ハンユスクス
ハンユスクス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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背側から見たホロタイプ標本
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
新生代第四紀完新世 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Hanyusuchus Ijima et al., 2022[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ハンユスクス(学名:Hanyusuchus、中国語名:中華韓愈鰐)は、かつて中国南部に棲息していた大型ワニ(標本からの推定最大全長は6.2メートル)。マチカネワニと近縁であり、またインドガビアル亜科とトミストマ亜科の形質状態がモザイク状に存在することからワニの系統関係についての示唆をもたらしている。広東省で発見された3000年以上前の骨格標本に、人間の手による青銅器のものと推測される切断痕が認められる。中世での諸史料にも本属と推定される種の駆除が行われたことが記録され、人為的な要因も大きく影響して15世紀頃までに絶滅したものと推測される[2]。
発見と命名
[編集]2022年、東京大学総合研究博物館・名古屋大学博物館・中国合肥工業大学の研究チームは、広東省江門市新会博物館・仏山市順徳博物館との共同研究によって、青銅器時代の地層から有史以降に絶滅した大型ワニの発見を報告した[2]。記載に用いられたハンユスクスの標本はいずれも中国広東省から産出したものであり、化石証拠からハンユスクスは中国南部に分布したことが分かる[1]。
広東省の江門市蓬江区から産出したホロタイプ標本 XM 12-1558 は頭蓋骨と下顎および体骨格の一部が保存されており、コラーゲンを用いた放射性炭素年代測定では 3,327 ± 53 cal BP の絶対年代が得られている[1]。パラタイプ標本は XM 12-1557(頭蓋骨)と SM E1623(頭蓋骨と下顎および部分的な体骨格)および SM S01812(頭蓋骨)があり、前者は江門市蓬江区、後者2標本は仏山市順徳区から産出している。XM 12-1557 の絶対年代は 3297 ± 48 cal BP、SM E1623 の絶対年代は 2942 ± 55 cal BP の値が得られている。なお、SM S01812 の絶対年代は不明である[1]。
属名は唐の政治家・詩人であった「韓愈」(Han Yu) と、ラテン語で「ワニ」を意味する "suchus" の合成語[1]。韓愈が潮州刺史(いまの広東省潮州市)に赴任したときに同地のワニを退治した故事から。また種小名 "sinensis" は骨が中国から産出したことに由来する[1]。
特徴
[編集]ハンユスクスは吻部の細長い大型のワニであり、全長はそれぞれの標本で約3 - 6メートルの推定値が得られている。ホロタイプ標本 XM 12-1558 とパラタイプ標本 SM E1623 は椎体と神経棘の間の縫合線が癒合により消失しており、このため成熟個体であることが示唆される。ただし、記載時点で性別は判明していない[1]。
前上顎骨歯は5本、上顎骨歯は16本、歯骨歯は18本存在しており、このうち第7上顎骨歯が最も長い。前前頭柱の背側は前後方向に狭く、柱の内側突起は背腹側に高い一方で前後方向に短い。頭蓋天井のうち後眼窩骨と鱗状骨の占める部位は外側に傾斜する。第二頸椎(軸椎)と第三頸椎の腹側面にはhypapophysisと呼ばれるノブ状の突起が存在し、椎体から突出する。背側の正中線沿いの皮骨板(オステオダーム)はその前側縁において突起を伴う。大腿骨の内側顆は縮小している[1]。これらの形質状態に加え、上側頭窓から鱗状骨背側面にかけて浅い窩が伸びており、これは本属の固有派生形質とされる[1]。
分類
[編集]記載論文では、Ijima and Kobayashi (2019) で使用されたものを改変したデータ行列を用い、ベイズ法(MrBayes)と最大節約法(TNT)による形態系統推定が行われた。解析の外群には新鰐類のベルニサルティアが使用され、15の形質に重みづけがなされた。また、ワニ目の爬虫類の類縁関係は形態系統解析と分子系統解析で結果が異なることが知られており、分子系統に基づく樹形の制約の有無も解析の条件として検証された[1]。
制約の下でのベイズ法による50%合意樹は、ペンフースクスとトヨタマヒメイアおよびハンユスクスの3属を1つの系統群に纏め、エオスクスおよびそれよりも派生的なインドガビアル亜科との姉妹群とするものであった。これは制約下の最節約樹と同様の結果である[1]。ハンユスクスの骨格にはマレーガビアルをはじめとするトミストマ亜科とインドガビアルをはじめとするインドガビアル亜科の両方の形質状態がモザイク状に認められる。このためハンユスクスの骨格形態は分子系統を形態からも裏付けるものであり、ワニの形態進化の解釈に貢献することが期待されている[2]。
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なお、爬虫類学者の故・青木良輔は広東省で発見されていたワニ骨格がマレーガビアルと判断されたものをマチカネワニ類似種ではないかと推測していた。Ijima et al. (2022) ではこれが実証された形となった[2]。
ヒトとの関わり
[編集]産出した骨の調査では人為的な切断跡が見られる。パラタイプ標本 XM 12-1557 は後眼窩領域に16か所、後頭顆に1か所の人為的切痕が認められる。また、パラタイプ標本 SM E1623 の頸椎は第四頸椎で切断されている[1]。年代測定と形態分析、および金属器の伝播に関する先行研究から、これらの負傷は殷・周代(3300年-2900年前)の青銅器によるものであることが判明した。これは当時のヒトがハンユスクスを駆除し断頭するために負わせた傷であると考えられる[2]。
唐の政治家・詩人である韓愈は、819年に長安宮廷の高官職を解かれ遙か南方の潮州刺史に左遷された。赴任地ではワニ害の訴えへの対処として、ワニ宛ての退去命令布告文である『祭鱷魚文』を表し宣諭したうえで、多数を動員してワニ狩りを行い消石灰と硫黄を投げ込んで退治したという。韓愈は本属の属名に引用されてもいるが、それはこの故事のワニがハンユスクスに相当する属種であるとの推定に則ったものである。
その他の各種文献にもワニの駆除が古代から行われたことが記録されており、人口激増や環境変化も含んで明代までには絶滅したと考えられている[2]。
また、かつて青木が提唱した、マチカネワニ類似種の大型ワニが古代黄河流域まで進出し竜の伝承の原型となったのではないかという仮説が再び注目されている[2]。現生種のヨウスコウワニは最大全長2メートルと小さく、古代より同種を特定する「鼉」の名称もあり、古典籍でも鼉と「竜」や「蛟」は別に扱われている。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l “An intermediate crocodylian linking two extant gharials from the Bronze Age of China and its human-induced extinction”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 289 (1970): Article ID 20220085. (2022). doi:10.1098/rspb.2022.0085. PMC 8905159 .
- ^ a b c d e f g 『中国広東省で有史以降に人為的に絶滅した大型ワニを報告』(プレスリリース)東京大学総合研究博物館、東海国立大学機構、名古屋大学、2022年3月10日 。2023年2月2日閲覧。