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橋脚の補強に当たって柱部だけの耐震性しか検討しなかった長野県の工事に対し、会計検査院が不適切だと断じた(資料1)。フーチング基礎の耐震性を照査したところ、レベル2地震動に対して安全でなかった。

資料1■ 上の写真は、コンクリート巻き立てで柱部を補強した吉岡城南大橋の橋脚。右は補強前(写真:長野県)
資料1■ 上の写真は、コンクリート巻き立てで柱部を補強した吉岡城南大橋の橋脚。右は補強前(写真:長野県)
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 耐震補強工事に検査院から異論が出たのは、長野県下篠村の南の沢川に架かる国道151号吉岡城南大橋だ。3径間プレストレストコンクリート(PC)ラーメン橋と3径間PCT桁橋で構成する(資料2)。

資料2■ 吉岡城南大橋のうち3径間PCT桁橋の箇所(写真:長野県)
資料2■ 吉岡城南大橋のうち3径間PCT桁橋の箇所(写真:長野県)
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 起こり得る最大級のレベル2地震動に対し、補強前の吉岡城南大橋は損傷が致命的とならない「耐震性能3」を満たしていた。しかし、国道151号が緊急輸送道路に指定されているため、県はレベル2地震動でも軽微な損傷にとどまり、速やかに機能を回復できる「耐震性能2」に高める耐震補強を進めている。

 県は2020~21年度にT桁橋区間のP4、P5橋脚で補強工事を実施。それぞれの柱部に対し、厚さ35cmのコンクリートを巻き立てた(資料3)。柱部の高さはP4が13.448mでP5が20.94m。いずれも断面は補強後、橋軸方向に2.8m、橋軸直角方向に8.2mとなった。施工したのは柱部だけで、フーチング基礎は後で補強する考えだった。

資料3■ 耐震補強工事の概要
資料3■ 耐震補強工事の概要
(出所:会計検査院の資料を基に日経クロステックが作成)
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 検査院は、県がフーチングを含めた橋脚全体ではなく、柱部だけの耐震性を検討して補強した点を問題視した。補強後の状態でフーチングの安全性を照査すると、断面にかかる曲げモーメントとせん断力が、いずれも部材の耐力を上回り、耐震性能2を満たしていなかった(資料4)。

資料4■ 断面力と耐力の照査
資料4■ 断面力と耐力の照査
フーチングに作用する断面力(曲げモーメント、せん断力)が、当該部材の耐力(降伏曲げモーメント、せん断耐力)を大幅に上回った(出所:会計検査院の資料を基に日経クロステックが作成)
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 検査院は橋脚全体で必要な耐震性が不足しているとして、工事の目的を達していないと指摘。設計が不適切だったと結論付けた。