変光星とは、見かけの明るさが変化する恒星である。
概要
惑星など太陽系の天体も、地球から見て明るさが変わるが、変光星とは呼ばない。変光星はあくまで恒星である。
変光の原因は実にさまざまで、明滅のパターンもまた千差万別。たとえて言うなら、動物を飛べる物と飛べない物に分類するようなものだ。飛べる動物としてはトンボ、ツバメ、トビウオ、翼竜、ポルコ・ロッソなどが挙げられるが、どれも異なる生物群に属していて、飛ぶメカニズムも飛行の様子も全く別物である。変光星もまた、色々なタイプの恒星を「明るさが変動する」というだけの理由で寄せ集めた名称だと思えば分かりやすいはず。
ちなみに、恒星というのはあまりにも遠くにありすぎて、どれも点にしか見えない。大きな望遠鏡を向けても、その点が明るく見えるだけで決して拡大はできないのだ[1]。そんな状況で、ほぼ変光のパターンと星の色だけを手がかりに探偵の如く正体を突き止めることができるのだ。何が言いたいかというと、宇宙ヤバイけど天文学者スゴイ。
同時に、世の中には他の職業に従事しながら「変光星の観測」を趣味としている人々がいて、そんな愛好者たちの観測データがプロの研究者たちを支えていることも忘れてはならない。
変光星の種類
変光星を大きく分けると、脈動変光星・爆発型変光星・激変星・食変光星・回転変光星の5種類がある。最初の3つは恒星自身の明るさが変動していて、残りは見る角度が変わることによって明るさが変化しているように見える天体だ。この5種類のそれぞれが、さらにいくつもの下位分類に分かれていたりする。なお超新星も変光星の一種だが、激変星の一種としてカウントされることもあれば、独立したグループとして扱われることもある(本記事では激変星に含めた)。
脈動変光星
恒星が膨らんだり縮んだりして明るさが変化する。「イメージしやすいな」と思われたかもしれないが、多分そのイメージは間違ってる。脈動変光星は縮んだときの方が明るいからだ。
恒星を構成する(ギャグじゃないよ)ガスは、温度が高くなればなるほど光を通しやすくなるという性質を持つ。また、ガスは高温になると体積が大きくなる(熱膨張って知ってるか?)一方、膨らみすぎると熱源である恒星中心部から離れてしまうので表面のガスは冷える。その結果、
熱が恒星の表面まで伝わって膨張→膨らみすぎて表面温度が下がる→ガスが光を通しにくくなる→星が暗くなる→エネルギーを伝える光が遮断されてるせいで温度がさらに下がって縮小に転じる→恒星表面と熱源である中心部が近づいたので温度上昇→ガスが光を通しやすくなる→星が明るくなる→エネルギーがさらに伝わりやすくなって膨張に転じる→以下繰り返し。
脈動変光星のほとんどは、年老いて赤色巨星になった恒星である(恒星の記事参照)。赤色巨星の表面は比較的低温で、ガスの透明度が大きく変化しやすい温度領域にあるためこのような脈動が起きる。
主な脈動変光星のタイプ
- ミラ型変光星:脈動周期が規則的で、しかも明るさの増減幅が大きい脈動星。代表格がくじら座のミラ。こいつは約332日周期で2.0等星から10.1等星の範囲で変光する。明るさの差およそ1700倍。落ち着けよ。
- ケフェイド:このタイプは変光周期が長いほど真の光度が明るいという関係がある。つまり、ある星がケフェイドだと分かっていて(これはスペクトルなどを調べればよい)その変光周期を測定できれば、真の光度と比べて明るいか暗いかでその星が近いか遠いかを計算できる。比較的遠くの天体の距離を測定するのに利用でき、エドウィン・ハッブルはこれを使って銀河系の外にも銀河があることを証明した。
このほか、おうし座のアルデバラン、さそり座のアンタレス、オリオン座のベテルギウス、サイズがヤバイことで一部に知られたおおいぬ座VY星などはみな赤色巨星(または赤色超巨星)で脈動している。ただミラに比べれば変化がささやかなので分かりにくい。これらは「半規則型」や「不規則型」の脈動変光星に分類されていて、細かく分ければ脈動変光星は10種類以上ある。
爆発型変光星
英語では eruptive variable。これは「爆発」というより「噴火」とイメージした方がよい。恒星が表面から物質を噴き出すことで増光したり減光したりする。
主な爆発型変光星のタイプ
- ウォルフ・ライエ型変光星:ウォルフ・ライエ星というのは質量が太陽の40倍以上あり、自分自身をつなぎとめることができずにちょくちょくガスを放出しているタイプの恒星。これが原因で明るさが変化することもある。
