旧日本帝国海軍の残党が、秘密裏に海底軍艦「轟天号」を建造していた!という現実と肉薄したアイデアの作り方が抜群に面白い。
愛国忠義の戦前オヤジ世代と、戦後民主主義を謳歌する若い世代のあいだで、価値観のディスコミュニケーションが生まれていくのも、まだ戦後20年足らずも経過していない公開当時としてはリアルに感じられたのではないかと思う。
平和憲法でもって、戦争を放棄したというチャラついた日本人。こちらが一方的に放棄しましたって?じゃあ、アナタがたの生命はいったい何に保障されているの?武力もなしにどうやって?
平和のぬるま湯に浸かった日本に、今一度、戦争とは、自衛とは、愛国心とは、世界平和とは、それはいかなるものかと。神宮寺大佐はゴジラの芹沢博士とはまたちがったかたちで、現場主義なリアリズムをつきつける。俺の戦争は、まだ終わっていないんだ!
最初は、国連への協力を拒否し、あくまでも日本帝国海軍の復興を目指していた神宮寺大佐らが、最終的にはムー帝国撃滅のために立つシーンが感動的。未来を守るため、浮上せよ轟天号!
やはり、鬼の海軍将校も人の親よ。みずからを戦争の亡霊だと認めて、頑なだった心を解きほぐし、負の感情に落としどころをみつけていく。娘たちの暮らす戦後の日本に、どす黒い憎しみを引き継がせないため、世界共通の敵に立ち向かう。
いろんな人種が統一王のもとで暮らしているっぽいムー帝国は、理想郷にみえないこともない。民族の統一を建前に、地上への侵略を開始してくる。あちらさんも八紘一宇の精神をお持ちのようだ。
特撮の見せ場においては、海底軍艦轟天号が主役であるため、敵怪獣はやられ役だった。主人公をちょい驚かして脱出を邪魔したのち、轟天号に秒殺される守護神マンダ。ほんと拍子抜けでショボかった。敗因は初手竜舞いしなかったせい。
ムー帝国の場所が突き止められ、みずからが捕虜となってなお、徹底抗戦の意志を見せる女皇帝に、神宮寺大佐は「では、我らの力をご覧にいれよう!」と故郷が滅びるさまをまざまざとみせつける。ここまで徹底破壊する必要あるのかとも思ったが、わからず屋国家はこうされても文句は言えない。
第二次大戦の連合国側からしたら、この後に及んで降服しない日本には、ふたつの原弾投下は必要だったし、これだけやってもわかんないんだったら、お望み通り本土侵攻で民族総粛清してやんぞコラァてことになりかねなかった。
ムー帝国においても、いよいよ本土が海底軍艦に攻撃されてんのに、その報告を受けた長老っぽい人が、「下等な民族にそんなことできるわけないだろ!」って吠えちゃってんのが、気ぐらいカンスト系民族の行き着く先って感じ…。
外側をよく知らない国は、戦争が下手くそ。上手い負けかたを知っとかないと、ドリルで中枢まで風穴開けられてコテンパンに負けてしまうのです。慎みたまえよ。