電力安定供給とカーボンニュートラルの両立を目指す東京電力グループ。DX(デジタル変革)がその推進策で「徹底的なデータ化」に取り組む。「福島への責任」を果たす資金の捻出のためにもDXで効率化を図る。
【直近の活動】
東京電力ホールディングス(HD)は、地方自治体向けにエリア・エネルギー・マネジメント・システム(AEMS)を提供する。地域の再生エネルギー電源や蓄電池などをモニタリングしながら電力需給を管理し、カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の実現や防災性能の強化を図るシステムだ。2024年8月に千葉市に導入すると発表し、開発・工事に着手した。
2024年11月には、子会社の東京電力リニューアブルパワー(RP)が葛野川ダム(山梨県大月市)において、ドローンによる地震発生後の臨時点検の実証に成功したと発表した。今後グループ全体で発電施設や送配電施設でのドローン活用を進めるとともに、AI(人工知能)も導入することで画像データからの高精度な設備診断などを実現する。
【DXの位置付け】
東京電力グループの事業持ち株会社である東京電力HDは「TEPCO DX」を掲げる。「電力安定供給とカーボンニュートラルの両立に向けた事業構造変革に取り組んでおり、DXはその推進方策」との位置付けだ。2019年に台風による長時間の停電が発生し、設備被害の状況や復旧工程を可視化する「防災DXプロジェクト」に取り組んだ。それをきっかけに、DX組織が発足し様々な取り組みを実施してきた。
カーボンニュートラルに向けた具体的な定量目標としては、CO2排出量を2030年までに2013年度比で50%削減、2050年にエネルギー起源のCO2排出実質ゼロと定めた。その実現をTEPCO DXが支える。
【DXの重点テーマ】
注力するテーマは「徹底的なデータ化」だ。従来、発電施設や送配電施設の運用・点検保守業務などは経験やノウハウに基づく属人的な判断が重視され、データは補完するものとされた。今後は誰もがデータが示す明白な指標を基に判断する「データ駆動事業運営」へ変革していく。データ活用基盤を整備し、社員のデジタルツール利用促進を図るとともに、DX人材の育成にも取り組む。
データ活用のための基盤である「TEPCO Data Hub」を2023年11月に稼働させた。社内外の様々なデータを連係し、順次拡張していく計画。蓄積したデータを基に、電力需給予測の精緻化や設備点検の効率化など、様々なビジネス価値の創出を目指す。
社員のデジタルツール利用を促進し、データを使って仕事を進める土壌も形成する。例えば、米オープンAIのChatGPTを活用し社員向けにAIチャットサービスを展開している。「上司から急ぎの仕事を振られたケース」など具体的なストーリー仕立てで分かりやすく機能を紹介し、日々の業務での利用を促す。