消費税とは、消費一般に対して課税する税金である。
概要
消費税は大きく直接消費税と間接消費税に分けられる。また、間接消費税は個別消費税と一般消費税に分けられる。全ての物品にかけられる一般消費税は、「課税によって人々の経済活動が影響を受けずに、民間の資源配分をかく乱しない」という課税の中立性原則の観点から一番望ましい税制であるといわれている…のだが、「消費税 中立性」でググると中立性と公平性を取り違えたBAが上位にくる。現実は非情である。
日本の消費税
日本の消費税は所得税、法人税と並んで代表的な国税の一つであり、平成27年度の税収は17.1兆円。これは収納済歳入額としてみると所得税の16.4兆円、法人税の10.9兆円をすでに超えている。(参照・平成27年度予算の概要)
日本の消費税は間接税、つまり税金を負担する者と税金を納める者が異なる税金である。
一般に税金を負担するのは消費者で、税金(消費税)を納めるのは事業者(会社)となる。
消費税の税率は2014年3月まで4%、同年4月から2019年9月までは6.3%、同年10月からは7.8%(軽減税率適用対象は6.24%)である。一般的には消費税の税率は同5%→8%→10%と認識されているが、これは地方税である地方消費税の税率1%→1.7%→1.76%を加えたものであり、正確には消費税等(消費税と地方消費税を合わせたもの)の税率である。なお、消費税のうち、19.5%(2020年度以降)は地方交付税として地方公共団体に配分されるので、消費税率10%の場合国の財源に使われるのは6.279%分、消費税等全体の62.79%である。
消費税は直接税説
「消費税は間接税ではなく、直接税である」という主張がある。当然、国税庁などはこの説をとっていない。以下はこの記事の過去リビジョンでの直接税説の記述である。
消費税とは、事業者の売り上げに対して課税する税金で、付加価値に対する罰金として機能するいわゆる付加価値税である。景気によらず税収が安定する特徴を持ち、強制的に物価を引き上げる効果と景気を悪化させる効果を持つ。
日本の消費税は直接税、つまり税金を負担する者と税金を納める者が一致する税金である。
一般に消費税を負担するのは事業者で、消費税を納めるのも事業者となる。消費税は事業者が消費者から税を預かっているのではなく、事業者の売り上げにかかる税である。消費税表示は税負担を消費者に価格転嫁するならこの額になるという転嫁額の表示に過ぎず、間接税ではないため消費者は消費税を負担していない。個々の取引ごとに消費税は何円と計算するのだが、個々の取引の消費税を合算するのではなく、最終的に売り上げを合算したものに消費税がかかる。
仮に間接税、つまり消費税が預り金であるなら消費税の免税措置はあり得ない。我々の払った税金が国を経ず事業者に着服されるのを認める(益税)ことになるからである。財務省も消費税は直接税であり、消費税による益税は存在しない旨を回答している。しかしことあるごとに消費税を計算させるため、間接税のように考えた方が分かりやすいというバグのような仕様になっている。
経緯
日本では消費税導入の前に物品税が適用されていた。
これは、商品の生活での重要度をもとに税率を適用するもので、食料品や生活必需品の税率は低く、高価で贅沢なものには高い税率を課していた。
しかし、実際にその商品にどれだけの税率をかけるかでの判定が困難なものが頻出し、たびたび納税時でのトラブルが発生した。というのも、新たに開発された商品というものは最初は数が少なく売価も高いことから「高価で贅沢なもの」と認識されやすいのだが、その商品がヒットするとその後急速に「低価格化・大衆化する」といった性質を持っているからである。これに法がついていけないことがしばしば起こり、「コーヒーは課税で紅茶は非課税」「ストーブは課税でコタツは非課税」など、今聞くと「?」と思えるような課税判定が実際に起こっていたのである。また、個々の人間の主観の違いもあるため、いつの時点を以って「贅沢品ではなくなった」とはっきりした線引を行うことも困難であるという問題もあった。これだけではなく、貨物自動車仕様の自家用軽自動車のような税率の差を利用した低価格商品が開発されては大ヒットし、消費がそちらへ流れることで起こる不公平や税収の減少が起こるという問題もあった(もっともこれは物品税だけでなく、酒税などでも起こっている問題である)。これを解消するために、すべての商品に一律な税率をかける消費税への移行が提議されるようになった。
1970年代にヨーロッパなどで導入が始まると日本でも消費税の導入が表立つようになったが、食料品などの値上がりにつながるとして、市民やマスコミは反対の声を上げ、なかなか導入には至らなかった。
