自分のビートっていう定規で、彼らの物差しを測ってみたい──DJ KRUSH、新作をハイレゾ配信
ひさびさ(11年ぶり!)のアルバム・リリースとなった2015年の『Butterfly Effect』から、2年、早くもDJ KRUSHが新作をリリースする。今回はなんと日本語ラップ・アルバム。その名前は『軌跡』。KRUSH POSSEとして、日本語ラップ・シーンのそのスタートにいながら、これまで少しばかり日本語ラップのシーンとは距離感のあった感のあるDJ KRUSHがソロ活動25周年の節目の年に、日本のラッパーたちをフィーチャーしたアルバムをリリースするのだ。参加メンツは、R-指定、OMSB、志人、5lack、チプルソ、Meiso、RINO LATINA II、呂布カルマと、件のラップ・バトル番組を騒がす若手から、ベテランまで多様なスタイルのラッパーが集まっている。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信するとともに、DJ KRUSH本人へのインタヴューをここでお届けしよう。そのラッパーとの音のやりとり、そしてビートの濃密な表現はぜひともハイレゾで楽しむことでそのおもしろさは何倍にも増す、そんな作品となっている。
DJ KRUSH / 軌跡(24bit/48kHz)
【Track List】
01. Intro
02. ロムロムの滝 feat. OMSB
03. バック to ザ フューチャー feat. チプルソ
04. 若輩 feat. R-指定 (Creepy Nuts)
05. 裕福ナ國 feat. Meiso
06. 夢境
07. MONOLITH feat. 呂布カルマ
08. Dust Stream feat. RINO LATINA Ⅱ
09. 誰も知らない feat. 5lack
10. 結-YUI- feat. 志人
【配信形態 / 価格】
WAV, ALAC, FLAC(24bit/48kHz) / AAC
単曲 350円(税込) / アルバムまとめ購入 2,800円(税込)
インスト盤も配信中
DJ KRUSH / 軌跡 -Instrumental-
【配信形態 / 価格】
MP3
単曲 250円(税込) / アルバムまとめ購入 2,500円(税込)
INTERVIEW : DJ KRUSH
DJ KRUSHの新作、『軌跡』と名付けられた本作は日本語ラップをほぼ全編にフィーチャーしたアルバムとなっている。詳しい参加メンツは上記のトラックリストを見ていただくとして、ベテランから現在のバトル番組を賑わす若きMCまでそのメンツはさまざま。フロウにしろ、トピックにしろ、飛び交う言葉の応酬は、実に刺激的で多様性に満ちたラップの表現となっていることがわかる。日本語ラップの現在の広がりを考えれば、ある一部と言えるかもしれないが、逆にいえばDJ KRUSHが現在の日本語ラップ・シーンのどこを見ているのか、そこが示されているとも言えるだろう。
そんなアルバムだが、同時にこれは「DJ KRUSHの新作」である。そのアルバムを貫くのは、やはり音響的な驚きや刺激に満ち満ちたビートのエグさだ。多様なラップをひとつの世界観へとまとめ上げるDJ KRUSHのビートの魅惑的な響きといってもいいだろう。どちらかといえばクリアで空間を生かした音作りの多かった前作『The Butterfly Effect』の楽曲群たちに比べて、それぞれのラップへの回答ともいうべき、ダーティでラフなヒップホップのビート・マナーを繰り出している。ラップという表現をひとつメインに捉えることで、DJ KRUSHの音作りの表現は逆にビートそのもにストレートにフォーカスしている感覚がある(もちろんラップに寄り添う、さまざまな音の仕掛けは楽曲をダイナミックんい動かしている)。
往年のファンには、パラノイアックなまでにビート・ミュージックのサイケデリアを突き詰めた『覚醒』あたりのエグさを思い出すかもしれない。とにかく、驚くべき密度の表現(もちろん、その空の間も含めて)がビートへと注がれている。さまざまな言葉が飛び交い、ときに這いずり回り、ビートと交差していく。日本語ラップというフォーカスはそこにあれど、どこからどう聴いても「DJ KRUSHの10作目のアルバム」だ。アルバムを再生すると、そうとしか言えない世界観がぽっかりと口をあける。
インタヴュー & 文 : 河村祐介
写真 : 大橋祐希
編集補助 : 阿部文香
でも「遅かったな」って気はするんだけどね。「日本語で1枚、30年かかったのかよ」みたいな。
──まず僭越ながら聴いた感想ですけど、もちろんラップがまず頭に入ってくるんですが、それでも耳が行ってしまうのはやっぱり「DJ KRUSHの音」だなと。それがなにかなと考えると、ビートはもちろん、その周りのSE的なシンセのいびつな感じとか、ノイズのえぐみがビートに生きてる感じとか…… それが最終的に作品の全体のイメージととしてラップ以外では、やはり残るというか。ビートのえぐみっていうというとあれですけど、そこだけフォーカスする『覚醒』の時のあの感覚をすごい僕は思い出して。
