NECのデザイン部門の改革の成果を、5人のデザイナーと事例から読み解いてみよう。メッセージやブランディング、サービスデザイン、ハード、アプリの分野を取り上げた。デザイナーたちは専門分野とは異なるプロジェクトでも意欲的に推進していたことが分かった。
ここでは実際のデザイン事例を見ながら、デザイナーの意識も探ってみた。デザイン部門の改革により、どんな意識を持ちながら各プロジェクトに臨んだのか。5つの事例を取材した。
CEOのメッセージをデザイン
企業のトップにとって、自社の方針や新規事業・新製品発表、IR(インベスター・リレーションズ)などにおけるコーポレートメッセージの発信は、重要な職務の一つ。NECでは、取締役代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)の森田隆之氏の発信するメッセージを、ブランディング部門とデザイン部門が中心となって推進。森田氏の意図や考え方をくみ取った上でブランド戦略と連動させ、トップメッセージの在り方からデザインしている。
デザイン部門からはデザイナーの大谷京香氏が、2023年4月から専任の形でメッセージ作成に関わっている。
「これまでの発信には、難解で長く、あまり印象に残らないといった課題があった。そこでNECのリーダー発信のあるべき姿として、鮮明に、分かりやすく、かつグローバルなリーダーとして、森田の考え方も含めて、来場者に伝えるようにするにはどうしたらいいかということをチームで話し合った」(大谷氏)
結果、定めたポイントが「グローバルリーダーにふさわしい発信になっているか」「技術の実装に向けた確からしさを示せているか」「技術とビジネス面への深い知見を鮮明に伝える」の3つだ。これらを軸に、適切な表現方法を検討してメッセージを作成している。
以前は関連する情報をすべて詰め込み、かえってメッセージが伝わらない状況にあった。そこで発信の目的に合わせて伝えるべきメッセージを絞り込み、端的にして価値や魅力を適切に表現するデザインを行っている。
3つのポイントを軸に作成したメッセージ発信の場の一つが、スペイン・バルセロナで開催された「MWC(モバイル・ワールド・コングレス)Barcelona 2023」だったという。
基調講演に登壇した森田氏は「農業」「防災」「リサイクル」の3分野で、世界が直面している社会課題を説明。各課題の解決に向けてNECが取り組んでいる技術やAI(人工知能)が、どのように気候・環境変動への適応と社会の改善に役立っているかについて、大勢の来場者を前にプレゼンテーションを行った。一貫性があって分かりやすく明確な発言に、会場からの満足度も高かったという。
大谷氏は、「メッセージの作成には、プロダクトデザインをやってきた経験からその手法を生かし、情報の見せ方や伝わりやすさなど、表現力をより向上させるようにした」と話す。
リハーサルにも同席し、狙い通りの訴求ができるように確認、調整を行った。他にも、株主総会やサプライヤー向け交流会、世界の産官学のリーダーへ訴求するイベントや国際会議、最新の技術や事例を伝える顧客向けのイベント、さらにはトップ研修に至るまで、一貫したメッセージをデザインしている。
「私がデザイナーを目指したきっかけは、誰もが使う公共製品のデザインを通じて社会の底上げに貢献したいと思ったから。戦略やメッセージを適切に訴求することや在り方から考えて一貫性を醸成するなど、プロダクトやサービスのデザインの領域でもこの経験を生かしていきたい」(大谷氏)
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