しかし1988年に消費税法が成立し、翌年4月から物品税が廃止されて消費税が導入された。
- 1978年:第一次大平内閣で消費税導入が表立つようになった。
→1979年の衆院選で過半数割れを起こしたことで、導入は取り下げられた。 - 1986年:第三次中曽根内閣で「売上税」の構想を立てる
- 1988年:竹下内閣で消費税法が成立
- 1989年:4月より税率3%で施行
- 1997年:4月より税率を5%に引き上げ(うち1%を地方消費税として施行)
- 2014年:4月より税率を8%に引き上げ(景気の動向による→引き上げが確定→引き上げ実施)
- 2019年:10月より税率を10%に引き上げ
納税義務者
消費税の納税義務者は国内で課税取引(後で説明する)を行った事業者と海外から輸入をした者である。事業者とは法人と事業を行う個人のことである。法人には営利企業だけでなく、財団法人や宗教法人といった公益法人のほか、国や地方公共団体も含まれる。なお、輸入の場合には事業者に限定しないのでいわゆる個人輸入を行った場合でも納税義務者となる。
納税義務者は課税期間という一定の期間ごとに税額を計算し、課税期間の終了した日から2ヶ月以内に申告書を提出して納税しなければならない。課税期間は原則として個人の場合は暦年(1月1日から12月31日の1年間)、法人の場合は事業年度である。
ただし、基準期間の課税取引の売上高が1000万円以下ならば納税義務は免除される。基準期間とは個人の場合は課税期間の前々年、法人の場合は課税期間の前々事業年度のことである。たとえば、個人の場合、平成20年の課税取引の売上高が1000万円以下ならば平成22年の消費税は納付する必要はない。
ただし資本金が1千万円以上の法人についてはこの納税義務の免除規定は適用されず、最初の事業年度からいきなり消費税を納める義務が生じる。
これは、会社を設立してから2年経たないうちにその会社を精算し(つまり会社を自ら潰して)、そしてすぐさま別の新しい会社を設立する、これを延々と繰り返すことにより消費税の納税義務を半永久的に逃れるという脱法行為(租税回避行為)を行う者が少なからず居たことが問題視されたことにも一因があり、平成22年4月以降設立の法人に対して免除規定が廃止されている。
取引の分類
消費税では取引を課税取引、非課税取引、免税取引、不課税取引の4つに分類する。課税取引以外は消費税が課税対象とならない取引であり、わざわざ区分する必要はないように思われるが、消費税の計算においてこの区分が重要になってくることがある。
なお、輸入取引の場合は課税対象と非課税取引の2つしかない。
課税取引
課税取引とは以下の条件をみたすものである(輸入取引を除く)。
- 国内で行った取引であること
- 事業者が行った取引であること
- 対価を得ていること
- 取引が資産の譲渡(売買など)、資産の貸付、役務(サービスなど)の提供のどれかであること
- 非課税取引でないこと
- 免税取引でないこと
なお、譲渡とは売買などのことをいい、役務とはサービスなどのことをいう。
つまり、国内で商売として物を売ったり、物を貸したり、サービスの提供をした場合、非課税や免税の場合を除けば課税取引になる。たとえば、プレミアム会員の会費(月額790円(アプリ内定期購読990円)、90日2,370円、年額7,900円(アプリ内定期購読9,900円))もサービスの提供に対する対価だから課税取引である。
輸入取引の場合は非課税取引以外は全て課税取引になる。このため、保税地域からの引き取りの際は、関税と消費税を合わせて支払う必要がある。
非課税取引
非課税取引は消費税の性格になじまない取引や社会政策として課税対象から除外されている取引で、次のようなものがある。
- 土地の譲渡や貸付
- 有価証券や支払手段(紙幣や小切手など)の譲渡
- 貸付金の利子や保険料を対価とする取引
- 郵便切手、印紙、商品券等などの譲渡
- 国や地方公共団体の手数料で法律で定められているもの
- 社会保険の対象となる医療
- 介護保険法に規定された介護サービス、社会福祉法に規定された福祉サービス
- 医師などによる助産
- 火葬・埋葬
- 身体障害者用物品の譲渡や貸付
- 学校の入学金や授業料
- 教科書の譲渡
- 住宅の貸付
輸入取引についても有価証券、郵便切手、身体障害者用物品、教科書の輸入は非課税取引となる。
ただし、上記商品やサービスを行う会社には販売や実務にかかる費用に消費税がかかる場合も多い。
その為、消費税増税に合わせて上記のサービスも料金改定する場合も多く見受けられる。
免税取引
