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トミストマ亜科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トミストマ亜科
地質時代
古第三紀始新世 - 現世
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
階級なし : 偽鰐類 Pseudosuchia
上目 : ワニ形上目 Crocodylomorpha
階級なし : 新鰐類 Neosuchia
: ワニ目 Crocodilia
上科 : インドガビアル上科 Gavialoidea
: インドガビアル科 Gavialidae
亜科 : トミストマ亜科 Tomistominae
学名
Tomistominae Kälin, 1955

トミストマ亜科(トミストマあか)[1][2][3]またはマレーガビアル亜科(マレーガビアルあか)[4]は、東南アジアに生息する現生のマレーガビアルを含むワニ目分岐群。化石種ではトヨタマヒメイア・マチカネンシス(マチカネワニ)などが含まれる[3]。淡水域に生息するマレーガビアルと異なり、化石種は三角江や沿岸部に生息し、また世界各地に分布していた。

ワニ目の間でのトミストマ亜科の分類は流動的である。伝統的にはクロコダイル上科に置かれていたが、分子系統解析ではインドガビアル上科インドガビアルと近縁であることが示唆されている。

進化史

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Kentisuchus toliapicus の頭骨

トミストマ亜科は北アフリカヨーロッパ古第三紀始新世に出現した。既知で最古のトミストマ亜科はイングランドケンティスクスであるが、さらに古いスペイン暁新世の地層からもトミストマ亜科の可能性がある化石が産出している[5]。他の初期のトミストマ亜科には、モロッコマロッコスクス英語版ベルギードロスクス英語版がいる。これら初期のトミストマ亜科は、暁新世のヨーロッパや北アフリカの大部分を覆っていたテチス海に生息していた。これらの中には沿岸堆積物層から発見されているものもおり、沿岸部やエスチュアリーに生息していたことが示唆されている。トミストマ亜科はこうした生態のため、テチス海を介してヨーロッパ北部や北アフリカへ分布を拡大することができた[5]

後期始新世や鮮新世には、トミストマ亜科はアジア中に広がった。中期始新世のFerganosuchus planus英語版Dollosuchus zajsanicusカザフスタンキルギスタンから知られている。やがて後期始新世には中国台湾に到達し、Maomingosuchus petrolica(後期始新世)やPenghusuchus pani英語版(中新世)が出現した[6]"Tomistoma" tandoni は中期始新世のインドに生息した。この頃のインド亜大陸はアジア大陸から孤立しており、海水が隔離障壁を構成していた。アジアとヨーロッパを隔てていたオビク海英語版も生物の移動の妨げとなっていた。これらの地域間を移動できたトミストマ亜科は、海水に耐性があったことが示唆されている[5]

トミストマ亜科は漸新世中新世鮮新世にかけて、大西洋を渡って北アメリカ大陸にも分布を拡大した。新熱帯区で既知のうち最古のトミストマ亜科はジャマイカCharactosuchus kuleri英語版である。C. kuleriベルギーD. zajsanicus は近縁性が指摘されており、トミストマ亜科がヨーロッパからアメリカへの移動の際、ノルウェーグリーンランドおよび北アメリカを結ぶ De Geer 陸橋か、あるいはスコットランドアイスランド・グリーンランド・北アメリカを結ぶ Thule 陸橋を介したことが示唆されている。テカチャンプサ英語版は漸新世から鮮新世にかけて北アメリカ大陸の東岸に生息していた[5]

トミストマ亜科は漸新世にヨーロッパから姿を消したが、その末期には再び姿を現わし、多様化を遂げて中期中新世にはありふれた分類群となった。Tomistoma coppensi は中期中新世のウガンダから知られている。北アフリカには後期中新世の種の化石証拠が乏しいため、中央アフリカからトミストマ亜科の化石記録が得られたことは珍しいことである[5]

ランフォスクス

トミストマ亜科は前期中新世にアラビアがユーラシア大陸に衝突した際に、アフリカからアジアに移動した可能性がある。しかし、アジアの中新世のトミストマ亜科は、東アジアに既に生息していたグループの子孫である可能性もある。この時代にトミストマ亜科はインド亜大陸にも広がり、そのうちランフォスクスは史上最大級のワニ目の一つで、全長は8 - 11メートルと推定されている。更新世にはトヨタマヒメイア・マチカネンシス日本に生息していた。しかし、東南ジアではマレーガビアルに先行するトミストマ亜科の化石証拠はほとんど発見されておらず、それゆえにマレーガビアルと化石種の詳細な類縁関係は明らかになっていない[5]

