「教育番組」のタマが熱い! かわいさだけじゃない! SNS発キャラが人気の理由

こんにちは、SNS向けのコンテンツ企画・制作や映像ディレクターの仕事をしている明坂です。
みなさんが普段よく目にするキャラクターは何でしょうか。昔から有名なキャラクターといえば、ディズニーやサンリオのキャラクターたちが思い浮かぶと思います。しかし、各キャラクター関連の市場規模を世界でみたとき*、なんと1位はポケモンで、それ以外にも、ハローキティ、アンパンマン、マリオ、ガンダム、ドラゴンボールなど、トップ25のうち10が日本生まれのキャラクターであり、アニメ・漫画大国である日本は同時にキャラクター大国でもあります。
*TITLE MAX:史上最も収益の高いメディアフランチャイズ25選
https://www.titlemax.com/discovery-center/the-25-highest-grossing-media-franchises-of-all-time/
また、YouTubeをはじめとする動画サイトにおいては、誰もが一度は「ゆっくり霊夢・魔理沙」や「ずんだもん」など、比較的権利がゆるいキャラクターを使用した二次創作コンテンツを目にしたことがあるのではないでしょうか。最初に創作した方の手を離れ、二次創作によって人気が拡大していくのも、昨今のSNS時代におけるキャラクターの面白いところだと思います。
さて、先日池袋パルコで開催された「教育番組 はじめてのげんじつポップアップ」というイベントに参加しました。

ここでいう「教育番組」とは、ももにくすさんというクリエイターの方が作っている、架空の教育番組風のコンテンツです。主に、XやTikTokなどで以下のキャラクターたちが活動するショート動画や4コマ漫画などが発信されています。
— 教育番組 (@MNS_kyoiku) March 27, 2024
タマは内気でネガティブなアザラシで、プライドだけは異常に高く、パウルはタマの家で暮らす元気なタコ。はかせは、タマのパソコンでものしりだけれど、ときには皮肉をいうキャラクターです。
私はイベント開始の1時間ほど前から並んでいたのですが、イベント開始時間には数百人レベルの列になっており、「おぱんちゅうさぎ」などに次ぐ新たな人気キャラクターになる兆しを感じました。
近年、SNSから誕生したキャラクターが次々とヒットを記録しています。たとえば、「ちいかわ(ナガノさん)」や「おぱんちゅうさぎ(可哀想に!さん)」は、かわいらしい外見ながらダークな世界観だったり不幸続きだったりといった意外性のある要素を織り交ぜ、多くのユーザーの心を掴みました。
— ちいかわ💫アニメ火金 (@ngnchiikawa) February 2, 2025
かつてはサンリオやディズニーのように大手企業が流通・ライセンスを独占し、キャラクタービジネスを展開するのが主流でした。しかし、X(Twitter)やTikTokといったSNSが普及した今では、個人クリエイターがネット上で作品を発信し、バズを起こして人気を獲得する事例が増えています。本記事では、SNS時代のキャラビジネスの変遷や特徴的な成功事例を振り返りながら、今後の可能性について考察します。
SNS時代とキャラクタービジネスの変遷
前述の通り、SNSが普及する以前は、大手IP(Intellectual Property)が強固な販路を活かしてテレビ番組・アニメ・雑誌・タイアップなどを通じ、大規模なプロモーションを行うケースが目立ちましたが、昨今は、クリエイターが個々で発信する仕組みが整っています。
特にLINEスタンプやYouTubeが伸びた時期には、「ピスケ&うさぎ(カナヘイさん)」や「仕事猫(くまみねさん)」のように、プラットフォームの利用者拡大と同時に人気が爆発したキャラクターが登場しました。これまで多額の資金や大手企業の支援が必要だったキャラクタービジネスのハードルが、SNSの普及以後は大幅に下がったわけです。

