10月下旬に運び込まれた茶色がかった灰色の小鳥は、透明な接着剤で翼や羽が体に張りつき、種を判別するのも難しい状態だった。それでも助かる見込みがないわけではないと、米ニューメキシコ野生動物センターのスタッフは考えていた。しかし、そのシロハラミソサザイは一晩持ちこたえることができなかった。ストレスによって内臓の損傷が悪化したのではないかと、同センターの広報担当者ローラ・シーゲル氏は言う。
小さなプラスチック板などにベトベトした接着剤が塗られた粘着シートは、ネズミや昆虫など、有害と見なされる動物を捕らえるために世界中で使われている。しかし、こうした仕掛けは、意図せずほかの野生動物を捕獲してしまうことも少なくない。(参考記事:「ネズミと人間の付き合い、実は農耕以前からと判明」)
北米では、鳥やヘビ、小型哺乳類、さらには飼いネコまでがその被害にあっている。
殺鼠剤(さっそざい)やバネ式ネズミ捕りに代わる安価で無毒なツールとして購入される粘着シートだが、この仕掛けにかかった動物たちは、苦しみながらゆっくりと死に至る。
「粘着シートはもう二度と目にしたくありません」とシーゲル氏は言う。「この病院で働くだれもが同じ気持ちです。野生動物がほんとうにひどい目にあうのを、これまで何度も見てきました」
「うちの野生動物病院で目にするものの中でも、粘着シートほどひどいものはそうありません」と、サンフランシスコ・ベイエリアにある野生動物病院ワイルドケアの広報・マーケティング担当ディレクター、アリソン・ハーマンス氏は言う。
氏の病院では、2024年1月から11月までの間に、粘着シートにかかった動物を18匹保護したという。「私は粘着シートが世界中で禁止される日を夢見ています」
その実現を目指し、ワイルドケアは125以上の団体とともに、米国内での粘着シートの禁止を求める連邦法案を支持している。2024年1月にカリフォルニア州選出のテッド・リュー議員によって提出された粘着シート禁止法案は現在、下院の保全・研究・バイオテクノロジー小委員会で審議されている。
もし法案が成立すれば、米国は、すでに粘着シートを禁止する法律を制定しているアイスランド、アイルランド、ニュージーランド、ノルウェーといった国々の仲間入りをすることになる。(参考記事:「【動画】ヘビに空中で顔面キック!ネズミのスゴ技」)
粘着シートの削減に向けて
動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)をはじめとする動物愛護団体は、米国の都市や企業に対して、粘着シートの使用と販売をやめるよう長年にわたって働きかけてきた。こうした運動の結果、2023年にはカリフォルニア州ウェストハリウッド、2024年には同州オハイで、粘着シートの使用禁止条例が制定された。
アリゾナ州フェニックスにある3カ所を含む複数の空港でも、すでに粘着シートが禁止されていると、米紙フェニックス・ニューズ・タイムズは報じている。
また、米国には、ウェブサイトでも実店舗でも粘着シートを販売していない大手企業が数社ある。
次ページ:「こうした非人道的に殺す方法を許すのは完全に非倫理的」
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