ヒップホップとは言っても、やっぱり最近のヤオヤ(TR-808的なドラム・サウンド)全開のトラックと違う方向でやりたかった。僕らは80年代、90年代のヒップホップを過ごしてきたサンプリング世代。だからこそ、そういった質感のサウンドも今回は強めに出しつつやりたいなと。やっぱりあのビートがヨレた感じもそうだし、あとは『覚醒』でいうところのビートの質感とか間合いだったりというものはすごい意識したかな。
──なるほど。
90年代も意識したんだけど、それでいてそれが単なるループじゃつまらないし。あの当時のDJプレミアやピート・ロックと同じことをやってもしょうがない。若干危ういテイストを入れつつ、当時の空気感も残しつつ、いろんな音を混ぜていくみたいな音作りだね。「そんなヨレたビートに、5lackくんみたいなすごいフロウを乗せたらどうなるか」とか「どういうヨレ方するのかな、どう首を振れるのかな」みたいなところに興味があったから。でも、やっぱり『覚醒』みたいなものが根本的には好きなんですよ。それぞれのアルバムは、そのときの流れで全然違う色のアルバムになってるんだけど、やっぱり「Kemuri」とか、基本的にはあのラインが好きで。もちろん、今回も同じものではないけど、そこにラップがのればおもしろいなと思って。
──純然なラップ・アルバムというとこれが初ですが、でも、これまでのラップの音源を編集アルバム(『Stepping Stones The Self-Remixed Best -Lyricism-』2006年)としてアルバム1枚でリリースされたりとか、実は長いキャリアのなかで、KRUSHさんの作品にはラップの曲が結構あるんですよね。海外のラッパーも合わせると、『覚醒』と『STRICTLY TURNTABLIZED』以外のアルバムは必ずラップの曲が1曲か2曲必ず入っているっていう構成のものを作り続けていて。
そうだよね。実はね。
──あえてここでラップ・アルバムとして銘打ったというのは、25周年という節目があるとは思うんですけど。
でもね。日本語のラップだけで1枚作りたいっていうのはずっと前から言ってたことで。
──かなり昔のインタヴューから繰り返し言われてますよね。
うん。例えば若いDJともそういう話をすることもあって「作ればいいじゃないですか」って言われて…… でも「他にもいまやりたいことあって」っていう感じでやってたら、ついに“いま”になっちゃった。それと25周年という節目ももちろんあって。
一番最初に刺激された音楽はヒップホップで、それをやりはじめたときには近くにはMUROがいて、DJ GOがいて。KRUSH POSSEが目指してたのは、日本語のラップのアルバムを1作出して日本語のラップが世界中のラジオで流れること。それを夢見てやってたんだけど……でも、それが上手くいかなくって一周ぐるっと回ったわけですよ。それでパッと振り返ったらもう25年経ってて。そしたら、自分にとって当時夢だったことをできるチャンスが回ってきて。それはソニーを離れたり、いろいろなタイミングも含めて。
で、そうしていま世の中を見たらすごいラップ・ブームになってて。スキルも昔と比べられないくらいになってる。ラッパーの層も厚くて、凄い人数がいる。昔は「このラッパーとこのラッパーが最高」っていう位だったんだけど。いまは格好良いラッパーがいっぱいいてタイミング的にもおもしろいなと。
あとはやっぱり、80年代、90年代をリアルタイムで歩んできたDJがもうみんないい歳になってる。それでいまのラップが好きな若い子たちで、俺のことを知らない人もいっぱいいると思うし。そんな中で我々のノリを、今の若いラッパーと一緒にやってぶつけたらどうなるのかなという思いもありつつだよね。
——KRUSHさんがホコ天でヒップホップをやりはじめて、ある意味でちょうど30年くらい経って、やっとラップ、ヒップホップが、ここまで市民権を得たという状況だと思います。いままで何人かの日本のラッパーとのコラボ曲以外は、作品として日本語のラップのシーンとはちょっと距離感はあった感覚もあります。でもシーンのスタート地点にKRUSH POSSEでMUROさんがいたことを考えると、KRUSHさんのキャリアの『軌跡』と重なる部分もあって。
そう、そこでリンクしてるよね。アルバム1枚として『軌跡』ってタイトルがついてて、その中にはさらにラッパー各自の“軌跡”もある。俺は俺でそういう思いがある。いろんな思いがあって、ヒップホップにやられて、一周してきた軌跡がここにはあると思うんですね。だからすごく深いと思う。そして30年経ったいまもヒップホップをできてるっていう。でも「遅かったな」って気はするんだけどね。「日本語で1枚、30年かかったのかよ」みたいな。
