攻撃ヘリコプターとは、対地攻撃用の兵器を搭載し、対地攻撃を主任務とした軍用ヘリコプターである。攻撃機のヘリコプター版。
概要
戦闘ヘリ、対戦車攻撃ヘリコプターとも呼ばれる。
特に重装甲・重武装(対戦車兵器)をもって積極的に攻撃を行い、敵歩兵はもちろん、敵戦車を攻撃および撃破可能なものを指す。
上手く使えば一方的に敵部隊を蹂躙、装甲車輛を鉄くずに変えることも可能である。
※輸送・偵察ヘリに武装を取り付けた「武装ヘリコプター」も存在するが、本記事では基本的に扱わない。
基本
- 乗員は基本的に操縦手(パイロット)、射手(ガンナー)の2名構成。
- 暗視装置・熱線映像装置(サーマルサイト)によって昼夜を問わず活動できる。
- 敵弾が命中しても容易に撃墜できない装甲・防弾ガラスに覆われている。
- 固定翼機と違い長大な滑走路が不要なので、前線近くに応急の弾薬/燃料の補給・修理・待機地点を設けることができる。
- 敵に発見されにくい低空侵入能力。
- 被弾・故障時に不時着しやすいといったヘリコプターならではの利点も大きい。
その他、後述の「生存性」も参照。
武装
主翼装備品
その他
- 地形や地上目標など自動で索敵・解析してくれるセンサーやミリ波レーダーを装備するものもある。
- フレア・チャフ・赤外線妨害装置といった地対空ミサイル対策も装備される場合が多い。
- 攻撃・護衛・航空支援などマルチプレイヤー。前線近くに補給地点も置ける。
- ただし装甲が重く、燃費はあまり良くない。[1]
- 攻撃特化の専用設計なため、通常のヘリコプターほどの汎用性はなく、高額。
- 専用設計のため別々の整備員が必要となり、兵站・後方支援の手間が増える。
…簡単にまとめると、こんな感じのヘリコプターが多い。
一部例外もあるが、同様の武装と装甲は必ず付属している。
攻撃特化なため、歩兵が乗って移動するのが目的ではない。(Mi-24を除く)
生存性
- 機体は装甲や防弾ガラスに覆われ、通常の小銃弾が命中した程度では容易に墜落しない。
- 回転翼(ローター)やエンジン、燃料タンクに対しても同様の防御が施されている。
- 2つのエンジンを搭載(双発機)し、被弾や故障に強いものも多い。(双発機自体は珍しいものではない)
- エンジン同士が離れた場所に配置され、一度に両エンジンを喪失しないものも多い。
- 被弾によってエンジンオイルを失っても、一定時間の飛行が可能なものも多い。
- 攻撃によって操縦手が死亡しても射手側からも操縦が可能。
ただし装甲に覆われているといっても戦車のような重装甲では飛べなくなるため、若干軽装甲側。もちろん大口径の対空機関砲(自走式対空砲など)をバカスカ撃ち込まれ続ければ撃破されてしまう。防弾だからといって敵は何を持っているか分からないため、敵の真上をのんびり飛んでいる訳にはいかない。
※カタログ上は「大口径の機関砲弾を何発か食らってもOK」という場合もあるが、撃ち込まれ続けることは想定していない。
その他、携帯式の地対空ミサイルといった脅威はあり、撃ち込まれれば致命的。(後述)
歴史
朝鮮戦争の終結と相前後して北アフリカで発生したアルジェリア戦争において、フランスはヘリコプターを大規模に使用したヘリボーン作戦を初めて実施した。ヘリコプターで兵士を急速に輸送展開させるヘリボーン作戦は非常に効果的だったのだが、「ヘリコプターが着陸する場所の敵を掃討しなければならない」という課題が生じた。事前に固定翼機による攻撃を行ってもヘリコプター部隊が着陸するまでの間に敵が戻ってきて無防備なヘリコプターに攻撃をかけてしまうので、ヘリコプター部隊の侵入、着地、兵員展開の間に敵を上空から制圧する手段が必要だが、固定翼機は滞空時間が短い。ヘリコプターであればヘリボーン部隊に速度を合わせることができ、ヘリボーン部隊の護衛も兼ねることができる…ということで、フランス陸軍のヘリコプターに武装を装着する試みがなされた。10年後にベトナム戦争で米陸軍が経験する問題が、この時既に露呈していたのである。[3]この時点でキャビンのドアにフレキシブル・マウントを付けて機関銃を取り付ける(ドアガン)、胴体下に旋回機銃を付ける、胴体両側にロケット弾ポッドを装着する、対戦車ミサイルを搭載して敵陣地を攻撃する、といったことが試されている。
また、この時期はヘリコプター用のエンジンとして「タービン・エンジン」が登場した。従来のレシプロ・エンジンよりも小型軽量で大出力を得ることができ、振動も大幅に減少させることができるタービン・エンジンを使用することで、兵器プラットフォームとしてのヘリコプターの価値は大幅に上昇した(タービンエンジンを使用した米陸軍の汎用ヘリコプターであるUH-1Aは1958年に実用化されている)。