系統

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トミストマ亜科の系統仮説
形態に基づく推定
ワニ目 

インドガビアル科

アリゲーター科

 クロコダイル科 

クロコダイル亜科

トミストマ亜科

分子情報に基づく推定
ワニ目 

アリゲーター科

 インドガビアル科 

インドガビアル属

トミストマ亜科

クロコダイル科

分岐学的には、マレーガビアルと、インドガビアルキューバワニよりもそれに近縁な全ての種として定義される[7][8]。従ってトミストマ亜科はステムグループであり、インドガビアルやクロコダイルよりも近縁な化石種もトミストマ亜科に含まれる。

以下は形態学に基づいてトミストマ亜科の類縁関係を推定したクラドグラム。なお、この解析ではクロコダイル科内に位置付けられた[9]

クロコダイル科

クロコダイル亜科

トミストマ亜科

サイマカチャンプサ

メガドントスクス

ケンティスクス

マロッコスクス英語版

ドロスコイデス英語版

テカチャンプサ英語版

ペンフースクス英語版

トヨタマヒメイア

Tomistoma cairense

マオミンゴスクス英語版

マレーガビアル

ガビアロスクス

Tomistoma lusitanica

パラトミストマ英語版

Tomistoma coppensi

化石種の形態学的研究に基づき、マレーガビアルを含むトミストマ亜科は長らくインドガビアル上科ではなくクロコダイル上科クロコダイル科に分類されていた[10]。しかし、DNAシークエンシングを用いた研究ではマレーガビアル(および全ての化石トミストマ亜科)が実際にはインドガビアル上科インドガビアル科に属することが判明した[11][8][12][13][14][15][16]

2018年にLeeとYatesにより発表された、形態情報・分子情報・層序に基づいた系統解析では、トミストマ亜科はインドガビアル上科内の側系統群であることが示された[15]

Longirostres

クロコダイル上科/クロコダイル科

インドガビアル上科
インドガビアル科
インドガビアル亜科?

Gavialis gangeticusインドガビアル

Gavialis bengawanicus

Gavialis browni

Gryposuchus colombianus

Ikanogavialis

Gryposuchus pachakamue

Piscogavialis

Harpacochampsa

Toyotamaphimeia

Penghusuchus

Gavialosuchus

(ステムグループ)
トミストマ亜科?

Tomistoma lusitanica

Tomistoma schlegelii(マレーガビアル)

(ステムグループ)
(クラウングループ)

Tomistoma cairense

Dollosuchoides

Maroccosuchus

Paratomistoma

Kentisuchus

(ステムグループ)
トミストマ亜科
(クラウングループ)

