糖尿病や肥満症の治療で使われる「GLP-1受容体作動薬」についてよく目にするようになった酒ジャーナリストの葉石かおりさん。この薬がアルコール依存症にも効果があるかもしれないと聞き、興味を持ちます。そこで、GLP-1受容体作動薬について詳しい、神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門教授の小川渉氏に話を伺いました。
最近、「GLP-1受容体作動薬」という言葉をよく目にするようになった。というのも、我が家のポストに、これを「やせ薬」として利用した「GLP-1ダイエット」をうたうチラシが投函されるようになったのである。
調べてみれば、GLP-1受容体作動薬は糖尿病の薬として開発され、最近になって肥満症の治療薬としても承認されたらしい。服用すれば、血糖値を下げたり、体重を下げたりする効果が期待できる、ということか。
また、知り合いの酒飲みでも、「GLP-1受容体作動薬を服用してみた」という者が現れた。ある者は「体重が下がった」といい、またある者は「体重は変わらなかったが、酒量が減った」という。
酒量が減ったということは、薬の影響で酒を飲みたくなくなったということだろうか……と思っていたら、「GLP-1受容体作動薬がアルコール依存症に対しても有用である可能性がある」という報告が科学誌Nature Communicationsに掲載された(*1)。
酒飲みとして気になる「糖尿病」「肥満症」「アルコール依存症」の3つに対して効果がある可能性があるのだ。となれば、その真実を確かめずにはいられない。GLP-1受容体作動薬について詳しい、神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門教授の小川渉氏に話を伺った。
「肥満症」の治療にも使える薬だが…
先生、GLP-1受容体作動薬とは、いったいどのような薬なのでしょうか?
「GLP-1とは、『グルカゴン様ペプチド-1』の略で、膵臓からインスリンの分泌を高めるホルモンのことです。食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞からGLP-1が分泌され、膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体にそれがくっつきます。すると、β細胞はインスリンを分泌して血糖値を下げます。GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1と同じような働きをして、β細胞にあるGLP-1受容体を活性化させ、インスリンの分泌を促す薬なのです」(小川氏)
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