ユーゴスラビアは、かつてバルカン半島に存在した国家。1991年より戦火を交えて解体が始まり、2006年に完全に消滅した。
ユーゴスラビアの歴史は浅かった。直訳すると南スラヴ人の土地を意味することからわかるように、近代民族主義による民族自決思想を人種の繋がりで押さえ込もうとしたころから始まる。
1918年、第1次世界大戦の終結でオーストリア・ハンガリー帝国が解体されると、スラブ人の民族たちはセルビア・クロアチア・スロベニア王国を作った。王国では民族主義を抑制する政策を取り、首都のベオグラードに権力を集中させて土着勢力の専横を防ごうとした。ところがベオグラードはセルビア人の居住地であり、その政治もセルビア人を中心としたセルビア優遇政策が取られることになる。クロアチア人はこれに反発した。
1929年に憲法は停止され、セルビア系のカラジョルジェヴィチ家主導でユーゴスラビア王国が取って代わった。こうしてユーゴスラビアの歴史は始まった。
ところがわずか5年後の1934年、国王アレクサンダル1世はクロアチアの民族主義者に暗殺される。これによって新王国は妥協せざるを得なくなり、クロアチア自治州を与えることになる。この時ユーゴスラビア王は11歳のペータル2世が継承したが、成人に達してないため、アレクサンダル1世の従兄弟のパヴロ・カラジョルジェヴィチが摂政を務めた。
1941年3月25日、摂政パヴロは日独伊三国同盟に加盟。翌26日にイギリスのSIS(MI6は1つの部門)の支援を受けた国王派がクーデター。27日までに政権を奪取し、三国同盟を脱退、中立政策を宣言した。しかし4月6日にはイギリスの進駐を恐れた(政権転覆に激怒したヒトラー総統の命令とも)枢軸軍の侵攻が始まり、同17日に降伏。こうしてユーゴスラビア王国は解体され、国土はドイツ・イタリア・ブルガリアに仲良く分割された。旧ユーゴスラビア軍の兵器は新たに建国されたクロアチア独立国に引き継がれ、国土はドイツ軍の拠点として機能。のちに生起したイタリア戦線ではユーゴスラビア国内から飛び立った爆撃機が連合軍の攻撃している。
主権国家としての復活は終戦の後になる。パルチザンを組織して枢軸軍と戦ったチトーはイギリスに亡命したペータル2世の帰還を拒否し、議会で正式に退位させた。1946年、ユーゴスラビア連邦人民共和国を宣言。人民共和国では国家の批判は許されても民族差別は許されず、特定の民族を優遇したり他の民族を排他しようとする人間は容赦なく排除された。
以降、チトーが死去する1980年までに2度の改名が行われたが、チトーのカリスマによる独裁下で内政は安定していた。
「七つの国境、六つの国、五つの民族、四つの言葉、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と呼ばれるほどの多様性を見せたユーゴスラビアは、社会主義国でありながらソビエト連邦陣営側につかない「非同盟中立」を掲げ、経済でも自主管理体制を行い西側・東側諸国両方と積極的に交流を行うなど、冷戦下では「開放された社会主義国」として資本主義国家、更に世界の社会主義運動家から一目置かれる存在になっていた。
しかし東欧革命によって東側の社会主義諸国が民主化を果たす中、チトーを失い民族運動が次第に盛り上がり始めていたユーゴスラビアではその流れに拍車がかかり、ついに1991年より連邦は瓦解し始めた。同年、スロベニア・クロアチアが独立を宣言し、以後約10年に及ぶユーゴスラビア紛争が始まった。
ここから先はニコニコ動画に投稿された動画を参考されたし。
ユーゴスラビアは幾度もの紛争の後、セルビアとモンテネグロの連合国家として名前をとどめていたが、2003年に緩やかな国家連合である「セルビア・モンテネグロ」へ改名し、その名が消滅した。2006年にはそれもセルビアとモンテネグロに分離し、ここにユーゴスラビアの構成国は全て独立を果たすことになった。
ユーゴスラビアの繁栄をもたらしたのはチトーによる影響は大きく、ユーゴスラビアの独自な社会主義をチトー主義と呼ぶ(ただし、東側諸国になるとトロツキストと同様なレッテル貼りに使われた)。チトー主義の大きな根幹は自主管理社会主義、市場社会主義、非同盟である。
自主管理社会とは普通の企業は経営者が上の立場で部署の労働者が下の立場になるのを基本的に逆転させた構図になっている。普通は経営者が組織の運営を決め、部署に伝えていく「トップダウン」方式が主流となっているが、自主管理社会においては部署ごとに労働者が組織の運営を考えて、経営者が意見をまとめて調整していく「ボトムアップ」方式となっている(ちなみにゼネラルモーターズもここまで極端ではないが、似たようなことをやっていた)。もちろん、労働者だけでは経営が成立しないので経営者を募集し、労働者が雇うか雇わないかを決めていた。この自主管理社会は政治に関する代表者決めや防衛に関する機能も備わっており、特に防衛に関しては軍と協力して敵を撃退するようにしていた。しかし、ほぼ全員が戦えるためにユーゴスラビア紛争が激化する結果になった。