——しかし、その30年があったからこそ、日本語ラップだけでも、これだけライミングやフロウ、表現として多種多様なラップが1作に詰まったアルバムができたんじゃないかと。
そう。いまはラップ・ブームだけど、KRUSH POSSEの当時は、レコード会社に話を持っていったりもしだけど、上手くいかなかった。
——それが90年代初頭という感じですよね。しかし、そのおかげでそれこそ、DJ Shadowなんかとともにヒップホップの新たな価値観や表現を作って、世界に評価されてたというのがKRUSHさんの1990年代ですよね。
そうそう。海外回って揉まれて、いずれ日本に戻ってこようと思ってて。
「彼のビートを作ってみたいな」って思えるラッパーを基準に選んでる
——『軌跡』に話を戻すと、参加ラッパーは、リノさん(RINO LATINA II)だけ別格のキャリアですけど、他は20代〜30代といった感じですよね。セレクトはKRUSHさんが直接?
今回作るまでチプルソくんは知らなかった。あとはOMSBくんと、R-指定くん、呂布カルマくんも知ってた。あとはMeisoくんはハワイでライヴを一緒になったことがあって知ってて。でも彼の作品を好きだって前にも言ってるからね。志人はもう昔から知ってる。ステージも一緒にやってて、でも作品としては残せてなかったから、今回やっと実現できた。リノは、今回先輩としてひとり入ってもらってって感じかな。これがツイギーだった可能性ももしかしたらあったと思うよ。今回はリノに入ってもらって。5lackくんは、SICK TEAMとかをかけたりしてて。彼は独特のフロウだし、一緒にやりたかった。選び方は、まずはじめに好きなラッパーをリストにした上でスタッフとも話をして。それで教えてもらったひとりがチプルソくん。そういった段階を経て最終決断は、動画観たり、アルバム聴いたり、全部自分で決めさせてもらった。自分の定規にハマる詞の世界観。フロウもそうだし、声質もそうだし、自分がやりたいと思ったラップを選んでいって。
——自分の定規って、端的に表すと何なんでしょうか。
難しい質問だよね。単純に、自分が持ってない物差しを持っている人たちかな。それを自分の定規──自分のビートっていう定規で、彼らの物差しを測ってみたいっていうところだよね。今回一緒にやってる彼らのラップを聴いたりすると刺激される。「彼のビートを作ってみたいな」って思えるラッパーを基準に選んでる。それはリリックの世界観も含めてね。今までやってきたラッパー、みんなそうだと思う。BOSS(ILL-BOSSTINO / THA BLUE HERB)もそうだし、ツイギー、リノ、漢、INDENとかももちろんそうだね。
——ビートはラフなものを作って数曲渡してそれを選んでもらったという感じですか?
うんとね「この人にこれを」っていう感じで、Meisoくんは1曲しか提出しなかったかな。あの曲も最初に渡したときから相当変えたけどね。他の人は、だいたい3曲くらい送って選んでもらって。で、うまい具合に「自分がこのトラックでやってほしいな」っていうのを選んでくれてる。
——言わずとも、やっぱりそうなるんですね。
やっぱりね。呂布カルマくんも一番ごりごりのやつを選んでくれた。「これに乗せたら絶対呂布カルマくんハマるだろうな」というのを選んでくれたんだ。彼とは電話で話して、「この曲でいこうと思うんですが、どうですかね?」って言うから「いや、俺もこれが一番やってほしかった。ハマると思う。昔のEPMDみたいになりそうで楽しみなんだけど」って。で。「それで行きましょう」って。5lackくんもそうだったね。5lackくんは、いつもはハードコアというよりも、ちょっとメロウな感じで。だから今回ハードコアなのを選んでくれて。彼も「どうですかね」って言うから、いつもと同じようなことやってもつまらないし、「逆にその方が面白んじゃない」って。はじめに渡したトラックのなかには、メロウなトラックもあって。それでも今回のビートを選んでくれて。彼も違う面もチャレンジしてみたかったんじゃないかな。他のラッパーもお互いに一致があって、それができてるから、良かったかなと。
——いまの話だとラフなビートを渡して、ラップをふきこんでもらって、さらにサウンドメイキングするという制作だったんですね。
うん。戻ってきた詞に合わせて、「こうきたか、じゃあ、ここはこうしよう」みたいな。ドラムを抜いたりとか、景色をちょっと変えてみたり、そういう作業をしてた。そうやってできた音源をそれぞれのラッパーと何度かやり取りして、最後に聴いてもらって最終的にOK出たら正式ミックスみたいな。
——ラップをメインにした作品と、インストをメインにした作品で作り方や感覚で変わったところはありますか?