- かんむり座R型変光星:時々炭素の塵(要はすす)をばらまいて暗くなるタコやイカのような奴。
- フレアスター(閃光星):全体にLv×50のダメージフレアは恒星の表面で起きる爆発現象で、太陽でも起きている。太陽でフレアが起きてもそんなに明るさは変化しないが、閃光星は星全体がフレアを起こして明るくなるような過激な連中。中には太陽フレアの百万倍以上のエネルギーを解放するフレアを起こした星もある。これが本当のメガフレア
激変星
文字通り明るさが激しく変化する星。このグループに属する天体のほとんどは、非常に接近した白色矮星と恒星のペアからなる。両者があまりに接近していて、恒星から剥ぎ取られたガスが白色矮星に流れ込むことでさまざまな爆発を起こす。「リア充爆発しろ」を宇宙レベルで実践しているのだ。
だが白色矮星というのは燃料切れで核融合をやめてしまった「死んだ恒星」である。そんな奴が生き残った相方から物質を剥ぎ取って復活しようとしているのだと想像すると、なかなかに危険な雰囲気。
主な激変星のタイプ
- 矮新星:白色矮星が剥ぎ取ったガスはすぐには吸収されず、風呂の栓を抜いたときの水のように白色矮星の周りをぐるぐる回る。この円盤にガスが溜まりすぎると温度が急上昇して明るくなり、ガスが一気に白色矮星へと落下する。これを数日〜数千日の周期で繰り返す。
- 新星:新星にガスがある程度降り積もると、暴走的に核融合反応が起きて表面が吹き飛ばされる(本体は残る)。このとき白色矮星は普段の数万倍もの明るさになり得るが、何十日もすれば元の明るさに戻ってしまう。まるで何も無かった所に新しい星が誕生したように見えるから「新星」なのだが、その実態はゾンビのようなものだ。中には数年周期で新星爆発を繰り返す激変星もいるが、大抵は数万年から数百万年しないと復活できない。
- Ia型超新星(いちえーがたちょうしんせい):矮新星爆発と新星爆発を繰り返しながら、白色矮星がどんどん質量を吸収していくとどうなるだろうか。実は白色矮星がその姿を維持できる質量には太陽の約1.4倍という上限がある。それを超えて「らめぇ、もう入らないよぉ…」な状態になると、それまで表面でしか起こしていなかった核融合反応が内部で起きて白色矮星は爆発四散してしまう。その明るさはすさまじく、数十億光年離れたところからも望遠鏡で発見できるほど。そしてIa型超新星が常に「白色矮星の質量が太陽の約1.4倍になった時点」で起きているのだとすれば、爆発の規模も同じくらいなはずなので、ケフェイドと同様、距離の測定に使える。宇宙膨張の加速はIa型超新星の観測によって発見された(→暗黒エネルギー)。
- その他の超新星:ややこしいことに、同じ「超新星」と呼ばれながらIa型以外(Ib、Ic、IIなど)は全然違う理由で爆発を起こしている。これらは太陽よりもはるかに質量が大きな星が寿命を迎えたとき、大人しく白色矮星へ移行することが上述の質量上限のせいでできずに大爆発を起こす。これは「白色矮星と恒星の近接連星」ではないので、激変星に含めないこともある。
食変光星
「食」は「日食」や「月食」と同じ意味で、要するに恒星が他の天体に隠されることで暗くなること。大抵、「他の天体」というのは別の恒星だったりする。2つ以上の恒星が互いの周りをぐるぐる回っている連星が食変光星として観測されやすい。もちろん、地球から食変光星が観測されるためには連星の公転面を横から見ていることが条件であり、別の角度から見てしまったら変光星にならない。
原理は単純なのだが、恒星の明るさの差、恒星同士が近づきすぎて変形している、片方が脈動変光星に進化している、激変星状態になっているなどの合わせ技でさまざまなバリエーションがありえる。
また、恒星ではなく惑星に隠されるというパターンもありうる(変光星としてカウントされないことが多いが)。この場合、食による減光はものすごく微弱なのでハイレベルな観測装置を必要とするものの、数多くの太陽系外惑星の検出につながっている(この観測方法をトランジット法と呼ぶ。太陽系外惑星の記事参照)。
回転変光星
恒星が楕円体だったり、表面に模様があったりするせいで自転と共に明るさが変化するパターン。ただしこれによる変光幅は非常に小さく、変光星観測愛好者の間ではあまり人気が高くない。
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関連項目
脚注
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