ベトナム戦争が始まるとアメリカはUH-1に武装を施した武装ヘリコプター部隊を編成し、ヘリボーン部隊の護衛を行った。※この時に武装型UH-1Bを「ガンシップ」と呼び、輸送型を「スリック」と呼ぶようになった。
しかし、輸送用ヘリコプターに武装を搭載するため重量が増大し、抵抗も大きくなるので輸送型に比べ性能が低下してしまうという問題は残った。ヘリボーン部隊に先行して対地制圧攻撃を行うどころか輸送ヘリコプターに同行できないのでは問題である。
開発
そこで専用のヘリコプター、すなわち攻撃ヘリコプターを仕立てるという選択肢となる。武装以外の荷物の搭載量を削り、搭乗するのは操縦手(パイロット)と射撃手(ガンナー)だけにするなどして、機体をスリムにすることで空気抵抗も減り、軽量化できて、あまつさえ人員保護用の装甲を付加する余裕も生まれる。
これにより、ヘリボーン作戦のエスコートに必要な攻撃力、巡航性能、機動性、生残性を手に入れることができようになった。
しかしながら、攻撃ヘリコプター専用機が他の武装型ヘリコプターを駆逐したというわけではない。輸送用のヘリコプターに武装を搭載したものも依然として存在するし、機動性に優れた偵察・観測用の小型軽量ヘリコプターに武装させたものなども使用されている。
多様性
また、ヘリボーンの護衛などといった任務に止まらず、攻撃ヘリコプターを主軸に据えた戦車狩りといった攻撃的な作戦や、陸上部隊と連携した近接航空支援のような任務にも用いられるようになっている。ヘリによる空対地攻撃の大きなメリットは、攻撃ヘリは陸軍に所属しているため同じ軍隊とはいえ別の組織である空軍に所属する爆撃機や攻撃機よりも自由に使いやすいことが挙げられる。
また固定翼機にはできない空中でその場に留まる(ホバリング)という行為が可能なため、崖や稜線など地形や障害物に沿って超低空でレーダーや目線をかいくぐって飛行する匍匐飛行・地形追随飛行(NOE)により生存性の向上や待ち伏せを行うことができる。
また、野戦飛行場といえど滑走路などが必要な固定翼機よりも前線に近いところに、燃料や弾薬の再補給のためのヘリポートが設置可能であることも大きな利点。
近年浮上しつつある弱点
しかし冷戦時代は戦車とのキルレシオが1対15とさえ言われた攻撃ヘリも、近年では陰りを見せ始めている。確かに固定翼機と異なり、ホバリングや超低空飛行など、ヘリならではの機動は強みであり、搭載している機関砲や対戦車ミサイル、暗視装置、電子装備の性能も年々向上してはいる。
そのうえでなぜ弱点が浮上したかといえば、やはり固定翼機に比較して鈍足であるからである。イラク戦争などでは旧ソ連製の旧式な14.5mm重機関銃、23mm機関砲を相手にしてさえ無視できない損害を出し、携帯式の地対空ミサイル(SAM)を持ちだされれば一方的な損害を被る状況さえ生じた。
この点はフォークランド紛争で亜音速のハリアーが、アルゼンチン側の対空砲火で少なからぬ損害を出し、超音速の垂直離着陸攻撃機が求められた経緯と類似してるが、攻撃ヘリはその構造上、現行以上の機動性は望めない。そしてその性能の割に攻撃ヘリは特に高価であり、費用対効果は特に悪化しつつある。
陸上自衛隊において
我が国でも最新鋭とされたAH-64Dロングボウアパッチを陸自が導入したが、部隊ネットワーク化の起爆剤にしようとした電子機材があまりに古いことと、やはり同様の理由から前線航空支援に今や使えないとの判断により、調達は当初の予定の数分の一の13機で打ち切られ、ライセンス製造を担当した富士重工は防衛省を相手に訴訟を起こしている。
今後の展望
無論、だからといって攻撃ヘリが各国の軍隊から急速に消え失せるわけではなく、新規配備が行われている国もあるが、今後の展望として新型機が開発される可能性は小さいと考えられる。この点はUAV(無人機)の発達により、人命のリスクを犯さない偵察と、その情報に基づく固定翼機や砲兵の攻撃が可能になった影響も大きい。
関連動画
関連項目
- 軍事
- 軍用機の一覧
- 対戦車ミサイル / 対戦車兵器
- ヘリコプター / 航空機
- AH-56 シャイアン
- AH-1
- AH-64
- Mi-24(露)
- Ka-50(露)
- 超音速攻撃ヘリエアーウルフ
- 戦車
- 暗視装置
- 地対空ミサイル
- チェーンガン
脚注
- *ヘリコプター・航空機自体がそんなに燃費の良いものではない。
- *ただし設計段階から部品の共通性を考慮しなければならないなど、何か似ている機体だからと同じ構造をポン付けすれば良いわけではない。
- *「メカニックブックス6 攻撃ヘリコプターのすべて」 江畑謙介 1985 原書房 pp.17-19
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