ベルリン市内の、わりと街中の古いアパートメントの一室だったマニュエル・ゲッチングの家を訪れたのは、1995年7月のことだった。「外が騒がしくて申し訳ないね。ちょうどこの週末はラヴパレードをやっているから。ふだんのベルリンはもっと静かなんだけどね」と彼は苦笑しながら、日本から取材にやって来た数名を部屋に迎えい入れてくれた。「いや、ぼくらはそのラヴパレードのためにベルリンに来たんです」と正直に即答できなかったのは、それをあまり良きモノとは捉えていないのであろうゲッチングの表情を見てしまったからである。言うまでもなく当時彼の作品を強烈に欲していたのは、ラヴパレードの根幹にあるハウス/テクノの聴衆だったのだけれど。 すでにこの頃、ハウス/テクノの文脈で再評価された70年代以降のドイツのロックはいろいろあった。『フューチャー・デイズ』や『ゼロ・セット』、クラスターやハルモニア、初期のポポル・ヴーやタ