インストの場合、例えるなら水を貯める土台を作って、自分の好きな色の水をバーッと、めいいっぱいそこに張る、インストだとそこで自分が泳ぐんだけど、ラップだとラッパーがそこを泳ぐわけ。「何色の水にしたらいいのかな」とか「でも、この色の水にしたら“DJ KRUSH”じゃないよな」とか。インストと違って、こちらが決めていく範囲が決まってくるのね。自分が泳ぐわけじゃないから。その限られた範囲でやることも、やっぱり奥が深くて、実験的なこともできるしね。
——なるほど。今回はラップ・バトル系の人も多いですよね。いまやテレビで本当に若い子が観ていて、憧れの対象にもなっている。
まぁ、でもさブレイクダンスもいますごいじゃん。もうスキルが上がってて。でも、ここまで大きくなるなんて、想像もつかなかった。やっぱりやってみて思うのは年齢は音楽に関係ない。体力的な問題はあるにはせよ、もの作りって、頭の中に入ってる感性とか、その辺が一致できれば、あんまり歳は気にならなかったかな。
——表現を一緒にやるっていう面白さが勝るという?
うん、そうですね。僕らにない切り口、やっぱり生きてきてる時代が違うから、彼らなりの切り口もあるだろうし、それは僕らにとって刺激にもなるし。
ビート作りはやっぱり奥が深いし、いまだに。面白い。
——サウンドという面で質問なんですが、KRUSHさんは国内での活動はもとより、いまでもコンスタントに海外でもDJをされているじゃないですか? 年々に変わりゆくものみたいなものって感じますか?
やっぱりその、テクノロジーの進化とともに音も変わってきているし、EDMじゃないけど。機材も進歩しているから。逆にみんなが作れる時代になってきちゃったんだけど。変わってきましたよね。
——いわゆるKRUSHさんの作ってる音楽って、DJにしてもサウンドそのものが景色を描くというか、音そのものが重要だったりするわけじゃないですか? そこでの音響テクノロジーの変化は表現にも直接関わってきそうですよね。以前に僕はKRUSHさんのテクノ・セットを聴いて度肝抜かれたんですが、テクノがいい例で初期のクラブミュージックと今のクラブ・ミュージックって、格段に解像度が違うわけじゃないですか。そのときもすごい音をだすなと。音の質感とか。
大きいですね。これだけ変わっているからやっぱり海外でセット組んでいくときはすごい大切だし。ましてや僕なんか、ラップはほとんどかけない。インストばっかりだから。それを考えると、みんなに音で、何かを落としていきたいから。頭の中に入り込みたいから。そこはやっぱりデジタルの時代になって、気は使ってますよね。
——端的にいうとどこですか?
わかりやすく言うと、高域の解像度だったり、かな。
——かたや海外のダンス・シーンと接続しつつ、今回はどちらかというと国内向けのラップ・アルバムということだと思うんですが。
そう。ヒップホップのアルバムってのもあるし、あんまり綺麗にしすぎてもよくないかなと。ミックス~マスタリング、仕上げを一緒にやってもらってるエンジニアさんともども、やっぱり昔の感じが好きなので。ミックスの時に今のテイストを入れつつ、ヒップホップの荒い良さも入れつつ、欲張りにミックスしてるのかもしれないよね。まるっきり90年代の音に戻しちゃうと、ちょっといまじゃこもりすぎちゃって。
——そういう話を聴くとやっぱりKRUSHさんの音楽表現の中心は、音響のエンジニア的な視点があったりして、やっぱり当たり前ですがDJなんだなと改めて。データで楽曲を買ったりはするんでしょうか?
うん。するよ。Beatportで買ったりとか。テクノなんて特に俺知らないから、聴くしかないじゃん。テクノはテクノの世界で、深いじゃん。色々な種類があってさ。でもさ、教えてくれる人もいないし、自分の耳で、かっこいいか、かっこ悪いかを選ぶしかない。「グルーヴがいいか?」とかさ、それしか頼りにならないから、もう聴くしかないのね。だから片っ端から聴いて、選んでる感じ。
——そうやって新しいものを聴き続ける原動力ってどこにあるんでしょうか?
