ザテトラーク(The Tetrarch)とは、1911年アイルランド産まれの競走馬である。
通称「The Spotted Wonder(驚異の斑点)」。
血統と斑模様
父Roi Herode(ロワエロド)、母Vahren(ヴァーレン)、母父Bona Vista(ボナヴィスタ)という血統。
父ロワエロドは英語に直すと「King Herod」という名前で、その名の通りヘロドの直系子孫であるが、当時のイギリスではヘロドの直系はほぼ絶滅している状態であり、自身の競走実績も大した物ではなく、母系が優秀だったために種牡馬になれたようなものであった。
母ヴァーレンも近親に活躍馬はそれなりにいたもののザテトラーク以外の産駒の実績はほぼ無く、母父ボナヴィスタも英2000ギニーを制したもののイギリスでの評価は低くハンガリーに輸出された経緯を持つという、正直良血とは言いがたい血統であった。ただしボナヴィスタはイギリス時代の代表産駒CylleneからPolymelus→Phalarisを経て現代の大半の競走馬の父系祖先となっているので、現代から見ると一概に悪い血統とは言い切れない。
そして何よりも目を引いたのが毛色。父のロワエロドから芦毛を受け継いだ……のだが、オグリキャップやタマモクロスのような普通の芦毛ではなく全身に白い斑点模様が散りばめられていた。イメージとしてはブチコのような感じである。
この見た目の悪さ、去勢を勧められたほど骨太で大柄な馬体、そして地味な血統のため高い評価は得られず、1歳時にセリに出され、1300ギニーで管理する調教師に売られることとなった。
馬名の由来は父ロワエロド(共和制ローマ帝国のユダヤ地区を統治した王)から連想し、彼の息子の一人のヘロデ・アンティパスの称号「四分封領主(テトラーク)」にちなんで付けられた。
驚異のスピード
2歳になり入厩すると調教で同厩の古馬相手にも楽勝して見せたというザテトラーク。
これが2歳戦に出てしまうと言うのだからレースはどれも圧勝の連続。翌年の英1000ギニー・オークス優勝馬プリンセスドリーを相手に6ハロンのレースで6馬身ぶっち切った等エピソードには事欠かないが、一番の有名なエピソードは4戦目のナショナルブリーダーズプロデュースSという5ハロンのレースであろう。
このレースで10数秒とも1ハロンとも出遅れながらもクビ差勝利して見せたというあり得ない伝説が残されているが、実際には4~5馬身程度の遅れだったと言う。それでも勝つというのは普通な話ではないものの、本馬のスピードはそれ程までに誇張されてもおかしくないほどの衝撃的な物であったと言える。
2歳時は通算7戦7勝。ギリギリの勝利は上記のものだけであり、他は全て最低3馬身差をつけての圧勝ばかり。10~15馬身差を付けたものもあるという。
これらの活躍で翌年のクラシックも大いに期待されたのだが、ザテトラークには後脚で前脚を蹴ってしまう後突症という癖があった。日本ではシンザンやタケシバオー等が悩まされた症状で、結局ザテトラークは後突症による故障の影響で3歳のレースに出ることなくそのまま引退となってしまった。
これだけの伝説を残し、貴重なヘロドの血を受け継ぐザテトラークはアイルランドで繁殖入りしたのだが、彼には男の癖に種付けが大嫌いと言う致命的な欠点があり、それ故、11世代で僅か130頭しか産駒を残す事が出来なかった。種牡馬を引退した後は乗用馬となり、地方の村へ配達される郵便物を届けることなどに使役されたという。
しかしその130頭の中での勝ち上がり馬は80頭もおり、通算勝利数257、勝ち上がり率61.3%という優秀な数値を残している(同じく種付け嫌いで有名な*ウォーエンブレムの勝ち上がり率は53.4%)。
産駒のTetratemaは競走馬としても種牡馬としても優秀な成績を収め子孫を繁栄させることに成功した。日本においては彼の息子の*セフトが輸入され、「幻の馬」トキノミノルを輩出している。トキノミノルはザテトラークの3×4のクロスを持ち、奇跡の血量(18.75%)を日本に定着させることとなった。
だが、ザテトラークの血を世に広めたのは他でもないムムタズマハルであろう。彼女の子孫は世界中に広がり、ザテトラークとムムタズマハルのスピードを色濃く受け継いだナスルーラやマームード、ロイヤルチャージャーが全世界に血脈を広めることに成功した。
