く不況下での日本経済のデフレ化の進行にあったことは否定できない事実です。ここで重要なのは、そのデフレ経済を前提としたビジネスモデルを持って世界進出を企てる際に、世界各国の経済状況はいかなるものであるのかいうことです。IMF調べによる2012年の世界のインフレ率でみると、データのある世界186カ国のうちデフレ下にあるのは日本、スイス、グルジアのわずか3か国なのです。
ここでも、柳井氏のご都合主義は見え隠れしています。氏のビジネスモデルを支える同社の待遇を含めた国内の労働条件等はデフレ下の国内モデルそのままに、経済的に成長を遂げている非デフレ状況にある各国の実情や経済水準からみて我が国よりも低水準にある国の労働スタイルや労働環境を是としたやり方を、つまみ食い的に国内にも導入しようとしているわけで、これでは国内の職場で歪みが出ない方がおかしいわけです。
さらにその3。「グローバル・スタンダード」でコンプライアンスを考える場合には、とりわけ就労問題に関しては、最先進国のスタンダードを基準すべきところができていない点。これが最大の問題点でしょう。
柳井氏は「グローバル・スタンダード」を口にしていながら、コンプライアンスの問題に関しては具体性をもって触れようとしないということが大きな問題であると感じています。「グローバル・スタンダード」の問題は、90年代後半バブル崩壊後の日本経済再生の過程において我が国で盛んに口にされるようになり、その時にセットで語られたものが「グローバル・スタンダード」を代表する問題としてのコンプライアンスの考え方でありました。
当時の日本企業の株主総会に代表される日本的な“なぁなぁ”の世界や、商習慣の名の下に行われていた不透明感満載の取引などのやり方は世界中からも批判を浴び、「グローバル・スタンダード」の名の下でのコンプライアンスの徹底が叫ばれたハズなのです。海外展開を積極的に推し進めていくのなら、世界最先端水準でのコンプライアンスを実現することはもっとも重要度の高い経営課題であるはずで、現状の日本の労基法化においてすらブラックと揶揄されるような労働環境を「グローバル・スタンダード」であると放置しているかのような同社の振る舞いは、グローバルにはほど遠いご都合主義であると言わざるを得ないと思います。
これだけ世間からブラックだと騒がれている以上、柳井氏の「グローバル・スタンダード」は本当の「グローバル・スタンダード」ではなく、“柳井スタンダード”であるからではないのかという目でもう一度自身の経営スタンスを見直しする必要があると私は思っています。自身のスタンダードをご都合主義的理由づけで社内を押しとおすのは、中小企業経営者ではよくある話です。しかし柳井氏が“世界制覇”をめざす国際企業の経営者である以上、世界各国の「スタンダード」をつまみ食いするご都合主義的“柳井スタンダード”を一に立ち帰って自省することが、今柳井氏に課された最大の課題なのではないでしょうか。