ビブリオ・バルニフィカスは温暖な汽水域で繁殖する細菌だ。皮膚を破壊したり、重い胃腸症状を引き起こしたりするほか、致死的な敗血症を引き起こすこともある。米フロリダ州では2024年、ビブリオ・バルニフィカス感染症の重症患者数が前年から倍増し、12月13日時点で83人が感染、うち17人が死亡している。2024年秋のハリケーンで、メキシコ湾や大西洋の沿岸から内陸へ押し寄せた大量の水とともに、危険な細菌も上陸してしまったのだ。
ビブリオ属菌は15℃以上の水温で繁殖するため、米国の場合、かつてはジョージア州南部より北ではほとんど見られなかった。しかし、気候変動により水温が15℃以上になることが増えた近年は、米国東海岸を北上してきているようだ。
専門家は、2041年までにニューヨーク周辺でもビブリオ・バルニフィカス感染症が一般的になり、今世紀末までに東海岸のすべての州で感染が大幅に増えると予測している。
ビブリオ属菌は、世界的にもより高い緯度の地域に拡大している。特に、他の地域より海水温の上昇が速いチリの周囲やバルト海沿岸の国々ではそうだ。地球全体では、ビブリオ属菌が繁殖しやすい条件の日が1980年代に比べて10%増えていると推測されている。(参考記事:「「脳食いアメーバ」が世界で拡大、致死率97%、温暖化で北上中」)
さまざまなビブリオ属菌
100種以上あるビブリオ属の細菌のうち、私たちの健康への影響が主に懸念されるのは4種だ。全米では毎年8万人がビブリオ属菌に感染し、500人が入院し、100人が死亡している。
米国で「人食いバクテリアが漁師を襲う」などのセンセーショナルな見出しで報道される細菌の多くはビブリオ・バルニフィカスだ。この細菌は、腸炎ビブリオ菌(ビブリオ・パラヘモリティクス)やビブリオ・アルギノリティクスとともに、ハマグリやカキなどの貝類を汚染して、漁業資源に打撃を与えたり、生や加熱不足のものを食べた人に重症の胃腸症状や脱水症状を引き起こしたりするおそれがある。
コレラ菌(ビブリオ・コレレ)は下痢を引き起こす病気であるコレラの原因となる細菌で、毎年、世界中で約300万人が感染し、9万5000人が死亡していると推測される。
ビブリオ・バルニフィカスであっても、害が少ない株もある。水の塩分濃度や栄養素、周囲の生物多様性といった、最も危険な株が繁殖しやすい要素を特定する研究が進められている。
米国の場合、ビブリオ・バルニフィカス感染症は太平洋側では比較的少ないが、大西洋やメキシコ湾の沿岸海域には多い。日本感染症学会によれば、国内でもこれまでに100例以上の報告例がある。
広大な海洋の大部分では、ビブリオ属菌が生き延びるのに必要な栄養素が不足しているため、それらの細菌はほとんどの時間を休眠状態で過ごしている。しかし栄養素が流入すると、あっという間に大繁殖する。
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