しかしながら直系子孫は既に絶えており、ヘロド系の未来はトウルビヨンの子孫に掛かっている状態である。
余談ではあるが、父Roi Herodeの直系は産駒Royal Canopyを通じて現代まで残っていたりする。ただし、Royal Canopy及びその直系子孫は競走馬として走っておらず、乗馬用種牡馬として繋がっているため競走馬血統としての復権はまずありえないだろう。
また彼の特徴的な芦毛も、彼を母父母母父にもつGrey Sovereignまで継承されたのちに世界に広まっている。他にはマームードも種牡馬として芦毛を広めることに成功し、近年ではシーホークやリローンチ、ホーリーブル、エルプラド、タピットといった名種牡馬が母系にマームードやその代表産駒The Axe由来の芦毛の血を保持している。日本でもクーリンガーや*スキーパラダイスの一族(スキーキャプテンやエアトゥーレ、キャプテントゥーレ、シルヴァーソニックなど)などがこの系譜。
珍しいところではTetratemaの直系孫First Fiddleを母父にもつメジロアサマが更に別の芦毛を継承しており、その系譜はメジロティターン・メジロマックイーン・ポイントフラッグを経てゴールドシップまでつながっている。
またかつてフランスのマイル路線で活躍し、日本でも種牡馬として活動した*シルバーシャークはTetratemaを経た芦毛を由来としており、産駒の1頭であるホワイトナルビーからその娘のオグリローマンへ受け継がれ、現代も系譜が繋がっている。
1935年、24歳で死亡。
現役時代は6ハロン以下のレースでしか走ったことが無く、マイルやクラシックの距離を走りきれたのか机上の空論でしか無くなってしまったが、それでも2歳時のザテトラークの走りはプリティーポリー以上の衝撃と評価され、今尚イギリス2歳史上最強馬の最有力として名高い存在となっている。
血統表
Roi Herode 1904 芦毛 |
Le Samaritain 1895 芦毛 |
Le Sancy | Atlantic |
Gem of Gems | |||
Clementina | Doncaster | ||
Clemence | |||
Roxelane 1894 栗毛 |
War Dance | Galliard | |
War Paint | |||
Rose of York | Speculum | ||
Rouge Rose | |||
Vahren 1897 栗毛 FNo.2-o |
Bona Vista 1889 栗毛 |
Bend Or | Doncaster |
Rouge Rose | |||
Vista | Macaroni | ||
Verdure | |||
Castania 1889 栗毛 |
Hagioscope | Speculum | |
Sophia | |||
Rose Garden | King Craft | ||
Eglentine |
クロス:Doncaster 4×4(12.5%)、Speculum 4×4(12.5%)、Rouge Rose 4×4(12.5%)、Macaroni 4×5(9.38%)、Thormanby 5×5×5(9.38%)、King Tom 5×5(6.25%)
関連コミュニティ
関連項目
The Tetrarch 1911
|Tetratema 1917
||*セフト 1932
|||シーマー 1944
||||ダイナナホウシユウ 1951
|||タカクラヤマ 1947
||||ミトタカラ 1956(アア)
|||||スマノダイドウ 1970(アア)
||||||マルケンダイドウ 1977(アア)
|||||||アキヒロホマレ 1985(アア)
|||イツセイ 1948
|||クモワカ 1948(繁殖名:丘高)
|||トキノミノル 1948
|||スウヰイスー 1949
|||ボストニアン 1950
|Mumtaz Mahal 1921
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