出典

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  1. ^ 今こそ生かしたいマチカネワニ 化石発見50周年シンポジウムを前に 江口太郎教授に聞く研究の歩みと考現学」第165号、朝日新聞社、2014年、2021年7月24日閲覧 
  2. ^ 瑞浪市化石博物館研究報告第 43 号の概要-掲載論文の紹介-」『瑞浪市化石博物館研究報告』第43号、2017年。 
  3. ^ a b 小林快次『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会、2013年7月25日、51頁。ISBN 978-4-8329-1398-1 
  4. ^ Yoshitsugu Kobayashi; Yukimitsu Tomita; Tadao Kamei; Taro Eguchi (2006). “Anatomy of a Japanese Tomistomine Crocodylian, Toyotamaphimeia Machikanensis (Kamei et Matsumoto, 1965), from the Middle Pleistocene of Osaka Prefecture : The Reassessment of Its Phylogenetic Status within Crocodylia”. National Science Museum monographs (国立科学博物館) 35. https://cir.nii.ac.jp/crid/1573105977361256576. 
  5. ^ a b c d e f Piras, P.; Delfino, M.; Del Favero, L.; Kotsakis, T. (2007). “Phylogenetic position of the crocodylian Megadontosuchus arduini and tomistomine palaeobiogeography”. Acta Palaeontologica Polonica 52 (2): 315–328. http://www.unipd.it/musei/geologia/doc/megadontosuchus-app52-315.pdf. 
  6. ^ Shan, Hsi-yin; Wu, Xiao-chun; Cheng, Yen-nien; Sato, Tamaki (2009). “A new tomistomine (Crocodylia) from the Miocene of Taiwan”. Canadian Journal of Earth Sciences 46 (7): 529–555. Bibcode2009CaJES..46..529S. doi:10.1139/E09-036. 
  7. ^ Brochu, C. A. (2003). “Phylogenetic approaches toward crocodylian history”. Annual Review of Earth and Planetary Sciences 31 (31): 357–97. Bibcode2003AREPS..31..357B. doi:10.1146/annurev.earth.31.100901.141308. http://www.naherpetology.org/pdf_files/970.pdf. 
  8. ^ a b Gatesy, Jorge; Amato, G.; Norell, M.; DeSalle, R.; Hayashi, C. (2003). “Combined support for wholesale taxic atavism in gavialine crocodylians”. Systematic Biology 52 (3): 403–422. doi:10.1080/10635150309329. http://www.faculty.ucr.edu/~mmaduro/seminarpdf/GatesyetalSystBiol2003.pdf. 
  9. ^ Iijima, Masaya; Momohara, Arata; Kobayashi, Yoshitsugu; Hayashi, Shoji; Ikeda, Tadahiro; Taruno, Hiroyuki; Watanabe, Katsunori; Tanimoto, Masahiro et al. (2018-05-01). “Toyotamaphimeia cf. machikanensis (Crocodylia, Tomistominae) from the Middle Pleistocene of Osaka, Japan, and crocodylian survivorship through the Pliocene-Pleistocene climatic oscillations” (英語). Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 496: 346–360. doi:10.1016/j.palaeo.2018.02.002. ISSN 0031-0182. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0031018217311124. 
  10. ^ Brochu, C.A.; Gingerich, P.D. (2000). “New tomistomine crocodylian from the Middle Eocene (Bartonian) of Wadi Hitan, Fayum Province, Egypt”. University of Michigan Contributions from the Museum of Paleontology 30 (10): 251–268. 
  11. ^ Harshman, J.; Huddleston, C. J.; Bollback, J. P.; Parsons, T. J.; Braun, M. J. (2003). “True and false gharials: A nuclear gene phylogeny of crocodylia”. Systematic Biology 52 (3): 386–402. doi:10.1080/10635150309323. PMID 12775527. http://si-pddr.si.edu/bitstream/handle/10088/6275/2003C_Harshman_et_al.pdf. 
  12. ^ Willis, R. E.; McAliley, L. R.; Neeley, E. D.; Densmore Ld, L. D. (June 2007). “Evidence for placing the false gharial (Tomistoma schlegelii) into the family Gavialidae: Inferences from nuclear gene sequences”. Molecular Phylogenetics and Evolution 43 (3): 787–794. doi:10.1016/j.ympev.2007.02.005. PMID 17433721. 
  13. ^ Gatesy, J.; Amato, G. (2008). “The rapid accumulation of consistent molecular support for intergeneric crocodylian relationships”. Molecular Phylogenetics and Evolution 48 (3): 1232–1237. doi:10.1016/j.ympev.2008.02.009. PMID 18372192. 
  14. ^ Erickson, G. M.; Gignac, P. M.; Steppan, S. J.; Lappin, A. K.; Vliet, K. A.; Brueggen, J. A.; Inouye, B. D.; Kledzik, D. et al. (2012). Claessens, Leon. ed. “Insights into the ecology and evolutionary success of crocodilians revealed through bite-force and tooth-pressure experimentation”. PLOS ONE 7 (3): e31781. Bibcode2012PLoSO...731781E. doi:10.1371/journal.pone.0031781. PMC 3303775. PMID 22431965. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3303775/. 
  15. ^ a b Michael S. Y. Lee; Adam M. Yates (27 June 2018). “Tip-dating and homoplasy: reconciling the shallow molecular divergences of modern gharials with their long fossil”. Proceedings of the Royal Society B 285 (1881). doi:10.1098/rspb.2018.1071. 
  16. ^ Hekkala, E.; Gatesy, J.; Narechania, A.; Meredith, R.; Russello, M.; Aardema, M. L.; Jensen, E.; Montanari, S. et al. (2021-04-27). “Paleogenomics illuminates the evolutionary history of the extinct Holocene “horned” crocodile of Madagascar, Voay robustus” (英語). Communications Biology 4 (1): 1–11. doi:10.1038/s42003-021-02017-0. ISSN 2399-3642. https://www.nature.com/articles/s42003-021-02017-0.