Webブラウザで指示「AIアナウンサー 荒木ゆい」働き方改革を後押し 高島屋やテレビ局で活躍中
Spectee(スペクティ)が開発した 「AIアナウンサー 荒木ゆい」(以下、荒木ゆい)は、同社が開発した人工知能エンジン「Spectee AI」で実際にアナウンサーが読んだニュース音声を機械学習しており、人に近い自然な発話を得意としている。
2017年のリリース以降、玉川髙島屋ショッピングセンターや地方テレビ局などで継続導入されており、業務効率化に役立っているという。荒木ゆいの強みと活用の可能性をSpectee代表取締役CEOの村上建治郎氏に聞いた。
原稿を打ち込むだけで、聞きやすく情報を伝える
荒木ゆいは、Specteeが販売するAI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」の前身である「Spectee」の開発に伴って生まれたサービスだ。Spectee Proは災害・事故・事件などの情報の速報とリスクの分析・予測を行うツールで、速報を伝える際に荒木ゆいの声を活用している。
Spectee Proにおいて、荒木ゆいは通常、1日数百件の速報情報を読み上げています。大規模な災害が発生すると、その件数が数千件に膨れ上がります。配信される記事を読み上げることで、発生した事象を取り逃がすことなく覚知でき、利用者は他の業務に集中できます。荒木ゆいはSpectee Proの読み上げ機能から生まれ、テキストを入力すると自然に発話するプラットフォームとして展開しています(村上氏)
日常的に使われる単語や文章であれば自然に読み上げられるが、より自然な発話やシーンに合った発話に調整する機能もある。話すスピードの変更や任意の箇所に休符・区切り・アクセントを挿入できる。漢字などの読み方に誤りがあれば修正も可能で、一度修正すると、それ以降は正しく読めるようになる。以下の映像は、荒木ゆいの最新のサンプル音声だ。
- 気象情報のサンプル音声
- 館内放送のサンプル音声
荒木ゆいはリズムやトーンを学習することで原稿を自然に読めるようにしている。文脈も学習しているため、多くの場合で漢字の読み分けなどもスムーズに行える。
特に地名は同じ漢字で読み方が異なるケースが多くあります。たとえば、神戸という地名は兵庫県だけでなく長野県にもあり、長野の場合は『ごうど』と読みます。荒木ゆいは、文章の内容を把握した上で、兵庫県神戸市は『こうべし』と、長野県の神戸は『ごうど』と読み分けることが可能です(村上氏)
費用の目安は年間100万円ほどとなる。利用制限なく使えるため、利用頻度が高いほどコスト削減につながる。荒木ゆいの著作権は人工知能エンジンの開発者であるSpecteeが所有しており、音声を使用する際は音声の著作権表示:「AIアナウンサー・荒木ゆい」の表示、または「AIアナウンサー・荒木ゆい」のアナウンスが求められる。
【事例1】館内放送をAIアナウンサーに置き換え
荒木ゆいの導入により、現場の働き方はどう変わっているのか。2019年に利用を開始した玉川髙島屋ショッピングセンター(以下、玉川髙島屋SC)では、館内放送業務に荒木ゆいを活用して、業務効率化につなげているという。
荒木ゆいの導入以前、玉川髙島屋SCでは、繁忙期になると30分ごとに3〜4種類の案内を肉声で行っていた。その内容は落とし物や忘れ物、迷子の案内など多岐にわたり、毎回内容が異なるため事前に録音することができず、インフォメーション担当者の大きな負担になっていた。そこで、特別な機材やスキルが必要なく、自然に発話できる荒木ゆいの採用に至ったという。
これまでの館内アナウンスは、インフォメーションセンターで受付を行い、その内容を館内放送の担当者に伝えて肉声で放送するといった運用でした。この場合、常に放送用の人員を用意しておかなければなりませんが、荒木ゆいの導入により放送用の人員を用意する必要がなくなり、インフォメーションセンターからの遠隔操作が可能になりました(村上氏)
また、肉声の館内放送を行うには1人あたり約12時間の教育が必要だったが、そうした教育も不要になった。コスト削減や働き方改革の推進を実現できる手段として、玉川髙島屋SCでは継続して荒木ゆいを利用しているという。
【事例2】人間のアナウンサーとAIアナウンサーの協業
放送を主な業務とするテレビ局でも、荒木ゆいを導入し、人間とAIアナウンサーの協業で人材不足などの課題解消に役立てている。
滋賀県のテレビ局・びわ湖放送では、深夜や早朝の放送において荒木ゆいを活用。たとえば、早朝の放送を従来どおりに行う場合、出演するアナウンサーは前日の夜に放送局に前乗りする必要があり、人件費がかさんでしまう。小規模な地方局の場合、専属のアナウンサーを採用するコストが取れず、外部アナウンサーと契約して放送を行うことが多い。
そうした事情から深夜や早朝の放送でアナウンサーに依頼する難易度が高く、放送の質を落とさずに情報を伝える代替手段として荒木ゆいの採用に至ったそうだ。
また、高知さんさんテレビでは、アナウンサーがナレーションを収録する「音入れ」の作業において荒木ゆいを導入し、効率化につなげている。従来の音入れは、アナウンサー、制作担当者、技術スタッフとスタジオの空きスケジュールを調整して行う必要があり、多忙なアナウンサーのスケジュールに合わせて関係者やスタジオのスケジュールを確保するのが課題になっていた。
1ヵ月ほどのトライアル期間を設けた後に荒木ゆいを導入したところ、音入れ作業が劇的に省力化できたという。今まで必要だった人間のアナウンサーや制作担当者、技術スタッフ、スタジオのスケジュール調整が必要なくなったためだ。
荒木ゆいの正確で自然な読み上げに加えて、パソコンのWebブラウザで利用でき、各社員が自身のパソコンからいつでも作業できる点や、同時に複数人が利用できる点、一連の音入れ作業を1人で完結できる点も評価された要素だったという。
神戸市の防災行政無線での採用も。街なかの音声のAI化を目指す
事例としてはショッピングセンターやテレビ局が多いが、その他に教育系サービスにおけるコンテンツ制作のナレーションとして採用された事例もある。荒木ゆいの場合、人の感情を表現するような小説や詩などは苦手としており、一定のリズムやトーンで読みやすく伝えるニュースやナレーションは相性が良い。
最新事例では、2023年に神戸市の防災行政無線に採用され、災害発生時の避難情報の伝達にも活用されている。
これまでの防災無線は職員の方が肉声でアナウンスされていたのですが、災害は深夜や早朝にも起こりますので、その場に職員の方がいないこともあります。また、アナウンスに慣れていない方が担当した場合、音声が聞き取りづらくなることもあります。荒木ゆいは24時間いつでも情報発信が可能で、かつ正確で自然な発話が可能となるため、そうした懸念への対処が可能となります(村上氏)
Specteeのメイン事業は防災領域となり、同領域でのAIアナウンサーの活用は人命救助に貢献し、社会的意義が高い。そうした理由から積極的に利用を推奨している。直近の取り組みでは、ドローンに荒木ゆいの音声を飛ばして空中からアナウンスをする実証実験を行っているという。
ドローン飛行中のプロペラ音がある状態でも、しっかりと音声を届けるための周波数の調整などを日々行っています。当社が目指しているのは、街なかのあらゆる音声をAIアナウンスに置き換えることです。正確で自然に伝える音声技術は成熟してきているので、シーンに合わせて適切に音声を届けるための開発を継続していきます(村上氏)
あらゆるシーンで聞き取りやすい発話に加え、男性の声や異なる年代の声などバリエーションが増えると、より使い勝手が向上するかもしれない。
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