フロアにお客さんが入ってきて——海外は特に、なにかお客さんのなかに絶対にドンと置いて、印象付けていかないと次は無いわけで。それは厳しい世界。いまは昔にもましてそうだと思う。やっぱり誰も知らないような曲をかけたりとか、それをあえてエディットしたものをかけたりとか。テクノを遅くして90BPMくらいにしちゃったりとかいじってとか。そういう努力はやっぱりするべきで、お客さんにそうやって印象を残すべきだと思っている。それがDJだし。ましてや僕なんかただ明るくて元気な曲をかけるわけじゃない(笑)。だからなおさら大切なんだよね……
曲選びとか、どんな印象をそこで残してくるか。DJで表現するにあたって、いろんな色が必要なわけですよ。
——なるほど。
発見もあるしね。「うわ、テクノってこんなかっこいいのがあるんだ!」とかね。「あえてこれなにもいれてないんだな」とかさ。「これ普通に16打ってないよ」って、色々勉強になったりする。「みんな、こういう音作りをちゃんとやってるんだな」って刺激になるしね。曲作りにも生きてくる。
——そうやって世界を回って研ぎ澄ました最新の音が、今回は30年かけて育った日本のラップとともに出てくるというのが今回のアルバムだと。
そこにいくんだ、でも、そこにいくんだよね。
——でもこれこそが、KRUSHさんがずっとやりたかったことですよね。世界を経験して、世界にもまだ他にないヒップホップを作って、いまのフレッシュな日本語のラップにあてたいっていう。
ええ、まさしくそうですね。でも“DJ KRUSH”はこれだけじゃなくて、次にすぐ控えてる。今年中にもう1枚インストを出そうかと。それはそれで全然別の世界になるとは思う。そこにはやっぱり“DJ KRUSH”がいないとだめだし。またそれはそれでトライしていこうかなと。今回も色々な経験をさせてもらって、自分と向き合えて、やりたかったことができた。それが次に活かされる可能性ももちろんあるけど。ビート作りはやっぱり奥が深いし、いまだに。面白い。
——なるほど。まだまだ表現の部分でやりきるってことはなさそうですね。
うーん。やればやるほどできてきちゃうよね、音楽はやっぱり終点はないし、100%はつかめないで、つかめないままこのまま死んでいくんだろうなぁと。結果の100%よりも、自分がやりたいことを求めていく過程がすごく大切なことかなと最近思ってて。
——終わりがない、完成がないということですね。
そうですね。これしかないですからね。自分にはDJすることしかない。こんな時代だから、不景気で、でもそんななかで自分のやりたい、一番好きなことができている。それはすごく幸せなことだと思う。だからこそ自分に正直に、自分がいいと思った音をみんなに届けるべきだと思っている。それはやっぱり最初にヒップホップに出会って人生が変わった、助けてもらった、俺のやることだと思ってるし。それを見ている若い人たちもいるから。「背中を見せて、やりきって死ぬ」っていう、ギリギリつかめないで死んでいくっていう。それがいいんじゃないかなと。
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DJ KRUSHとともに、1990年代インスト・ヒップホップをひとつの表現へと押し上げ、トリップホップ〜ブレイクビーツ・マエストロ。5年ぶりの新作においてもパワフルなビートを聴かせている。
トラックメイカーのBudamunk、そしてDOWN NORTH CAMPやMONJUの一員であるISSUGI、そして5lackによるヒップホップ・ユニットの2ndアルバム。新曲+既発曲のリミックス・ヴァージョンで構成。
SIMI LABのブレイン、さまざまな作品へのビートの提供、ラップの客演も含めて、いまではシーンになくてはならない男の2ndソロ・アルバム。
PROFILE
DJ KRUSH
サウンドクリエーター / DJ。選曲・ミキシングに於いて抜群のセンスを持ち、サウンドプロダクションに於ける才能が、海外のクラブ・シーンでも高く評価されている。1992年からソロ活動を精力的に行い、日本で初めてターンテーブルを楽器として操るDJとして注目を浴びる。1994年に1stアルバム『KRUSH』をリリースし、現在までに9枚のソロ・アルバムと1枚のミックス・アルバム、2枚のセルフ・リミックス・アルバムをリリース。ソロ作品はいずれも国内外の様々なチャートの上位にランクイン。現在も年間、約30カ所以上のワールドツアーを敢行している。地域を越えて、多岐に渡り高い評価を得続けるインターナショナル・アーティスト。
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