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 データを分散配置して拡張性を担保しながらSQLを利用できる「NewSQL」。これを採用し効果を上げるユーザーが増えている。一例が登録ユーザー数6000万人超のカレンダー共有アプリをグローバルに展開するTimeTreeだ。従来のデータベースを米Google(グーグル)の提供する「Spanner」に切り替え、2025年1月12日に本番利用を開始した。2024年11月には米Microsoft(マイクロソフト)が「Elastic Clusters on Azure Database for PostgreSQL - Flexible Server」を、2024年12月には米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が「Amazon Aurora DSQL」を発表し、製品やサービスの開発競争も激しくなってきた。NewSQLとはなにか。RDBとNoSQLの良いところ取りと言われるが、その実力はどれほどのものか。まずは仕組みと利用メリットを見ていこう。

 TimeTreeのほか、音声配信プラットフォームを提供するVoicyも2024年にPingCAPの提供するNewSQL「TiDB」に基幹データベースを移行した。YugabyteDBでHead of Solutions Engineering-Japanを務める市村友寛氏は「中小規模の顧客はもちろん、近年はエンタープライズでの採用も増えている」と話す。

NewSQLとはなにか

 NewSQLとはどのようなデータベースか。NTTデータグループ技術革新統括本部Innovation技術部IOWN推進室の小林隆浩テクニカルリードは、一般にNewSQLに分類される製品の共通点として「(1)SQLクエリーを受け付けられること、(2)分散してデータを保持することで、サーバーの台数を増やして容量や性能をスケールアウトできること」の2つを挙げる。

 RDBの多くは単一のマシンで稼働する前提で設計されているため、性能向上の手法としてスケールアップは容易だがスケールアウトがしづらい。複数の読み取り専用サーバーにデータをコピーすることで読み取り性能を向上できるが、書き込み性能を引き上げづらい課題があった。その後に登場したNoSQLはスケールアウトがしやすく拡張性には優れる。ただし、RDBほど高いデータ整合性を担保できない、SQLが利用できないなどの課題があった。

 2012年にグーグルが論文「Spanner:Google's Globally-Distributed Database」を発表し、これがRDBの高い整合性とNoSQLの拡張性を併せ持つデータベース、NewSQLのひとつの基となった。PingCAPやYugabyteDBがこの論文をベースに製品を開発。マイクロソフトやAWSも同様のコンセプトを持つ製品の充実を図る。