免税取引とは輸出取引や輸出に類似する取引(国際郵便や国際通信など)、免税ショップでの取引(一定の条件を満たすもの)のことである。
不課税取引
不課税取引とは課税取引のところに書いた条件のうち1から4の条件のどれかを満たさない取引である。
たとえば、海外での物の売買、サラリーマンの給料、贈与や給付、保険金や株式の配当の受領などがある。
消費税と法人税の関係
法人税は内国法人の各事業年度の所得に対して課される。この所得の金額とはその事業年度の益金の額からその事業年度の損金の額を控除した金額である。噛み砕いていえば、その年度の売上の額からその年度の経費を差し引いた金額に対して法人税が課されるということになる
一方、消費税は、事業者の課税期間の課税標準額に対して課される。ただし、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する。課税標準額とは資産の譲渡等の対価の額であり、課税仕入れとは基本的には仕入先における課税資産の譲渡等に値する。資産の譲渡等の対価の額=売上とみれば、その年度の売上の額からその年度の仕入れの額を控除した残額に対して消費税が課されるということになる。
実際の計算方法とはやや異なるが、
消費税は(売上ー仕入)×消費税率
と考えれば、消費税と法人税は極めて密接な関係を持つといえるだろう。
ただし、法人税における損金にはその法人の役員及び従業員に対する給与が含まれるが、消費税の課税仕入れには含まれない。法人税はその会社のすべてに経費を差し引いた黒字部分に対して課されるが、消費税の場合は仕入れた商品と販売価格の差額がほぼその課税対象になりうる。これが消費税が海外で付加価値税あるいは増値税とよばれる所以である。
また、法人税は法人という法的に人格を与えられた存在に対して課される。よって、基本的にはその法人の本店若しくは主たる事務所の所在地で納税を行う。一方で、消費税は消費地課税主義といってあくまで事業者から消費者に資産が譲渡された場所で課される仕組みとなっている。かつてであれば、
の場合がほとんどであったので、その差は大きくなかったが、グローバル化の中で法人の本店と主たる販売場所の乖離が激しくなっている。法人の本店は租税回避地に所在させ、大消費地ではインフラのただ乗りをされては不均衡は大きくなる一方である。
現在多くの国で消費税=付加価値税の税率が引き上げられ、法人税の税率が引き下げられている。これについては、上記の理由により説明できる。
仮に、法人税のみが存在し、消費税のないA国と、消費税のみが存在し法人税のないB国とで輸出入取引があった場合、A国からB国に商品を輸出する企業は、B国で商品に対し消費税を徴収され、A国で利益に対して法人税が課されるのに対し、B国からA国に商品を輸出する企業は、消費地であるA国では商品に消費税を課税されず、利益を計上するB国では法人税を課税されない無税状態となる。
安定財源としての側面
消費税は税の特性として安定して収入の見込める税項目である。
その額面は景気変動に左右されず、純粋な国内総生産額に比例するといわれる。
1%増あたり2兆円を確保できるといわれるのも、過去のデータと国内総生産の数字によって導かれている。
現在、日本国におけるGDPの9割以上が国内消費である為、消費にかける税というのは確実な課税対象として理にはかなっていともいえる。その為、国家として生存しているかぎりどうしても掛かる社会保障の維持の財源として最適だとされる。その一方で逆に言えば国内消費をダイレクトに冷え込ませてしまう消費税の増税は法人税など他の税収入を激減させてしまうリスクを持っている。
また、景気に影響されないで安定しているということは、不景気や失業で収入がまったくない人や収入が低かった人からも安定的に課税するため、逆進性が高いという側面もあり、税の機能である景気を自動的に安定化させるスタビライザーの機能や、所得の再分配機能はまったくないという指摘もある。
消費税について指摘されている諸問題
以下の内容について税構造上の問題が指摘されている。
- 景気悪化要因
- 税負担が増えるということは景気に対して悪影響の出ることである。
理論上、税収増によって民間部門、消費部門から国家部門に所得(利益)が移動するに等しい為、悪化は必ず起こりえることであり、消費税を引き上げる際には悪影響をどれだけ低く抑えるかが重要となる。 - 逆進性[1]
- 消費税は広く浅く均等に課税される税金である。
