2025年3月1日(土)

プーチンのロシア

2025年2月27日

 1月の就任以来、事前に抱かれていた不安を上回るハイペースで国際関係をかき乱している米国のトランプ大統領。今度はウクライナに対して、とんでもない要求を突き付けた。米国が行っている対ウクライナ支援の見返りに、ウクライナのレアアース資源を差し出せというのである。ウクライナのゼレンスキー大統領が28日に訪米し、その交渉がなされるとも報じられている。

ウクライナの鉄鉱石採石場(igorbondarenko/gettyimages)

 ただ、トランプが目を付けたウクライナのレアアース資源とは、どのようなものなのだろうか? 筆者は長年にわたりウクライナの産業や経済地理をウォッチしてきたので、今回はその立場から騒動の顛末とその行方について考えてみたい。

原点はゼレンスキーの「勝利計画」

 今回のトランプによるトンデモ要求の原点にあるのは、間違いなく、ウクライナのゼレンスキー大統領が2024年10月に正式発表した「勝利計画」である。この中でゼレンスキーは、欧米諸国による軍事支援の強化で対ロシア戦争を勝利のうちに終結させるとの方針を示し、その見返りの一つとして西側諸国にはウクライナの天然資源開発に関与する機会を提供すると表明した。

 ウクライナ側は、「テイク」だけの提案はさすがに虫が良すぎ、何らかの「ギブ」が必要と考えたのだろう。欧米企業の関与により、停滞していたウクライナの資源開発が動き出せばウィンウィンだし、ウクライナに権益を持つ国はウクライナをロシアの攻撃から守ることにより真剣になるはずだ。そんな「妙案」のつもりだったはずである。

 もっとも、公平に言ってウクライナには価値のある天然資源が潤沢に賦存しているわけではない。一般的に言って、ウクライナの資源で多くの人が連想するのが、石炭と鉄鉱石であろう。

 しかし、東ウクライナ・ドンバス地方の炭田は、19世紀後半から長らく採掘が続いており、資源の枯渇が進んでいる。近年のウクライナでは、鉄鋼業向けのコークス生産に用いられる原料炭は主に輸入に頼り、発電用の一般炭の生産が主力。ただ、有望な炭鉱はウクライナ民間資本が押さえており、不採算炭鉱を国が抱えている形である。ウクライナ自身にとってもお荷物である炭田が、外資にとり魅力があるかは疑問だ。

 鉄鉱石は、ウクライナ中部に賦存し、鉱石の品位はともかく、埋蔵量は膨大である。ただし、すでにウクライナの民間企業が開発しており、「西側諸国に資源開発に関与する機会を提供する」とゼレンスキーが言ったところで、既存の権益をどう調整するかが不明である。

 一説に豊かな埋蔵量があるとされるドンバス地方のシェールガス・オイルや、クリミア沖の石油・ガス田などは、もしかしたら投資家の食指が動くかもしれない。しかし、そもそもウクライナがクリミアやドンバスを奪還しないことには、話にならない。


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