市場社会主義とは政府がモデルや計算などで価格を決めつつ、それが最善な状態でなければ調整していく方式である。更に社会主義国では珍しく私有の企業を認めており、海外販売も可能としていた。ちなみに似たような言葉に「市場社会主義経済」がある。これは社会主義の中で自由市場を行う経済であり、こちらは中国やベトナムなどが行っている。
非同盟は先述の通り、西側諸国と関係を結びつつ、東側諸国とも関係を持つ外交であり、ユーゴスラビアは非同盟諸国の中でも大きな存在感と力を持っていた。
そして、ユーゴスラビアは社会主義国家の中でも比較的に自由な国であったことである。先述の通り、政府批判どころかチトー批判も許され、制限はあるとはいえ野党を作り、ある程度自由が保障された。面白い話として西洋では数多く存在するヌーディストビーチがユーゴスラビアにも存在している。しかし、自由は民族主義に触れさせないようにするための政策でもあった。クロアチアで暴動が起きた時は主犯はしっかり逮捕しつつも改革どころか憲法改正まで行っており、チトーのカリスマと努力によって、ユーゴスラビアは存在した。
ユーゴスラビアを題材にした稀有な漫画。
七つの国境 | 六つの国家 | 五つの民族 | 四つの言語 | 三つの宗教 | 二つの文字 |
---|---|---|---|---|---|
イタリア オーストリア ハンガリー ルーマニア ブルガリア ギリシア アルバニア |
スロベニア セルビア クロアチア ボスニア・ヘルツェゴビナ モンテネグロ マケドニア(現北マケドニア) |
スロベニア人 クロアチア人 セルビア人 モンテネグロ人 マケドニア人 |
スロベニア語 セルビア語 クロアチア語 マケドニア語 |
正教 カトリック イスラーム |
ラテン文字 キリル文字 |
ユーゴスラビアの多様さを示す言葉として「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの(連邦)国家」というものがある。更に、セルビア共和国内ではコソボ自治州とヴォイヴォディナ自治州が有り、それを踏まえて「八つの地域」を含める人もいる。上記に上げた民族以外にもムスリム人やハンガリー人・アルバニア人などの少数民族が存在した。なお、セルビア語とクロアチア語には殆ど差異はなく、言語学的に同一視できる程度のものである。
ちなみに「一つの(連邦)国家」の亜種として「一人のチトー」と表現する人もいる。「一人の独裁者」か「一人で苦心しながらまとめ上げたチトー」と解釈するかはあなた次第である。
twitter上では、その文化・歴史的統一性の無さから兵庫県をヒョーゴスラビアなる国家に擬するネタがある。
掲示板
134 ななしのよっしん
2024/08/06(火) 13:55:41 ID: sJXAzaaV65
日本も海外から安く買った資源に工業力でインフラを作りそれなりに良い生活をしているが、国産技術を失って海外に頼みで同じ生活を続けたら900兆の対外債務が牙を剥くんだろうか。
海外頼みという点ではサウジや東欧の新興国も十分に危ないし、あまり不安を煽る気は無いが。
135 ななしのよっしん
2024/08/09(金) 15:17:35 ID: tqPfG7yLdO
>>134
ユーゴの場合はチトー政権下による
共産主義同盟の一党独裁体制の弊害も経済にマイナスに働いていましたからね
岩波ブックレット出版のコソボ紛争で
1974年からは74年憲法で各構成国の各党による独裁となりましたが
基本有力企業・国営の職場長や幹部選出は、自由選挙という建前とは裏腹に
実際には党のお墨付きの人物・コネ採用で、反対者には異端や職場で干されるくらい強く
これが党による汚職に繋がり、採算の合わない赤字垂れ流しの政治工場やゾンビ企業の増産へと進んでしまう事態に
こんな状態でも海外から金を借りられている間は豊かな暮らし
その本によると1970年代は、米国の一般家庭より豊かに感じられたレベルを維持して棚上げされてきたのが
チトー大統領亡き1980年代には、とうとう16の外国政府と500を超える民間銀行からの債務支払いで年貢の納め時になった
136 ななしのよっしん
2024/08/19(月) 22:22:54 ID: sJXAzaaV65
人民公社を小さくした縁故社会を考えれば良いのだろうか。
企業や軍事面を調べた感じ、チトーたち党の長老たちがゲリラの出身なせいで政治や軍事の才能はあっても、経済的バランス感に疎かったのも崩壊の背景にあるのかな?
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最終更新:2024/12/20(金) 19:00
最終更新:2024/12/20(金) 19:00
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