現在だと食料やサービスなど生活のすべてに課税されているため、低所得の人ほど税負担に対して負担感が大きいといわれる。消費すべてに掛かるということは所得がなくても国内で消費している、引いては生活のすべての費用にかかる税項目であるということでもある。これが消費税がまるで現代の人頭税のようだと揶揄される所以となっている。なお、あくまで揶揄であり税特性としては収入、支出を問わず税額が一律の人頭税と消費税ではまったく別のものであることに注意が必要となる。 - 二重課税問題
- 消費税は売り上げに対してかかる税であるので、ガソリンやタバコなどもともと税のかかっている一部の商品には税金に消費税が乗る多重課税状態になっている。明らかに税の設計上おかしいのだが、安定財源であるためなどとして放置されている。
- 輸出差益
- 消費税は国内消費に掛かる税である為、輸出品目にかからない。
その為、たとえば自動車などを組み立てて海外に輸出した場合には部品に掛かっていた消費税の負担分の還付請求が可能となる。
その一方で消費税は財務省の意向により内税表記が原則とされており、国内の部品メーカーは消費税を含んだ提示価格で、税のかからない海外の部品メーカーとの競争を強いられる例が多々あるとされる。事実、仕入消費税分の原価下げを部品メーカー等が要求される場合も発生している(輸出戻し税還付は本来部品メーカー等に還元されるべき税金であるはずなのだが、値切ると輸出業者の懐へ入ってしまうことになる。なおかつ、これまでそれを禁止・抑制する手立てが一切行われていなかった)。それも禁止する為、消費税転嫁対策特別措置法がわざわざ法制されている。(所管は中小企業庁)
本来であれば原価での比較とすべきところだが、あえてそれをしていないのはメーカーの怠慢といわれている。
そもそも、輸出戻し税還付対象が輸出メーカーの海外販売分であり、平均して年間3兆円が輸出企業に対して還付されているとも言われる。
これは消費税の抱える制度欠損であり消費税導入時から指摘されてきたが、今でも問題を抱えたまま税率だけが上がっていっている。
これらの問題を総称して輸出戻し税問題といわれ、識者からは対策として欧米で一般的に行われているインボイス方式の活用などが提案されることもある。一方でインボイス方式は事務手続きが爆発的に増え、そのために新たに人を雇う余裕のない中小・個人事業者が多数を占める日本の実態にそぐわない、という側面を持つため財務省は実施は不可能だとしている。事実日本ではインボイスどころか帳簿すらつけられない(つけたくない?)という個人事業者も少なくなく、実際に基準期間の売上高が5千万円以下の課税事業者に対しては帳簿の保存がなくても業種に応じた一定率の仕入税額控除ができる「簡易課税制度」が未だに残っているのである。財務省はこの問題について「所管ではない(中小企業庁と輸出企業、及び仕入れ業者間の問題だ)、適正に正しく還付されている。同様にインボイス方式はごく一部の見解として聞いている」としている。 - インボイス制度
- インボイスとは請求書という意味の英語である。インボイス制度は消費税の控除額を算出する基準に関する制度である。端的に言えば、免税措置を受けられる範囲を狭める増税措置である。
- インボイス制度が導入されると消費税法を満たす取引のみ経費として控除されるようになるため、取引先が「適格請求書発行事業者」であることが必要になる。簡単に言えば、消費税による負担の価格転嫁を適格請求書発行事業者にのみ押し付けることができるのである。
- 適格事業者でない者と取引した場合、仕入れ控除ができなくなるので適格事業者でなければ取引から除外される危険性が高まる。一方で、適格事業者は売り上げによらず免税措置を受けることができなくなる。
- これまで免税事業者だから価格転嫁せずに済んでいた事業者は、取引先から仕事を切られるか、免税措置を諦めるかの二択になる。また、税制を簡単な設計にするために分かりやすく免税措置を置いていたものを必要以上に複雑、煩雑にする効果もある。適格事業者登録をすると事業形態によらず本名と住所が全世界に公開される謎の仕様があるため、ペンネームで活動している人やDV被害から逃げているなど事情があり本名を伏せている人が事業を継続できなくなる問題もある(現在公開範囲を調整中とのこと)。取引の末端にいる各種零細個人事業主は取引先から税負担一割を求められ、自らの経費にかかる消費税負担分を価格転嫁できない状態になる。消費税によって給与の2割が失われるのと同等の効果があるので多数の事業者が廃業する可能性が高い。それでいてインボイスにより見込める税の増収分は3000億円未満であると予測されている。莫大な事務作業量増加と廃業の危険性に対する効果があまりにも少なすぎると言える。
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