「かわいい×意外性」ギャップで引きつけるキャラクター
SNS上で目立つのは、単に「かわいい」だけでなく、そこに“不条理”や“ブラックジョーク”といった要素を足したギャップ路線です。たとえば「ちいかわ」では、一見ほのぼのとした世界にモンスターとの戦いがあり、ときに残虐なシーンが垣間見えます。「おぱんちゅうさぎ」は、常に不幸な出来事に巻き込まれ続けるシュールさが注目を集めました。
ポップなビジュアルとの落差はインパクトが強く、初見で驚いたユーザーが思わずシェアしたくなる効果を生みます。また、柔らかなタッチが重い話題をマイルドに中和するため、幅広い層に受け入れられやすい点も特徴です。
— おぱんちゅうさぎ (@opanchu_usagi_) July 25, 2024
上記の投稿のように、「おぱんちゅうさぎ」は”あるある”や風刺の効いた不幸が多いです。
「共感を呼ぶネガティブ要素」:不幸や皮肉がヒットする理由
仕事の失敗や日常の不運、あるいは死の恐怖など、誰もが抱えるネガティブな体験をネタにし、それをブラックユーモアやオチで笑いに昇華する手法も人気を高めています。たとえば「仕事猫」は、職場での“あるある”ミスを皮肉っぽく表現し、働く人々の共感を獲得し、拡散されています。
さらに「100日後に死ぬワニ」は、カウントダウン形式で死に向かう様子を短編漫画で描き、先が気になる仕掛けで爆発的な話題を呼びました。こうしたネガティブなテーマは、ユーザー自身が自分ごと化しやすく、コメントやリツイートも加速しやすいのです。
また、大喜利的なテーマ設定がわかりやすくされているため、二次創作(UGC:User Generated Content)が生みやすいということもポイント。いまほど画像編集をスマホで簡単にできる時代以前から、アスキーアートで二次創作を簡単に作れるというのがシンプルなキャラクターの強み。旧2ちゃんねるで発生した「モナー」や「やる夫」の流れを感じます。
新たな軸の展開と、ストーリーの力
ただし、SNS時代のキャラクターがすべて「かわいい×ダーク」路線というわけではありません。「パペットスンスン」のように、ぬいぐるみや人形を使ったコント風の動画を投稿し、シュールな動きや日常ネタを織り交ぜてユーザーを楽しませる例も存在します。パペットという表現は現実との境界線が曖昧で、Eテレをはじめ、テレビ神奈川制作の「saku saku」といった番組で、人間との掛け合いによって人気を博しました。
また、SNS時代に生まれているキャラクターたちは、LINEスタンプなどに比べて4コマ漫画や動画など表現できる幅が広く、必然的にキャラクターの個性や人間性を感じ取りやすく、そのため生まれるストーリーにも深みがあります。これはSNSの更新のしやすさや、シェアのされやすさという特徴とフィットし、さらに多くの人に知ってもらうきっかけとなっているわけです。
「教育番組」はなぜウケているか
さて、ここで改めて「教育番組」はなぜウケているかを考えてみましょう。以下は、「きょういくばんぐみのテーマ」の動画です。
「きょういくばんぐみのテーマ」
— 教育番組 (@MNS_kyoiku) January 8, 2025
フルバージョン▶ https://t.co/KDwuJY7yhc pic.twitter.com/hzGQ6dtqyz
この動画からもわかるように、ポップな外見をしている「教育番組」ですが、登場キャラクターのタマは「社会不適合者でなんにもできないのにプライドは高く、生きているのがつらい」というとてもネガティブなキャラクターです。現実で自分に突きつけられると辛い気持ちになる人も多いかもしれませんが、多くの人が抱えるリアルな不安をポップにデザイン化することで、共感を呼びやすいスタイルです。
ポップアップイベントの現場で見聞きしたり、イベントに参加した方のSNSを見て回ったりしたところ、10~20代の若年層(特に女性)の参加者が多かったという印象で、彼らは、タマの境遇に対して「いまこれ」「わかる」と、コメントしているようです。
たとえば次の投稿には、仕事納めの日がつらい、という共感の声が多数あがっていました。
— 教育番組 (@MNS_kyoiku) December 30, 2024
「生きるのが辛い」というのはマスメディアでは扱いづらいテーマですが、しばしばポジティブなストーリーも展開しています。今後は心理ケアやソーシャルアクションなど、社会問題に寄り添うキャラクターにもなりえると感じます。個人の体験や思いを投影したキャラクターが登場しやすいのも、SNSならではの動きです。
まとめ:細分化するキャラクタービジネスの未来
SNSの普及によって、キャラクターの世界観や物語を気軽に発信することができるようになりました。そしてその投稿を、多くのユーザーに“シェアしたい”と思わせることがビジネスの起爆剤になりました。「かわいい×ダーク」のギャップ路線は一つの主流となりましたが、教育パペットや病み系など、表現の幅はますます広がっています。
低コスト・短期間で一気にバズを狙える反面、ファンを継続的につなぎとめる戦略も不可欠。今後はさらに多様なテーマが発掘され、SNSとともに成長するキャラクタービジネスが、従来の常識を更新していくでしょう。
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